第2話 気づかぬだけで其処に有る。
ジークフリードとの暮らしが始まって、早一週間。
ジーク自作の大きなツリーハウスのおかげで、夜の寒さや雨風を凌げる上に、私に自室まで与えてくれたので、とても快適に過ごしていたわ。
それに、ジークが自分の時間を削って、私の相手もしてくれたおかげで、ホームシックにもならず、寂しくもならず、平穏な毎日を送っていたわ。
ーーーまあ、ある一点を除いては、だけれど……。
「ジーク!まずい!!これ、おいしくない!!!」
「な?!今日も駄目だったか……。」
そう、ジークは料理ができなかったの。
それはもう壊滅的に。
あの日、私がスープを飲めたのは空腹補正が働いていたから。
それがなくなってしまったら、もう「まずい。」の一言に尽きる。
というより、空腹補正が働いていたとはいえ、よくあれを飲めたものね。
あの日の私にトロフィーをあげたいくらいよ。
私は「もう嫌だ!ジークのご飯食べたくない!!」と言い、フォークを持ったまま、手をバタバタさせた。
すると突然もう片方の手に激痛が走った。
フォークが刺さった。
私は痛みで泣いた。
「うわ〜ん!いた〜い!!」
「全く、フォークを持ったまま手を激しく動かすから…。」
「おいしいご飯、食べたい!!」
私はしばらく泣き喚き続けた。
料理を作ってもらっていた身でありながら、なんとわがままな子なのだろうと思うでしょうけれど、一度彼の料理を食べれば分かるわ。
あれは人が食べていいものではないということを。
この反応は仕方がなかったということを。
当然、私はご飯を残し続けたわ。
その結果、ジークがとある提案をしてきた。
「仕方がない。
料理人、いや、家事をしてくれる者を雇うか。
例えば、メイドとかな。
このままでは、そなたの健康が心配だ。」
「メイド……?」
私はこの時、とある人を思い浮かべた。
その人の名は「エレーナ・ダグラス」。
私の専属メイドにして、私の家庭教師。
私が5歳の頃、家族旅行で行った町で行き倒れそうになっていたところを拾って以来、忙しい両親に代わって面倒を見てくれた。
私にとっては、2人目の母親も同然。
私は彼女からさまざまなことを教わった。文字の読み書きから、行儀作法。「魔物」と「動物」の違い。
そして、「魔法」のことも。
だからメイドというのは私にとって、とても偉大な存在になっていた。
そんなメイドを雇うと言ったのだ。
私は心が踊った。
喜びで満ち溢れた。
「メイド…!!」
「なんだ?急に。
もしかしてメイド、好きなのか?」
「好き!
私、大きくなったらメイドになる!!」
「おお、そうか。」
レミア、驚いたかしら?
私、この頃はメイドになるのが夢だったのよ。
まあ、王女という立場である以上、叶わぬ夢だけれどね。
「なら、我も本気で創らなければな。」
「うん!つくる!!」
満面の笑みで同意したけれど、すぐにジークの言葉に疑問を覚えた。
「・・・つくる??」
連れてかれた場所は、巨大な木の前。
それを触りながらジークは言った。
「これくらいの大きさがあれば、自律思考型の人形を創れるか…。」
「ジーク、何するの?」
「この木を使って、自律思考型人形を創る。
そして、その人形にメイドとしての仕事をしてもらう。
神の名を冠するものであるならば、雇う者くらい自分で作れねばな。」
生まれた感情は疑問と混乱。
ほんとうに、何を言っているのか分からなかったわ。
まあ当然の話よね。
ジークの魔法を見るまで、私は魔法の一端しか知らなかったんだもの。
ジークは私の方を向き、続けた。
「ははは、不思議そうな顔をしているな。
安心しろ。おかしなことはせん。
そうだ。何か注文はあるか?」
「注文?」
「ああ。こんな感じの性格にしてほしいとか、あんな感じの容姿にしてほしいとか。」
「エレーナみたいな人!」
「エレーナ?
