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転生女神ノ救世譚  作者: X-PICA
第二章 学術国家ハクシス編
5/12

第5話 リーゼロッテと学術国家とお祭りと。

続きを話す前に、また少し解説の時間を設けるわ。


ここから先は(かい)(おう)暦について理解しておいた方がいいでしょうしね。


レミアも開桜暦は知ってると思うし、日常的に使ってると思うけれど、まあ、一応の復習よ。


開桜暦とは現代からおよそ2000年前に、大賢者『リーゼロッテ』によって考案された暦のことよ。


約2000年前、人々は時間という概念を見つけ出したわ。

そして人々は時間を測る方法を作り出してほしいとリーゼロッテに依頼したの。

リーゼロッテは世界の中心に位置する大陸『セント大陸』の、そのまた中心に存在する、一定の周期で開花を繰り返す巨大な桜に目をつけた。

リーゼロッテはその周期の間に何回陽が昇り沈んだのかを記録した。

その回数は360回。

つまり360日周期で開花を繰り返していたということね。


リーゼロッテはそれを12の月と30の日に分け、その一周を一年とした。

そしてリーゼロッテは人々にも分かりやすくするために、それぞれの月に十二神獣の名を入れた。

一番初めの月は「鼠の月」、次の月は「牛の月」、その次の月は「虎の月」という風に。


とても理解しやすかったその暦はあっという間に世界中に広がり定着した。


これが開桜暦の成り立ちよ。


そして、今年は開桜暦2009年。

そして、私が今、話しているのは今から9年前の話。

つまり、開桜暦2000年。


世界中がお祭り騒ぎだった、あの年よ。


これが何を意味するか。


簡単な話よ。


学術国家「ハクシス」も例外なくお祭り騒ぎ状態だったのよ。


そのことを理解した上で、ここから先の話を聞いてちょうだい。


リタが3週間もジークフリード大森林に姿を見せなかったことに不審を抱いた私は、ジークたちを説得して、ハクシスに行ってみることにしたの。


「ジーク、私、ハクシスに行きたい。」

「どうした、急に。

 リタとやらが気になるのか?」

「うん。

 3週間も来ないなんておかしいもん。

 あんなに楽しそうにマタローに魔法を教えてたのに…。」

「我には何となく察しがつくが…。

 確かに。

 ソフィからすればおかしいのかもしれんな。」

「え?

 どういうこと?」

「良い機会だ。

 リタのおかげで調査も進んだ。

 ここ2週間は新参の敵は現れていない。

 今は2週間前に現れた魔物たちの残党を倒しているだけだ。

 トワレナと共にならハクシスに行ってもよいだろう。」

「ほんと?」

「ああ。

 お前は確か王族だったな。

 となると、俗世のことについてあまり知らんだろう。

 お祭りに触れるのは、俗世を知るのにかなり効果的だ。」

「お祭り?」

「行ってみればわかる。

 トワレナ、ソフィを頼んだぞ。」

「もちろんです。」


こうして、私とトワレナとマタローはハクシスを訪れることになったわ。


ハクシスに着くと私は驚いた。

活気で満ち溢れていたの。


不思議な赤茶色のコンクリートで整備された通りには出店が立ち並び、同じ赤茶色のレンガで造られた建物には飾りが付けられている。

見回すといろんな人がいた。

歌う人、踊る人、劇をやる人、それを見る人、食べ歩きをしている人、酒を飲んで酔っ払ってる人。


それは、ヴィクトリアの城の中から見たことがある、お祭りが行われている時のヴィクトリア王国の状態とそっくりだったわ。


「お祭りだ!

 トワレナ、お祭りだ!!」

「そうですね。

 でも、これは一体…。」


私が年相応のはしゃぎっぷりを見せていると、近くの出店のおじさんが話かけてきた。


「何だ?

 嬢ちゃん、ここに来るの今日が初めてかい?」

「うん!

 初めて!」

「そうかい。

 じゃあ、精一杯楽しんでけよ。

 ここに来てくれたお礼に…、ほら。

 これ一つやるよ。」


私はおじさんから、チョコバナナを手渡された。


「わあ!

 ありがとう!」

「良いってことよ!

