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転生女神ノ救世譚  作者: X-PICA
第二章 学術国家ハクシス編
9/12

第9話 無意味だった。

朝の日差しに照らされて、意識が覚醒していく。

耳元で「ハアッ、ハアッ。」という犬のような息遣いが聞こえる。

それに向かって手を伸ばすと、丸くてモフモフした何かに触れた。

そしてーー


ーー顔面を涎でベトベトにされた。


「マタロー。

 これは良くないよ〜。」


涎塗れの顔でマタローに言った。


私は何故マタローがここにいるのか疑問に思ったのだけれど、前日にリタがジークの所へ行くと言っていたのを思い出し、帰りに着いて来たのだと結論付けたわ。


仕返しとしてマタローを(くすぐ)っていると、部屋の入り口から声が聞こえた。


「おはようございます、ソフィ様。」

「トワレナ。

 おはよう。」


トワレナは私の近くに来ると言った。


「凄いお顔になっておりますね。

 洗って来てはいかがでしょう?」

「そうする。」


私は洗面所へ向かった。

途中でグレイテラさんとすれ違ったのだけれど、凄く笑われたわ。


顔を洗い終わると、私の隣でおすわりしているマタローに言った。


「マタロー、今回のは減点だよ!

 グレイテラさんに笑われちゃったじゃん!

 次、こんなことしたら、その時は・・・こうだ!」


私はマタローへの擽りを再開した。


私が「ほれほれ、くすぐったいのはどこかね?ここかね?」と体中を(まさぐ)ると、マタローが「キャンッ!キャンッ!」と体をくねらせる。


しばらく続けていると、後ろから声がした。


「ここが私のユートピア…。」


そこには「尊さ」が限界値を突破し、立ったまま気絶したリナさんの姿があった。


恐怖を感じた私は、「朝ご飯出来たぞ!」と言うリダイさんの声を聞いて、リナさんを(ほう)ったまま部屋を後にした。


朝食後、一夜明けても大混乱状態の街中を、隠れるように進みながら、大図書館内のグザックさんの研究室へ向かった。

なんとかたどり着いたものの、前日よりも私を探す人数が明らかに増えていたことに戦慄した。

私を探し出すための部隊が編成されているほどだった。

警備兵が国の混乱を抑えようと躍起になっているが、意味を成していなかった。


「なんでこんなことになってるの?

 おかしいよ…。」

「それだけみんな王族と対面したいってことだろ。」

「王族でこんなことになるんですね。

 十二神獣が現れたらどうなるのでしょうか。」

「さあな。

 でも、どうなるか分かってるから、ジーク様を筆頭に、十二神獣たちは滅多に人前に姿を現さないんだろうな。」


リタはそう言うと鞄から、前日、私がツリーハウスへ持って帰ったはずのリーゼロッテの日記 (偽物)を取り出した。


「リ、リタ、それ…?」

「今朝、ジーク様のとこへ行った時に渡された。

 それから、この日記のことも粗方聞いた。

 この日記がリーゼロッテの日記じゃなくて、全然違う人の日記ってことも、リーゼロッテの記憶を司る力によって、先祖たちがこの日記はリーゼロッテの日記だという誤った記憶を植え付けられていたこともな。

 グザックさんが聞いたら、なんと言うか…。」


リタがそう言った瞬間、研究室の扉が開いた。


人混みに流されたのであろう、疲れ果てたグザックさんがそこにいた。


「ひ、人がぁ…、凄すぎてぇ…、何がぁ…、どうなってるんだぃ…?」

「大変でしたよね?

 だ、大丈夫ですか?」

「うん、問題ないよ…。

 遺跡探索中に出会う動物や魔物の数に比べたらましだよ…。」


グザックさんは覚束ない足取りで何とか椅子まで辿り着くと、座って続けて言った。


「それにしても、君たちもそこまで辿り着いたんだね。

 思ったより早かったね。」

「え?

