似てない。けど、
どうしよう……
考えてばっかじゃ仕方ない。動かなきゃだめ。
そんなこと、わかってる。
わかってるけど、動けない。
だから、頭でばっかりぐるぐる考えて、結局、何もできないまま。
どうしよう……
さっきから、そればっかり。
「そんじゃ〜そろぼちお開きんすっか」
あっ……どうしよう、終わっちゃう。
このまま、こんな気持ちのまま、来年になっちゃう。
もしそうなったら……きっと、ずっとこのままで、小鳥遊くんと、上手く話せない。
わかってる。
きっと、いつか、嫌われてしまう。
そんなの嫌。
嫌われたくない。
わかってる。
わかってるけど……
「初詣はどうするよ。追々決めるか?」
「それで良いんじゃないかな」
うぅ……似てる……
一度そう思っちゃったら、もうずっとそう見えちゃう。
せーちゃんも言ってた。ビジュも、声も、性格も、全然似てない。って。
でも、私はもう、そう思えない。
優しいところがそっくりで、きっと、同じ場面に出会したら、2人は、同じことを言うんだ。
推しがいるって、推しにそっくりな人がいるって、そんなの緊張しちゃうよ。
夢主だって、大体そう。自分を裏方にする。
推しを、裏方で支える役になってるもん。
一緒。推しとしっかり絡むイメージ、できない。
もうすぐ、今日が終わっちゃう。
終わっちゃうのに。
今日まで、考える時間なら、あったのに。
「それじゃ、気を付けて」
……うん。
「タカナシも気を付けてネ〜!」
「気を付けるも何も、こいつはここが家だろ」
「……バイバイ」
そのまま、皆、解散しちゃった。
私は、せーちゃんと2人で、雑談しながら帰った。
気を遣ってくれてるのが、申し訳なかった。
小鳥遊くんの家と、私の家は近い。だから直ぐ、うちに着いた。
「じゃ、あっかたくして寝なね」
「あったかく」が言えないせーちゃん、可愛い。
せーちゃんは、私を家の前まで送ってくれた。
私は門の前に立ったまま、自分ちに帰ってくせーちゃんの後ろ姿を見送った。
しばらく動けなかった。
このままうちに入るか、もしくは……
「……コンビニ、寄りたい」
帰る気分じゃなくなったから、私はコンビニに向かった。
道は、少しだけ遠回りをした。
そしたら、途中で小鳥遊くんちの前を通った。
「気付いてくれたかな」
なんとなく声に出した。
吐く息が白いかった。
肌が冷たい。ぴりぴりする。
「はぁ……」
息が白い。
寒い。
鼻に何かが落ちてきた。
空を見上げたら、雪が降ってきていた。
ホワイトクリスマスだ。
「雪……」
突然、自分が今何をしているのか、わからなくなった。
「……寒い」
帰ろうと思った。
もう帰ろうと思って、来た道を引き換えそうとしたら、ガチャって音がした。
見ると、慌てた様子で小鳥遊くんがおうちから出てきたところだった。
「あ、新崎さん、これ忘れ物だよね?」
手には、私が置いて帰った箱を持ってた。
「届けようと思ったら窓から新崎さんが見えてさ。よかった、気付いて戻って来たんだね」
もう、ずっと、上手にお話出来てない。なのに、普通にしてくれる。
一応って思って、買って、でも渡せなくて。
一応って思って、わざと忘れたのに。
「新崎さん?」
部屋着のまま。鼻も耳も、赤くなってる。寒そう。
雪まで降ってて冷たいのに。
わざわざ外まで出てくれた。
「……る」
それが嬉しくて、上手く声が出なかった。
「ん?」
上擦って、上手く喋れない。
「あっ、あっ、あげるっ」
言えた。
小鳥遊くんは、よくわかんない顔をした。
「あげる……って、えっ?」
小鳥遊くんのために買ったけど、渡せなかったから、だから、黙って置いて帰った。
……なんて、言えるわけない。
「それっ、もう、小鳥遊くんのっ! あげるっ!」
ちゃんと喋りたいんだけど、難しい。
でも、声は出てる。
ちゃんと聞こえてた。小鳥遊くんはこっちを見たまま、固まっちゃった。
寒い。
ぽかぽかする。
雪が、冷たい。
息が、白い。
小鳥遊くんの息も、白い。
鼻と、耳が痛い。
多分、私のも、寒くて赤くなってる。
「ちょ、ちょっと待ってて!」
小鳥遊くんは、バタバタと家に入っていった。
……なんで帰ったんだろ。
疑問に思ってたら、小鳥遊くんは直ぐに戻ってきた。
上着を着て、マフラーを巻いてる。あったかそう。