 ほれ、そっちの狼さんにもやろう。

 チョコをつけてないただのバナナだけどな。」


バナナの酸味とチョコの甘味がいい感じにマッチして、とても美味しかったわ。

優しくマタローに笑いかけるおじさんにトワレナが聞いた。


「あの、これは一体、何のお祭りなのでしょうか?」

「ありゃ?

 お前さんたち知らんのかい?

 今年は丁度開桜暦2000年。

 世界中は今、お祭り騒ぎだ。

 ハクシスもそれに乗じてお祭りを開いてるってわけさ。

 もちろんずっと開いてるわけにはいかねぇから、ハクシスの建国記念日がある牛の月の間だけだけどな。」

「な、なるほど…、牛の月の間だけ…。

 え?

 ちょっと待ってください。

 つまり、3週間もの間、ずっとこんなお祭り騒ぎを?」

「ああ、そうだ。

 普段は建国記念日だけなんだけどな。

 今年は特別だ!」

「は、はぁ。」


トワレナは絶句していた。


チョコバナナのおじさんと別れると、私たちはリタを探し始めた。

しかし、ハクシスは思いのほか広く、なかなかリタを発見できない。

 

歩き疲れて休憩していると、10代前半くらいの女の子が近寄って来た。

腰まである赤いストレートの髪に、綺麗な紅の瞳。

耳には鈴の形をした水色の耳飾りがついており、彼女が動く度にシャンシャンという綺麗な音が鳴っている。

そして、彼女は誰かに似ている気がした。


「あの。

 先程からここら辺をうろちょろしてますけど、誰か探してるんですか?」

「はい。

 とある男の子を探してまして…。」


トワレナがそこまで言った時、私は赤髪の女の子と目が合った。

その瞬間、彼女が叫んだ。


「あ!!!

 まさか、ソフィちゃん?!」

「え?!」


私はぎょっとした。

初めて見る人に名前を呼ばれたのだ。

何が起こったのか分からなかった。

驚く私にお構いなしといった感じで彼女は続ける。


「ハーフアップにした藍色の髪、同じ色の瞳。

 ここら辺ではなかなか見かけない生地で作られた白のワンピース。

 傍らには悪目立ちしてしまうほどに長い薄い緑色の髪を持つ女性と子供の狼。

 間違いないわね。

 リタが言っていた言葉を繋ぎ合わせて見えてくる人物像にあまりにも類似しすぎているもの。

 あなたがソフィアリスちゃんね!

 そうなのね!」


彼女の物凄い早口にあたふたしていると、男の子が近寄って来た。


「おーい、リナ。

 買って来たぞ…って、お前、何でここに?!」

「あ!

 リタだ!

 やっと見つけた!

 何で3週間も大森林に、来なかったの?」

「いや、それは、事情があって…。」


リタがそこまで言うと、リナと呼ばれた女の子が言った。


「リタ。

 やっぱり、この子がソフィアリスちゃんなのね?」

「え?

 ああ、そうだけど…。」


リタが答えると、リナさんの感情が爆発した。


「どうして……、どうしてこんなに可愛い子を独り占めしていたの!

 確か初めて会ってから1ヶ月くらい経ってるのよね?

 一度くらい会わせてくれたっていいじゃない!!」


そう言いながら私の髪を撫で回すリナさんに向かってリタが言った。


「別に独り占めしてたわけじゃねぇよ。

 お前、会いたいって一度も言わなかったろうが!」

「確かに言わなかったけど、でも、何も言われなくても自分の友達くらい家族に紹介しなさいよ!」

「何でいちいち紹介しなきゃなんねぇんだよ!

 このブラコンが!」

「あ!

 今、リタが言っちゃいけないこと言ったー!!」

「知るか!

 てか、そいつ嫌がってんだろ!

 離してやれよ!」

「そう?

 別に嫌がってるようには見えないけど?