そなたの知るメイドか?」
「うん!」
「そうか、だが残念ながら我はその者を知らぬのだ。
何か特徴を言ってくれぬか?」
「えーっとねぇ……。」
私はエレーナのことを思い浮かべた。
「えっと、髪はすごく長くて、身長はたぶんジークの胸のあたりくらい。あ、あとおっぱい大きい!!」
「性格は?」
「優しい。お母さんみたい。いろいろ教えてくれた。」
「自分のことを呼ぶ際はなんと言っていた?」
「『わたくし』だったかな?」
「なるほどな。
まとめると、身長約160cm、髪型はスーパーロング、胸は大きめ。
性格は優しくて包容力がある。責任感も強いのだろうな。 その上、勉学にも長けている。
そして、一人称は『わたくし』と……。
・・・メイドとして、あまりにも完璧だな。
ほんとうにおるのか?この様な者が。」
「いる!!」
訝しがるジークに真面目な顔で私は答えた。
疑問に思うのはごもっともよね。
私も疑問に思うもの。
ほんとうにメイドとしてこんなに完璧な人間が実在したのかってね。
「・・・そなたがそう言うのなら、居るのだろうな。
我はそなたの注文通りに創るだけだ。」
ジークはそう言うと目の前の巨大な木に触れた。
その瞬間、木からまばゆい光が溢れ出した。
木はみるみる内に小さくなり、形も人っぽくなっていく。
やがて光は霧散し、そこには1人の人間が立っていた。
正しくは人形なのだが、あまりにも精巧であるため、人間と言っても差し支えない。
人形はゆっくりと手や脚を動かした。
「・・・これは、一体……」
「そなたは生まれ変わったのだ。
動けぬ一本の巨大樹から、自由に動ける人形へと生まれ変わったのだ。」
「生まれ変わった……?」
人形は自分の体を見た。
2つの腕に2つの脚。
視界に入る薄緑色の綺麗な髪。
それは人間と何一つ変わらない体だった。
「わたくしは何をすれば……?」
「そなたにはこの子、ソフィアリスのお世話をしてもらう。」
「了解しました。」
「それから、我の命令より、ソフィアリスの命令の方を優先させるように。そなたの主はこの子だからな。」
「了解しました。」
人形はしゃがんで私の目線に高さを合わせて、そして言った。
「初めまして、ソフィアリス様。
これより、あなた様の忠実なる僕です。
よろしくお願いします。」
「え?あ…うん。」
私は「どうすればいいの?」という表情でジークを見つめた。
「まずは名前をつけてやったらどうだ。」
「名前…。わかった。
名前つける。」
私は考えた。
なんて名前をつけるか。
しばらく考え、そして一つ、良い名前が浮かんだ。
「トワレナ。
永遠って意味の『トワ』って言葉に、私のメイドの名前『エレーナ』から『レナ』を取って、『トワレナ』。
どうかな?」
「素晴らしい名前をありがとうございます。
これよりわたくしは『ソフィアリス様専属メイド人形 トワレナ』です。」
「あ、うん。
ずっと一緒にいてね。」
「了解しました。」
トワレナは軽く頷くと何かに気づいたように、私の手を取った。
「怪我をされていますね。」
「ん?
あー、さっきフォークが刺さった。」
「え…?!」
トワレナは絶句し、驚いた表情をした。
しかし、それはほんの一瞬。
すぐに冷静な対処を始めた。
「大変です。
見た感じ、だいぶ深い傷です。
早急に処置をしなくては化膿してしまいます。」
「そう?
そんなに痛くないけど?」
「え!!
まさか、手の神経にまで問題が…。
大変です。
早く帰宅しましょう。」
「わ、分かった。」
この時できた傷は思ったより深い傷だった。
今でも、跡が残ってるわよ。
見る?