 グザックさん、知ってたんですか?!」

「ああ。

 もう一年くらい前になるかな。

 リサちゃんから聞いたんだ。

 当時は驚いたものだよ。」

「リサが?!」


グザックさんの言葉に、リタが驚く。


ジークにリサのことは聞いてなかったらしいわ。


「話す時が来たみたいだね。

 私が知っているハクシスの書の全てを。」


グザックさんは、とある日のことを話始めた。


ーーーーーーーーーー

ーーーーー

ーーー

ーー


リサちゃんは天才だった。


大賢者リーゼロッテにも並び立てるほどの圧倒的な知能を、その小さな体に宿していた。

彼女を知った私はリダイ君、そしてリサちゃん本人に無理を言って、ソフィちゃんと同じようにリーゼロッテの日記の解読を手伝ってもらってたんだ。


そんなある日のことだった。


その日は何でもない日だった。

普通に朝起きて、普通に研究して、普通に帰って、普通に寝るだけ。

そう思ってた。


いつも通り研究していると突然リサちゃんが言った。


「ハクシスの書、見つけたかもしれない。」


と。


「何だって?!」

「この紋様を見て下さい。」


私はリサちゃんに言われるがままリーゼロッテの日記の原本を見る。

ページの端に小さく書かれた紋様を指差してリサちゃんが続けて言った。


「まず、1つ目。

 そして、2つ目、3つ目、4つ目。」


リサちゃんはページを捲りながら、その紋様を別の紙に書き写していく。

何も書かれていないページもあったが、その紋様はほぼ全てのページに描かれていた。


「これが、最後。

 何か気づきませんか?」

「幾つか同じ紋様がある。」

「それもそうなのですが、もっと別の場所に不自然さを感じませんか?」

「不自然さ?」

「これだけあるのに、グザックさん、この紋様に気づいてすらいませんでしたよね?」


言われて、確かにそうだと思った。

これだけの数がありながら、なぜか気づかなかった。

何が起こっているのか、理解出来なかった。


「私も今、始めてこの紋様の存在に気づきました。

 恐らく、この紋様はある条件を満たした者のみが気づける紋様なんです。

 それまでは、人に言われない限り、認識すらできないようになっている。」

「条件って何だい?」

「この日記がリーゼロッテの日記ではないと気づくことです。」

「……!!」


私は驚きのあまり言葉を失った。

リサちゃんはそんな私を無視して解説を続ける


「私、先日、ジークフリード様にお会いしたんです。

 そして、2000年前の出来事を知り、この日記がリーゼロッテの日記ではないことに気づいたんです。

 それで、今日、日記の内容以外の別のところにヒントがないか探してみたら、前まで無かったはずのこれらの紋様があったんです。

 ここから先は私の推測ですが、恐らくこの紋様には、『「リーゼロッテの日記」はリーゼロッテの日記ではないと気づかない限り、人の記憶に残らない』という魔法がかけられていたんだと思います。

 そんな芸当ができるのは、歴史上たった1人。

 記憶を司る力を持っていたという大賢者リーゼロッテだけ。

 つまりは、この紋様こそがハクシスの書の正体。

 同じ形の紋様があるのは、きっとこれは文字だから。

 どうですか?」

「なるほど。

 若干、こじ付けのように感じる部分もあるけど、筋は通ってるね。

 リーゼロッテが記憶を司る力を持っていたというのは確かな情報なんだね?」

「はい。

 ジークフリード様から教えていただきましたから、間違いありません。」

「それなら、我々が幾ら研究してもハクシスの書を見つけることすら出来なかったことにも辻褄が合うか。

 人の記憶を操れるなら、もはや何でもありだしね。

 じゃあ、取り敢えず読めるようにしてみようか。」


そして、ここからが地獄の始まりだった。


その文字っぽい何かは、確かによく見れば文字に見えなくもないが、リサちゃんが紋様と称したように、ぱっと見では絵のように見えるのだ。

そんな文字は、2000年前のハクシスで使われていた文字であるはずがない。

つまり、別の国の過去の文字かもしれない。

しかし、どの文献を漁ってもその文字は出て来ない。


「グザックさん、これってもしかして…。」

「ああ。

 私も多分君と同じことを考えている。」


ハクシスに現存する2000年間分の文献にないとするならば、考えられるのはただ一つだった。

これはーー


「「ハクシスが誕生する以前の文字。」」


だとすると、もう調べようがない。

なにせ、ハクシス誕生の際に既に存在した書物たちが、十二神獣たちが持つ「記憶の手帳」を除けば、世界最古の書物だと言われているのだから。

それより古い文字は残されていないのだ。


「くっ…!

