第6話 2つの家族、それぞれの形
リタたちの家に戻るとリタたちの両親とトワレナが後片付けをしているところだった。
「ただいま。」
重そうに鉄板を運ぶトワレナに向かって私が言うと、トワレナが
「おかえりなさいませ、ソフィ様…。
申し訳ないのですが、少々手伝っていただけませんか…?
この鉄板、思いのほか重くて…。」
と、キツそうに言った。
「あ、私が手伝います。」
私が鉄板の端を持とうとした瞬間、リナさんがそう言い、まるで私から奪うように鉄板の端を持った。
私は不貞腐れながら言った。
「うー。
私がお願いされたのに。」
「ごめんね、ソフィアリスちゃん。
この鉄板、ほんとうに重たいから、たぶんソフィアリスちゃんじゃ持てないわ。
だから、ソフィアリスちゃんはリタと一緒にグザックさんを中に連れてってあげて。」
「了解!」
私は敬礼して、辺りを見回す。
グザックさんはリタたちの父の近くにいた。
「やあ、リダイくん。
今回は儲かったみたいだねぇ。」
この時にリタたちの父の名前が「リダイ」だということを知ったわ。
ちなみに、リタたちの母の名前は「グレイテラ」よ。
あなたには必要のない情報かもしれないけれど、話の進行上伝えておいた方が私としても楽だから、一応言っておくわ。
「ああ。
素晴らしい助っ人が来てくれたおかげでな。
ところで、お前がこんな早い時間に現れるなんて明日は雨でも降りそうだな。」
「おやおや、ひどいなぁ。
まるで私が引きこもりの研究廃人みたいな言い方じゃないか。」
「半分くらい当たってるだろうが。
毎日閉店間際に『まだやってるかい、店長ぉ〜…。」って弱々しい声で言いながら死んだ魚の目をしてやって来るくせに。
で、何のようだ?
こんな時間に、それも俺の娘たちと一緒に来たってことは飯食いに来たってわけじゃないんだろう?」
「当たりだよ。
さすがは私の幼なじみ、リダイくん。
私のことは君が一番よくわかってるんだねぇ。」
「お前みたいなハクシスの書に取り憑かれちまったやつのことなんか、早く忘れてしまいてぇがな。」
「相変わらず連れないねぇ。
取り敢えず、中に入れてくれるかい?
外じゃ話しずらいからね。」
今だ!と思った私は店の扉を開けて、空かさず言った。
「グザックさん、中にどうぞ!」
「ありがとう。
でも、そこは違う扉じゃないかい?」
「え?」
よく見るとその扉はトイレの扉だった。
「あ!
間違った!」
「お前なぁ、ここに来んの今日が初めてだって忘れてるだろ。
店の入り口の扉はこっちだ。」
リタは私が開けた扉の少し横にある扉を開けた。
「あちゃー。」
グザックさんは、私たちのやり取りを見て、
「はっはっは。
馬鹿と天才は紙一重とは言い得て妙だねぇ。」
と、笑っていた。
普段客席として使われているテーブルの一つに私とリタとリダイさん、グレイテラさん、グザックさん、ついでにマタローが集まると、なぜか重い空気になった。
なぜって?
リダイさんがずっとグザックさんを睨むように見ていたからよ。
この重い空気の中、一番初めに言葉を発したのはグザックさんだった。
「そんなに睨まないでくれよ。
これじゃあ、まるで私が警察官に尋問される犯罪者みたいじゃないか。」
「拷問じゃないだけマシだろ。」
リダイさんがそう言うと、さらに空気が重くなった。
数秒の沈黙の後、再びグザックさんが口を開いた。
「リダイくん、知っているかい?
セント大陸の警察署では、犯人の取り調べをする際にカツ丼が出るらしい。
君も私に出してみないかい?
料理人お手製のカツ丼を。
この雰囲気にぴったりだと思うよ。」
「てめぇに出す丼はねぇ。」
「あっはっは、素晴らしい韻の踏み方だねぇ。
料理人に限界が来たら、セント大陸で流行ってるラッパーとかいう人になれそうだ。」
再び空間が静まり返る。
この男、なかなか本題を口に出さなかったの。
「どれだけ言いづらいことを言おうとしてるの?」って思ったわ。
数秒の沈黙の後、今度はリダイさんが口を開いた。
「おい、御託はいいから早く本題に入れよ。
こっちは忙しいんだ。
まだ今日の儲けを計算する仕事が残ってんだ。」
「あー、いや、その、ね。
そ、ソフィアリスちゃんにハクシスの書を解読するお手伝いをしてほしいと思いまして…。
この子は本当に凄い。
ハクシス建国以来、一番の暗記力・記憶力を持ってる。
この子が力を貸してくれれば私たちの長年の『ハクシスの書の発見』という夢を果たせると思うんだ!