・・・ここは、「見る!」って答えなさいよ。
私が自分の弱点を見せるなんて滅多にないのよ。
まあいいわ。
この時は確か、ツリーハウスに着くまでの取り敢えずの応急処置として、トワレナが私の傷口を舐めたの。
すごく染みたわ。
と同時に、彼女の「有能が故のポンコツ感」というのも理解できたわね。
何はともあれ、こうして私に人生で2人目の専属メイドができた。
トワレナが来てからというもの、ご飯が美味しくて、まるで天国にいるような気分だったわ。
今までのジークのご飯なんて糞同然ね。
え?神獣様に糞は駄目だって?
いいのよ。私とジークはそういう仲なの。
さっき言ったとおり、この頃の私はメイドになりたいという叶わぬ夢があった。
そんな私にとって、トワレナの仕事はとても魅力的に見えたの。
私の心に火がついた。
だから、お願いした。
「トワレナ!
私にメイドの仕事を教えてください!!
私はトワレナに感情を教えます!!!」
とね。
交渉する際は、自分にとっての利益だけでなく、相手にとっても利益があるようにすることで、その交渉の成功率が上昇する。
エレーナから教わったこの交渉術の一つを実践したのよ。
今のトワレナを知るあなたからしたら信じられないでしょうけど、この頃のトワレナはほんとうに表情に変化がなかった。
嬉しい、悲しい、楽しい、怒り。
そんなありふれた感情ですら、全く表現できなかったの。
まあ、人形なのだから普通で当然なのだけれど。
でも、私は彼女に笑って欲しかった。
エレーナの面影があるメイドに、自分の大好きなメイドに似ているメイドに、ただ笑って欲しかった。
自己満足かもしれない。
でも、人間としての感情や表情を得ることは、トワレナにとっても、きっと悪いことじゃない。
7歳の幼い知能で私はここまで考えていたの。
どう?天才でしょう?
返答はもちろん
「了解しました。
ソフィ様から教わることができるだなんて、これ以上嬉しいことはありません。
ソフィ様が望むなら、いくらでもお教えいたします。」
だったわ。
もちろん真顔よ。
まず教えてもらったのは、確か料理だったわ。
トワレナの料理はほんとうに美味しくて、自分がトワレナのレベルになれるのか不安だった。
そんな緊張し切った私を安心させるかのように、彼女は言ったの。
「ソフィ様、そんなに緊張しなくとも大丈夫ですよ。
ソフィ様であれば、わたくしなどすぐに追い抜いてしまいますよ。」
「そ、そうかな?」
ほんとうに安心させるためだけの言葉だった。
今でも彼女の料理には手も足も出ないわ。
それでも、当時の私の緊張をほぐすのには十分だった。
「頑張る!!」
トワレナが用意してくれたエプロンを着て、髪を結び、手を洗い、準備万端。
私はキッチンの前に立った。
「何をお作りになりますか?」
「シチュー!!」
「シチュー…ですか?」
「うん!
エレーナが言ってた!
お野菜切って、お肉切って、お鍋に切ったそれらとルー?とかいうの入れれば完成するって!!」
「な、なるほど…。」
ほんとバカよね、この頃の私。
切る大きさとか火加減とか、美味しく作ろうとするなら、考えることはたくさんあって、そんな簡単なものじゃないというのに…。
それに、そもそもシチューのルーなんていう高級な食品、一般家庭では手に入らない。
ましてや森の奥で手に入るわけがないというのに。
既知の物事を応用するのに長けていても、そもそも既知でなければバカとなんら変わらない。
無知は悪よ。
トワレナもしばらく頭を抱えてたわね。
珍しくこの時ばかりは。
初めて彼女の感情を見たわ。
「こ、これが『困惑』という感情ですね。
勉強になります。」
とか言ってたのをうっすらと覚えてるわ。
この後確か、トワレナの提案でジークが作ってた、あの激マズ木の実スープを美味しく作ることになったのよね。
私はあまり気乗りしなかったわ。
当然よ。
あの味を知ってるんだもの。
作る人が変わったとしても、あれと食材が全く同じだと思うと、何というか、拒絶反応が起こるのよ。
食材はトワレナが用意してくれたものを使った。
彼女は「新鮮な食材を創り出す」という、なんとも奇妙な魔法を使えたの。
だから日頃から食材不足なんてことに困らされることはなかったようね。
え?