 壁が高すぎるよ…!

 どうなってるんだ!」


私が嘆くと、リサちゃんが言った。


「おかしい。」


と。


私はすかさず訊いた。


「何がだい?」

「歴史上でただ一人、ハクシスの書を解読したっていう英雄王レフィーリアは、一体どうやって解読したんですか?

 リーゼロッテの日記が他人の日記っていうのは、十二神獣と共に戦っていた彼女であれば教えてもらうことができたでしょうが、もし教えてもらえたとして、その後、この謎の文字をどうやって解読したのでしょうか。」

「それは、確かにそうだね。」


そして、研究が一向に進行しないまま1ヶ月、2ヶ月と過ぎていった。

このまま頓挫かと思っていたある日、チャンスが突然やって来た。


「国の近くで遺跡が発見された。」という噂が国中に広まった。

私は自分には関係ない、それは冒険者のための情報だと思っていたのだが、リサちゃんは違った。

遺跡に希望を見出していた。


「グザックさん。

 遺跡探索に参加しましょう。」

「遺跡探索は冒険者の仕事だ。

 学者の仕事ではないよ。」

「そうとは限りません。

 よく考えてみて下さい。

 この世界には2000年以上前の書物は残っていませんが、2000年以上前の建造物は遺跡として残っています。

 その中から、この紋様に似た壁画を見つけ出すことが出来れば、何かヒントを得られるかもしれません。

 かつて英雄王レフィーリアは数多の遺跡を探索しています。

 彼女がハクシスの書を解読できたのは、そのためではないでしょうか。」

「確かに一理あるな。」


しかし、そう簡単に行くはずがないのは明白だった。


「だけど、遺跡は数多く存在する。

 ヒントを得られるまで探すとなると、相当な数の遺跡を巡ることになるはずだ。

 それこそ、冒険者になる必要も出て来るかもしれないよ。」

「覚悟は出来てます!」

「ーー魔法が使えないのにかい?」

「はっ…!

 それは…。」


リサちゃんの説明で、遺跡探索の重要性を再検討する必要があることは理解できた。

しかし、遺跡探索には危険が付き物だ。

沢山の大型の動物や魔物が徘徊しているし、中が迷路のようになっているものもあるため、遺跡内で遭難することもある。

 

冒険者としての訓練を一切受けていない学者が足を踏み入れていい領域ではない。

何よりリサちゃんは魔法が使えない。

そんな者はもっと足を踏み入れてはいけない。

私たちが遺跡を探索したとしても、生きて帰れる保証はない。


「遺跡に希望の光を見出しても、辛くなるだけだよ。」

「なら、ここで諦めろって言うんですか!

 手の届きそうな場所に答えがあるかもしれないのに!

 グザックさん、それでも学者ですか!」


リサちゃんの言葉に、声を大にして答える。


「怖いんだ!!