 ねえ?」

「うん。

 私、頭撫でられるの好き!」


無邪気に私が答えると、リナさんは動きを止めた。

後から知ったことだけど、どうやらこの時に心を撃ち抜かれたようね。

少しの静寂の後、一雫の涙を頬に垂らした。


「ああ、女神様。

 天使はここに居たのですね。」


リナさんは恍惚な表情を浮かべ、まるで魂が抜けたかのような状態となった。


「え、あ、あの、大丈夫?」

「ほっとけ。

 いつものことだから。」

「いつものこと?!」

「ああ。

 そいつ、俺の姉、リナ・コマンダルは生粋のロリコン、ショタコンだ。

 小さい子を見ると、いつもこうなる。」


その言葉に思う所があった私はリタを睨んで言った。


「私、ロリじゃないもん!

 今年の竜の月で8才になるもん!

 ロリじゃないもん!」

「え…ツッコむとこ、そこ?

 てか、まだ十分ロリの範囲には入るだろ。」

「入んない!

 むぅー。」


私は頬を膨らませて抗議した。

心で思うのは自由だけれど、口に出して言ってしまうのは良くないわよね。

今の私なら間違いなくグーパンが出てたわ。


私たちはリタたちに連れられ、焼きそばを売っている出店に辿り着いた。


「ただいま。」


リタが言うと、焼きそばを作っている夫婦らしき男女が、


「おかえり。」

「買い出しありがとう。」


と言った。


そう。

リタの家も出店をしていたのよ。


焼きそばを作って売っていたのは、リタたちの父と母。


リタたちの父は私たちを見つけると言った。


「そちらの方々は?」

「前に話しただろ?

 ジークフリード大森林で人に会ったって。

 その人たちだよ。」

「な、なんと!

 いつもリタがお世話になってます。」


リタたちの父は礼儀正しかった。

リタは恐らく父親似ね。


頭を下げるリタたちの父を見て、トワレナが言った。


「いえいえ!

 わたくしたちもリタさんには、とてもお世話になっていますので!

 頭をお上げ下さい!」


そんな大人たちの大人らしいやり取りをぼーっと眺めていると、リタたちの母が静かに近寄って来た。


「あなたがソフィアリスちゃんね。

 いつもリタと遊んでくれてありがとうね。」

「うん!」

「今日は何をしにハクシスに来たのかしら?」

「リタが3週間も大森林に来なかったから、私からこっちに来た。」

「あらあら、まあまあ。

 リタに会いに?

 まさか息子にこんなに早く春が来るだなんて…!

 ソフィアリスちゃん、私のこと、お義母さんって呼んでもいいわよ?」

「お義母さん…?」

「キャアァ!!

 新しい娘ができちゃったわ!!」

「何やってんだよ!!!」


リタの鋭いツッコミが入った。


リタたちの母は明るくて活発な人だった。

リナさんは恐らく母親似ね。


その後、リタたちの両親の勧めで、リタたちと一緒に出店を回ることになった。

二人はここ3週間の間ずっと自分たちの出店の手伝いをしていたらしくて、一度も回っていなかったらしいの。

凄く喜んでたわ。


トワレナはリタに「トワレナさんの料理は、そこらのシェフを軽く超えるぜ。」と言われた結果、リタの両親の出店で焼きそばを作ることになった。


リタたちの父曰く、このお祭りにはお金持ちの人々もやって来ているらしく、お金を稼ぐ絶好のチャンスらしいの。

トワレナに後で聞いた話だと、関節が上手く動かなくなるほど働かされたそうよ。


トワレナたちに一旦別れを告げ、私はマタロー、リタ、リナさんの3人と共に、リナさん一押しのかき氷屋へ向かった。


「お祭りといえば、やっぱりかき氷よね。

 おじさん、いちご一つ。」

「俺はメロンで。」

「あいよ!」

「ソフィアリスちゃんは何味にする?

 いちご、メロン、レモン、ブルーハワイ、その他にもいろいろあるわよ。」


大抵の野菜や果物のことはトワレナの魔法のおかげで知っているのだけれど、たった一つ、聞き慣れない、見慣れない単語が存在した。


「ブルーハワイって何?」

「ああ。

 それね。

 私もよく分かんないのよね。

 リタ、何か知ってる?」

「人任せかよ。

 まあいいけど。

 前、俺も気になって調べたし。

 結局、よく分かんなかったけどな。

 『ブルー』が青って意味なのは見て分かるんだけど、「ハワイ』ってのが、どの本漁っても出て来ねぇんだよなぁ。

 作る人とか店によって、味が違うらしいし。

 少なくとも、果物の名前とかじゃねぇだろうな。

 まあ、味が美味いのは確かだし、気になるなら試してみれば?」

「分かった。

 試す!