食材が創れるならルーも創り出せたのではって?
残念だけれどそれは無理ね。
彼女が創れるのはあくまで「新鮮」な食材よ。
切って、千切って、こねくり回して、固めてるような加工食品は、果たして「新鮮」と呼べるのかしら?
・・・冗談よ。
「そんな多方面に敵を作るような言い方やめた方がいいよ。」みたいな、まじもののその心配顔をやめて頂戴。
トワレナが創れるのは加工されてない食品だけよ。
つまり、野菜や木の実、果物のみね。
肉や魚も無理よ。
あれだって、食材とみなすことができるようになる頃には、切られたり、皮を剥いたりして、加工されてるもの。
だから、肉や魚はジークが狩ってきたものを普段から使ってたわ。
1時間くらいかかったかしらね。
私はジークの激マズ木の実スープを完成させた。
これがただの木の実スープになっているのか。
私はおそるおそる口に含んだ。
味は
「・・・おいしい。
おいしいよ!!」
「やりましたね。
ソフィ様。」
「うん!」
激マズ木の実スープを木の実スープにすることができた。
私はとても嬉しかったわ。
笑顔でトワレナに抱きついたもの。
でも、それで気づいてしまった。
「やっぱり、笑わないね。」
「あ…!!
いえ、違うんです。
決して、嬉しくないというわけではないと思うのですが……。
ただこの気持ちが果たして『嬉しい』なのか、確信が持てず…。」
「ーーー分かった!!
じゃあ、明日は私がトワレナに『嬉しい』の感情を教えるね!!」
「は、はい!」
こうして私たちは次の日に向けてこの日は早めに就寝したわ。
そうそう、この木の実スープ、ジークに食べさせたら、「我のために…料理を…!!」って泣いてたわ。
自分が作った激マズ木の実スープと同じレシピだとは気づかなかったようね。
親バカなのよね、ジークは。
ーーーこれ、オフレコよ。本人に言っちゃだめよ。
次の日の早朝、私たちは朝焼けが見える丘の前に立っていた。
「綺麗な朝焼けですね。
このようなソルラ、巨大樹時代にも中々見れませんでした。
見惚れてしまいます。」
「トワレナ、これが『感動』って感情だよ。」
「『感動』ですか。」
いきなり上級の感情を教えてしまったけれど、これは当時の私としてはいい判断だったわ。
次から、簡単でありふれた感情を教えていったのだけれど、とてもスムーズに教えることができたものね。
「教えることは」ね。
陽が昇り始めてから少し経った頃、私たちは花畑の中にいた。
赤、黄、青、白、橙、色とりどりの花々が辺り一面を埋め尽くしている。
「この森に、こんなに綺麗な花畑があったのですね。」
「すごいよね。
リスさんに教えてもらったの。」
「え?
動物と会話できるのですか?」
「できないよ。
ただ何となくそう思うってだけ。
リスさんが私をずっと見てたんだけど、突然走り出して、ついて行ったらここに来た。」
「なるほど。
それは確かにリスに教えられたと言ってもよいかもしれませんね。
それで、ここでは一体何を?」
「それはねぇ…。」
私はそういうと近くの花々を採り、輪っか状に結んだ。
「できた!
お花の冠!!!
トワレナも作ってみて!!」
「え?」
少し困惑したような声を上げつつも、トワレナは花の冠を作った。
しかし、それはとても歪な形をしていた。
「う、上手く作れませんでした。」
「ふふふん、凄いでしょ、私!!
