第3話 その笑顔、私を照らす、一等星
さて、続きを話しましょうか。
と、言いたいところだけれど、まずはその前に「魔法」について復習しておきましょう。
「四属性魔法」全てが使えるあなたには必要ないと思うけれど、とりあえずね。
この世界には「植物」と「動物」と「魔物」、計3種類の生命体が存在するわ。
その中の「魔物」と呼ばれるものは、種ごとに特有の不思議な力を持っていて、その力を日常的に使いながら暮らしているの。
まず前提としてこれを覚えておくことね。
で、ここで問題。
人は動物か魔物か、どちらでしょう?
答えを聞くまでもないわね。
動物よ。
なら、なぜ私たちは不思議な力を使えないはずの「動物」という種族でありながら、「魔法」という不思議な力を使えるのか。
それは3000年前まで遡る。
3000年前、この世界で大きな戦争が起こった。
民族間の内乱とか、異界からの軍勢との戦争とかいろいろな憶測が出ているけれど、今回はこの話は置いておくわ。
その戦争中に、とある軍にいた一人の女性が「魔物」たちの不思議な力を研究して、人が扱えるように改良し、軍の者たちに広めた。
不思議な力を手に入れたその軍は一気に強力な軍となり、相手の軍を次々と潰していった。
数日を待たずして、その軍は勝利し、世界に平和が訪れた。
人々はその力を「魔物から授かった敵を討つための方法」として「魔法」と呼ぶようになり、瞬く間にこの世界へと広まっていった。
魔法の始祖たる女性は戦争の後どうなったのか、歴史書に記されていないため、足取りを辿ることはできない。
だが、「魔法の女神」と呼ばれるようになり、やがて彼女をもとにした宗教が出来上がるほどにまで偉大な存在となった。
また、魔法研究の実験体となってくれた12体の魔物たちは「十二神獣」と呼ばれ、敬われるようになった。
実験の副作用として超がつくほど長命になり、人の姿と言葉を得た彼らは、ジークのように今もどこかで世界の平和を守っているそうよ。
魔法の成り立ちについてはこんなものね。
それじゃ、次は魔法について復習しましょうか。
え?授業を受けてるみたいだって?
へぇ、面白いこと言うじゃない。
それってつまり、私の説明が先生並みに上手ってことでしょう?
ありがとう。
でもね、レミア。私、気づいているのよ。
さっきから頭がこっくりこっくりと動いていて、夢の国へと旅立ちそうになってるわ。
たとえ親友と言えども、話をしている最中に寝られたら嫌な気分になるわ。
その時は覚悟しておくことね。
さて、小休憩を挟んだところで続きを話しましょう。
12体もの魔物を研究して創られた魔法だけれど、創ることができたのはたった4種類だったの。
火属性魔法、水属性魔法、風属性魔法、土属性魔法。
いわゆる「四属性魔法」ね。
魔法が誕生してから3000年も経つけれど、人が扱えるのは未だに四属性魔法しかないところを見るに、魔法の創造というのはとても難しいことであると言えるわ。
まあ人は普通、どれか一つの属性の魔法しか扱えないから、研究のスピードが遅いというのもあるかもしれないけれど。
あなたのようにごく稀に複数の属性を扱えるものが現れたとしても、研究の速さにはあまり影響しないようね。
でもその分、四属性魔法がとても発達した。
低威力のもの、高威力のもの。
単純なもの、複雑なもの。
日常で使えるもの、戦いの中でしか使えないもの。
四属性魔法から派生した魔法はたくさん誕生したわ。
低級、中級、上級、超級、神級と5つに分類されるほどに。
では、再び問題。
この5つはどのように分類されているか、覚えているかしら?
・・・不正解ね。自分が扱えないからって、上級と超級と神級の分け方の記憶が甘いわ。
もう少しちゃんと覚えなさい。
あなたにはいつか全属性を神級まで扱えるように修行してもらうつもりなんだから。
低級は人を殺さない程度の魔法。
中級は大型の魔物を殺さない程度の魔法。
上級は十二神獣を殺さない程度の魔法。
超級は国一つを滅ぼせる程の魔法。
神級はこの世界全てに影響を及ぼすほど強力な魔法。
以上よ。
どう?
覚えられたかしら?
ーーー微妙?
まあ、いいわ。
私の話を聞いてるうちに覚えるでしょうし。
それじゃあ、そろそろ続きを話し始めましょうか。
復習ばかりでは飽きるでしょう?
