終わりからの始まり
いいね、ブクマ、評価感謝です!
取り敢えず完結です。
気が向いたら&思い付いたら故郷でのあれこれ書きます。
青天の霹靂。予想だにしない展開に目を剥くきながら、ぶんぶんと首がもげそうな勢いで横に振る。
「無理無理無理無理無理無理! あたしなんかじゃ憂炎様幸せにできませんて!」
「なんでだよ。あんなに情熱的に口説いてたくせに、今更掌返すなんざヒデェ女だなー」
「ひいぃごめんなさいぃ! 今もまだ憂炎様は愛してます! でもあたしには憂炎様は勿体無いです!! 第一、あたしと結婚してもなんにもなりませんて!? 店は兄と弟継ぐし! 継ぐものは何も無いし! あ、お金!? お金なら支援金送ります! それで手を打ちませんか?!」
「そこまでしてくれんなら結婚した方が早くねぇ?」
「で、でも白い結婚は流石に悲しいし!」
「なんで白い結婚前提なんだよ」
「だって、あたしは憂炎様のことよく知ってますけど、憂炎様はあたしのこと知らへんでしょ? 愛が生まれるわけないやないですか! ということは、うちの財産を狙ってるとしか思えへん! 憂炎様があたしの立場になったらどう思います!?」
「いやお前、本人を前にして……あ〜いや、でも、成程。確かに。お前の言ってることも一理あるな」
「でしょ?!」
憂炎もちゃんと考えたようで、腕を組んで空を仰ぎながら渋い顔で同意を見せる。
「なら、一目惚れっていったら信じるか?」
「は? いや、あたしはあんまり……いざ交流してみたら思ってたんとちゃうな〜ってことはよくありましたし……」
思ったよりも真剣な眼差しを向けられ、少々居心地の悪さを感じながらも答える。
「でも音操に言ったんだろ。一目惚れだって」
「いや、それは、あの時はああ言うしかなかったので……」
「あと、恋をするのに理由も常識も要らないとも言ってたな」
まさに墓穴。流石にあの説得の場で『ゲームで知って〜』なんて言える訳がない。言ったとしても頭がおかしいと思われるだけだ。だからら無くはない言い訳としてその言葉を使ったのだが、逆手に取られるとは思ってもみなかった。
二の句に困っている若樹を目を細めて見て、憂炎は若樹の腕を引いて己の膝の上に乗せる。
「軽……お前、ちゃんと飯食って」
「ひぃいいいいい! なんてことすんねん下崖やで!」
「おお、積極的だな」
「アホ! バカ言うてへんで、崖から離れぇ!」
一拍遅れて、憂炎の顔が間近に迫ったことよりも、下から吹いてくる風で無意識に視線を向けてしまった若樹は必死の形相で憂炎にしがみつく。憂炎は嬉しそうだ。
「まあ、確かに好きだなんだは俺もまだよくわかってねぇよ。でも、こんな別嬪から、あんな強烈で真っ直ぐな告白受けて嬉しくねぇ男はいねぇよ。
ちゃんと働くし、浮気もしねぇって誓う。ちゃんと好きになるから、お前の両親みたいな夫婦になろうぜ」
若樹をお姫様抱っこしたまま素直に崖際から距離を取りながら、憂炎は話す。
文字通り、夢にまで見た光景だが、若樹は頷けない。
「い……いやいや、あたしの両親見習ったらあかんです! 万年ゲロ甘々夫婦で、あたしら兄弟ほんまにうんざりしてますから!」
「ゲロって……。じゃあ、どんな結婚生活が理想なんだ?」
「え……」
急に聞かれても困るが、一応考える。
前世では恋人はいたが結婚まで考えたことはなかった。結婚を意識したことはなかったし、結婚生活をイメージしたこともない。前世の両親は肝っ玉母さんとそんな母が好きで堪らないちょい気弱な父――参考にならない。故に、理想の結婚生活と言われてもすぐには思いつかなかった。
「え、えっと……? ……病めるときも健やかなるときもお互い助け合っていける仲良し夫婦……?」
「? 止めるとき? どういうことだ?」
憂炎が訝しげな顔して草原のど真ん中で立ち止まる。
「や、よくわからないですあたしも。ちゃんと結婚したことないし……って、ってか、そんないきなり結婚に焦らなくてもいいと思いますが!?」
「俺はいいけど、お前は行き遅れだろ?」
「世間一般ではそうですけど、良いんです、別に、あたしは。気にしてません」
「そうなのか。なら、焦らなくていいな」
「そうそう! 憂炎様ほんまいい男やし、絶対」
良い女性に出会える。そう言おうとしたが、額に触れた温かく柔らかな感触に言葉を失う。それが何なのかを理解するべき若樹の脳はそれを怠った。
ゆっくり離れていく憂炎の顔。笑って入るが、獲物を狙う獣のような赤い瞳と目が合う。若樹の全身をゾクリと甘い熱が走る。
「まずは恋人って立場に甘んじてやるよ。これから、仲良くなっていこうな?」
蕩けるようなバリトンボイス。至近距離で向けられた熱を孕んだ言葉は、若樹の耳を孕ませた。ボンッ、と頭から湯気が出たのではないかと全身が茹で蛸のようの真っ赤に染め上がる。
(あかん……こんなん、絶対にアカン……! あんな目で見られて、落ちるなゆー方が無理……!!)
憂炎を受け入れるのに時間はそう要らないだろう。というか、既に落ちかけている。
「そうそう。すっかり言いそびれてたが、憂炎って名前は捨てた。今は空燕だ」
「空、燕、様?」
「おう。様も敬語もいらねぇ。俺はもう平民だしな」
「え、え〜……長年染み付いたものがあるから難しいですて……。それにしても、『空燕』かぁ……。ぴったりなお名前だと思います。なんちゅーか、自由って感じで」
「はは、流石俺の若樹。よくわかってる。ありがとよ」
「お、俺の!? ま、まだ落ちてませんよ?!」
「『まだ』?」
「あっ!?」
落ちるのも時間の問題だろう。若樹は自分の未来を確定的に予想できていた。
――竺国での内乱終結より一年後。
西の領地にて、西方民族の侵入により争いが起きるのだが、一人の男の獅子奮迅の働きにより瞬時に収められる。男にはその褒美として領主の娘との縁談を持ちかけられたのだが、
『飛び回る燕には、安心して羽を休める樹の側が相応しいのです』
と断り、予てより働いていた大店の用心棒に戻っていった。
雇い主の愛娘との結婚式が成されるのは、それから間もなくであったという。
お読みいただき、ありがとうございました(*^^*)
気が向いたら&思い付いたら故郷でのあれこれ書きます(大事なことなので2回言いました)