エレーナに教えてもらったの!!」
「なるほど、これは確かにすごいと言わざるを得ませんね。」
「トワレナもこれくらい作れるように私がしてあげる!!」
「よろしくお願いします。」
そして私の花冠制作授業が開始した。
トワレナはメイドとしての仕事をこなせるようにジークがスペックを高く設計していたからか、手先がとても器用だったの。
陽が天辺まで昇り切る前に私以上の花冠制作者になってしまったわ。
なんかとても負けた気がしたわね。
「どう?トワレナ。
今、どういう気持ち?」
「できなかったことができるようになって、達成感で満ち溢れています。
これが『嬉しい』という感情ですか?」
「ふふふ、たぶんそうだよ!
ーーーでも、笑わないね。」
「あ…!
やはり、そうなのですか…。
『笑顔』とは、とても難しいのですね。」
トワレナは『嬉しい』という感情に確信を得た。
しかし、笑えなかった。
とにかくトワレナの表情を変化させたかった私は「他の感情なら…!」と思い、次に『悲しみ』を教えてみることにした。
陽が天辺を過ぎてから少し経った頃に私たちが居た場所は、森の中にあるとある木の前。
その根本にはにはぽっこりと小さな山ができている。
そして、その山には平らな木板が突き刺さっており、大きく「せみさんのおはか」と書かれていた。
「ソフィ様、これは一体。」
「セミさんのお墓だよ。」
「セミさんのお墓…。」
この数日前、この辺りを散歩していた時に死んでいる蝉を見つけたの。
だから私は、蝉のお墓を作った。
理由は特にない。ただ単に、エレーナの言葉が私を動かした。それだけのこと。
「ソフィ様はお優しいのですね。虫にまでお墓を作ってあげるだなんて…。」
「エレーナが言ってた。
命は皆平等、いずれ皆に終わりは来る。小さくても大きくても長くても短くても、尊いことに変わりはない。だから、人も魚もトカゲも鳥も虫も魔物も同じように接するべきって。
私、家族の皆とおじいちゃんのお墓作ったから、セミさんのお墓も作る。
・・・トワレナはこのお墓を見てどう思った?」
「上手く言葉に出来ませんが、胸の奥が痛みます。」
「それが『悲しみ』だよ。」
「そうですか。」
私はトワレナの顔見た。
表情は変わっていなかった。
少しは悲しげな表情をしてくれるのでは?と期待していたのだけれど、全く駄目だった。
その後もかつてエレーナからしてもらって私が感じた感情をトワレナに伝えるという方法で色んな感情を教えたわ。
しかし、結局、表情は変わらなかった。
何をどう伝えても教えても、何一つとして彼女の表情は変わらなかったわ。
私は「もっともっと感情を知ればいいんだ!」と思って、それから数日間、いろんな手法を用いてトワレナに感情を教え続けたわ。
でも、変わらなかった。
まるで、表情筋に鍵が掛かっているかのように、どんな感情を教えても眉一つ動かさなかった。
私は次第に「教えても理解してもらえない。意味がない。」と思うようになって、やる気を失っていった。
トワレナも笑えない度に「すみません。」と謝り続けた。
私たちの心の間に少し亀裂ができ始めた。
きっと彼女は心の中では感情を理解してはいたのでしょう。
けれど、それを表情として表に吐き出すことができなかった。
ただそれだけのこと。
そう、ただそれだけのことなのよ。
ーーー2人ともただ気づいていなかっただけなのよ。
その事件はある日突然起きた。
森の動物たちと追いかけっこをしていたら、足を滑らせて、崖の下に落ちてしまったの。
腰を強く打ち、膝を擦りむき、足を挫き、とてもじゃないけど歩けるような状態ではなかった。
私は痛みに耐えながら、必死になって叫んだ。
「トワレナ!ジーク!
