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となりの新崎さん  作者: 桜百合
一年生夏休み
30/76

新崎さんは頼もしい

 言いだしっぺは笹塚だ。言うまでもなく。


 このキャンプ場内にはいくつかの人工物がある。そのうちの一つがちょっとアレで、笹塚の琴線に触れたらしい。

 何がどうアレなのかは個々人の想像力に依存する形になってしまうけど……


 「まあ、要は廃屋だよね」


 「そうだね」


 深夜のドキドキ肝試し。参加は自由(強制)である。

 このままでは笹塚が単身乗り込むのも辞さないとか騒ぐから、落ち着かせるため、そして安全のため、俺たち全員での参加を余儀なくされたのだ。


 「ひょーっ、結構なイキフンじゃ~ん!」


 「そ、そうだな……なあ、ほっホントに行くのか……?」


 「トーゼン。春は曙。夏はポケモン。そして肝試し!」


 相変わらず滅茶苦茶だな。

 こういう奴らからもおーいお茶のサラリーマン川柳でブラック労働をネタにした自虐でスベる大人が生まれたりするんだろうか。


 「秋は気まぐれ!」


 お前に秋の何が理解んだよ。


 それにしても、この雰囲気はなんて言うか、アレだよな本当。

 木造ってのが特にな、こう、どんよりとした空気を強調している感じでな、苔むしてたりな、ツタがべったり張り付いてたりな。

 おどろおどろしいと言うか、禍々しいと言うかな。


 「小鳥遊くん、怖い?」


 「べ、別に?」


 大丈夫。いざとなったら笹塚を廊下に立たせておけばいい。

 きっと幽霊たちもそんな笹塚の姿を見て、


 ──うわ、令和でも廊下に立たされるとかあるんだ……


 とか、


 ──えっ、廊下に立たせるとかマジ? ありえなくない?


 とか……?


 ──君、大丈夫? 誰に立たされたの?


 あれ?


 ──大丈夫! 君はもう一人じゃないよ! 俺たちがついてるぜ!


 この幽霊たち、ぬくもりハンパない。


 じゃあここも怖くないんじゃ……



 ──ガタッ



 「! 小鳥遊くん、どうしたの」


 「……右手にね……気を溜めてるんだよ」


 「初期のマジン・ザ・ハンドと同じ構えだね」


 「うん」



 ──カタン



 「ッ!!」


 「小鳥遊くん」


 「……もっと気を溜めたくってさ」


 「……手つなぐ?」


 「つなぐ」


 ごめんよ新崎さん。俺は俺が情けないよ。





 よし、気を取り直して。


 廃墟廃屋って言ったって、所詮は建物の死骸だ。何も怖いことなんてない。

 ここで死傷者が出た訳でも──


 「あっ、一昨年自殺あったんだって」


 「お前! なんで今ゆった! なんで今ゆった!!」


 「へ、へぇ。人死にがねぇ……」


 「小鳥遊くん、ちょっと痛い」


 死者がいた。これはよくない。


 「死人が出てるんなら、これは不謹慎なことになるんじゃない? 大丈夫?」


 と、そんな俺に続く者が1人。


 「そうだ! 死者の冒涜だ!」


 あまりの恐怖で様子がおかしくなった和泉さんだ。


 「は? ちょっ……」


 「「ぼーとく! ぼーとく!」」


 「いやっ、ごめ……」


 「「ぼーとく! ぼーとく!」」


 俺と和泉さんの人名遵守大合唱に笹塚もタジタジだ。やったぜ。


 「……新崎、お互い大変だな」


 「そうだね」


 ってなんだ、ドン引いてただけか。紛らわしい奴だな。





 元より割と乗り気の新崎さんはともかく、こういう場では磁場とか気圧とかなんかそういう系の影響を受けやすい気がする俺と和泉さんは笹塚からの土下座を受け、正式に廃屋探索への参加を表明した。

