その心は
浅見さん(状態2)から殺害予告を受けた。
「殺す」とシンプルな殺意だった。
放課後の人気の無い場所というシチュエーション的に告白だと思っていた俺からしてみれば、それはまさに寝耳に水だった。
さて、なぜ状態2はそんなことを口にしたのだろうか。
「まだ死にたくないんだけど……」
そんな俺の問いを、彼女は無視して続けた。
「殺す。もう其れしかない」
「理由は?」
「其れは……ワタシからは言えない……」
状態2はそう答えると、俯いて黙ってしまった。
自分から言えない理由。
となると、浅見さんになんらかの事情があって、それによって俺を殺そうとしている。と。
どうやら少し見ない間に彼女の頭のネジは外れてしまったらしい。
なにをどうしたら人を殺すに至るのかが俺にはわからないから、理由があるなら教えて欲しいもんだ。
「ちなみにここで言う「殺す」は、心肺を停止させるって意味?」
「あ?
──あっ! 違う! 違うぞ!」
慌てて否定する状態2の様子的に、嘘ではなさそうだ。
ほっと一息。
「殺すと言うのは飽く迄も比喩だ。何も本気でお前の命を刈り取る訳じゃない。其れだけは確かだ」
命を刈り取るとか、語彙がかっけぇな状態2は。
「ならさ、話せる範囲でいいから教えてよ」
すると、状態2は唸りながらも了承してくれて、あらましを話してくれた。
時は遡ること夏休み序盤。8月に入って間もない頃。
ひょんなことから悩みを抱えてしまった浅見さんは、自分の悩みを知っている人に弁明をしたかった。
そして、伝えるには伝えたそうだけど、それはどうにも上手くいった確証が無く、以来常に不安と隣り合わせだったそう。
そんな浅見さんの不安を取り除くため立ち上がった状態2は、対象を誅殺すべく暗躍していたらしい。
と、ここまで聞いて思った。
結局殺す気なんじゃん。と。
しかもこれ、あの日のことだよな。と。
じゃあ要するにさ、
突然胸元を見せつけてきた自分のことを、俺にビッチと思われてないかが不安ってだけの話だよな。
弁明したけど伝わったかわからないって、じゃあ俺が伝わってるって言えば解決する問題だよな。
てか、
「だからキャンプ誘った時も……」
「然うだ」
なるほどな。あの時言っていた「誰かさん」とは、俺のことだったのか。
……どうしよう。
伝わってるって、言うべきか。言わないべきか。
だって、俺だろ? 俺にあの弁明が伝わってたかどうかが不安で、まるで喉に魚の骨が刺さっていたかのような気分でずっと過ごしていたんだろ?
結果として俺は殺されるかもしれないけど、事情を知ってしまったから見て見ぬふりも難しいし。
言った方がいいか……?
いや、そうやって気を遣われたら、それはそれでストレスに感じるんじゃないか?
状態2はともかく、浅見さんは気にしいだ。
ストレスの対象が切り替わるだけで、軽くなるわけじゃない。
なら、言わない方が良いんじゃないか……?
次の言葉が見つからない。
何をどう言えば良いのかわからない。
「言っておくが──」
そんな俺の逡巡を割って、状態2が口を開いた。
「お前がどう言おうと意味なんて無いぞ。
これはあの子の問題だ。自分の弱さ、愚かさが招いた結果に過ぎないんだからな」
腕を組んだ彼女は、自分の言葉に納得するように頷いている。
どう答えても意味は無い。
それはその通りだと思う。
だって、キリがないんだから。
どっちに転んだって事態は変化しない。
そんなこと承知の上で、わざわざ俺を呼び出したのか。
……ん? 何でだ? 意味なんて無いなら何もしなくていいはずなのに。
「じゃあ、何で俺を呼び出したんだ? 意味が無いのに。
殺害予告をするためだけってわけじゃないでしょ?」
「ああ」
悪戯っぽく微笑んだ状態2は、先ほどと同様、俺の目の前までやってくる。
ツンと立てた人差し指をこちらに向けて、
「先刻ワタシが詰め寄った時、お前は自分の心臓が跳ねるのを感じただろう? お前は少なからず、あの子を意識したと云う訳だ。呼び出した理由が有るとすれば、其れだけさ。
あの時のお前の顔、傑作だったぞ」
そう言って、立てた人差し指で胸をトンとされた。
「は……?」
言葉の意味がわからなかった。
「じゃあな」
そんな俺を置いて、状態2はスタスタと歩き出す。
そして、そのまま第二書庫を出て行った。
ぽつんと1人取り残された俺の耳には、どこか遠くで鳴くヒグラシの声が、やけに煩く聞こえた。
* * *
顔が熱い。
「其れだけさ」か。
「全く……ワタシも素直じゃないな」