助けて!!!」
と。
でも、いつになっても助けは来なかった。
でも、それは当然のこと。
トワレナたちに、どこで遊ぶか話さなかったもの。
次第に陽が暮れ始め、辺りが暗くなり始めた。
一度森の中を彷徨った私は知っていたの。
日中と違い、夜は怖い動物が森を闊歩し出すことを。
魔法をまだ使えなかった当時の私では、襲われたりなんかしたら、一発で「死」。
しかし、動けない以上、隠れることもできない。
恐怖で体が震えた。
私はここで死ぬんだって本気で思った。
でもその瞬間、救いの女神が現れた。
その者の名はトワレナ。
そう、私の専属メイド人形が現れたの。
「ソフィ様!!ソフィ様!!
どこですか!!」
と、叫びながら。
辺りは暗くなっていた。
叫べば、怖い動物に見つかる危険性が高くなる。
それにも関わらず、大きな声で、今まで聞いたこともないような大声で叫んでいたのよ。
私も負けじと叫んだ。
「トワレナ!!
私はここにいるよ!!!」
「ソフィ様?!」
私の声に気づいたトワレナは崖の上から下を見下ろし、私を見つけてくれた。
「ソフィ様!!」
「助けて!」
「今、助けます!!」
トワレナはそう言うと新鮮な太めの芋蔓を創り出し、崖の下へと垂らした。
私がそれを体に巻きつけ終わるのを見て、崖の上へと引き上げた。
「トワレナ〜〜!!!
怖かった〜〜!!!」
私はトワレナに泣きついた。
そして気づいた。
トワレナの服と靴が泥まみれになっていたの。
いつも綺麗な髪もほつれており、枝や葉が絡みついていたわ。
そう。
自分の体が汚れてしまうほど、真剣に探してくれていたの。
その感情は間違いなく「心配」。
「心配かけてごめんなさい。」
「いえ、ソフィ様が無事でよかったです。
わたくしの方こそ謝らなければいけません。
わたくしがもっと早く見つけていれば、ソフィ様が泣くこともなかったでしょうに…。
ほんとうに……ほんとうに……。
見つけられて……よかった……。」
トワレナの声が揺らぐ。
まるで泣いているかのように…。
私は顔を上げ、トワレナの顔を見る。
ーーートワレナの顔に大粒の涙が溢れていた。
「ト、トワレナ……?
涙が…。」
「ごめんなさい…。
なんか、止まらなくて…。」
トワレナが初めて見せた『表情』だった。
落ち着くとトワレナは話し始めた。
「わたくしはきっと、ずっと『不安』だったんです。
わたくしは果たして、ソフィ様に相応しいメイドになれるのかと。
ソフィ様はいつもわたくしに自身が敬愛するエレーナ様の面影を重ねられます。
しかし、わたくしはご覧の通りまだまだだめだめで、感情を教わっても表に出すことができず、ずっと一緒にいると約束しておきながら見失って、主を不安にさせて…。
エレーナ様は、ほんとうにすごいお方です。
わたくしもエレーナ様に近づきたいって、ずっとずっと思ってて。
でも、ソフィ様の口からエレーナ様の言葉が出てくる度に、自分の未熟さを思い知らされて…。
きっとエレーナ様なら、今のわたくしのように弱音など吐かないのでしょうね。
今日の出来事で確信しました。
わたくしはソフィ様のメイド、失格ですね。」
私はトワレナの話を聞いて初めて気づいたわ。
彼女は感情を理解していない、できないわけではなかったの。
彼女はジークから私のメイドとして生きるよう命じられた時からずっと「葛藤」していたのよ。
それは立派な感情よね。
私に認めてもらいたくて、エレーナに追いつきたくて、ずっと考えていた。
その「葛藤」こそが、鍵だった。
心の扉を開ける鍵だった。
なら、主である私が掛けるべき言葉は、自身のメイドの不安感を取り除いてあげられる言葉はただ一つ。
私は迷わなかったわ。
「トワレナ。
トワレナは私の立派なメイドだよ。」
「え?」
「だって、そうじゃなきゃメイドの仕事を教えてなんて頼まないよ。
だから、自身持って。
トワレナは初めから…、
ーーー私の憧れのメイドさんなんだから!」
そっと吹いた風がトワレナの涙を攫っていった。
しかし、その表情はとても晴れやかだった。
「わ、わたくしが、憧れ…、ですか?