「送ってくよ」
手に箱を持ったまま、こっちにきた。
「……ありがとう」
箱、邪魔じゃないのかな。
お店のラッピング、変じゃないかな。
って思ってたら、ズボって、ポケットに仕舞って、歩き出した。
男子っぽくて、ちょっと、面白い。
「雪っていいよね。レアリティ高いし」
「……うん。綺麗」
良かった。ちょっと話せる。
今日は、最近で一番話したから、慣れたのかな。
……もしそうなら、もっと前からこうしてれば、もっと話せたのかな。
だとしたら、もったいないな。
あっ、でもだめだ。どうせ話せないし、話せないから、ああなっちゃったんだし。
あれ、それなら、どうして今は話せるんだろ。
わかんなくなった。
でも、今なら話せるんだ。
そう思ったら、なんか、声が出る気がした。
「あっ、あのっ!」
声が出たら、自然と足が止まった。
「おわ! ど、どうしたの?」
あっ、おっきい声出て驚かせちゃった。
びっくりした顔でこっち見てる。
あっでも、話さなきゃ。
「あの……私、素っ気ない……なかった、ない、よね……その……ごめんなさい」
「……うん」
やっぱり、気にしてた。顔色が暗い。
「でも、えっと、わざとじゃなくて……理由も、話せたらいいんだけど、難しくて……えっと、でも、小鳥遊くんは悪くないから、誤解しないでほしくて……」
えっと、えっと……あああ、上手く言えない。
どうしよう、難しい……
「えっと、つまり……」
「大丈夫。ゆっくりでいいよ」
あっ、えっと……
「……その、少しずつ、慣れていきたいから……あっでも、たまに変な感じになっちゃう……かも……でっ、でも! これからも、話しかけて欲しい! 私も話しかけるっ!」
言えた。
やった。言えた。
目を見れた。ちゃんと伝えられた。
言えた!
──あっ、でも、小鳥遊くん、黙ってる。
……嫌だったかな。嫌だよね。自分は悪くないのに、勝手に避けられてたから。
なのに話しかけてって、都合良すぎるよね……
どうしよう、一度下げちゃったから、顔上げるの気まずい。
小鳥遊くんの顔が見れない。
肩に、雪が少し、積もった気がする。寒い。
小鳥遊くんも、寒いかな。
何か、言ってくれないかな。
「た、小鳥遊くん……?」
聞こうと思った。そしたら、
「はぁぁあああああ〜〜……」
おっきいため息を吐いて、小鳥遊くんはその場にしゃがみ込んだ。息が白い。
しゃがんで、うずくまって、まだはぁ〜って言ってる。
「大丈夫……?」
もしかして、どこか怪我しちゃったのかな。
どうしよう、私ヒーラーじゃないし……あっ、確かAEDって、意外とその辺にあるんだっけ? って、病気なら先に119?
「あっ、寒くて、上手く押せない」
どうしよう、小鳥遊くん、死んじゃう……?
うずくまったまま、息を全部吐き切った小鳥遊くん。
今度は、すーーって、息を吸ってる。
「はぁ……良かった」
あっ、無事みたい。
良かった。確かに。
「嫌われてるかと思ったから、良かった。こっちこそ、気を遣わせてごめんね」
……嫌ってるって、思ってたんだ。だから、嫌われてなくて、良かった。
うん。良かった。
私も、嫌われたくない。
「嫌ってなんかない。ごめんなさい」
あっ、小鳥遊くん、だからしゃがんで蹲ったんだ。
安心して、立つ力、抜けちゃったんだ。
そうわかったら、私もしゃがみたくなった。
なんか、疲れた。
「うん。安心した。話してくれてありがとう」
「……うん」
……うん?
「あれ」
「ん? どうしかした?」
あれ、あれ……?
「似てない……?」
「何が?」
「あっ、いや、違くて……」
なんだろ。あれ、えっと……あれ? え?
似てるって、思ってた。けど、なんか、急に……なんか、違う……似てない……似てない。
似てないのに、あれ……
「あっ、う、うち、すぐそこ……」
「えっ……あ、ああ、そうだったね。行こっか」
「う、うん」
身体は動く。けど……
あれ、あれ、
なんか、あったかい。
あれ、えっと……
「そうだ。忘れないうちに──っと」
あっ、小鳥遊くんがガサゴソしてる。なんだろ。
「はい。これ」
小鳥遊くんがポケットから取り出したのは、私があげた箱。
小鳥遊くんに、あげようと思って買った、クリスマスプレゼント。
えっ、あげたのに、返却……い、いらないもの、だった……?