だから…、」
グザックさんがまるで言い訳をする子供のようにそこまで言うと、彼の言葉に被せるようにリダイさんがテーブルを力強く叩いた。音が鳴り響く。
私は驚いて目を見開き、リダイさん見る。
まるで何かに絶望するかのような表情をしていた。
「なんとなくわかってたさ。
お前が言いたいことをなかなか言い出さない時は決まって良くないことを言う時だからな。
やっぱお前は…、何も変わってねぇんだな…。
あの出来事で少しは変わってくれたんじゃねぇのかって期待した自分が馬鹿だった…。」
彼の言葉の意味が分からなかった。
リタも「どういうことだ?」と言うかのような顔をしている。
唯一グレイテラさんだけは、リダイさんの言葉の意味が分かったようだった。
「あなた…?」
グレイテラさんが心配するように呟くと、リダイさんが突然、グザックさんの襟を掴んだ。
そして、彼の怒号が鳴り響いた。
「お前、自分が『あの子』にやったこと、もう忘れちまったのか!!
お前があんな場所に連れてったせいで『あの子』は…、もう…!!
それだけじゃねぇ。
『あの子』がいなくなったせいでリナの心に深い傷が残っちまった。
『あの子』の名前を聞いただけで、『ごめんなさい…、ごめんなさい…。』って泣きながら崩れ落ちるようになっちまった!!
魔法が使えなくなっちまった!!
お前の研究のせいで、俺たちは滅茶苦茶にされたんだぞ!
あの時、お前は反省したように見えた。
もう『ハクシスの書』の研究に他人を巻き込まない。
そう思えたから、お前を許したんだ!!
なのに、お前今なんつった?
『ソフィアリスちゃんにハクシスの書を見つけるお手伝いをしてほしい。』だぁ?
結局、お前は反省した振りをしてただけで、何にも変わってなかったってことかよ!
今度はソフィアリスちゃんの人生を滅茶苦茶にする気か?
答えろ!!」
リダイさんの言葉に、グザックさんが恐る恐る答える。
「そんなことするわけないじゃないか!
誰が好き好んで人を危険な場所に連れて行くものか!
あの時だって、『あの子』が『連れてって。』って言うから手伝ってもらったんだ。
悲惨な結果になってしまったけれど、あれはどうしようもなかったんだ。」
「どうしようもなかった…だと?」
そう言った瞬間、リダイさんの腕が動いた。
まずい、殴る…。
そう思った頃には、彼の拳はグザックさんの顔面を殴っていた。
グザックさんが吹っ飛んだ。
そして再び、怒号が響く。
「『リサ』の前で…、同じことが言えるのか!!!」
その時、カランッと、金属のような物が落ちる音がした。
そこに目を向けると絶望の目をしたリナさんが立っていた。
床には今日の出店で使ったのであろうスプーンとフォークが散らばっていた。
どうやら鉄板の片付けが終わり、スプーンとフォークを洗うために店の中へ入って来たところだったらしい。
リナさんの隣に立つトワレナが「リナさん…?」と呟くと、リナさんは顔を両手で塞ぎ、座り込んだ。
「はぁ…はぁ…はぁ…、わ…、私の…、私のせいだ…。
私のせいで…、あ…、ああ…。
ごめんなさい…、ごめんなさい…、ごめんなさい…。」
出店を一緒に回っていたリナさんとはまるで別人だった。
目は虚ろで光を失い、体中をブルブル震わせている。
何かに怯えているようにも見える。
グレイテラさんがすぐにリナさんのそばへ行き、
「大丈夫、大丈夫よ。あなたは悪くない。悪いのは『あの子』を魔法が上手く使える体に産んであげられなかった私たちよ。」
と、慰めるような言葉を掛け、背中をさすりながらリナさんを店の奥にある生活空間の方へと連れて行った。
「おい、父さん、何してんだ。
リナの前でリサのことを話すのはタブーだったろ。」
「す、すまない。
居ることに気づかなかった。
怒りで我を忘れていた。」
私たちの目の前で茫然自失になっているグザックさんに向けて、リダイさんが言った。
「グザック。
これがお前の犯した罪の大きさだ。」
「まさか、これほどだったなんて…。
すまない…。」
グザックさんは私を諦めて、そそくさとその場から消えた。
私は起こったことが理解できなかった。
私は一つの疑問を口にした。
「あの、『リサ』って誰?」
すると、トワレナが言った。
「ソフィ様、家庭の事情に他人が踏み入るのはよくありません。
今日はもう帰りましょう。」
私たちはリタに見送られ、帰路に着いた。
ジークフリード大森林の入り口に着くとジークが居た。
ジークは私たちを見つけると言った。
「ん?