 旦那、ブルーハワイ一丁!」


私はそう言いながら、お金を音を立てて置いた。


「うえ?!

 あ、あいよ!」


かき氷屋のおじさんは私の注文の仕方に一瞬戸惑いを見せたけれど、滞りなく作り始めた。


「おい。

 今の注文の仕方、どこで覚えたんだ?」

「昔、ジル兄と遊んだ時にジル兄が言ってた。」

「お前の兄さん、なんか爺臭ぇな。」

「どういう意味?」

「コラ、リタ!

 ソフィアリスちゃん困惑しちゃってるじゃない!

 それに、お友達の家族の悪口を言ってはいけません!」

「う、悪かったよ。」

「へ?」


どうして謝られたのか不思議に思っていると、かき氷屋のおじさんが、


「いちご、メロン、ブルーハワイだ。

 落とさないように気をつけて食べろよ。」


と、かき氷を手渡して来た。


私は綺麗な青色のシロップがかかったかき氷を受け取った。


「綺麗…!」


見惚れていると、かき氷屋のおじさんが言った。


「お嬢ちゃん、そっちの狼はお嬢ちゃんの連れかい?」

「うん。」

「そんじゃ、これやるよ。」


おじさんはそう言うと、シロップのかかっていない、ただ砕いただけの氷を私に差し出してきた。


「その狼も、お嬢ちゃんたちがかき氷を美味しそうに食ってるのを、ただただ眺めてるだけってのは嫌だろうからな。

 この氷を食わせるといい。

 なんと言っても、この氷はジークフリード大森林の澄んだ泉から採った水で作った氷だ。

 シロップなしでも、十分美味いだろうさ。」

「ありがとう!」

「キャン!」


私はおじさんの善意の塊を受け取った。


私たちは人混みの中から、腰を掛けれるような場所を見つけると、そこに座った。

そして、ブルーハワイのシロップがかかったかき氷を口に入れた。


その瞬間、私は驚いた。


今までに食べたどの食材とも似つかない不思議な味なのに、ちゃんとした甘味があって、美味しいと感じた。


「凄い。

 美味しい…!」

「青髪の子が青色の物を食べる。

 いいわぁ、絵になるわぁ。

 ソフィアリスちゃん、私のいちごかき氷も美味しいわよ。

 一口食べる?」

「食べる。」


私はリナさんにあーんして食べさせてもらった。


「いちごの味する!

 美味しい!」


私が満面の笑みを浮かべて言うとリナさんが言った。


「嗚呼、天使…!」

「リナさんにもあげる。

 ブルーハワイのかき氷、美味しいよ。」

「え?!

 いいの?」

「うん。」

「じゃあ、遠慮なく。」


今度は私があーんして食べさせた。


「嗚呼、美味しい…!

 ソフィアリスちゃんの味がする…!」

「え?!」


この言葉には、若干引いたのを覚えてるわ。


私を見たリタが言った。


「おい、リナ。

 こいつ、引いてんぞ。」


その時だった。

隣から、爆音が鳴り響いた。

それとほぼ同時に驚声も響いた。


「キャア!!

 え?!

 な、何?!」

「マタローが食事する時に出す音だよ。」

「は?!」


私とリタにとっては聞き慣れた音なのだが、まあ、初めて聞く人にとっては驚くわよね。

リナさん、マタローを見ながら目をまん丸にして、「あり得ない。」と言うような表情をしてたわ。


「な、何で食事するだけで、金属音みたいな轟音が鳴り響くのよ?!

