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となりの新崎さん  作者: 百合桜
一年生一学期
12/76

厨二病?

 文芸部の活動で図書室に来た。

 いつもなら部室で駄弁るだけだけど、今日は図書室で好きな本を借りて、それについて語り合おう。と、そういう試みらしい。


 しかし参ったな。俺、小説はあんまり読まないんだよな。

 読んでもライトなのばっかだし、割と古いやつだからここには置かれてないし。


 どこを見るでなく歩いていくと、いつの間にか第二書庫まで来てしまっていた。

 図書室の奥の奥。扉の向こうにある秘密基地チックな空間──と言えば聞こえはいいけど、実際は図書室にも第一書庫にも入りきらない古い本を押し込めただけの、ともすればゴミ屋敷(図書室版)のような、そんな足の踏み場も無いような所なんだよな。

 埃っぽくてエモくはあるけど、進んで入りたくはないって感じだ。


 てかそもそも、こういうところのドアって普通閉まってるんじゃないのか? 全開だったからついうっかり迷い込んじゃったじゃないか。誰か拾ってくれるのか? それとも護ってくれるのか?


 「では、ワタシが頂こう」


 っと、びっくりしたなもう。


 奥の方から? 誰だ?


 「ほら、聞こえているぞ? お前等の野卑滑稽極まりないその息づき」


 ……随分な物言いだな。お前こそ、その厨二病的な喋り方は何だ? 聞いてるこっちが恥ずかしくなる。


 「ツフフフフ……」


 クセのある笑い方だなぁ。


 「此のアーティファクトが在る内は、物理攻撃、魔法攻撃、精神攻撃、状態異常は凡て無効だ。残念だったな」


 うわぁキッチぃなぁ……あまりにもすぎて脳が痒くなる。


 バレないように、チラッと顔だけ見てみよう。

 足元に積まれた本の山を崩さないよう、慎重に、ゆっくり、抜き足差し足忍び足で……


 第二書庫の奥の奥。


 いた。


 ビン底眼鏡にぼさぼさ頭。

 服装はもちろん、制服の上から白衣を羽織ってる。

 マッドめな服装をした謎の人物。


 と思ったら、同じクラスの浅見さんだった。


 教室ではかなり大人しめな印象だったけど、これはあれか? 二重人格的な設定か?