早かったな。
もう少し遅くなると思っていたが…。
リタは見つけられたのか?」
「はい。
ですが、少々問題が発生しまして、お祭りの気分でもなくなったので、帰路に着いた次第です。」
明らかに落ち込んだ表情をしている私を見てジークはトワレナに訊いた。
「何があった?」
「リタさんの家、色々と複雑な家庭事情を抱えているようでして、運悪くそれに巻き込まれてしまったんです。」
「そうか。
大変だったな。」
私たちは重い空気感の中、森の中を歩いた。
私はその道中、ずっとコマンダル一家のことを考えていた。
ヴィクトリアナ家はとても仲がよかったの。
少なくとも、私にとってはそうだった。
だから家族とは皆、私たちのように仲が良いものなのだろうと考えていたわ。
でも、違った。
それが当時の私にとって大きな衝撃だった。
コマンダル家は『リサ』と呼ばれた何者かの存在の消失によって大きく崩壊していた。
もしかしたらお祖父さまが死んだ時、ヴィクトリアナ家も崩壊する可能性があったのかもしれない。
もしかしたら今、私が居ないせいでヴィクトリアナ家が崩壊しているかもしれない。
そんな風に思ったら、少し怖くなってしまった。
そして無性に家族に会いたくなった。
ツリーハウスに着くと、私はその後一言もトワレナたちと会話を交わさないままベッドに横になった。
その日の夜は久々に家族の夢を見たわ。
ジル兄と一緒にメロ姉に悪戯を仕掛け、怒ったメロ姉に追い回されているところを遠くから父さま、母さま、ギル兄が「やれやれ」といった表情で眺める。ギル兄が仲裁に入ると丁度お祖父さまが仕事から帰って来て、武勇伝を聞かせてもらう。そんなありふれた日常の夢を。
でも、私は知っている。この後に起こった出来事を。
お祖父さまは最期に何と言っていたか。
私は夢の中で思い出そうとしていた。
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「なあ、びっくり箱って知ってるか?」
灰色の髪の少年が私に言った。
彼の名は「ジルモニアストレア・ヴィクトリアナ」。
私の兄である。
「びっくり箱?
知らない。」
「そうか、ならば俺が特別に教えてやろう!
びっくり箱とは人を驚かせるようなギミックが中に入っている箱のことだ!」
ジル兄はそう言うと服のポケットから小さな箱を取り出した。
「これを開けてみろ!」
私は恐る恐る箱を開けた。
すると中から、変な顔が飛び出してきた。
私は驚いて、「キャッ!」っと小さな悲鳴を上げた。
「はっはっは!
これがびっくり箱だ!
どうだ?
面白いだろう?」
「うん!
凄い!」
「はっはっは!
そうだろう?
凄いだろう?
さあ、もっと俺を褒め称えろ!
数ある書物の中から、こんなに面白いものを発見して、更に再現した、この俺を!」
「すごい!
ジル兄は世界一!」
「はっはっは!
しかし、世界一は言い過ぎだな!
俺は世界二位だ!
ギル兄には勝てないからな!」
「すごい!
ジル兄は世界二位!」
「・・・なぜだろう。
その言葉は称賛に聞こえないな。」
ジル兄は変な顔をびっくり箱の中にしまうと私に言った。
「ソフィに、手伝ってもらいたいことがある!」
「何?」
「このびっくり箱よりもっと大きな物を作って、それでメロ姉を驚かせたい!
