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となりの新崎さん  作者: 桜百合
一年生二学期
39/76

受難

 図書室へ入る。

 奥にある扉を開けると、埃が舞う薄暗い部屋へと出る。

 古く褪せた本が山積しているその空間を通り過ぎ、さらに奥にある扉を開ける。

 すると辿り着けるのが第二書庫である。


 「き、来たか」


 目の前には制服の上から白衣を羽織った、ボサボサ頭にビン底眼鏡という出立ちの女が一人。


 浅見さん(状態2)だ。


 今日、俺は彼女から呼び出しを受けた。


 『逢魔時 第二書庫』


 昼休みにそんなメッセージが送られてきたのだ。


 きっと告白だ。


 俺はこれから、この厨二病女に告白されるのだ。


 「お待たせ。今日は何をするの?」


 とは言え、知らないていを装う必要はあるけどな。

 いきなり本題に入るのは良くない。

 第一、本当に告白なのかもまだわからない。あくまでも俺の推論だからだ。


 ……いやでもさ、放課後×人気の無い場所×2人にゆかりのある場所×赤らんだ頬=……だよな。


 俺は夏休み前、彼女からよく相談を受けていた。

 友達のいない浅見さんを彼女の別人格(設定)である状態2は何とかしてあげたいようで、ひょんなことから彼女の設定を知ってしまった俺を頼って来たのだ。

 相談内容は主に、


 友達はどうしたら出来るのか。

 友達同士はどんなことをするのか。

 友達同士はどんなノリなのか。

 お前(俺)は友達とどんなことをして過ごしているのか。


 という、「そんなのはネットで調べろ」の一声で解決するような些細なものばかりだった。

 とはいえ無下にするわけにもいかない。

 彼女は俺を頼ってくれたのだ。

 だから俺は、努めて真摯に答えた。

 街中で、目の前に困っている人がいて、その人に声をかけないならまだしも、相手から声をかけられたら無視する人なんていないように。


 そうして一時期の放課後は、この状態2とばかり過ごしていた。

 浅見さんと話したことはほとんどない。こないだ一緒に博物館と動物園に行った時と、他に数回会った程度。


 つまりこの告白は、浅見さんからではなく、状態2からのものだと捉えるべきだろう。

 付き合いの時間から、俺にとっての浅見さんという存在は、どちらかというと状態2の方がメインという認識もある。


 おどおどとしていて、自分に自信が無さそうで、いつも背中を丸めている浅見さんと、堂々としていて、自分に自信がありそうで、いつも背筋を伸ばしている状態2。別にどちらがいいとかそういう話ではない。

 平時の浅見さんは(この人大丈夫か……?)と気が気でなくなってしまうことが多いし、引っ込み思案なのもあってなかなか顔を合わす事が出来ない。

 状態2も普段は偉そうに腕を組んでいる癖に、この人はこの人でBコン(ぼっちコンプレックス)を拗らせているので、基本的に他人のことを狩猟民族と捉えている節があるし、それに対して過剰に防衛本能を働かせるものだから、時として奇怪な言動を取ることもある。

 どちらも一癖二癖三癖あるのだ。


 何が言いたいかと言うと、もしこれからこの人に告白されたとして、俺はきっと、即座に首を縦に振ることはない。ということだ。


 「その……その、その……な……?」


 もじもじと、珍しい。


 「ゆっくりで大丈夫だよ」


 胸の前で両手の人差し指をくるくる回す。

 きっと、浅見さんの方の癖だろう。

 状態2は普段は腕を組んでいるしな。


 すると、ようやく要件を伝える決心がついたのか、状態2は顔を真っ赤にしながらも、キッとこちらを強く見つめ、一歩、二歩と近付いてくる。


 状態2が背伸びをすればキスが出来るほどにまで接近した。


 彼女の顔を見て、そこで俺はようやく気付いた。


 俺は、冗談で「告白される」なんて思っていた。

 本当は、いつもの相談だと思っていた。


 違った。冗談なんかじゃなかった。


 本当に本気で、この人は俺に告白をするつもりなんだ。


 状態2は真っ直ぐに俺の目を見ている。

 その視線に、思わず身体が仰け反った。

 そんな俺の肩は状態2に掴まれた。

 キスされるんじゃないかと思った。


 ごくりと生唾を飲み込み、状態2と見つめ合う。


 心臓がばくばくと鳴る。変な汗も滲んでいる。

 ビン底眼鏡の向こうから、泣きそうな目をした状態2が口を開いた。


 「す……」


 す……?


 「すっ……!」


 顔を真っ赤にし、唇を尖らせている。


 ……き?


 なんて、思わず次の言葉を予想した。


 「ころ……す……」


 しかし、なんか流れが変わった。


 俺の知る限り、告白の場で「す」の次に来る言葉は「き」か「きやき」くらいだ。だからてっきり、次の言葉は「き」だと思ったんだ。


 「えっ……?」


 まさか、全く別の言葉が「す」の前に来るとは、予想だにしなかった。



 「殺すっ……!」



 本当に突然だった。


 

 俺は今日、放課後の図書室で、クラスメイトから殺害予告を受けた。





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