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となりの新崎さん  作者: 桜百合
一年生二学期
41/76

新崎さんはテンパイ

 「出来た」


 その声は授業中、隣の席から聞こえた。

 新崎さんの机の上では、将棋盤の上に白と黄色に塗られた長方形の物体が散乱している。

 小学校1年生の時に算数の授業で使った、かずのブロックのようなもの。


 麻雀牌だ。


 「国士無双の縦列駐車」


 新崎さんは相変わらず、意味のわからないことを言っている。


 よく見てみると、散乱した麻雀牌のうち、十三個だけが縦に一列、綺麗に並んでいた。


 麻雀には「役」と言うものがあり、その中でも特にレアなものは「役満」と呼ばれている。

 国士無双はその役満のうちの一つだ。


 「十三面待ち」


 しかしそこは新崎さん。ただの役満じゃ満足しなかったのか、ダブル役満を狙っているようだ。


 それにしても、せっかくの国士無双十三面待ちを縦列駐車させるなよもったいない。


 てか何だよ国士無双の縦列駐車って。

 ただのテンパイだろそれ。


 「あっ」


 ん? どうした?


 「その飛車は止められない」

 

 なるほど。確かにこのままじゃ金が取られ損な上に、相手の飛車が成ってしまう。

 かと言って、こちらに止める手立ては無い。


 「私は振り聴。相手は振り飛車」


 語呂良。


 「いいよ。成らせてあげる。でも、これでどう」


 新崎さんが二筒を切ると、相手の飛車は真っ直ぐこちらに突っ込んで来た。そのまま金を取って飛車成り。

 まさに猪突猛進。わかりやすく勝負に出たのだ。

 守りの要である金を取られ、相手の竜は縦横無尽に動き放題。

 このままではじわじわと囲いを削られ、新崎さんの負けが濃厚になる。


 しかし、必至をかけられたわけではない。


 新崎さんはテンパイ。国士無双十三面待ち。


 お前のその油断を誘うために、新崎さんは立直をしなかったんだよ。


 「ツモ」


 新崎さんを侮り、飛車成りを優先したのがお前の敗因だ。


 国士無双十三面待ち。ダブル役満。96000点。


 「何で負けたか、明日まで考えておいて」


 精々眠れない夜を過ごすんだな。

 ま、今日の敗戦が取り返せるわけじゃないけど。


 「ハイタッチ」


 いぇい。


 「あの人、消しカス棒倒しの時から成長してない」


 相手あの時の左手かよ。そりゃ弱いわけだ。


 「思ったより時間余っちゃった。次は何しよう」


 授業中なんだし、先生の話でも聞いたら?


 「でも、この単元は予習済み」


 復習にはなるんじゃない?


 「復習も済んでる」


 じゃあ落書きでもしたらどう?


 「お絵描きの気分じゃない」


 ねえマジさっきから何? なんでこっちの心の声にドンピシャでリプ出来てんの?

 やっぱり俺の心の声聞こえてない? 新崎さん実は超能力者だったりしない?


 「仕方ない。授業聞こ」


 ああ、良かった。

 まあそもそも今授業中だしね。



 静かに駒と牌を片付けた新崎さん。

 ノートを広げ、シャーペンを手に持つ。


 隣の席の席からは、小気味良い板書の音がした。





 数分後、それはスースーとした寝息に変わっていた。


 新崎さんはとても授業中とは思えないような、安らかな寝顔をしていた。





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