 大型の動物や魔物が怖いんだよ!!!!」


自分は少女に対して、なんて情け無いことを言っているのだろう。

私はそう思いながらも、続けて言った。


「君はやつらに会ったことがないから言えるんだ。

 私は以前、共に研究していたメンバーたちと遺跡の探索をしたことがある。

 その時に見たんだ。

 大型の魔物をね。

 光る牙、鋭い眼光、素早い身のこなし。

 その全てを今でも鮮明に思い出せる。

 やつらは私たちを見つけると、見たこともないような動きで襲ってきた。

 私は何とか逃げ延びたものの、私以外のメンバーは皆、やつらに喰われた。

 あれ以来、仲間を作ると当時のことを思い出してしまうから、ろくに研究メンバーも増やせなくなった。

 やつらはバケモノなんだ。

 遺跡探索っていうのは、バケモノの巣に入るってことなんだ。

 だから、遺跡探索を甘く見ちゃ駄目なんだよ…。」


私の涙ながらの訴えに、リサちゃんは驚きの表情を見せた後、


「そう…、ですか…。」


と言って、研究室を後にした。


ーー

ーーー

ーーーーー

ーーーーーーーーーー


「その後のことは、リタくんも知ってるんじゃないかな。

 リサちゃんは、私に無断で遺跡探索に行った。

 私の言葉を聞いて少し不安になったのか、安全を期して、当時、魔法の天才と謳われていた全属性魔法使いの姉を連れてね。

 結果として、リサちゃんは死んだ。

 リナちゃんはなんとか脱出したものの、リサちゃんを救えなかったショックで魔法を使えなくなってしまった。

 そして残酷なことに、その日は2人の13歳の誕生日だった。

 あの祭りの日、リサちゃんの名前を聞いて、必死に誤るリナちゃんを見て気づいたよ。

 私が魔物たちに怖がらず、遺跡探索に行くって言ってれば、こんなことにはそもそもならなかったんだってね。

 随分と先まで話しちゃったけど、これが1年前のリサちゃんとの研究結果とコマンダル家に起こった悲劇の全容だよ。

 ハクシスの書の話をしてたのに、途中で脱線しちゃったね。

 私に謝る資格なんてないけどさ、言わせてほしいんだ。

 ごめんなさい。」


グザックさんは話し終えると、リタに向かって頭を下げた。


「父さんがあんたをあれほど毛嫌いしている理由が、俺にはよく分かってなかったけど、まあ、誕生日を命日にしちゃったら、そりゃ怒るよな。」


リタはそう言うと、グザックさんの肩に手を置き、続けて言った。


「でもさ、あんただけが、悪いわけじゃないだろ。

 あんたから遺跡の危険性を聞いておきながら、遺跡に行ったリサもリサだし、リサに良いように言いくるめられて、やる気満々でリサについて行ったリナもリナだし、2人の誕生日会の準備に夢中で、リサたちが何をしようとしてたのか気づけなかった父さんと母さんにも少しは非があるし、それに俺だって、あの日、『遺跡探索ってカッケェ!頑張れ!』って背を押しちまった。

 きっとあの悲劇はなるべくしてなるものだったんだろうな。

 だから、俺はあんたを許すよ。

 まあ、俺が許して何になるって話だけど。」

「リタ…、くん…!

 ありがとう…!」


グザックさんの涙はしばらく止まらなかった。


数分後、グザックさんは落ち着くと言った。


「ソフィちゃんたちも、すまないね。

 君たちには、本当にリサちゃんの後を継ぐのに相応しいのか、主に行き詰まった時に正しい選択が出来るのかというのを試させてもらった。

 無駄な1週間を過ごさせてしまった。

 ほんとにごめん。」

「私は別に良いよ。

 色々知れて楽しかったし。」

「右に同じです。」

「キャンッ!」


私がこの1週間でやっていたことは、既にリサさんがやっていたこと。

つまりは、やる必要のないことだったのよ。

でも、私はこの時に様々なことを知ることが出来た。

有意義な時間ではあったわ。


「さて、私が知るハクシスの書について、全て話したところで、次の話しに移ろうか。

 もう君たちも理解していると思うけど、私が君たちに本当にやってもらいたかったことは、リサちゃんが見つけた紋様を正しく並べ変えることだよ。」

「その紋様って、わたくしたちにも見えるのでしょうか?」

「試してみますか?」


トワレナに言われて、グザックさんがリーゼロッテの日記の原本を手渡す。

トワレナは適当なページを開き、右端と左端を確認する。

すると、目を見開いて言った。


「1週間前に見た時は、こんな紋様描かれてなかったのに…。」

「私も見たい!」

「キャン!」

「はいはい。

 今、見せますから。

 落ち着いてください。」


私はトワレナからリーゼロッテの日記の原本を受け取ると、ページを捲っていった。


紙の右端と左端に確かに不思議な紋様が描かれていた。


グザックさんの話の中でリサさんが言っていたことは本当だったようで、描かれていないページも幾つかあったが、ほとんどのページにその紋様は描かれていた。


そして、最後のページに辿り着いた。


その瞬間だった。


その紋様が光り始めた。


「な、何?!」

「リサちゃんと見た時はこんなことは起こらなかった!

