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となりの新崎さん  作者: 桜百合
一年生夏休み
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新崎さんは寂しがり屋

 俺としたことが、迂闊だった。

 これから夏休みの宿題をやるっていうのに、コーラを切らしてしまった。由々しき事態だ。

 

 が、そんなミッションは易々とコンプリート。近所のスーパーへさっさと向かい、缶コーラの6本セットを買ってきた。


 今はその帰路なわけだけど……


 「夏の路上は、天然のサウナ」


 公園で意味不明な事を呟く新崎さんを見つけた。

 ロウリュも熱波も無いサウナは、ただの熱い陸だ。

 そもそも君日陰にいるじゃないか。


 「よし、休憩終わり」


 ああなんだ、休憩中だったの。

 でもこんな炎天下の公園で、一体何をしていたんだ?


 「か~~~~め~~~~は~~~~め……」


 なっ、ま、まさか、それはっ……!


 「波ぁぁぁぁ」


 うおおおおっ! 新崎さん、それは激アツだよ! 


 「なんか違うな……もうちょいアレだな」


 ってなんだ。そっちか。

 完全に一人だ。と、全力で練習できるかな。と思ってつい解放的になっちゃった方か。

 むしろ全裸で駆けまわったり、大声で熱唱したり、デカイ雲見てラピュタがあるって口にしたりしてなくて良かったよ。よくかめはめ波を撃ってくれたね。あのくだりにはもっと理解に苦しむものだってあったわけだし、それに比べたら人っ子一人いない公園でかめはめ波を撃つぐらいどうってこと…………ん? あれ、そういえばあのシーンって、かめはめ波をもう一度撃とうとして確か──


 「かめはめっ……あっ」


 「あっ」


 新崎さんと目が合った。

 その証拠に、新崎さんの動きがピタッと止んだ。


 新崎さんの顔がどんどんと、完熟トマトのように赤くなっていく。


 「あっ……あぅあっ……!」



 ……ごめん。





 とりあえず、新崎さんを近くにあったベンチに座らせた。


 「ううううぅぅ……」


 両手で顔を覆ったまま呻き続ける様子に、申し訳なさが募っていく。

 いやまあ、銀さんたちも恥ずかしさから手で顔を覆ってたから、そこまで踏襲してる可能性はあるけどさ。


 「俺もよくやるよ。ああいう練習」


 「ちがう……ちがうの……」


 ほら。フォローにもこの調子だ。


 新崎さんって不思議だよな。

 普段の独り言や奇行には一切の抵抗が無いなのに、いざそれが相手に気付かれると、こうして赤面する。

 いつか、話題作りの体で俺に氷魔導三番の甲を詠唱してきた時もこんな感じになっていた。

 藁人形は見られても平気だったのにな。意味わかんないよな。

 

 「えっと、えっとね、いつもこんな事してるんじゃないよ。

 今日はたまたま、たまたま……たまたまっ、暑かったからで……」


 女の子が「たまたま」を連呼するんじゃないよ。


 「なんか出そうな気がした?」


 「……うん」


 正直だな。


 「俺もさ……ほら、あそこ。あの雲の中にラピュタがあると思ってたよ」

 

 「ほんとう?」


 「本当だよ。なんなら滝川クリスタルの結晶があるかもとも思ってたよ」

 

 「えっ、えへへ……そっか」


 ふぅ。落ち着いたか。



 ともすれば黒歴史創造の瞬間をなんとか回避し、俺もベンチに腰を下ろした。

 買いたての冷えたコーラを一本新崎さんに渡すと、自然と雑談の流れになった。


 「にしても、よく外でやろうと思ったね。今日最高気温34℃だよ」


 「でも、明日は雨だから」


 「あぁ、台風が近いんだっけ」


 「うん……あっ、そうだ。ねぇ小鳥遊くん、今度また小鳥遊くんち行っていいかな。漫画、面白そうなのがたくさんあったの、気になってて」


 ああ、そういえば、祭りの前に色々読んでたな。

 シリーズものを買いすぎた結果置き場が無くなって、以来、短編集とか一巻完結の作品ばかりを買っていたからな。掘り出し物も多いし珍しいんだろう。


 「いいよ。いつでも連絡してよ」


 「うん……あっ、うん……」


 ……ん? 何だ? なんか煮え切らないと言うか、何か言いたそうな顔してるな。

 何か悩みでもあるのか?