その手伝いをしてほしい!」
「いいよ。
何すればいいの?」
「まずは・・・」
私はジル兄とメロ姉を驚かすためのびっくり箱を作ることになった。
といっても、制作に関しては私ができることは少なかった。
私がやったことといえば箱の色塗りくらいで、ほとんどジル兄がやった。
私の主な手伝いはメロ姉に箱を渡すことだった。
ジル兄はメロ姉に何回も悪戯を仕掛けているため、箱を渡しても警戒して開けてくれないかもしれない。しかし、私が渡せばすんなりと開けてくれるはず。そういう目論見だった。
私は庭園で花を愛でているメロ姉を見つけると満面の笑みを浮かべ近づいた。
「あら?
ソフィ、随分とご機嫌ですわね。
何か良いことでも?」
光の当たり具合によっては白にも見える薄い水色の髪を私と同じようにハーフアップにした少女が私に問う。
彼女の名は「メローネフィリム・ヴィクトリアナ」。
メロ姉である。
彼女はなんともお上品なお嬢様言葉を使用する。
なぜなら、ヴィクトリアナ家の女性は、王族とは気品のある圧倒的上位の存在であると平民に思わせるために、皆この言葉遣いをしなければならないというしきたりがあるからだ。
エレーナ曰く、私も10歳の誕生日を迎える前に、大体8、9歳になる頃までには矯正されるらしい。
「うん!
メロ姉にプレゼント作ったの!
良かったら開けてみて!」
私は「プレゼント」と称した「びっくり箱」をメロ姉に手渡した。
「わたくしにプレゼントですか?
嬉しいですわね。
中身は何でしょうか…。」
メロ姉は箱の蓋に指を掛けた。
そして、開けた。
その瞬間、中から大量の白い砂が飛び出した。
これはジル兄の土属性魔法によって作られた砂。
蓋が開いた瞬間中から飛び出すようにしていたのだ。
結果、メロ姉は砂塗れとなった。
「ふふふ…、これはどういうことか説明してくれますか、ソフィ。」
声色に若干怒りの感情が混じっているように聞こえたが、私は気にせず満面の笑みで答える。
「びっくり箱だよ!
ジル兄と一緒に作ったの!
驚いた?
びっくりした?」
「なるほど。
そうですか。
ジルの入れ知恵ですか。」
メロ姉は私の目を見て、はっきりと言った。
「服も髪もこんなに乱れてしまいましたわ。
これでは、ヴィクトリアナ家の第一王女としての気品を保てません。
これが何を意味するのか。
徹底的に教え込む必要がありますわね。
ソフィ、ジルを連れて来なさい。
わたくしが直々に教育して差し上げますわ。
勿論、逃げることは許しません。
これは、『お仕置き』なのですもの。」
私はここでやっと悟った。
メロ姉がお怒りだと。
私は物陰に隠れているジル兄に目で合図を送ると、一目散に駆け出した。
「あ!
逃げるつもりですのね。
そうはさせませんわ!」
メロ姉はお得意の水属性魔法の応用版、通称『氷属性魔法』で私の眼前に氷の壁を作り出した。
思わず「わっ!」と声を上げると、後ろからも「うわぁ?!」という声が聞こえた。
振り向くと私とは逆方向に逃げていたジル兄の前にも氷の壁がある。
「メロ姉、いつから気づいてたんだ?」
「さあ?
いつからでしょうね。」
ジル兄の問いに綺麗な笑みを浮かべて答えるメロ姉。
得意げに答えているように聞こえるが、言葉の節々に怒りの感情が窺える。
「ははは、その感じ、初めから気づいてたのか…。」
「わたくしを甘く見過ぎですわ、ジル。」
こうして、メロ姉のお説教タイムが始まった。
しばらくすると、黒髪の好青年がやって来た。
彼の名は「ギルバートム・ヴィクトリアナ」。
ギル兄である。
ギル兄は私たちに近づくと言った。
「元気なのはいいことだけど、あんまり喧嘩してるとヒュドラに食われるよ。」
「ギル兄様?!」
メロ姉はギル兄が来たことに気づくと、急いで服や髪についた砂を払い落とし、気品のあるお姫様モードになった。
「お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ございません。」
「いいよ、別に。
楽しそうだったし。」
「楽しそう、ですか?」
「うん。
僕はなかなか悪戯してもらえないからね。
少し羨ましいんだ。」
ギル兄はそう言うとしゃがんで、ジル兄に目線を合わせた。
そして、続けて言った。
「ジル、たまには僕に悪戯してきてもいいんだよ?」
「え?!
いや、ギル兄に悪戯なんて…、そんなことできないよ。」
「おやおや、どうしてだい?