 こ、これは、新たな発見だ!」

「グザックさん、興奮し過ぎて顔が凄いことになってるぞ。」


10秒ほど光った後、次第に弱まっていき、やがて消えた。


「何だったんだ。」

「分からない。

 だが、これは研究のしがいがありそうだ!

 ハクシスの書の解読に一歩近づいたぞ!」

「おおー。」


私は「おめでとう」といった意味合いの拍手をした。


その時、私に異変が起こった。

視界が歪み始めたのよ。


私は混乱して、トワレナに向かって言った。


「ト、トワレナ…。

 なんか、め、目がおかしい…。」

「…?!

 ソフィ様、どうしたのですか?」


私の異変に気づいたトワレナが私に訊く。

私はトワレナの問いに答えようとしたが、答える前に意識を失った。




目が覚めると目の前にたくさんの本があった。

私は図書館だと思った。

それはそう。

だってここはハクシスの大図書館のはずなんだもの。


しかし、辺りを見回したら、ここがハクシスの大図書館ではないことに気づいた。


ハクシスの大図書館は2000年の歴史を持つだけあって、それなりに老朽化している。

でも、私が目覚めたその場所は新築のような輝きを放っていた。


「ここ、どこ?」


「まさかまた、転移してしまったのだろうか。」という不安感に駆られていると、遠くから近づいて来るコツコツという足音と衣擦れの音が聞こえた。


「だ、誰!!」


私が言うと、その足音を出していた本人が現れた。


腰まで届く銀色の髪に、薄紫色の瞳。

そして、その髪や瞳とよく似合う白を基調としたワンピースと高めのヒールのパンプスを着用していた。


その人は、リーゼロッテの肖像画にそっくりだった。


「……!!

 ギャアアアァァァ!!!!

 お、お化けだあああぁぁぁ!!!!」


私は2000年前に死んだはずの人間が目の前にいるという現実を受け入れられず、パニックに陥ってしまった。


リーゼロッテの肖像画のそっくりさんは、恐怖の感情に襲われている私を見て言った。


「既に決まっていた事とはいえ、実際にお化け呼ばわりされると傷つくわね。」


そして、私に近づいて、続けて言った。


「自己紹介する必要はあるかしら?

 いえ、未来の私は確か自己紹介をしていたはずだから、するべきね。

 辻褄は合わせなくちゃ。

 私はリーゼロッテ・ハクシス。

 あなたが生きてる時代から見て、約2000年前を生きた人間よ。」

「な、何?