 「このワタシにお前等如きの低俗な──むっ、誰だ!!」


 うお、バレた? 意外や意外、結構勘が鋭いんだな。

 このまま逃げてもいいけど、浅見さんの厨二的でイテテな言動を楽しませて貰ったのは事実だし、大人しく謝罪するか。


 「すいませ──」


 「なんて、誰も居ないんだけどな、って、え……」



 ……最悪だ。カブッた。


 カブッたし、これ多分あれだ。

 厨二がよくやる、誰も居ないのに「気付いてるぞ」って一発カマすやつだ。


 うわぁ……あれにひっかっかったのか俺。

 自分で自分が情けないよ。


 「ひぇ、っと……あ、その……」


 あ、よかった。俺の知ってる浅見さんだ。

 てか厨二ん時のあれさ、凄いな。

 君、あんな風にハキハキ喋れたんだな。


 「あっ、クラスの……もしかして……聞いて……?」


 「……いや、音楽聞いてたから。

 ここには迷って入っちゃって。すぐ出るよ。ごめんね」


 「あっ……う、うん……」


 結構無理がある言い訳だけど、いけそうだな。

 触らぬ厨二に祟りなしだし、さっさと出よう。


 「……あっ、あの!」


 「う」


 ……まあ無理だよな。俺、「すいません」って言いかけてたし。


 「はい」


 いいや。大人しく怒られよう。

 好奇心に負けて人の弱みを除き見たんだ。多少のペナルティは甘んじて受け入れよう。

 このペナルティシールを集めて応募して、お皿と交換だ。


 「え、えっと……み、見た……?」


 「……ごめん、つい。

 なんか熱入ってたから、邪魔するつもりはなかったんだけど」


 「えっ、み! 見!?」


 「見……ました……」


 凄いな。信号のように顔色が変わっていく。

 恥ずかしさから真っ赤だったさっきから、厨二バレ確定によって真っ青に青ざめていく。

 スゴいね人体。


 「はわ、わ、ひ、あぇ、あっ、あっ……」


 「大丈夫。誰にも言わないよ」


 「う、あ……?」


 「俺にも経験あるから。そういうの」


 いわゆる「黒歴史」だな。


 「あぅ、ほ、ほんと……?」


 「本当だよ。誰にも言わない」


 ようやく信じてくれたのか、顔に血色が戻っていく。


 「あ、ありがとう……」


 よく考えたら、奇声とか悲鳴を上げられなくて良かったな。

 どっかの神様よろしく、「見たな見たな」と連呼されてはたまったもんじゃない。

 漫画家を目指すよう背中を押してやることすら、俺には出来るか怪しいしな。


 なんにせよ、長居は無用だな。さっさと図書室に戻って、適当に絵本でも見繕おう。


 ──なんて、考えること自体がもうフラグだよな。


 「あっ、た、たかなし、くん! ちょ、ちょっとっ……!」


 ほら。

 こういう場合は大抵こうなるんだ。


 でも何を言われるんだろうか。

 「その記憶と命を置いていけ」的なことか?

 記憶を置いたら命はいらないのでは? ってなるあれみたいな。


 「スゥーーーー……ハァーーーー……スゥーーーー……ハァーーーー……」


 結構しっかり深呼吸するタイプか。仰け反って吸うあたり、深呼吸ガチ勢のケがある説あるコアトル。



 「ツフフフ」


 

 ……ああ、そういう。


 「フゥ。どうやら主が世話になったようだな。小鳥遊とやら」


 なるほど。そういう設定ね。


 「何か褒美をやらねばな」


 ……ちょっと、一回帰る振りしてみるか。


 「なっ、か、帰るのか!?」


 ああもう、声音とテンション感はさっきの厨二キャラなのに、困り眉の表情が完全に浅見さんだ。

 申し訳なくなるから、やるならちゃんとやってくれ。


 「か、帰らないのか……? ふ、ふん! まあそうだろうな。

 ワタシからの褒美を断るなんて、莫迦のすることだ」


 偉そうなキャラクターだなぁ。

 こういうのって自分に無いものを詰め込みがちだからか、少し心配だな。


 だって、絶対拗らせてるじゃん。


 「褒美は……そうだな。

 私とお前の間に、友誼を結んでやっても良いぞ」


 はあ。それはまあ、別にいいけど。


 「どうだ? 嬉しいだろう?」


 あぁ……俺そこで「嬉しかろう?」って言ってほしい派なんだよな。

 キャラの口調から考えるとそっちのが自然なのはわかるけど、好みってあるじゃんか。


 「……まあ、じゃあそれで」


 「ツフフフフ。

 では、スマホを寄越せ。連絡先の交換だ」


 「あ、はい」


 おお、結構余裕あるな。

 こっちの浅見さん……もう一人の浅見さん。


 あ、違うわこれ。手めっちゃ震えてる。


 「ふ、ふぅ。普段は念波で国防総省等とやり取りをしているからな。偶にはこういう庶民の道具も使っていかねば」


 なんだろう。目の前で一人の人間がこういう演技を全力でしてるの、痛気持ちいい的な何かを感じるぞ。


 「そうだね。

 じゃあ、一応部活中だから」

 

 「えっ! そっ、は、早く言ってよ!」


 「ん?」


 「あっ、ふ、ふん。これだから学生は、融通の利かない……」


 ふっ。


 「じゃあ、またね」


 「ふん」



 イタ面白い。


 キツ可愛い。



 そんな感じだな。





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