 どういう食べ方してるの、この子?」

「分かんない。」

「心臓が止まるかと思ったわ。」


かき氷を食べ終わると、リナさんが言った。


「さて、そろそろ次のお店に行きましょうか!」

「行く!」

「キャン!」

「夕飯のことも考えとけよ。」


その後、私たちはいろんな出店を回り、いろんな物を食べた。


私とリナさんは仲良く食べ、マタローは爆音を響かせて周囲の人々からの注目を浴びながら食べ、リタは「まだ食うのかよ。」と半分呆れながら食べた。


この日は、本当に一日中食べ歩いた。

やがて日が暮れて出店の明かりが街を照らし出した。


そろそろ帰ることにした私たちはリタたちの出店へと向かった。


その道中、ある男が大声で話す声が聞こえた。


「学術国家ハクシス恒例、学術大会、まもなくスタート!

 今回の種目は長文暗記だ!

 この国で日々学問に励んでいる者たちの熱い戦いが今、幕を開ける!

 彼らの圧倒的な記憶力、しかとご覧あれ!!」


男がいる会場らしき壇の回りには人が集まって来ており、何かが始まろうとしていることが見てすぐに分かった。


「何、あれ?」

「学術大会よ。

 この国って、学術国家って言われてるだけあって、学者がたくさん居るの。

 だから、年に何回か、こうやって自分の学力を自慢するための大会みたいなのが開かれるの。

 今回は長文を暗記する大会らしいわね。」

「別にお祭りの最中にやんなくてもいいと思うんだけどな。

 まあ、この国って、ぶっちゃけ、勉強大好き人間ばっかだからなぁ。

 しゃーねぇよな。」

「リタも好きなの?」

「な訳ねぇだろ。」

「でも、図書館で司書さんのお手伝いしてるって…。」

「別に好きでやってるわけじゃねぇよ。

 給料が良かったから、仕方なくやってんだよ。」


リタが吐き捨てるように言うと、リナさんが意地悪い口調で言った。


「またまたー、嘘吐いちゃって、もう。

 『「ハクシスの書」は俺が見つけ出す!』とかイキがってたくせにー。」

「な?!

 アレは父さんから許可を得るために言ったことであって、本気じゃねぇよ!」


なぜか怒ったような口調で言い訳するリタをよそに、私はリナさんに疑問を言った。


「ねぇ、『ハクシスの書』って何?」

「ん?

 えーっとねぇ…。」

「おい、始まるぞ。

 見に行こうぜ。」

「あー、そうね。

 ソフィアリスちゃん、あとで説明するわね。」

「分かった。」


取り敢えず、一旦この疑問は置いといて、私たちは学術大会を観戦することにし、会場に用意されていた椅子に座った。


壇上には席が2つ用意されており、そこには眼鏡をかけた癖っ毛の男性と髪をポニーテールに結った女性が座っていた。

2人が座る席の後ろには大きな土の板があった。


2人の右側に立っている司会者らしき男性が言った。


「それでは、簡単なルール説明を行います。

 これから、とある長めの文章を5秒間だけ、私の土属性魔法を用いて、この土の板に表示します。

 お二人にはそれを暗記してもらい、用意された紙に模写してもらいます。

 そして、より多くの文字を書けたほうが勝利とします。

 学問において、暗記記憶というのは基礎中の基礎!

 是非、全文書き記して頂きたいところです!

 会場にいる皆さんも頭の中で挑戦してみてください!

 それでは早速、第一問!」


そして、学術大会がスタートした。


お題は全部で5つ。

当時の私では理解し難い文章が次々と表示された。

2人は5秒間で全文を完璧に記憶するというのはできていなかったものの、他の人からすれば驚異の暗記能力だったらしいわ。


周りの人々は言っていたもの。


「5秒でこんな長文覚えられるわけねぇだろ。こいつらバケモノかよ。」とか「もう少しわかりやすい文章だったら、私も暗記できてたはずなのに。」とか「この人たちと同じ学術国家で暮らしてるのに、この差は一体何なんだ。」とね。


どうやらこの2人はこの学術大会に出るだけあって、国内でもずば抜けた頭脳の持ち主だったらしいの。


でも、私にはどうしてもこの人たちが天才的な頭脳の持ち主だと思えなかった。


なぜなら私は……5秒間という短い時間の中で5つの文章を余すことなく完璧に暗記したのだから。


大会はあっという間に終わった。

勝ったのは女性の方だった。


観客はすぐに散っていき、私たちだけが残った。


「はぁ、もう少し休んでこうぜ。

 戻ったらきっと働かされる。

 そしたら、いつ次、座れるか分かんねぇからな。」

「そうね。

 それにしても、凄かったわね。

 さすがこの国屈指の学者。

 私たちとは格が違うわ。」

「ああ。

 そうだな。」


彼らに感激する2人に私は言った。


「ねぇ。

 何が凄かったの?」


当時の私はただ疑問を投げかけただけのつもりだった。

でも、2人にはこの問いの意味が分からないようだった。


「え?

