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となりの新崎さん  作者: 桜百合
一年生夏休み
32/76

大切にしなきゃいけないのに

 疲れてたからすぐ眠れるって思ってたけど、全然だめ。眠れない。変に目が冴えちゃった。


 小鳥遊くんは寝息をたてて眠ってる。

 私に背中を向けて眠ってる。


 高校に入って初めて出来た友達。


 せーちゃん以外に初めて出来た友達。


 そんな小鳥遊くんの友達の笹塚くんも、浅見さんも、良い人。

 あの先輩2人はちょっと不思議だけど、でも、悪い人じゃない。


 みんな良い人。



 友達。



 だから、応援しなきゃいけない。



 大切にしなきゃいけない。





* * *





 『自分にしか聞こえないような小さな声でも、手を差し伸べてくれる人は必ずいる

 もし君の目の前にそんな人が現れたら、君は、その人を大切にしなさい』





 だから、私は──





 ──これ落としませんでした?





 ──あっ、えっ……わ、私の、です……





 ──良かった。じゃあこれで。お互い頑張りましょう。





 ──あ、あのっ、なんで、私って……





 ──え? ああ、だって、「どうしよう」って、「ない」って、言ってたじゃないですか。





 ──えっ……





 ──おーい小鳥遊〜!





 ──あっと、すみません、それじゃ。





 あっ……





 ──なに、知り合い?





 ──いや、困ってたから──





 ──ほ〜ん、なんだ? 入学前から内申稼ぎか?





 ──うるせぇよ笹塚。廊下に立ってろお前は。





 あっ、それ……





 ──出たよそれ。お前ってさ〜──





 たかなし……小鳥遊……? 


 小鳥遊なら、いいな。アニメ好きならみんな憧れる苗字。いいな。



* * *



 …………懐かしい。

 きっと、小鳥遊くんは覚えてない。

 もしかしたらって思って、小鳥遊くんの知ってそうなやつやってみても、全然反応してくれない。


 たぶん、あの時だけ。

 あの時だけすぐ近くにいて、それで、たまたま聞こえたんだ。


 受験票を落とした私の独り言が。


 今まで誰の耳にも届かなかった私の声を、せーちゃんが大きくしてくれて、小鳥遊くんがそれを受け取ってくれて──なんて、少女漫画じゃないんだから。

 聞こえないのが普通なんだから。


 あれ。少女漫画だったら、小鳥遊くんが、私の声を大きくしてくれるポジションじゃない? それでせーちゃんは、昔、私の声が聞こえなくて、無視されたと思って、傷付いて、距離置いちゃった感じのクラスメイトじゃない?


 ……じゃあやっぱり、小鳥遊くんは私のヒーローじゃなくて、浅見さんのヒーローなんじゃないかな。

 だって浅見さん、小鳥遊くんと友達になってから、なんか、人と話すようになったもん。

 今までは、いかにもマッドサイエンティストって感じの見た目で、先生に当てられた時くらいしか喋ってなかったのに、最近は、せーちゃんとも仲良くなってる。



 ……なら、私はやっぱり応援しないと。

 浅見さんがヒロインで、小鳥遊くんがヒーロー。


 少女漫画だけじゃない。恋愛ものなら、きっとそれが王道。


 人付き合いの出来ないおもしれー女が、1人の男の子と距離を縮めて、いずれは結ばれる物語。



 だから、応援しないと……





 「……あれ」



 「なんで……涙……」



 「私、別に、好きじゃないのに……」




 ──良かったらもなにも、勿論。



 頑張ったの。勇気出したの。



 ──俺でよければ話聞くよ。



 いくらなんでも、本人には言えないよ。



 ──じゃあ帰ろうか。



 うん。ごめんね。ありがとう。



 ──かっ、彼女の……あ、新崎さんです。



 嘘吐かせてごめんね。嫌だったら言ってね。



 ──一言一句同じ気持ち。



 わかってる。わかってるんだけど……少し、ドキッてしたよ。



 ──つなぐ。



 ごめんね。利用して。



 ──大丈夫。守るよ。



 少し、夢を見たよ。

 もしかしたら──なんて……





 応援するって決めたのにね。





 ──一切ない。小鳥遊くんは、友達。



 私はそう言った。



 ──まあ、そういうことだから。



 小鳥遊くんはそう答えた。



 小鳥遊くんは、私の声を聞いてくれた。

 声を張らないと聞こえないのに、張ってないのに聞いてくれた。



 大切にするの。


 大切にしなきゃいけないの。





 ……なのに…………





 「なんで……うっ、ぐずっ……」





 大切にしたいのに…………





 「なんなの……これ…………」






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