 夢?」

「夢に近いけれど、夢ではないわ。

 あなたの意識と私の意識を繋げて、あなたと私で同じ記憶を共有させているのが今の状態よ。」


リーゼロッテは私を見て、にこやかに笑う。


「そんなに怖がらなくても大丈夫よ。

 ちゃんと説明してあげるから。」


そう言うと、リーゼロッテは私の隣に座った。


「さて、何から話そうかしら……って、まだあなたには多くを話すことはできないんだけどね。

 そうだ、ソフィちゃん、何から知りたい?」


私はリーゼロッテの言葉に驚いた。


私はまだ自己紹介をしていない。

つまり、リーゼロッテが私の名前を知っているはずがないのよ。


私は咄嗟に訊いた。


「ど、どうして私の名前を…?」

「なるほど。

 そのことから聞きたいのね。

 では、そのことから話を展開していきましょうか。」


リーゼロッテは落ち着いた声で話し始めた。


「ソフィちゃんも知っての通り、私には記憶を司る力があるの。

 そして、その力は私自身にも使える。

 私は過去に得た記憶、未来に得る予定の記憶、そういったものを自由自在に頭の中で再現できる。

 ソフィちゃんの名前を知っているのは、この力を使って私があなたのことを『ソフィちゃん』と読んでいるのを見たからよ。」

「じゃあ、ハクシスの書を残したのも、未来の自分がそうしてるのを見たから?」

「それもあるけれど、それが全てかと言われたら違うわね。

 私たちは駒なの。

 『彼女』が思い描いた結末へと帰結させるための駒。

 この世界で起こった大きな出来事のほとんどはその布石に過ぎないのよ。

 ハクシスの書もその布石の一つに過ぎない。

 レフィとソフィは私の弟子が建国した学術国家ハクシスを訪れ、ハクシスの書を手に取ると決まっていた。

 そして私はハクシスの書を残し、それを媒介にして2人と接触すると決まっていた。

 だから私はルシゼラを弟子として迎え入れ、ハクシスの書を残した。

 全部決まっていたのよ。」

「どういうこと?」

「分からなくても無理ないわ。

 あなたはここに来るのが早過ぎた。

 そして、レフィはここに来るのが遅過ぎた。

 これもすでに決まっていたこと。

 この世界はいつだって『彼女』の盤上なのだから。」


私はリーゼロッテが何を言っているのか分からなかった。


何かを伝えようとしているのは分かったが、何を伝えたいのか分からなかった。


「ソフィちゃん、この世界の運命を変えたいなら、この言葉をレミアちゃんに伝えて。」


リーゼロッテは私の耳元に顔を近づけ囁いた。


「『この世界は箱庭』って。」


綺麗な声が耳元で聞こえて、少しゾクっとした。


リーゼロッテが耳元から顔を遠ざけたところで訊いた。

 

「レミアって誰?」

「あなたが未来で出会う人物の名前よ。

 そして、世界の運命を変えられる唯一の存在でもある。

 世界を救いたいといずれ願うようになるあなたの唯一の救いとなる。」


リーゼロッテが答えた瞬間、視界が歪み始めた。


「……!!

 め、目が。」

「どうやら時間みたいね。

 これ以上の記憶の共有はあなたの脳が持たないみたい。」


視界がさらに歪んでいく。


「忘れないで。

 この世界は所詮『箱庭』だということを。

 そして、あなたには『力』があるということを。」


私の意識は途切れた。

 


気がつくと、目の前に大きな山があった。

私は寝ぼけながら、その山に手を伸ばした。

触れた。

柔らかかった。

「ヒャンッ!」という謎の声が聞こえた気がした。

すると2つの山の間から、顔が出てきた。

トワレナの顔に似ていた。

私は言った。

「トワレナソルラの日の出だぁ。」と。

トワレナソルラは言った。

「寝ぼけてますね。」と。

そこで私は自分が寝ぼけていることに気づいた。

意識が覚醒していく。


私はトワレナに膝枕されていた。


身体を起こすと心配そうにトワレナが言った。


「突然倒れましたけど、大丈夫ですか?」

「うん。」


私はそう答えたが、内心大丈夫ではなかった。


リーゼロッテと会った。


現実味がないが、あれは確かに現実だった。

夢にしては、あまりにもはっきりと覚えすぎているのだから。


信じてもらえるのか心配になりながらも、私は正直に言った。


「リーゼロッテと話した。」

「え?

 それは一体、どういうことですか?」


私は自分の身に起こったことや、リーゼロッテの言っていたことの全てを理解してはいなかったが、理解していないなりに頑張って説明した。


「つまりは……、どういうことだい?