そう、ですか。
わたくしは、ソフィ様にとって、憧れのメイドになれていたのですね。
ふふふ、嬉しいですね。」
「トワレナ、泣きながら笑ってるよ。」
「え?」
トワレナは私に言われて自分の顔を触った。
「確かに泣きながら笑ってますね。
ふふふ、変な感じです。
笑みも涙も止まりません。」
そのまましばらくの間、トワレナは泣きながら笑い続けた。
彼女が落ち着いてから、私は会話を切り出した。
「それにしても残念だったなー。
トワレナの初めての表情は『笑顔』にする予定だったのに。」
「ふふふ、これからたくさん笑えばいいだけのことです。
ですから、これからたくさん『笑顔』になれる『楽しい』ことをしていきましょうね。」
「うん!」
この日の星空はいつもより輝いて見えたわ。
それからのトワレナはとても表情豊かになった。
自分に自信もついたようで、あの頃のように表情喪失状態になることもなくなった。
ジークはとても驚いてたわね。
感情付き、表情変化付きの人形を作っていたことに、自分でも気づいてなかったみたい。
私たちの日常はとても賑やかになったわ。
こんな楽しい日常がずっと続くと思ってた。
でも、そうはいかなかった。
影は着実に私たちの日常を侵食し始めていた。
『教えて!レミアちゃ〜ん!!』
はいは〜い!
どうも皆さ〜ん、お疲れさま〜!
レミアで〜す!
第二回目の今回は、ソフィちゃん、ジーク様、トワレナさんのプロフィールを紹介しま〜す!
「レミアは3人について、もう詳しく知っているので、ソフィは作中でいちいち解説してはくれません。
そのため、3人の解像度を高めるためには、このコーナーで解説するしかないのです。」
だそうで〜す!
言い訳がましいですね〜!
え〜、まず1人目はソフィちゃんで〜す。
『NAME:ソフィアリス・ヴィクトリアナ
FROM:ヴィクトリア王国
GENDER:女性
BIRTHDAY:竜の月30日目
HOBBY:散歩
SPECIALITY:暗記・記憶・生き抜くこと』
ちょっと待って下さい!
何ですか、このテロップ!
私が口頭で解説する感じじゃないんですか?!
ちょっと、作者さーー
『NAME:ジークフリード
FROM:不明
GENDER:オス
BIRTHDAY:不明
HOBBY:特になし。強いて言うなら大森林の安全を守ること。
SPECIALITY:子守 (無自覚)』
遮らないでくださ〜い!
何で遮るんですか〜!
遮られた人の気持ち考えたことあるんですか〜!
むしろ遮るなって言ってる間に、トワレナさんのテロップをどうぞ〜。
『NAME:トワレナ
FROM:ジークフリード大森林
GENDER:女型
BIRTHDAY:鼠の月11日 (自律思考型人形となった日)
HOBBY:ソフィの観察、ソフィのお世話
SPECIALITY:家事全般 (特に料理)』
以上で〜す。
第二回目にして、既に私の存在価値が分からなくなってしまいました〜。
どうしてこうなったのでしょう?
作者さん、もしかして台本書くの下手ですか?
次回はちゃんと私に喋らせて下さいね〜。
え〜、次回は「その笑顔、私を照らす、一等星」だそうで〜す。
アイドルでも現れるのかな〜?
お楽しみに〜。
・・・トワレナさんのあのスーパーロングヘアに包まれてみたい。




