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となりの新崎さん  作者: 桜百合
一年生一学期
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新崎さんを見つけた

 新しく何かを知ると、それが色々な場所で目に付くようになる。

 意外と美味しいチェーンのラーメン屋とか、意識して見ると結構そこら辺にあることに気付く。

 これは偏に、興味の問題だと思うんだ。

 興味が湧いたものというのは、もはや脳が反射のように認識してしまうんだと思う。

 ずらっと陳列された本棚のどこに好きな漫画が並んでいるか、一目でわかったりもする。

 誰だって面白いものや好きなものは、見つけたいし、見ていたいんだろう。


 さて、今日は好きな漫画の新刊発売日。

 最近では収納スペースの問題もあって専ら電子書籍派の俺だけど、今日のお目当ては昔から紙で集めていたシリーズだから、こうして駅前の本屋まで来たってわけだ。


 そして、不思議と作品の好みが合うクラスメイト、隣の席の新崎さんを見つけたってわけだ。


 彼女が手にしているものは俺のお目当てと同じ。

 本当に好みが合うな。


 ……ぶっちゃけ話しかけたい。

 この作品の素晴らしさについて語り合いたい──が、ステイ。駄目だ。

 特別親しくもないクラスメイト。接点らしい接点といえば、席が隣なだけ。

 そんな関係性が希薄な男に急に街中で声を掛けられる新崎さんの身になって考えれば、問題点がもう一つあることに気付く。

 現代では、好きなものを好きと主張するのに、ある程度の難しさ、ハードルの高さが存在する。

 それは何故か。端的に答えるなら、多くの人は、自分の好きを笑われたくないからだ。

 好きなものを好きと言って笑われるくらいなら、最初から言わない。表に出さない。そんな自己防衛の結果、口を噤む選択をする人の多いこと。

 気持ちがわかるだけに、こうして気にしてしまう。


 新崎さんはどうだろうか。

 俺は偶然隣の席だから、それが縁で彼女の好みを知っている。

 しかし彼女自身は、それを表に出したくないと考えているとしたら。

 好きな気持ちを隠し切れなくて、だから小声で小ネタをやったり、人のいない放課後にグラウンドで陣を描いたりしているんだとしたら。



 ここは、クールに去るが吉だろう。



 なに、新刊なんて別の本屋で買えばいいだけの話だ。

 俺は何も見なかったことにしてさっさと──


 「あっ、小鳥遊くん」


 ……。


 まあ、人を慮りすぎるのも、現代のあるあるか。


 「新崎さん。こんにちは」


 「こんにちは。もしかして、小鳥遊くんも新刊?」


 「あっ、うん。今日発売ので欲しいやつがあって」


 「もしかして、パンドラ?」


 「えっ、なんでわかったの?」


 「私も好きだから」


 「そうなんだ。あれ面白いよね」


 「うん」





 会話なんてこんなもんだ。

 一生続くなんてありえないし、無理に続けるものでもない。


 「俺も買ってくるよ。

 じゃ、また学校で」


 「うん、また」


 むしろこれくらいさっぱりとしていた方が、俺としては楽だ。

 丁度いい距離感。これを読み間違えてケガをするのは、もうたくさんだからな。


 そうして新崎さんの横を通り過ぎた俺だったけど、その進みは突然、がくっと止まった。


 「まって」


 急に人の腕を引っ張るのは良くないぞ、新崎さん。

 もし俺が腕に重篤な何かしらを抱えていた場合、君のそのアクション一つで選手生命を絶たれていたかもしれない。


 「よかったら少し、話さない?」


 ……ふむ。

 これはあれか? いいのか?

 好きな作品について語っても、いいって言うのか?


 いいか。いいよな。流れ的にもそうとしか考えられないもんな。


 「……わかった。買ってくるから、ちょっと待ってて」


 「うん」


 『パンドラ』。連載期間はそこそこの長さだし、それなりに人気はあるはずなんだけど、如何せん読者と出会えないんだよな。

 俺の周りでこれを読んでいる人間なんて、兄ちゃんと姉ちゃんと、あとは笹塚くらいだ。

 きっと、新崎さんも同じような境遇なんだろう。

 この良さを共有出来る人が周囲にいないんだろう。


 そうとわかれば、同士と語り合いたかった俺としてもこの展開は願ったりだ。


 急ぎ足で新刊を取り、レジへと運び、お会計。

 店の外へ出たところで、ぽつんと立つ新崎さんに声をかける。


 「お待たせ」


 「ううん」


 さて、どこで語ろうか。





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