私がなぜ魔法の復習なんてしたのか。
それは私がジークから魔法を教わろうと思って色々行動し始めてからの出来事を話そうと思ったからよ。
私が魔法を使えるようになりたいと思うようになった発端は、さっき話した森の中で動けなくなってしまったところから。
魔法を覚えておけば、凶悪な動物や魔物に襲われたとしても、ある程度は抵抗できるはずでしょう?
つまりは自己防衛のための手段として、魔法を習得したかったからよ。
ジークは危険だの何だの言って、なかなか教えてくれなかったけれど、3日間くらい自分の中では最高レベルのーーもちろん年相応のものだけれどーープレゼンをして粘ったら折れたわ。
「まず初めに適正を調べなければならんな。」
「てきせー?」
「ああ。
人は四属性魔法全てを使えるわけではない。
稀に複数の属性を使える者が現れるが、大抵は一人一つの属性しか使えない。
そして、人によってその使える属性が異なるのだ。
だからまずは、自分がどの属性を使えるのか調べなければならない。」
「どうやって調べるの?」
「いつかこの日が来ると思って、近くの町で買っておいた。」
ジークはそう言うと、棚から無色透明の水晶玉を取り出した。
「これは何?」
「魔水晶という物だ。
これに手を触れると光り輝く。
その光の色で自分の適正属性が判断できる。
赤く光れば火、青く光れば水、緑に光れば風、黄色く光れば土だ。」
「へえ。面白いね!」
私はとてもドキドキした。
自分がどの属性を扱えるのか。
今でも、あの時の高揚感は忘れられないわ。
でも、あなたも知っての通り、私は四属性魔法"は"使えない。
当然どの色にもならなかったわ。
でも、ちゃんと光りはした。
「白色」にね。
ジークは唖然としていたわ。
私も驚いたわ。
「ジーク、これ、何…?
私、おかしいの…?」
「分からん。
赤青緑黄以外の色に光るところを我は見たことがない。
この魔水晶がおかしいのか、それともソフィがおかしいのか…。
しかし、事実として、人としてありえないことが起こったのは確かだ。」
「えぇ…?
私、人じゃないの?」
ジークの言葉で完全に恐怖に震えたわ。
この時はまだ自分が何者なのか知らなかったもの。
無理ないわ。
とりあえず私たちはこれが何を意味するのか調べるために、一度魔法を使ってみることにしたの。
ジークからそれぞれで最も簡単な低級魔法「球」シリーズを教わったわ。
「火球」
「水球」
「風球」
「土球」
この4つを使おうとしたのだけれど、いくら「火球!」「水球!」「風球!」「土球!」と叫んでも、ちっとも発動してくれなかったわ。
まあ、当然よね。
私、四属性魔法"は"使えないもの。
結局、「全属性に適正がなかった場合、白く光る。故に私は魔法が使えない」という結論に至ったわ。
兄姉たちが凄腕の魔法の使い手だったから、自分もいつかそうなれるって思っていたの。
でも、違った。
私は魔法が使えない。
この結論に至った時は本当にショックだった。
この時から、しばらく自尊心の欠片もない状態が続いたわね。
トワレナが慰めてくれたこともあったけれど、私は「ごめんね、トワレナ。一つも魔法を使えないようなミジンコが主で……。」とか言って、全く心が回復しなかったわ。
トワレナ曰く、この時の私は本当に目も当てられないほど弱っていたらしいの。
そんな私を見て、夜な夜な「ソフィ様が苦しんでいるのに、何もできないだなんて……、わたくしはなんて駄目なメイドなのでしょう…。」って思考に囚われて涙を流していたそうよ。
でも、そんな日々はすぐに終わりを迎えた。
そう、あなたも知ってる底抜けに明るいあの子がやって来たのよ。
どんなに心が弱っても、私は日課である散歩だけは絶対に欠かさなかった。
ある日、散歩していると、近くで「バリンッ!」っていう何かが割れるような音がしたの。
音の方へ行ってみると空間にハンマーか何かで叩いたかのようなひびが入っていた。
心が弱っても好奇心旺盛なのは変わらなかった幼い私は、近くに落ちてた木の枝でツンツンつついてみた。
そしたら、ちゃんとつつけたのよ。
コンコンってちゃんと空間の割れ目に木の枝が触れるのよ。
こんな現象に相対するのが初めてだったものだから、楽しくなってしまって、ツンツンつつくだけじゃなくて、枝の先でぐりぐりほじくろうとしてみたり、割れ目を上から叩いてみたり、反対側から貫通させてみようとしたり……。