 何を言ってるの?」

「だって、あの人たち文章全部覚えられてなかったよ。」

「いやいやいや、あの量の文を5秒間で覚えるだなんて、お前にもできねぇだろ。」

「できたよ。」


私の言葉に2人の顔色が変わる。


「は?

 ちょっと冗談も休み休み言えよ。」

「そうよ。

 5秒間であの量の文を覚えるだなんて、もはや人間技じゃないわ。

 それこそ、大賢者リーゼロッテレベルの頭脳じゃないと…。」

「冗談じゃないよ。

 そんなに言うなら、紙、持ってきてよ。」

「わ、わかったわ。」


リナさんはまだ残っていた、この大会の司会者のところへ行き、紙をもらってきてくれた。


私はその紙に全文を書き記した。


『学術国家ハクシスの歴史。

 

1.開桜暦15年。

  ここレリーヤ大陸の東部の平原に、ある女性が訪れた。

  彼女の名はリーゼロッテ・ハクシス。

  後に大賢者と呼ばれ、『魔法の女神』と並ぶ最高位の存在となる『知識の女神』として語り継がれるようになる者だ。

  彼女は何もなかった平原に大きな図書館を建設した。

  理由は2000年経った今でも謎に包まれている『ハクシスの書』という名の書物を保管するため。

  彼女は自身の弟子たちに『ハクシスの書』のありかや内容の一切を教えず存在のみを教え、この図書館を何があっても守り抜くよう命じた。

  『ハクシスの書』には何が記されているのか、どこにあるのか。

  また、なぜ隠す必要があったのか。

  そうまでして、なぜ残す必要があったのか。

  全ては未だ謎に包まれている。


2.図書館設立後のリーゼロッテの足取りは一切不明だ。

  開桜暦というその後2000年もの間使われ続ける暦を齢8歳で開発。

  世界各地の争いを持ち前の頭脳で解決。

  ハクシスの書という未解決の謎をこの世に残す。

  その他にも様々な功績を成したのにも関わらずに。

  ただ普通に一般人として余生を全うしたという説もあれば、戦いの最中に殉死したという説も存在する。

  しかし、どれも憶測に過ぎず、真実は未だ闇の中だ。

  昔から現代まで長きに渡り最有力説とされているのは、リーゼロッテの故郷、セント大陸中央に位置した「オーヨト王国」の王族の嫉妬による存在の抹消説だ。

  リーゼロッテは平民の出自だ。

  王族としては、平民が大賢者などと謳われ敬われているのは気に食わない。

  それが理由だ。

  実際に、リーゼロッテがオーヨト王国の王族に対する愚痴を書き記したメモが残っているため、仲が悪かったことは明確だ。

  このことは1000年前、勇者『レフィーリア』が終結させるまで3年もの間続いた『ネシヤ三陸戦争』の引き金となったとされている。

  

3.開桜暦25年頃、ハクシスの書の噂が広まり、世界各地から、大勢の学者が集まり始めた。

  一つの図書館しかなかった場所に村ができ、町になり、都市となり、やがて国と呼べるほどの人口と面積となった。

  そして、開桜暦30年牛の月。

  リーゼロッテの一番弟子「ルシゼラ・ハクセア」によって学術国家ハクシスの建国が宣言された。

  ハクセア家はハクシスを治める領主となり、他国でいうところの王族と同等の立ち位置の存在となった。

  しかし、すぐに問題が発生した。

  ハクセア家の人間はリーゼロッテの一番弟子となる程の研究熱心な学者。

  国政なんてしたことがないただの平民。

  ルシゼラはハクシスを治める手段を知らなかった。

  自分の研究がしやすくなるように独りよがりにも見える政治を続けたルシゼラは一年も経たずに権威を失墜し、ハクセア家の人間は全員殺され、ルシゼラのみ死んだ方がましと思えるほどの過酷な環境の平原へと国外追放された。

