私の文化祭
やっぱり、小鳥遊くんは浅見さんに告白されたんだと思う。
あの時、スラムの中で何かを話してた。
よく聞こえなかったけど、きっとそうだ。
……壁開けるの、ちょっと乱暴になっちゃったな。
「新崎さん、今日もよろしくね」
「うん」
小鳥遊くんは、なんてことなさそうで。
「あっ馬鹿笹塚! うちの看板にアロハ着さすな!」
昨日元気が無さそうに見えたのは、私の勘違いだったのかな。
「でもこっちのが陽気だろ?」
「要らねぇよお化け屋敷に陽気さは」
「松尾芭蕉」
「うるせぇよ」
小鳥遊くんは、いつものようにおちゃらける笹塚くんをシバいていた。
せーちゃんも加わって、正座で反省の笹塚くん。
ふふ。楽しそう。
本当、絵に描いたようないつも通り。
小鳥遊くんは、もう、自分の中で答えを出したのかな。
すぐに答えを出せるくらい、浅見さんのことが好きだったのかな。
逆に、嫌いだったのかな。
だから話してくれなかったのかな。
自分1人で解決出来る問題だったのかな。
ちょっとだけ、頼って欲しかったな。
なんて。
* * *
休憩の時間になった。
特に問題もなく、いたって平和にお仕事を終えられた。
今日はシフトの都合上、せーちゃんとミアちゃんとは別行動になっている。
せーちゃんは接客が苦手だけど、頑張ってるみたい。
受付で固まる彼女に手を振って、私は当て所なく歩き出した。
どこかのクラスのクレープを食べ歩いて、どこかのからあげを食べ歩いて、漫研の作品を買って、文芸部の作品を買って、映研の作品を見て……
「ふぅ」
気付いたらまた、中庭のベンチに腰を下ろしていた。
私服の人がいっぱい。
そんな中で私1人制服だから、学校なのに、こっちが浮いてるみたい。
行き交う人をぼーっと見ながら、最後のたこ焼きを食べた。
もうお腹いっぱいだ。
……楽しい。と思う。
楽しくなくはないし、色々食べて、色々見て、心を動かした。
でも、なんでだろう。
もう少し、何かがほしい。
何かが足りない。
そんな気がする。
「あっ……」
人混みの中に、見慣れた人影が1つあった。
小鳥遊くんだ。
浅見さんと一緒じゃないんだ。
告白、断るのかな。
2人は付き合うべきなのに。
きっとお似合いだし、その方が、良い形だし。
今までみたいに、小鳥遊くんと遊べる時間が減るのは嫌。
でも、付き合うなら、恋人同士になるなら、その人を優先するものだから、仕方ないとは思う。
2人はお似合いで、ヒーローとヒロインで。
カップルはみんな、この内訳で。
でも、お似合いだって納得してるのに、何か気になる。
もし2人が付き合ったらって考えると、いつもそう。
変な気持ちになる。
付き合って欲しいけど、付き合って欲しくない。
そんな気持ちでぐちゃぐちゃ。
どうしたらいいの。
どうしたらこの気持ち悪いのが無くなるの。
説明も、言語化も出来ない、変なの。
意味わかんない。
……いらいらする。
私はベンチから腰を上げ、少し先を歩く影に声をかけた。
完全に思いつき。
「小鳥遊くん」
彼は振り返って、少し驚いたような顔をして、すぐに柔和な笑顔になる。
「新崎さん、どうしたの?」
何か話があるわけじゃない。
浅見さんからも釘を刺されてる。
「あっ、えっと……」
小鳥遊くんの表情が変わる。
眉尻が下がって、心配しているような。
「新崎さん、大丈──」
「あっ、たっ、体調、もう平気……?」
結局そんな、朝でもメッセージでも聞けるようなことしか言えなかった。
小鳥遊くん、何か言いかけてた。
それを遮って言えたのがこれって。
「ああ、お陰様で。今度何かお礼させてね」
「ううん。大丈夫ならいい。それじゃ」
ベンチに戻って、ゴミを拾って。
私は、少し早いけど教室に戻った。
今までどんなこと話してたっけ。
そんなことを思う暇も無かった。
後からじくじくと、後悔みたいな感情が湧くだけだった。
SNSでよく見る、コミュ症あるあるみたいな、もっとあの時ああ言っておけば。みたいな。
そんな気持ちで、私の文化祭は終わった。
* * *
後夜祭の最中、2人の姿が無いことに気付いた。
せーちゃんには「トイレに行く」と言って、キャンプファイヤーを眺める人混みを掻き分けて、校舎に入る。
電気の消えた真っ暗な廊下を進んで、階段を登って、そうして私は、図書室に辿り着いた。
図書室の奥、第一書庫の手前に着いたあたりで、奥の方からぼそぼそと話し声が聞こえた。
男の人の声と、女の人の声。
何を話しているのかはよく聞こえない。
けど。
「友達のままじゃ駄目かな……?」
とか
「……何だ其れは」
とか。
所々聞こえて、全てを察した。
足音を立てないよう、こっそり図書室を後にする。
「友達……」
廊下を歩きながら、さっき聞こえた言葉を反芻した。
小鳥遊くん、それは答えになってない。
残酷。
ただの保留。
普通に振るよりタチが悪い。
なんて。
盗み聞き。タチが悪いのは私の方。
歩くのが面倒になった私は、廊下の途中でふと立ち止まった。
窓の向こうには、楽しそうな時間が流れている。
きっと、色々なことを器用に楽しめる人たち。
普通に遊んで、普通に恋をして、普通に働いて、普通に幸せな人たち。
どうして私はこうなんだろう。
いつもいつも、頭と身体が離れてるみたい。
思っても、考えても、繋がらないから変わらない。
こことそこにはガラス1枚の壁しかないのに、画面の中のような、別の世界みたい。
なんで私、わざわざ1人で図書室に行ったんだろう。
2人を探すつもりなら、そう言えば良かった。
……いや、そう言ったら、きっと、せーちゃんもついてきた。
だから言わなかったんだ。
盗み聞きしようとしてたんだ。
「……最悪」
2人の恋路を利用して、私は何をしようとしてたの。
設定とはいえ、私と小鳥遊くんは付き合ってるのに、それはどうするの。
丸く収められるの? 私から始めたことなのに?
いっそ、私に釘を刺したり、牽制してくる浅見さんの振られる様を見てやろうとか……?
結ばれるならそれはそれで、野次馬のように見届けようとか……?
私……
「何がしたいの……」
バッド入った。
病んだ。
そんな気分。
やっぱり、文化祭が楽しいのなんて、フィクションの中だけだよ。
文化祭を機に男女が付き合うとか、新しい友達が出来るとか。
友達と歩き回って、楽しい思い出を作るとか。
何も無かったな。
ただの日常の延長。
あっ……
そうだ。
そうだった。
毎日がそれでしかないから、少しでも楽しくしたくて。
私は、それで──




