俺はなれない
浅見さんをフッた。
フッた……うん。フッた。
いや、フッたって言うか、好意には応えられないってことと、友達のままでいようよっていう話をした。
俺のその言葉を聞いた浅見さんはと言うと、
──何だ其れは……莫迦にしているのか……?
なんて反応だった。
どうやら怒らせてしまったらしい。
……でも、どう伝えたって結果は変わらないだろ。
そもそも、あれは浅見さんの気持ちなのか、状態2の気持ちなのか。それすらもよくわかってないんだよこっちは。
てかそもそも浅見さんってあれだろ? 厨二病の設定で二重人格っぽく振る舞ってるだけだろ? 深呼吸で人格が変わるとか、変わったら変わったで口調もキツくなるとか。
そんなの全部設定だろ?
浅見さんは浅見さんなんだろ?
もし普通にそうだとしたら俺にあの人は荷が重いし、もし本当に二重人格だったとしても……やっぱり、俺には荷が重いよ。
だからなるべく穏便に済ませようと思って言ったのに、何もあんな風に怒らなくてもいいだろ。
家に帰って、一通りのやり取りを思い返して。そんな不満が俺の中に沸いた。
俺の高校生活初めての文化祭は、思っていたよりも楽しくなかったな。
出し物はともかく、締めが複雑だ。
……こんなんになるんだったら、スラムじゃなくてもっと何か、仕掛け人とお客が接する時間が少ないような、そんなネタにすればよかったな。普通にゾンビが追いかけるとか、そんなので良かった。
なんて萎えていたのがこの間のこと。
週が明け、振替休日も明けた今日は、文化祭の後片付けの日だ。
教室も、廊下も、多くの生徒で溢れている。
この後片付けが終わり次第帰れるからか、皆浮き足立っている。
半ドンみたいなものだしな。
文化祭気分はまだまだ抜けない。そんな余韻の中の今日なわけだけど……
「じゃあ新崎さん、俺ゴミ捨てでくるから」
「うん」
「重いものは無理に持たないでいいから、気を付けてね」
「うん」
新崎さんもこの調子だ。
彼女も未だ文化祭気分が抜け切っていないのか、返事がどこか上の空。ちゃんと聞いてるのか心配になってくる。
今もぼーっと虚空を見つめている。
文化祭気分が抜け切っていないと言うよりも、"気"そのものが抜け切っているような、そんな感じかもな。
袋にはパンパンに詰まったゴミ……と化した物。
俺たちのスラムには特別多かった小物。
それらのほとんどは色付き画用紙をくしゃくしゃにしたり、何だりかんだりとそれっぽく見せただけの物が多い。
要は、燃えるゴミが多い。
俺はそれらをまとめたビニール袋をゴミ捨て場へと運びに教室を出た。
廊下では衝立の解体のため、美術班が複数のグループに別れて作業を行なっている。
そこには当然、浅見さんもいた。
状態2ではなく、普通の、通常の浅見さんが。
ぎこちないながらも、笑顔でクラスメイトと接する浅見さんが。
フッた……うん。フッたんだよな。
なのになんか、浅見さんは全然平気そうだ。
てっきりもっとこう、どんよりとしているかなとか、そもそも学校に来ないんじゃないかとか考えたけど……
「浅見さんそれ油性だよっ?」
「うぇああっ!? ひゃっ!? うわわっ!!」
「あっはは! そんな慌てなくていいんだよ、ほら」
「うぁっ、あっ、あり、ありがと……」
打ち解けて、笑顔で。
……うん。平気そうだ。
良かった良かった。
……良かったんだよな。
皆楽しそうなんだし、それで良いんだよ。
確かに俺はあの人と恋人になることは出来ない。
もし本当に二重人格、乖離性同一性障害だったとして、俺にあの人のフォローなんて出来る気がしない。
何より、あんな素直で健気な人、俺には勿体無い。
背後から聞こえる楽しげな会話。
吃音のように噛みながら、それでも楽しそうな声。
あの日、第二書庫で出会うまでの彼女は、ろくに友達もいないようで、一言も発さずに下校する日だって何度かあった。
まあ、そういう人もいるよな。
くらいに思っていた。
2人で博物館に行った日。いわゆる"デート"をしたあの日。
あの日も、こんな感じの声遣いだった。
素の彼女と話したことなんてろくになかったけど、慣れれば意外と普通じゃん。って。
漫画とかアニメとかを抜きにして、些細なことで笑えた。
付き合うとか、恋人になるとか、結ばれるとか。
そんなのじゃなくて、もっと普通の──
俺は浅見さんと、普通の友達付き合いがしたかったんだ。
俺は激しく後悔した。
浅見さんから告白させてしまったあのスラムを。
恐らくもう、浅見さんとは友達でいられない。
その元凶となった、あのスラムを。
あんなスラムを作ったことを。