そんなことをやってたら、次第に割れ目が大きくなっていったわ。
体感で30分くらいかしら。
遂に空間が完全に割れた。
目を開けていられないほどの強く白い光が、大きな窓ガラスを叩き割るような轟音と共に中から出てきた。
光と音が収まったのを感じておそるおそる目を開けると、そこに灰色と空色が混ざったような毛色をした子供の狼がいたの。
「・・・こんにちは……。」
私はそう呟き、訳の分からぬ状況に困惑していると、狼が近寄って来た。
そして、私の匂いをくんくん嗅いだ。
「キャン!」
狼は一鳴きすると私に体を擦り付けた。
「か、かわいいっっ!!!!」
この子供の狼に私はメロメロになってしまった。
答えるはずもないのに、「どこから来たの?」とか「魔法使える?」とか「好きな食べ物何?」とか、片っ端から出てくる疑問を全て質問した。
子供の狼はその度に「キャン!」と楽しそうに鳴いた。
私はその鳴き声を聞いて、さらに心を奪われていき、撫で回した。
この子はとても人懐っこくて、且つ私とも相性が良かったから、ものの十数分で親友レベルの仲になったわ。
「タロー、ウチ来る?
あ、タローって言うのは、あなたの名前だよ。
エレーナが言ってた。
一番初めに生まれた人を『タロウ』って言うんだって。
生まれたわけじゃないけど、一番初めの親友だから、『タロー』!
どうかな?」
「キャン!」
タローは嬉しそうに鳴くと、尻尾をぶんぶん揺らした。
私はそのまま、タローを連れて帰った。
外で洗濯物を干しているトワレナを見つけると、私は紹介しに行った。
「トワレナ!」
「どうしたのですか?」
「見て!
タロー!」
「キャ〜ンッ!!」
私がトワレナの方へタローを差し出すと、それに合わせてタローが元気よく鳴いた。
「新しいお友達ができたのですね。」
「うん!
仲良し!」
「そうですか。
よかったですね。」
トワレナは安心したように言った。
しばらくトワレナは私の落ち込んだ顔しか見ていなかったから、久々に私の笑顔を見たら安心するのは当たり前よね。
その日の晩、トワレナ、タローと一緒に夜ご飯を食べているとジークが帰って来た。
ジークは私の隣で物凄い勢いでご飯を食べているタローを見て言った。
「お、おお。
何とも大食いな狼だな。
どこで出会ったんだ?」
「ん?森の中だよ!
散歩してたら出会ったの!
かわいいでしょ?
ジークも撫でる?」
「あ、ああ。」
私はタローをご飯から引き剥がし、ジークの前に差し出した。
タローはすごく不機嫌そうな顔をした。
ジークは苦笑いを浮かべながら、その大きな手でタローの頭を撫でた。
すると何かに気づいたように急に顔をしかめた。
「どうしたの、ジーク?
タローに何か変なところがあるの?」
「いや、この狼そのものに変な所はない。
変な所があるとすれば、この狼がこの場所にいるという事実だ。」
「どういうこと?」
「この森にこの種の狼は生息していない。
いないはずの魔物がいるのだ。」
「え?
タロー、魔物なの?!」
この日は一日、タローとずっと一緒にいたのだけれど、一度も魔法を使わなかったの。
だから、タローは動物だって勘違いしてたのよね。
「ああ。
触って気付いたのだが、額の皮膚の一部が硬くなっている。
これは恐らく生えかけの角だ。
だとすると、この狼は『角狼』という種類の魔物の狼だろう。」
「そうなんだ…!」
私はトワレナと目を合わせた。
トワレナも気づいていなかったらしくて、驚いた顔をしていたわ。
「しかし、そんなことはどうでもよいのだ。
大事なのはここからだ。
角狼は強力な力を使う魔物だ。
しかし、その強力な力を使うには膨大な量のエネルギーを必要とする。
そして、そのエネルギーを蓄えるのに最も有効なのは、食事だ。
角狼ほどの魔物がエネルギーを十分に得るためには、そんじょそこらのちっぽけな獲物じゃ不十分だ。
だから、彼らが生息するのは大型で凶暴で強力な魔物が無数に生息しているエレーラ大陸。
エレーラの魔物なら、彼らが欲するエネルギーを溜めるのには十分足りるからな。」
「えーっと、要するにエレーラ大陸にいるはずの魔物が、このジークフリード大森林にいるのがおかしいということですね。」
「端的に言えば、そういうことだ。」
「へぇ、つまり、タローは私と同じだね!」
「同じ?」
「うん!