 この世界で起こった大きな出来事のほとんどは、その『彼女』という存在が求める結末へ辿り着くための布石で、その結末は既に決まっていて、リーゼロッテがハクシスを建国したのも、ハクシスの書を残したのも、その結末へ辿り着くまでに必要な駒であるレフィーリアとソフィちゃんに接触するためで……。

 つまりは、ハクシスの書というのは、解読したら何かがあるとかそういう物ではなくて……、リーゼロッテがレフィーリアとソフィちゃんと繋がるための媒体ということ……?」


グザックさんの目が虚ろになっていく。


「な、なんだよ、それ。

 ふざけるなよ。

 そんなの幾ら研究したところで無意味じゃないか。

 答えがないんだから。

 私の人生は一体何だったんだ。

 私たちの2000年間は一体何だったんだ。

 あいつらやリサちゃんは何のために死んだんだ。

 あいつらの死は一体何だったんだ!」


グザックさんが泣きそうな顔で机を激しく台パンした。


「何が『知識の女神』だ!

 悪魔じゃないか!

 今後2000年間、解読不可能のものを解読しようとして、自分の弟子やその子孫たちが努力をすると、未来が見えたなら知っていたはずだ!

 知っていながら、何で…!」

「それは、ソフィとハクシスの書を繋げるためじゃないか?

 グザックさんがハクシスの書を研究していたから、あの日、グザックさんとソフィは出会えたわけで、そのためにはグザックさんがハクシスの書の研究をしておく必要がある。

 そして、ハクシスの書を研究させたいなら、必然的に『ハクシスの書の解読』という概念が必要になる。

 つまりは、2000年前からグザックさんはリーゼロッテの計画の中の一人だったってことだろうな。

 もっと言うと、この2000年間、学術国家ハクシスで生活した全ての人間が『彼女』の駒だったんだろうな。」


リタが遠い目をして言う。


「ハクシスの書を解読すればリサが報われると思ったから、大図書館の司書のバイトをしつつ、時間の合間を縫ってソフィの手伝いもしてたんだけどな。

 全部、無駄だったのか…。」

「リタ…。」


私は涙を流すリタの背中をさすって慰めることしか出来なかった。

『教えて!レミアちゃ〜ん!!』


はいは〜い!

どうも皆さ〜ん、お疲れさま〜!

レミアで〜す!


第9回目の今回は、結局のところ、ハクシスの書とは何だったのかについて解説しま〜す!


ハクシスの書は、簡単に言うなら、大賢者リーゼロッテが英雄王レフィーリアとソフィちゃんと繋がるために用意した通信手段のようなものです。


能力を使い未来で何が起こるのか、自分が何をするのかを見たリーゼロッテは、1000年後を生きるレフィーリアと2000年後を生きるソフィちゃんと自分が繋がることを知ります。


そして、赤の他人の日常を記した紙の束を用意し、その紙の束にレフィーリアとソフィちゃんがその全ての紙に触れたときのみ発動する特殊な効果を植え付ける魔法陣的な役割を果たす紋様を描きました。

そして、その紋様に「人々はこの紙の束をリーゼロッテの日記と認識し、そうでないと気づいた時、この紋様を可視化する。可視化しなければ紋様内の効果は発動しない。それがたとえレフィーリアとソフィアリスでも。」といった感じの発動条件をつけました。


この「全ての紙に触れた人物がレフィーリアorソフィアリス」「紋様を可視化している」という2つの発動条件を満たした時、紋様内に植え付けられた「自分の記憶と2人の記憶を共有、結合し、自分と同じ景色を見せる。」という効果が発動します。


なぜ、このように複雑にしたのか。

それはリーゼロッテ自身にも分かっていません。


なぜなら、リーゼロッテは未来の自分がそうしているのを見て、その通りにやっただけだからです。


ハクシスの書は物語の核心に触れる部分ですので、曖昧な解説しかできないんです。

多くを話すと盛大なネタバレになる可能性がありますので…。

分かりにくくて、すみません。


え〜、次回は「大切な人の死にどう向き合うべきか。」だそうで〜す。


リナさんが勇気を振り絞るそうですよ〜!


お楽しみに〜。


・・・人は四属性魔法しか使えないはずなのに、どうしてリーゼロッテには記憶を司る力があったのかな〜。

不思議〜。

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