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となりの新崎さん  作者: 桜百合
一年生二学期
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新崎さんは向こう見ず

 文化祭に向けて、学校中が活気付いてきている。

 慌ただしく廊下を駆けていく生徒にも、今だけは目が瞑られる。

 資材であったり人探しであったり報連相であったり、バタバタと埃を舞わせ、各々が各々の役目を全うする。


 そんな中俺はと言うと、新崎さんと2人でお化けの衣装合わせをしていた。

 もちろんお化け役は俺たちだけじゃない。

 効率良く準備を進めるに当たって、ペアに分かれて持ち場や役割の確認をすることになったのだ。

 ただ何と言うか、俺と新崎さんがペアになることは、クラスの総意らしい。


 実行委員からそう告げられて呆けている俺にグッと親指を突き立てたサムズアップをカマす石蕗が、非常に良い顔をしていたのをよく覚えている。


 そんなわけで空き教室に2人きり。

 衣装合わせという工程上仕方ないとはいえ、異性に身体を触られるのは緊張するな……


 「うん。ぴったり」


 と、どうやら合わせが終わったようだ。

 目を瞑っているよう指示があったから、俺はこの格好がどういうものかをまだ知らない。


 「もう目開けていい?」


 「うん。仕上げを御ろうじて」


 そんなわけで俺は目の前に立てられた全身鏡で自分の姿を確認し、


 「……は?」


 目を疑った。


 全身鏡には、肉襦袢を着た俺が写っている。

 黒い道着のようなものに身を包み、赤黒い髪を逆立てたウィッグを被らされた俺が写っている。


 「やだった?」


 新崎さんはどうやら、このチョイスに自信満々なようだ。


 「新崎さん、一応聞くけど、この人の名前って何だっけ」


 「範馬勇次郎」


 「……念の為、もう一回言ってくれないかな」


 「範馬勇次郎」


 色々と言いたいことはある。

 お化け屋敷に範馬勇次郎が居るって怖いより面白いが若干勝つだろ。とか、どん兵衛のCM見て地上最強の生物を九尾の妖狐と勘違いしてる? とか……


 でも、大きい声を出して彼女を驚かせたくない。

 どうすればいい。


 新崎さんは新崎さんで、硬そうなスーツジャケットを着ている。胸周りや腰回り、背中の方もそうだけど、その全身は異様にゴツゴツと隆起している。

 筋肉とかじゃない。もっとこう、何か物を隠しているような……


 「……あっ、新崎さんは本部以蔵か」


 「うん。好きだから」


 なるほど。これで謎が一つ解決した。


 「じゃあ俺たちのコーナーは範馬勇次郎と本部以蔵の決闘のシーンになるんだ?」


 「うん。花山対スペックは私たちじゃ出来ない」


 「こっちも無理だと思うけど……」


 何にせよ、新崎さんは俺たちが担当するエリアのテーマを刃牙シリーズにしたいらしい。

 おばけやしき。縮めて「バキ」ってことなのかな。


 でもごめん。これは駄目だ。


 「新崎さん。現実問題俺たちじゃ迫力が出ないし、お化け屋敷であのシーンの再現は趣旨がズレちゃうと思うんだ」


 「……それはうっすらと理解してる」


 ああ、新崎さんがしょんぼりしている。

 でもごめんよ。

 このままじゃ多分、俺たち2人ともボコボコに怒られる。


 あと、これからはうっすらとじゃなく、ハッキリと理解出来るよう応援するよ。


 「直接的な死の恐怖を表現したいんだろうけど、それならいっそさ、ヒトコワ的な演出にしてみるのはどう?」


 「! 詳しく」


 良かった。

 新崎さんの目に光が戻った。


 「詳細は今後詰めてくとして、まず──」



* * *



 時は流れ、放課後。


 「すっかり遅くなっちゃったね」


 「うん。でも、楽しかった」


 時刻は17時を回った頃。俺たちは下駄箱へ歩いていた。

 突き当たりを右に曲がって、渡り廊下を通る。


 夕日の深いオレンジが窓から差し込んでいた。


 10mくらい先に、誰かが立っていた。


 陰になっていて顔はわからない。


 けど、女子の制服を着ていること、そして、その上から白衣を羽織っていることが見てとれた。


 この学校でそんな奇妙な格好をしている人物なんて、俺は1人しか知らない。


 「浅見さんも残ってたんだ」


 俺がそう語りかけると、その人影は一歩二歩とこちらへ近付いて来る。

 夕陽が当たり、その顔が顕になった。


 「ああ、誰かと思ったら小鳥遊か」


 浅見さん。もとい、状態2。


 その顔に、違和感。


 ビン底眼鏡はいつもと変わらない。

 その下にある状態2特有のキッとした目付きも、ややへの字に曲がった口元も、変わりはない。

 髪だってボサボサのままだ。


 ──いや、ボサボサ頭のままだけど、長さが違う。


 つい最近第二書庫で話した時には肩甲骨の辺りまであった髪が、肩の上でバッサリとカットされていた。


 「髪切ったんだね」


 「ん? ……ああ、らしいな」


 「らしいな」ってことは、切ったのは浅見さんの方ってことか。

 これはこれで印象が変わるな。

 サッパリしてて良い。


 「お前らは……何時も一緒に居るな」


 状態2はそう言って歩き出す。


 「お化け役だからね」


 「然うか。じゃあな」


 「うん。また明日」


 コツコツと、靴音が俺たちの後ろを過ぎていった。

 

 彼女は何の役になったんだろう。

 この時間まで残ってるってことは、美術担当とかかな。


 「浅見さんは何やるんだろうね」


 「……」


 「新崎さん?」


 「! あっ、えっと、そうだね……」


 珍しい。考え事だろうか。


 「じゃあ、帰ろうか」


 「……うん」


 まあ、新崎さんは新崎さんで、これから忙しくなる。

 きっと、既に沢山のイメージが溢れて止まないんだろう。

 頼もしい限りだ。


 お化け屋敷。俺たちのコーナーでお客を阿鼻叫喚の渦に落としてやろうじゃないか。





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