「い、いらなかった……?」
ど、どうしよう……喜んでくれるって、思ったのに……
「違う違う! 新崎さん、俺のために選んで買ってくれたんでしょ?」
「う、うん……」
でも、返すってことは、要らないもの……
「俺も同じ考えだっただけだよ。開けてみて」
「同じ……考え……」
言われるまま、開けてみた。
途中で、包装が破れちゃった。綺麗に剥げてたのに。
でもこれ、ラッピングも、サイズ感も、私のとそっくり。
だから、もしかしたら。って、思った。
「……あっ」
もしかしたら。だった。
「椿姐さんのアクスタ……」
サンタコスした扉絵の時の。
原作絵で、この前出たばっかで……
「私と……お揃い……?」
私が、小鳥遊くんにあげたのと、同じやつ。
「びっくりだよね。示し合わせた訳でもないのに、同じの買ってるんだから」
「返却じゃ、ない……?」
「だから違うって。それは俺がこないだ、新崎さんと仲直り……って言うか、なんだろ……こう、前みたいに話すきっかけになればなって思って買ったやつ。新崎さんのは家に置いてある」
……やっぱり、似てない。
全然似てない。
似てないのに……じゃあ、この1か月ちょっとは、なんだったの……?
「あっ、もしかして自分のも買ってた?」
「あっ……あ、あっ、ありがと! 買ってない! 大事にする!」
「ほっ。良かった。被ってたら……ああいや、保存用に回せるか」
保存用……確かに。
「ふふっ、そう。だから、大丈夫」
「だね」
そのまま話してたら、気付いた時にはもううちの前だった。
あっという間だった。
元から近いけど、それ以上に。
「次は大晦日かな。予定は空いてる?」
「う、うん。大丈夫」
「そっか。じゃあまたメッセージ送るよ。またね」
「うん、またね」
──あっ、まだ……
「あっ、小鳥遊くん!」
危ない。帰るとこだった。
「ん? どうかした?」
お礼、もう一回。
嬉しかったから、ちゃんと言いたい。
「えっと……うっ、嬉しかった! 色々、その、ありがとう!」
言えた。
また言えた!
小鳥遊くんはぽかんとして、少しそのまま固まって、
「あっ、いや、こちらこそありがとう!」
何のお礼かわからないけど、そう言って、笑って、帰っていった。
「あっ、傘……」
そう思った時には、結構遠くにいた。
歩くの、あんなに早いんだ。
私に合わせて、ゆっくり歩いてくれてたんだ。
やさしい。
やさしいけど、やっぱり、似てない。
……寒い。
けど、顔が熱い。
「ぽかぽかする」
息は白い。
あったかい。
……変な感じ。嫌じゃない。
* * *
……やばい。
なんか新崎さんがすっげぇ可愛く見えた。
ぬくぬくの布団の中、俺は、今日の出来事……と言うか、さっきの出来事が頭から離れなかった。
鮮烈に焼き付いていた。
逆光か? 逆光なのか?
ホワイトクリスマスで、雪が街灯とか、窓から漏れた光とか、玄関の灯りとか、そういう照明たちに照らされてキラキラしてて、それであの、必死そうな顔が映えたってことか?
美術の授業の時にも思ったけど、パーツは結構整ってるんだよな。
そこに明暗が加われば、そりゃ映えるか。
てか新崎さん、結構明るめな笑顔もしてたな。
にっこりくらいの笑顔は何度か見たことがあるけど、あそこまでの満面の笑みは初めて見たな。
アクスタ、買ってくれてたとは。
俺のために用意してくれてたとは。
新崎さんがどうして俺を避けてたのかはよくわからないままだったけど、嫌って避けてた訳じゃないとわかっただけ収穫か。
いつか話してくれるなら、俺に出来るのはそれを信じて待つことだけだし。
……じとっとしてない新崎さんの目。初めて見たな。
見開くと結構大きいんだな。
アクスタ。嬉しいな。
椿姐さんも美しい。ほらこれ、普段和装なのにサンタコスの似合うこと似合うこと。
原作絵なのもポイント高いよなこれ。
これ、推しが被ってたからこそ起きたミラクルだよな。
あと同担歓迎なのも。
一つでもピースがズレてたらこうはいってなかっただろう。
……嫌われてなかった。
良かった。
結局は蒼先輩の言う通りだったな。
新崎さん、最初はただの珍妙な生物というか、面白い観察の対象だったのに、随分と仲良くなれた気がする。
こうしてプレゼントの交換までしたし、きっと、これからは以前のように話せると思う。
本当に、嫌われてなくて良かった。
大晦日はまた皆で集まって、日の出を見て、年が明けたら、学校も始まって……
……あ。
そこで俺は思い出した。
何をと言うと、先生の言葉だ。
席替えをしたあの日、先生は言った
── 年内はこの席でお願いします。
と。
「あぁ……そうだ。そうだった……」
せっかくまた前みたいに話せるようになったのに年が明けたら、3学期になったら、席替えがある。
これだから学校とかいう社会の縮図は……
一つの問題が解決しても、また新しい問題が出てくるだけ……
達成感と、絶望感と。
そんな渦に飲み込まれ、もんもんとしながら、俺は眠りについたのだった。