メロにはできて、僕にはどうしてできないんだい?」
「そ、それは…、ギル兄は尊敬してるから…。」
「メロのことは尊敬してないのかい?」
「え…!
そんな、ことは…。」
言葉に詰まるジル兄に向けて、ギル兄が諭すように言った。
「いいかい、ジル。
悪戯を仕掛けるのは悪いことではない。
それを娯楽として楽しむ文化がある国が存在するくらいだからね。
たしか「ドッキリ」と言ったかな。
でも、そのドッキリとジルの悪戯には決定的に違う点がある。
それは人を笑顔にしているか否かだ。
ジルにはきっと悪戯の才能がある。
でも、今のジルはその才能をドブに捨てている。
その才能を人を笑顔にするために使った時、きっとジルは称賛に値する存在になれる。
だから、人を笑顔にできる悪戯を考えるんだ。
なんなら僕も一緒に考えてあげよう。
どうかな?」
「分かった。
ギル兄がそう言うなら、そうする。
人を笑顔にする悪戯を考える。」
「分かってくれてよかったよ。
それから、もう一つ。
いつも言ってることだけど、反省したら、ちゃんと謝ること。
いいね?」
「うん。」
ギル兄は立ち上がった。
すかさず、メロ姉が感謝の言葉を伝える。
「ギル兄様、ありがとうございます。」
「いや、いいよ。
こんなでも、一応兄だからね。
その役目を果たしただけだよ。
あと、メロにも言いたいことがある。」
「な、何でしょう?」
「なぜ、あんなに怒ったんだい?」
「それは、悪戯で服も髪もぐしゃぐしゃにされて、王族としての気品を一時的にではありますが損ねる状態にされましたので…。」
「気品、か。
メロの気品は子供の悪戯で損なわれるような柔なものなのかい?」
「え…?」
「確かに悪戯されたら怒りたくなるのは分かる。
でも、ジルは八歳の子供だ。
対してメロは今年で15歳。
成人する歳だろう?
子供の悪戯を許容できるくらいの心の広さがなければ、君は爵位を持っているというだけで威張っているそこら辺の三流貴族と同等の存在になってしまう。
僕らは王族だ。
なら王族たる立ち振る舞いをしなければならない。
王族とはなんだ?
権力を振り翳して自身に危害を加える者を抹殺する者か?
王族という肩書きで恐怖心を煽り、国民を苦しめる者か?
違うだろう!
王族とは国民のために全力を尽くし、その権力を持って安寧をもたらす者だ!」
急に声を張り上げたので、私たちは驚いてしまった。
ギル兄は咳払いすると更に続けた。
「す、すまない。
父様に少し思うところがあってね。
少し熱くなってしまったよ。
僕もまだまだだね。
まあ、僕が言いたいことは、子供の悪戯ぐらい、笑って許せるような心の余裕を持たない限り、気品がどうのこうの言う資格はそもそもないということだ。
今回のように、怒りと共に魔法を使い、恐怖で場を支配するようでは、王族の成人としてはまだまだ未熟だ。
王族なら、武力ではなく言論で場を支配するんだ。
成人までまだ時間はある。
メロならできるようになると信じてる。
頑張れ。」
「はい…。」
ギル兄に怒られ、メロ姉とジル兄がしゅんとしてしまった。
私はギル兄が2人のことを嫌いになったのだと勘違いした。
私はギル兄に近づいた。
「ギル兄、これ。」
私はジル兄が最初に見せてくれたびっくり箱をギル兄に手渡した。
「なんだい?
これは。」
「開けてみて。」
ギル兄が箱を開ける。
中から変な顔が飛び出す。
「うわぁ!
びっくりした。」
「びっくり箱。
ジル兄が作った。」
「へぇ、凄いね。」
「うん。
ジル兄凄いの。
私の大好きなお兄ちゃんなの…。
メロ姉も私たちの面倒見てくれる…。
私の大好きなお姉ちゃんなの…。
喧嘩したのは…、謝るから…、う…、ぐすっ…、2人のこと…嫌いになっちゃ…やだぁ……うぅ……。」
堪えきれず、涙のダムが決壊した。
ギル兄は慌てて、
「うわぁあ!
