新崎さんなら大丈夫
「パンドラ、今週も良かったね。あのほのぼのした日常がいつまで続くか考えると、気が気じゃないけどさ」
「うん」
「そういえば椿姉さんのアレ驚きだよね」
「うん」
……違う。
こんなふうに素っ気なくしたいわけじゃない。
もっといつもみたいに、気楽に、楽しく、友達の感じでお話ししたい。
「花火って言ったらパンドラのさ──」
「……うん」
したいのに……
* * *
先ほどから相変わらず、新崎さんの元気が無い。
落ち込んでるのとはちょっと違くて、何て言うか、何か悩みがある系のローテンションって感じの印象を受ける。
パンドラの話にも反応が薄い……ってことは、新崎さんのこの様子の原因は、パンドラ絡みの可能性がある。
あのパンドラ大好きな新崎さんがこうも元気を無くしてしまうほどの展開って言うと、何がある……?
総理暗殺編が終わってからは日常回が続いてる。最近では主人公らの恋愛模様なんかも描かれていたけど……って、あっ、そっか!
椿姉さんに同性の恋人がいたって発覚したんだ!
俺は別に百合大歓迎だから気にしてなかったけど、それまで椿姉さんの恋人候補は、普段飄々としてる癖に仲間のためには命を張るアツい漢、常盤隊長が最有力だった。それだけにあの展開は多くの読者へ衝撃を与えたのだ。
推しの恋人が想定外の人物で、その上判明しているのは性別だけ。情報が欲しいのに公開される気配は無い。
となると、新崎さんが落ち込むのも無理ないかもしれない。
ここは恋人発覚によって、それまでの常盤隊長から椿姉さんを寝取るR-18の夢小説がTLを闊歩していた界隈から、夢主を椿姉さんの庁舎に勤めるただの事務員として描いた切ないお話が跋扈するようになる界隈だ。
新崎さんが椿姉さんの夢女子であるというピースをそこにハメれば、全てが繋がる。
つまり新崎さんは、夢小説の中で椿姉さんとその恋人の静かに激しい恋愛模様を目撃してしまい、心に深い傷、自傷ダメージを負ってしまったんだ。
「──大丈夫だよ」
「えっ……」
「人間誰しもが、提示された答えに納得出来るわけじゃない。
だから、新崎さんの心のそれは、正常な反応だよ」
俺にも経験がある。
ルキアと恋次が結婚して子供を作って──って、マジ!? ってなったんだよ。
最終回発情期が働いたらそうなるのは理解出来るけど、当時はなんとなく、なんか、もやっとしたものが残ったんだ。
でも今は受け入れて、普通に作品を楽しめている。時間が解決してくれたんだと俺は思う。
時間ってのははじめちゃんやコナン君や星君よりも、問題を解決してくれるものなんだよ。
「だから、そこまで気負うことないと思うよ」
「そう……かな……」
「新崎さん次第でもあるけどさ、君ならそういうのも楽しんで乗り越えられるんじゃないかな」
「そんなこと……
……でも……うん、ありがとう」
「どういたしまして。
せっかくの花火だし、楽しまなきゃ損だからね」
「うん。そうだね」
きっといつか、そう遠くないうち。それこそ、椿姉さんの笑顔なんかが見れた日に、君の悩みは解決する。
推しっていう存在は、それだけの力を持っているんだから。
新崎さんの気持ちにひと段落ついた頃、笹塚たちが戻って来た。
入れ替わるように俺と新崎さんも人混みへと繰り出した。
皆には内緒で屋台で遊んだり、金魚掬いに挑戦してタモを不燃ゴミにオーバーホールしたりして、ちょっとだけ楽しんだ。
買ってきた諸々をつつきながら雑談していたら、時間なんていうものはあっという間に過ぎていく。
気付くと開演時間が間近に迫っていた。
「新崎さんは玉屋派? 鍵屋派?」
「私は玉屋。先祖代々」
「奇遇だ。俺も」
「ふふっ、だと思った」
シートまで敷いて、座って花火を見るなんて、何年ぶりだろう。
去年の花火は褪せているのに、今日のこの景色の、なんと鮮やかなことか。