 「どうしたの? 他にも何かある?」


 「えっと……いや、なんでも……」


 何だろう。溜め込むのは良くないから話して欲しいんだけど、どう言ったらいいかな。

 人に気持ちを吐露させる方法……とりあえず、相手に「この人になら話しても大丈夫そう」と思ってもらうのが肝要だよな。


 「新崎さん、言い難いことだったら言わなくていいよ。

 でも俺たちは友達なんだしさ、抱え込まないで、良かったら話してみてよ」


 「ともだち……」


 まずはこれじゃないか? 友達ってのは悩み相談の相手として真っ先に上がる関係性だし。


 「話すことで軽くなったりもするしさ」


 そう説得すると、どうやら決心したのか、新崎さんは重く閉ざしていた口を開いてくれた。


 「こないだ、お祭りの時、浅見さんとなに話してたのかなって……」


 しかしその口から出た言葉は、悩みというよりも疑問に近いものだった。


 祭りの時……? って言うと、あれか。状態2に予定空けとけって言われたやつか。

 でも何で新崎さんがそんなこと気にするんだ? 


 あっ、笹塚と待っててって言われて置いてけぼりくらったから、何の話か気になってるのか。


 「別に、大したことじゃないよ。ただ、祭りの次の日に博物館行こうって誘われただけ」


 「博物館……」


 「うん。結構楽しかったよ。ワヤンっていう、影絵に使われる人形とかの特別展があって……あっほら、パンドラの楢山さん。あの人の元ネタなんだって」


 「あっ、へぇっ。そうなんだ。

 影の何かって聞いてたけど」


 「俺も思った。

 あとは、動物園にも行ったよ。時間無いからささっと見て回っただけだけど──あっでも、うさぎに触れてさ、可愛かったよ」


 「動物園……」


 何だ? 心なしか表情が暗い気がする。


 ……まさか、誘って欲しかったとか? 新崎さんは自主的に図書館に行けるタイプだから、博物館も当然好きだろうし、あとは普通に動物も好きとか? それで動物園にも行きたかった……とか。

 意外と寂しがり屋なんだな。


 だとしたら、悪いことしたな。

 浅見さんが俺のことを好きかもしれないって推論が立っていたから、他の人を誘うのは浅見さんに失礼な気がしたんだよ。


 ──なら、


 「楽しかったからさ、今度は皆で行こうよ」


 「皆で……うん、行こ」


 俺がそう言うと、新崎さんの表情がぱぁっと明るくなった気がした。俺の読みは当たりか。

 いつも通りの無表情だけど、漫画やアニメなら背景にキラキラしたトーンやエフェクトと、『ぱぁぁぁぁっ』ってオノマトペが散らされていることだろう。


 一先ず、万事解決だな。

 さすが万事屋だ。


 「じゃあ予定はまたおいおいでいいかな」


 そうベンチから腰を上げたところ、新崎さんに服を掴まれた。

 この人、人を呼び止める時に服とか袖掴みがちだな。


 「ねぇ、今日、この後暇かな」


 「今日?」


 まさか、博物館と動物園か? 午後だし今からじゃ博物館すら満喫出来ないぞ? それに俺は宿題をやる予定が──


 「漫画、読ませてもらえないかな」


 ああ、そっち。

 どうしようか。一応夏休みの宿題を進めるつもりだったんだけど……


 「だめ……かな……」


 「だめじゃないよ。いいよ。行こうか」


 宿題なんていつでも出来るもんな。それよりも友達との遊び優先だよな。当然だよな。


 夏休みは始まる前が一番楽しいとは言うけど、始まってからだって十分楽しい。


 今日の訓。二つの意味できょう訓だ。





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