嫌いになんてなってないよ、大丈夫だよ、驚かせてごめんね。」
と、必死になって弁明した。
30分以上泣き続けたのはここだけの話である。
こんな日常を送っていたある日、私たちはお祖父様こと前国王「クリストファンペア・ヴィクトリアナ」と屋敷内の廊下で会った。
隣りには、背の低いお爺さんと筋骨隆々なお婆さん。
どちらもお祖父様の仲間である。
お祖父様は現国王であり私の父でもある「アンドリュシエル・ヴィクトリアナ」に王宮追放という形で王の席を奪われた。
お祖父様は昔から冒険者気質であり、王の位を渡されてからも、ずっとエレーラ大陸各地で魔物討伐をしていた。
結果、国の政治をほとんど自分の妻、私のお祖母様にやらせていた。もちろん、子育てもお祖母様が一人で行っていた。そのため、お祖母様は若くして過労で他界。父はお祖父様を強く恨んだ。
父は成人すると、すぐさまクーデターを起こし、政権を奪取。
お祖父様の怠惰を露見させた。
最終的に、お祖父様は「愚王」のレッテルを貼られることとなった。
しかし、お祖父様も好き勝手やっていたわけではない。
全てはエレーラ大陸各地にある小さな集落から依頼を受けて討伐していた。
お祖父様は、エレーラ大陸では最強と言われるほどの魔法の使い手だった。お祖父様しか倒せない魔物も多くいた。
お祖父様は国の安全を国の外側から守っていたのだ。
国の運営に関しては愚王だったのかもしれないが、エレーラ大陸に住まう人々の安全を守るという点においては賢王だった。
私たちを含めた多くのヴィクトリア王国の国民やエレーラ大陸にある別の集落の人々はこのことを知っているため、お祖父様を罵ることはないが、父やそれに連なる貴族や従者たちは違う。お祖父様を王宮に呼んでは度々無理難題な任務を押し付ける。
きっと今日も父に無茶な依頼を強引に引き受けさせられるのだろう。
「『王玉』の皆さま、ご機嫌よう。
今日もお父様に呼び出されたのですか?」
メロ姉が心配するような声で訊く。
「王玉」とはお祖父様のパーティ名。
お祖父様からのお願いで、お祖父様が王玉のメンバーといる時は、前国王としてではなく、ただの冒険者として接することになっている。
そういうロールプレイをしたいらしい。
「そうじゃ。
また呼び出されてしまった。
つい先日、火熊の群れを討伐したばかりなんじゃがな。
まったく、年寄り使いが荒い息子じゃ。」
「私から直談判致しましょうか?」
ギル兄の言葉に隣りにいた筋骨隆々なお婆さんが応えた。
「いや、その必要はないさね。
此奴、息子にこき使われるのを楽しんでおる。
ちょっとした反抗期とか思っとるんじゃろう?」
「ほっほっほ、たとえ愚王と罵られようと、息子からのお願いは何であれ嬉しいものじゃよ。」
笑うお祖父様に対して、小さなお爺さんが言う。
「まったく、何度言ったら分かる?
彼奴からの依頼は全て、お前を殺すためのもの。
儂らももう歳じゃ。
そのうち本当に死ぬぞ。
ギル様の提案を受けた方がいいと儂は思うが?」
「何を言っておる!
動けるうちは動く。
それが、今の儂らのモットーじゃろう?」
「落ちぶれるにはまだ早いさね。」
「あー、そうかい…。」
2人の勢いに小さなお爺さんはため息をついていた。
その後、3人は父の待つ玉座へと向かったのだが…、案の定、最低最悪とも言える依頼を受けさせられたらしく、廊下で再び見かけた時、小さなお爺さんが絶望の目をしていた。
数日後、王玉が受けた依頼の内容が王宮から正式発表された。
それは、「ヒュドラ討伐」。
エレーラ大陸における最強の魔物。
十二神獣を除けば世界最強の魔物。
そんな魔物を討伐しに行くらしい。
馬鹿げている。
「お祖父様!
この依頼がどういう依頼か分かっているのでしょう?