 条件は「絶対見捨てないこと」「腕を掴ませること」「何かあったら盾になること」「何もなくても盾になること」の4つ。

 そうして和泉さんの装備アイテムと化した笹塚は、懐中電灯で建物を照らしながら、ぐるっとその周りを一周した。


 俺は新崎さんを盾にする気は無いから、条件は特に提示せず、なんなら迷惑をかけた分俺が新崎さんの盾になる所存だ。


 しかし新崎さん、いつぞやのこっくりさんの時は人影が見えて怖がってたように見えたけど、今日はずいぶん余裕そうだな。

 明確に見えたり聞こえたり体験したりしない限りは怖くないのか、はたまたあの時怖がっていたように見えたのは俺の勘違いなのか。


 「妖怪と呼ばれるものの類、いるのかな」


 「いるといいね」


 温かな友人、出来るかな。


 「マジで扉無ぇのな」


 2人が帰って来た。

 握りつぶしそうな勢いで笹塚を握る和泉さんは無言だけど、当の笹塚は意味の分からないことを言っている。


 「扉?」


 聞くと、噂ではこの廃屋には扉が無く、窓から出入りするしかない。ということらしい。

 平屋のような一軒家スタイルなのに、扉が無い。

 つまり、玄関が無い。

 何のためにそんなものを建てたのか、当然疑問だ。


 だが俺には一つ、心当たりがあった。



 それは、「死ぬ程洒落にならない怖い話を集めてみない?」という2ちゃんねるのスレッドに書き込まれた、とあるお話。

 奇しくも、俺たちの好きな漫画と同じ題のお話。

 玄関の無い空き家に忍び込んだ子供たちの恐怖体験と、悪しく、忌まわしい風習のお話。



 たぶん、きっと、絶対、あれに寄せただけのものだよな……?


 「どうする? 入る?」


 「入っ!? 馬鹿かお前!! ドアが無いんじゃ入りようがないだろ! 窓からなんて危なくてもっての外だし!」


 「つってもなぁ~、ここまで来たらせめてなぁ?」


 「ここまでって、テントから歩いて1~2分だろうが!」


 和泉さんの猛反対が止まらないな。

 まあでも仕方ないか。俺もてっきり普通に玄関があるもんだと思ってたから、ここにきてのそれは、梯子を外されたようなものだ。


 「近付いて、中見るだけは?」


 そうギリギリを責めるのは新崎さん。どうやら先の件は完全に俺の勘違いだったみたいだな。かなり積極的だ。

 近付いて中の様子を見るだけ──それなら、まあ……


 「俺はいいよ。さくっと見てさっさと帰って、笹塚にコーヒー淹れさす」


 「いいね」


 「おう、作ってやるよ。やるから、お前も来いよ」


 笹塚……そんな盾みたいな構えられ方してなかったら。ちょっとはかっこよさげなのに……


 「……次紅茶にしたらお前の墓石を肥溜めに沈める」


 「あ、コーヒー淹れても俺殺すのは決まってんのね」


 和泉さんも腹を決めたようだ。懐中電灯を持った盾を構えて、一歩、二歩と進んでいく。

 俺と新崎さんもそれに続いた。


 南に面した窓の前に立ち、こびりついた砂ぼこりを少し払う。


 「うっ!」


 懐中電灯が照らした室内にあったのは、本家さながらの鏡台と、その前に立つ棒にかけられた髪の毛。


 まるで、頭部だけが空中に浮いていて、鏡に映る自分を見つめているような──


 「ひっ!」


 突然、新崎さんから小さく悲鳴が上がった。


 やっぱり、いざ目の前にすると怖いよな。


 俺の手を強く握りながら、震える指を髪の毛に向けて、


 「……あれ、動いてる」


 「は?」


 「ちょっ、ちょ……ちょっ……!」


 和泉さんは震えながらも笹塚を抱え、どこか頼りない懐中電灯の細い光を髪の毛に向ける。


 その瞬間、ハッキリと見えた。


 後ろ姿。後頭部を向けていたそれが、ゆっくりとこちらに振り返ってきていた。



 「──ッッ!!」



 俺たちは爆発四散した。

 そう感じるほどの勢いでその場を離れた。


 とにかく走って、走って、走って──


 テントからここまでは歩いて1分そこら。走れば10秒程度の距離。


 全力ダッシュで、全身汗だくで、疲労感としてはフルマラソン完走を彷彿とさせた。勿論フルマラソンは完走はおろか、走ったことすらない。


 「はぁっ! はぁっ……!」


 床に散らばったトランプやUNOを見て、これでもかと安心した。

 ついさっきまで皆と遊んでいた男子テント。もはや第2の実家だ。


 「はぁっ! はぁっ! っはぁ~……」


 ヤバすぎたな。何だったんだあれマジで。


 「怖かった」


 「わかる。あれ絶対勝手に動いたよね」


 「あの引き出しに「紫逅」と「禁后」が入ってるのかな」


 「どうなんだろ。もしかしたら別の──」


 ……ん? あれ?


 「あっ、新崎さん!?」


 「? うん」


 ……ああ、手つないだままだったのか。


 「笹塚と和泉さんは……」


 「逆の方向に行ったよ」


 何やってんだ全く。


 「とりあえず、早く探しに行こう」


 そう意を決して立ち上がった瞬間、


 ガササッ!!


 傍の茂みに何かいる……?


 「ちょっ、と……お、落ち着くまで、待とうか……」


 「うん」


 新崎さんは凄いな。あんなことがあったのにすぐに落ち着いてて。

 頼りっぱなしでごめんよ……





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