新崎さんと見上げた
キャンプはつつがなく進行した。
今は夜。俺たち男子のテントに新崎さんと和泉さんを招いてUNOのお時間だ。
「お前らってゲーム全般弱いよな」
白星数1位の和泉さんは余裕の表情だ。
「でもこの前のスマプラ、小鳥遊くん強かった」
と、白星数2位の新崎さんは俺を気遣ってくれている。
「あれは笹塚が相手だったからね」
白星数3位の俺はこのドロフォーをどのタイミングで出すかが肝だ。
「でもゲームは楽しんだもん勝ちだろ? なら優勝は俺っしょ」
白星数ドベの笹塚はデッキが組めそうなくらいの手札があってもどこか余裕そうだ。こういうところに強者感を感じないでもないけど、こいつの場合はただの馬鹿だからな。
……ただなぁ、これだけ手札があるとその分ドロー系のカードも手元にあるもんなんだよなぁ。
そうなると俺のドロフォーも高確率でカウンターを食らうんだよなぁ。
こいつが手札のドロフォー全部を一気に出してくれたら楽なんだけどなぁ。
「せいぜい下々で争ってろよ。りっちゃんこれ食べるか?」
「ありがと」
いいな。あのクッキー美味しいんだよな。
「おいおいよそ見かよ小鳥遊。
食らっとけ! ドロフォー×3!!」
「サンキュー兵六玉」
「ッヅァッ!!」
3位の座だけは譲れないんだよなぁ。
今日の俺も実に3番であった。
なんて。普通に勝ちたいんだけどな。
ここの女子陣ってなんでこんなにもゲームが強いんだろうな。
「じゃあ笹塚、コーヒー人数分用意な。
私はホットで」
「私アイスがいい」
「俺もアイス」
1位がドベに常識的で現実的に可能な範囲での命令を強制させる、令呪のような絶対遵守のギアスのような、そんなペナルティ。これが勝負を程よくヒリつかせてくれるモンだから、こちらにも熱が入る。最下位争いは俺と笹塚しかしてないけど。
笹塚はこれで3回目。俺は1回だけ。ちなみにその時の1位は新崎さんで、命令は『今度無条件で漫画5冊を貸すこと』だった。
それぐらいいつでも貸すのに。優しいペナルティだよ、本当。
「任せとけ。完璧なティーを用意してやる」
「コーヒーだっつってんだろ」
「いいのか! 俺は紅茶検定1級だぞ! いずれ!」
「じゃあ今は何者でもないだろうが!」
2人はそんな風に揉めながら、揃ってテントを出て行った。
相変わらず仲が良い。
それにしても、座りっぱなしは肩が凝るな。
「俺少し出るけど、新崎さんもどう?」
「外? 伸びするの?」
「うん。なんか凝っちゃって」
新崎さんは自分の凝りを確認するように腕を回した。まるで、人類最古の最終兵器のように。
「……うん。でる」
凝っていたようだ。
外に出ると、コンロでお湯を沸かす笹塚と、紅茶を作らないよう見張る和泉さんの後ろ姿があった。
熱いだろうに、薪が爆ぜるのを間近で見つめている。
「あの2人、何かの儀式の最中みたいじゃない?」
「逆光が一層そう見せるね」
そんな軽口を叩きながら少し歩いて、伸びをして、どちらともなく地べたに寝そべった。
草がさわさわと風に靡いて、俺たちの肌を撫でる。
雲が一つもない夜空の下は、満天とまではいかないまでも、それなりに星がよく見えた。
「地球って、やっぱり丸い」
「うん。これで平面とか言ったらトリックアートすぎ」
地動説のアレを見て思うところでもあったのかな。
「でも、気持ちいい」
「そうだね」
会話はそこで終わり、静寂が訪れる。
やがて笹塚と和泉さんの喧騒が遠くから聞こえ、ふと思った。
こういうの、なんかいいなぁ。
ゆっくりと時間が流れるのを感じる。
心地良い無音。
「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」
星空を指差して、あの歌詞をなぞる。
新崎さんも無言で星空を見上げていた。
……でもあれって夏の大三角じゃないな。言ってて思ったけど、めっちゃ東の空だし。
夏の大三角は確か南西の……
「ああ嘘。たぶんアレだ」
一際大きな三角形。たぶんと言うか絶対それだった。
「ふふっ、しまらない」
新崎さんも失笑を禁じ得なかったようだ。
「でも確かさ、パンドラの花火回で方向音痴の椿姉さんに振り回された皆が森に迷い込んでさ、開けた場所で見上げた夜空って、こんな感じだったよね」
「……うん。これだよね」
新崎さんはそう言って、スマホケースに挟んでいた1枚のカードを取り出した。
何で思い出せなかったんだろう。
「そういえばそうじゃん」
それは昼間、俺と新崎さんが買ってダブった、パンドラのウェハースに付いているイラストカードだった。
「サイン付きが椿さんだったから当たらなくて悲しかったけど、私、ここすき」
「俺も。一言一句同じ気持ち」
好きだけど、好きだけど……でも……
の気持ちが先行していたせいで、すっかり忘れていた。
このロケーション。まさにあのシーンだ。
アニメ化がまだだから原作絵になっているけど、それも含めて良いのに。
欲に駆られすぎだろ。俺たち。
「物欲センサーは怖いね」
「うん。次は無欲で買う」
「でも当たらないんだよね。そういう時って」
「ね。もし神様がいるなら、絶対いじわる」
「それな」
──お前っ! お前っ! やりやがったなっ!
──俺言ったじゃんティー入れるって!
──だからキレてんだよ!!
ああ、笹塚は本当に馬鹿だな。
「出来たみたいだね。戻ろっか」
「うん」
テントに戻って、2人を仲裁して、チェアに腰掛けて、4人並んで、紅茶を飲みながら、夜空を見上げた。
南の空に流れ星が流れた。
綺麗な夜だった──
──が、夜はまだまだ終わらなかった。