自分の命は大事になさってくださいまし!」
メロ姉が声を荒げる。
それに対して、落ち着いた声でお祖父様が言う。
「今の儂は前国王ではなく、冒険者パーティ『王玉』のクリストファンペルじゃ。王の命令には逆らえん。」
「こんなときにまでロールプレイをしないでください!」
「ロールプレイなんかじゃないわい。
そもそも儂は王宮から追放された身じゃ。
王族ではなくなっとる。
今はただの一国民に過ぎん。
王が死ねと言ったなら、そうするしかないわい。」
「そんな…、どうして…。
形は違えど、お祖父様も国民のために働いていたというのに…。
どうしてお祖父様ばかり酷い目に…。」
感情的になっているメロ姉に向けてお祖父様が優しい声で言った。
「一つ勘違いをしておるな。
酷い目にあっておるのは王も同じじゃ。
儂はあの子や妻のことを考えておらんかった。
国民や他の集落の人々の安全ばかりを考えておった。
結果、妻には過労死という結末を、あの子には母の死という悲しみを与えてしまった。
愚王の名に相応しい悪行をしてしまった。
だから、これは罪滅ぼしなんじゃよ。
あの子からの依頼を断らなかったのはそのためじゃ。」
「お祖父様…。」
メロ姉から一筋の涙が溢れる。
「『力ある者は力なき者のため、その力を使わねばならない』。
儂が昔、師匠に教わった言葉じゃ。
儂には魔物を討伐する力がある。
ヒュドラを倒した果てに、魔物を討伐できない者たちが笑って暮らせる世界があるのなら、儂は喜んで命を差し出そう。
それに、案外コロっと倒せるかもしれんしな。」
お祖父様は笑っていた。
発表から一週間後、「王玉」はヒュドラ討伐に出発した。
皆が笑顔で見送る中、ギル兄だけは怖い顔をしていた。
「やっぱり、父様のやり方には納得できない。」
そう呟き拳をぎゅっと握り締めていた。
あるはずもない凱旋パレードの準備をしていたのも虚しく、彼らの出発から3日も経たない内に伝令から、作戦の失敗と王玉の全滅が伝えられた。
今回の作戦に不満と疑問を抱いた国民は国王に対してクーデターを起こしたが、1時間も掛からずに武力で鎮圧された。
それから約2年後、私はジークフリード大森林へと転移した。
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目を覚ますと頬が濡れていた。
泣いていた。
お祖父様が死んだ時、私は5歳。
起こったことの全てを理解しているわけではなかった。
でも、夢の中でもう一度経験して、今度は事の顛末を全て理解した。
そして、気づいた。
一個上の代のヴィクトリアナ家もコマンダル家と同じように崩れていたということに。
もう他人事に考えることは出来なくなっていた。
「力ある者は力なき者のため、その力を使わねばならない。」
私は呟いた。
私には多くの物事を記憶することができる力がある。
夢の中で過去に起こった事象を事細かく再現して、もう一度経験することができるのも、きっとこの力のお陰。
リサが死んだのは、「ハクシスの書」の研究を手伝ったため。
つまり、私のこの力で「ハクシスの書」を解読できたら、もしかしたら、コマンダル家を救えるかもしれない。
そう思い、私は決心した。
「私が『ハクシスの書』を解読する。
そして、リタたちを笑顔にする。」
『教えて!レミアちゃ〜ん!!』
はいは〜い!
どうも皆さ〜ん、お疲れさま〜!
レミアで〜す!
第6回目の今回は、ソフィちゃんの夢の中でメロさまがお使いになった『氷属性魔法』について解説しま〜す!
氷属性魔法とは、氷を操る魔法の総称です。
水属性魔法を使用する際に、その水を液体の状態でいられないほどにキンキンに冷却することで氷属性魔法となります。
しかし、水をそれほどまでに冷却するには、かなりの技量を要するため、氷属性魔法を使える水属性魔法使いは、水属性魔法使い全体の数パーセント程度なんだとか。
水属性魔法が使えなければ、そもそも氷属性魔法は使用不可能であることと、操っているものが、物質の状態が違えど、同じものであることから、氷属性魔法は水属性魔法の一部として分類されています。
言ってしまえば、火属性魔法の技の一つ、「火炎爆破』と同じ扱いということですね。
氷属性魔法を操れるものは、それなりの技量を持っているということから、氷属性魔法は全て上級魔法となっています。
まあ、凄く簡単に言うなら、氷属性魔法は水属性魔法の派生魔法ってことですね〜。
それにしても、氷属性魔法は扱うことだけでも難しいのに、それが得意技だなんて…。
メロさまはやはりバケモノですね〜。
え〜、次回は「イワカンをさがせ!」だそうで〜す。
凄く頭を使いそうな予感…。
お楽しみに〜。
私は全ての四属性魔法を使えるわけだし、折角なら混合魔法でも使えるようになりたいな〜。