だって、私の故郷、ヴィクトリア王国もエレーラ大陸の国だもん!」
私の言葉を聞いて、ジークはハッとした表情をした。
「そうか。
ソフィの故郷もエレーラ大陸だったな。
同じ時期に、同じ場所から現れたイレギュラーな存在が二つ。
これは調べる必要があるな。
もしかすると、他にもエレーラ大陸から来た者がいるかもしれん。
だとすると大変な事態だ。」
「何が?
お友達たくさんできるよ?
嬉しいことだよ?」
「ソフィ様、よくお考えになってください。
ジーク様の話を聞く限り、エレーラ大陸の魔物というのは相当強いようです。
そんな強者を相手にこの森の動物たちは戦えると思いますか?
もし、襲われたりしたら…、確実に捕食されてしまいます。」
「た、確かに…!」
「トワレナ、明日は我について来い。
異変がないか調査する。」
「了解しました。」
「わ、私は何を…?」
「ソフィは、その子狼と共に居てやれ。
一人じゃ、寂しいだろうしな。」
「分かった!」
その夜、私はタローと一緒にお風呂に入った。
私は髪の毛が湯船に浸かってしまわないよう、タオルで髪を纏めていたのだけれど、それを見たタローが私の真似をしたつもりだったのでしょうね。頭の上にどこかから拾ってきた木の葉を頭に乗せていたわ。
一度見せてあげたいくらいに、あのタローはほんとうにかわいいわ。
私は湯船に浸かり至福のひと時を味わいながら、ある事を考えていた。
「ん〜、どうしようかなー?」
その内容はタローの名前について。
付けた時は、世界一完璧な名前だと思ったのだけれど、よくよく考えてみると、かなり安直な名前だったなと思ったのよ。
それに、タロウって、人に付ける名前だもの。
「魔物だったわけだし…、ん〜、やっぱりあなたの名前、魔物の『ま』を付けて、『マタロー』にする!
マタローって名前の方が、あなたっぽさがでるからね!」
「キャンッ!」
「マタローもそっちの方がいい?」
「キャンッ!」
「そうでしょ!」
一度付けた名前を変えるという、かなり自分勝手なことをしてしまったけれど、喜んでくれたからよかったわ。
まあ、この子、人語が理解できるわけじゃなかったから、適当に答えてるだけかもしれないけれど、それでも嬉しかったわ。
「マタロー、いつか一緒に故郷に帰ろうね。」
「キャン!」
同じ場所で生まれ、同じ境遇に陥った。
私はこの子に対して、気づかぬうちに仲間意識が芽生えていたわ。
この日のお風呂は本当に楽しくて、のぼせて動けなくなるまで入ってたわ。
トワレナに救出されたらしいのだけれど、残念なことに私は覚えてないのよ。
トワレナ曰く、なかなかお風呂から上がって来ないから、様子を見に来たら、私とタロー改めマタローが2人仲良く湯船の中で目を回していたそうよ。
魔法が使えないことの悲しみなんて、とっくに忘れていたわ。
『教えて!レミアちゃ〜ん!!』
はいは〜い!
どうも皆さん、お疲れさま〜!
レミアで〜す!
第3回目の今回は、マタローさまが自身の名前をどう認識しているのかについて解説しま〜す!
作中のように、マタローさまは一度「タロー」と名付けられた後に、「マタロー」と改名されています。
私たちのような知性があれば、このことが理解できるでしょうが、一般的な魔物はそれほどの知性を持ち合わせていません。
それはマタローさまも例外ではありません。
結果としてマタローさまは『「タロー」と「マタロー」という2つの名前を自分は持っている。』という認識となっていま〜す。
マタローさま、本当にカワイイんですよ〜!
前に一度お会いしましたけど、食べ物をあげると満面の笑みを浮かべてモグモグ頬張るんです!
あのほっぺたをプニプニしたい!!
すみません、興奮し過ぎました。
えっと、次回は「炎と弔い」だそうで〜す!
やっと人間出て来そう。
お楽しみに〜。
・・・頭に葉っぱを乗せたマタローさま、見てみたいな〜。一緒にお風呂入ってくれるかな〜。




