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となりの新崎さん  作者: 桜百合
一年生夏休み
21/76

新崎さんは相変わらず

 今日の俺にはミッションがある。

 それは、図書館に本を借りに行くこと。

 宿題の資料にどうしても必要でやむなくだ。これをサボッて補習とか呼び出しとか、冗談じゃないからな。


 ちなみにその資料は学校の図書室にもあるらしいけど、俺は図書室の貸出カードを失くしてしまったクチだ。故に、今日向かうのは市立図書館。

 ここの貸出カードならなんとなくずっと財布に入れていた。備えあれば憂いなしだな。


 季節は夏。昼間に外出しようものなら、人が多く気温も高いという八大地獄もかくやの拷問を受けることは明白だった。なので俺は人が少なく気温が下がり始めた夕方に狙を澄ます。

 そして、それがハマった。

 道中はそれなりに快適で、館内は人が殆どおらず、なんなら非日常感にちょっと興奮するぐらいの静寂に包まれていた。


 だからだろう。俺がその声を聞き逃さなかったのは。


 「どれにしよう……」


 ここ最近よく耳にする声。

 ゆっくりと落ち着いた語調で、それなのにどこかテンポが良く、聞いていて飽きない声。


 「『ドグラ・マグラ』か、『黒死館殺人事件』か、『虚無への供物』か」


 間違いない。新崎さんだ。

 読書感想文用の本の選別だろうか。チョイスが正気の沙汰とは思えないな。

 読むと発狂するとか、難解すぎてわけわからんとか言われてる日本三大奇書を読書感想文に選ぶとか攻めすぎだろ


 「『ドグラ・マグラ』がベター、でも発狂はしたくない。『黒死館殺人事件』は難解すぎて読める気がしない。『虚無への供物』は比較的読みやすいけど、それだと負けた気がする……」


 手に取る前に回避出来たろその逡巡は。


 「やっぱり、本屋大賞とかの本にしたらよかったかな」


 まあ三大奇書よりかは良いかもね。


 「でも、それだともっと負けた気がする。

 だから、えっと……あっ、これだ」


 ん?


 「テレレテッテレー GOTH~」


 なんちゅうもんを持ち込んでんだ。


 「私には結局、これくらいマイルドな方が良いのかもしれない」


 それがマイルドかどうかは人によってだいぶ意見が分かれると思う。

 てかカバンから出したってことはそれ自前だよな? まさか今の一人コントのために仕込んでたのか?


 「ウケない……」


 仕込んでたのか。

 この場には君以外俺しかいない上にその俺が息を潜めてるんだから、ウケるも何も無いだろ。大丈夫だよ。面白いよ。


 「最近マンネリなんだ。学校も夏休みに入って、何をするにも刺激の足りない毎日……」


 そんなF1層みたいな悩み抱えててたのか、新崎さん。


 「あのドラッグみたいな名前のスペースでゴロゴロしたい」


 ドラッグみたいな名前のスペース? どこの話だ?


 「広縁」


 君広縁のことそんな風に思ってたのか。さすがに不名誉だろそれは。


 「広縁でごろごろしながら満州アヘンスクワッドを読みたい」


 芥子縛りの休日。


 「「もる〜ヒネくれちゃうぞ~」なんつって」


 モルヒネ……また芥子か。

 人っ子一人いない図書館の学習スペースで何やってんだよ君は本当。


 「でもそう考えると、大麻とか薬物の隠語、面白い」


 それはまあ、うん。そうだね。

 

 「隠語集とかないかな」


 あー確かに、でもそれで読書感想文を書くのはどうかと思うよ。


 「効率よく隠語が読めて、面白くて、意味のある小説。

 心当たりが一つだけ、ある」


 へぇ。どれだ?


 「N・H・Kにようこそ」


 あれか。ニートのやつか。

 確かに原作小説にはそういうくだりあるけど、でも栽培してるのってチョコだかトマトだかだけじゃなかったか?

 冒頭で吸ってんのも無銘のドラッグだった気がするし。


 「読みたくなっちゃった」


 だろうな。あれ原作とアニメとコミカライズでオチ違うのも見所だし、全部堪能するってなったら結構有意義な数日が送れそうじゃん。俺も見返そうかな。


 「早く読みたいな。うちにあるし、あれで読書感想文書こ」


 ああ、結局それにするのか。

 じゃあ何だ、三大奇書は返却するのか?


 「……『ドグラ・マグラ』だけ借りてこ」


 よりによってそれを借りるのか。大丈夫か? 狂わないか?


 「もし狂っても、それもまた人生」


 ロックだなぁ。頑張って。


 と、新崎さんが席を立ったのを確認し、俺は彼女に見つからないようそそくさと帰路に就いた。

 結構な量の独り言に、コント。そりゃ聞かれたくないだろ。


 そして家に着き、靴を脱いで、気付いた。





 資料借りるの忘れた。





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