  国外追放されたルシゼラは、その後数年間、人っ子一人居ないその平原で暮らした。

  しかし、その生活は突如として終わりを迎えた。

  ルシゼラは平原に生息していた巨大な魔物により、命を奪われた。

  

4.ルシゼラの亡骸が放置された場所に1人の男が現れた。

  男はルシゼラを背負うとハクシスへ向かい歩みを進めた。

 ハクシスに辿り着き、国内へ足を踏み入れた瞬間、男の歩みは止まった。

  ハクシスの国民たちはルシゼラを追い出したのは良いものの、新たに国を治める者を作らず、ただただ研究に明け暮れる日々を送った。

  結果、ハクシスは惨憺たる状態となっていた。

  治める者を失った国は、みるみる内に朽ち果てる。

  民家は老朽化し今にも崩壊しそうな状態。

  道端にはゴミや糞、動物や人の死骸が放置。

  研究ばかりで食糧をまともに得なかった国民は皆痩せ細り、死んだ魚のような目をしている。

  男が唖然としていると、杖をついた年老いた男がやって来て言った。

  「ルシゼラ様ですか?」と。

  男が「恐らくそうだろう。」と答えると、辺りから人々が次々と集まり、男を、いや、ルシゼラを囲んだ。

  そして、口々にルシゼラに対する謝罪を述べたのだ。

  彼らは失って初めて気づいた。

  ルシゼラは確かに彼らにとっては独りよがりの酷い政治をしていたが、それでも一応は国のために国民のために政治をしていたことに。

  彼らは口々に言った。

  「もう一度、この国を治めてくれ。この国を国として存続させていけるのはハクセア家の人間、大賢者リーゼロッテに認められた人間だけだ。」

  と。

  しかし、時既に遅し。

  彼はもう天国へ逝ってしまった。

  絶望する彼らに男は言った。

  「己の行いを反省できる者は真に正しき行いをできる者でもある。そなたらが望むなら、我がこの者に代わって努めを果たそう。」

  驚く彼らに男は告げる。

  「我は十二神獣 竜の席 ジークフリードだ。」

  男は我ら人間に魔法という名の力を与えてくれた神にも等しい12体の存在の内の1人だった。


5.ジークフリード様はその後約1000年の間、ハクシスの政治を行った。

  しかし、開桜暦1010年の大戦後、ハクシスの隣に存在する大森林の中に姿を消し、二度とハクシスの中に姿を見せることはなかった。

  失踪した理由は不明だが、巷で噂されている十二神獣は大体1000年周期で一部の記憶がリセットされているというものが原因となっている可能性は高い。

  やがてその大森林はジークフリード大森林と呼ばれるようになり、聖地と化した。

  開桜暦1010年から現在までは、学者に国政を担わせる法律をジークフリード様失踪以前に制定・施行していたおかげで、国は廃れることなく存続されている。』

  

「どう?」

  

言葉を失っている2人に向かって私は自慢げに言った。

 

すると、背後から拍手と共に声が聞こえた。


「おやおや、これは凄い。

 そこらの学者を軽く上回る暗記力だ。」


急に聞こえたその声に驚いて振り向くと、司会者の男が立っていた。

男は続けて言った。


「お嬢さん、もしかして私の論文を読んだことがあるのかな?」


私は彼を知らなかったし、なんかやけに馴れ馴れしい話し方をするので、少し怖くなった。


「え?

 ない…。」

「では、この国の歴史をある程度知っていたのかい?」

「知らない…。

 私、この国来たの今日が初めてだし…。」

「つまりは暗記して、それを書き記しただけ…と?」

「うん…。」


私が答えると、司会者の男は大笑いしだした。


「ふ、ふふ、ふはははは!!!」


本当に気味が悪かったわ。

驚きと恐怖で固まってしまった私たちをよそに、男は大声で言う。


「今日の私はなんと運がいいのだ!

 まさかこんな逸材と出会えるとは!

