大切にしなきゃいけないのに
疲れてたからすぐ眠れるって思ってたけど、全然だめ。眠れない。変に目が冴えちゃった。
小鳥遊くんは寝息をたてて眠ってる。
私に背中を向けて眠ってる。
高校に入って初めて出来た友達。
せーちゃん以外に初めて出来た友達。
そんな小鳥遊くんの友達の笹塚くんも、浅見さんも、良い人。
あの先輩2人はちょっと不思議だけど、でも、悪い人じゃない。
みんな良い人。
友達。
だから、応援しなきゃいけない。
大切にしなきゃいけない。
* * *
『自分にしか聞こえないような小さな声でも、手を差し伸べてくれる人は必ずいる
もし君の目の前にそんな人が現れたら、君は、その人を大切にしなさい』
だから、私は──
──これ落としませんでした?
──あっ、えっ……わ、私の、です……
──良かった。じゃあこれで。お互い頑張りましょう。
──あ、あのっ、なんで、私って……
──え? ああ、だって、「どうしよう」って、「ない」って、言ってたじゃないですか。
──えっ……
──おーい小鳥遊〜!
──あっと、すみません、それじゃ。
あっ……
──なに、知り合い?
──いや、困ってたから──
──ほ〜ん、なんだ? 入学前から内申稼ぎか?
──うるせぇよ笹塚。廊下に立ってろお前は。
あっ、それ……
──出たよそれ。お前ってさ〜──
たかなし……小鳥遊……?
小鳥遊なら、いいな。アニメ好きならみんな憧れる苗字。いいな。
* * *
…………懐かしい。
きっと、小鳥遊くんは覚えてない。
もしかしたらって思って、小鳥遊くんの知ってそうなやつやってみても、全然反応してくれない。
たぶん、あの時だけ。
あの時だけすぐ近くにいて、それで、たまたま聞こえたんだ。
受験票を落とした私の独り言が。
今まで誰の耳にも届かなかった私の声を、せーちゃんが大きくしてくれて、小鳥遊くんがそれを受け取ってくれて──なんて、少女漫画じゃないんだから。
聞こえないのが普通なんだから。
あれ。少女漫画だったら、小鳥遊くんが、私の声を大きくしてくれるポジションじゃない? それでせーちゃんは、昔、私の声が聞こえなくて、無視されたと思って、傷付いて、距離置いちゃった感じのクラスメイトじゃない?
……じゃあやっぱり、小鳥遊くんは私のヒーローじゃなくて、浅見さんのヒーローなんじゃないかな。
だって浅見さん、小鳥遊くんと友達になってから、なんか、人と話すようになったもん。
今までは、いかにもマッドサイエンティストって感じの見た目で、先生に当てられた時くらいしか喋ってなかったのに、最近は、せーちゃんとも仲良くなってる。
……なら、私はやっぱり応援しないと。
浅見さんがヒロインで、小鳥遊くんがヒーロー。
少女漫画だけじゃない。恋愛ものなら、きっとそれが王道。
人付き合いの出来ないおもしれー女が、1人の男の子と距離を縮めて、いずれは結ばれる物語。
だから、応援しないと……
「……あれ」
「なんで……涙……」
「私、別に、好きじゃないのに……」
──良かったらもなにも、勿論。
頑張ったの。勇気出したの。
──俺でよければ話聞くよ。
いくらなんでも、本人には言えないよ。
──じゃあ帰ろうか。
うん。ごめんね。ありがとう。
──かっ、彼女の……あ、新崎さんです。
嘘吐かせてごめんね。嫌だったら言ってね。
──一言一句同じ気持ち。
わかってる。わかってるんだけど……少し、ドキッてしたよ。
──つなぐ。
ごめんね。利用して。
──大丈夫。守るよ。
少し、夢を見たよ。
もしかしたら──なんて……
応援するって決めたのにね。
──一切ない。小鳥遊くんは、友達。
私はそう言った。
──まあ、そういうことだから。
小鳥遊くんはそう答えた。
小鳥遊くんは、私の声を聞いてくれた。
声を張らないと聞こえないのに、張ってないのに聞いてくれた。
大切にするの。
大切にしなきゃいけないの。
……なのに…………
「なんで……うっ、ぐずっ……」
大切にしたいのに…………
「なんなの……これ…………」