 これで遂に、ハクシスの書の謎に一歩迫れる!」


司会者の男は深呼吸をして落ち着きを取り戻すと、私に目線の高さを合わせて続けて言った。


「いやー、急に叫んですまないね。

 あまりの感激に感情が昂ってしまった。

 私はグザック。

 歴史学者だ。

 お嬢さん、お名前は?」

「ソフィアリス。」

「そうか、ソフィアリスちゃんか。

 いいお名前だね。

 ソフィアリスちゃんは物事を記憶するのが得意みたいだね。」

「そうなの?」

「もしかして無自覚なのかい?」


グザックは再び仰天した表情をした。


「いやはや、こりゃとんでもないなぁ。

 ところでそちらの二人はソフィアリスちゃんのお兄さんとお姉さんかい?」

「ううん、違う。」


私が首を横に振るとリナさんが言った。


「私たちは、この子のお友達です。

 私はリナ・コマンダル。

 こちらは弟のリタ・コマンダルです。」

「どうもリタ・コマンダルです。」

「おお!

 コマンダルさんのところのお子さんだったのか。

 少し見ない間にこんなに大きく…!

 君たちの家の料理店にはいつもお世話になってるよ。

 いわゆる常連客というやつだね。」

「はぁ、それはどうもご贔屓に。」

「話を戻すけれど、二人はこの子の驚異的な暗記記憶の力については知っていたのかな?」

「いえ、全く。」

「私は会ったのも今日が初めてですし…。」

「そうだったか。」

「ところで、ハクシスの書の謎がどうのこうのって言ってましたけど…。」


リタが質問すると、グザックは口籠った。


「ああ、それなんだけど…。

 さすがにここで話すのはまずいかな。」

「そうなんですか?

 では、私たちの家に来ます?

 帰るところで寄ったのがこの大会でしたので、あとは帰るだけなんですよ。」

「そうなのかい?

 それは助かるね。

 お言葉に甘えさせてもらうとしようかな。」


私たちはグザックさんを連れてリタたちの家へと戻った。


『教えて!レミアちゃ〜ん!!』


はいは〜い!

どうも皆さ〜ん、お疲れさま〜!

レミアで〜す!


第5回目の今回は「開桜暦」について解説しま〜す!


開桜暦とは、作中でソフィちゃんが言っていたように、「大賢者リーゼロッテによって、桜の開花周期と日の出日の入り回数の関係性から考案された暦」です。


360日を1年とし、それが12の月と30の日に分けられています。


始めの月、つまりは桜が咲き誇る月を「鼠の月」とし、その後、「牛の月」「虎の月」「兎の月」「竜の月」「蛇の月」「馬の月」「羊の月」「猿の月」「鳥の月」「犬の月」「猪の月」という風に続きます。


地球の太陽暦との違いは2つ。


1年が360日と決まっているところと始めの月が桜が咲く時期というところ。


開桜暦には、太陽暦でいう「1月31日」「3月31日」「5月31日」「7月31日」「8月31日」「10月31日」「12月31日」に当たる日が存在せず、「2月30日」に当たる日が存在します。また、「2月29日」は毎年来ます。閏年はありません。


また、1週間が7日ではなく10日であり、3週間で1ヶ月が終わります。


曜日という概念は存在せず、1の位が「0、1、5、6」の日が基本的な休日とされています。


そして、1年の始まりの月が、太陽暦でいう4月であり、ズレが生じています。


つまりは、「鼠の月」=「4月」「牛の月」=「5月」「虎の月」=「6月」「兎の月」=「7月」「竜の月」=「8月」「蛇の月」=「9月」「馬の月」=「10月」「羊の月」=「11月」「猿の月」=「12月」「鳥の月」=「1月」「犬の月」=「2月」「猪の月」=「3月」ということです。


・・・文だけじゃ、理解するのが難しそうですね〜。


まあ、私からは頑張れとしか言えませんけど。


暦、作っちゃいましたし、作者さんには次、もっと難しいやつ、例えば言語とかを作り出してほしいものですね〜。


え〜、次回は「2つの家族、それぞれの形」だそうで〜す。


もしかして、若干、鬱展開?!


お楽しみに〜。


・・・何度見ても、太陽暦って複雑だよね〜。

これを使いこなしてるって、地球人凄すぎ〜。

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