第10話 大切な人の死にどう向き合うべきか。
ハクシスの書を解読してから (正しくはハクシスの書によってリーゼロッテと会話してから)、私の身に何かが起こったというのは無かったけれど、周りの人々の状況はだいぶ変わっていたわ。
まず、大混乱は収まった。
5日間くらいは大混乱が続いていたのだけれど、お祖父様の遺体の捜索から帰還した優秀な警備兵たちの手によって、あっという間に収束した。
あれには本当に驚いたものよ。
欲を言うなら、初めから数人くらい優秀な人材を国の警備に当てておいて欲しかったわ。
あの5日間、街中をろくに歩けなかったんだもの。
トラウマものよ、まったく。
まあ、お祖父様の遺体の捜索となると、それなりのキャリアがある警備兵が務めることになるから、難しかったと思うけれどね。
次に、リタが大図書館の司書のバイトを辞めた。
元々リタが大図書館でバイトをしていたのはハクシスの書を解読して、リサさんの無念を晴らしたかったらからなの。
ハクシスの書の真実が解明された今、大図書館でバイトをする理由はなくなったわ。
そして、グザックさんは学者を辞めた。
グザックさんにとって、ハクシスの書の解読というのは人生だった。
しかし、実際にはハクシスの書とは、リーゼロッテが私とレフィーリアと繋がるための媒体として残した紙のまとまりだった。
解読しようがないものをずっと解読しようとしていた、自分の人生、そして仲間やリサさんの死が全て無意味だったという事実が物凄いショックだったらしく、家に引きこもって出て来なくなった。
ちなみに、ハクシスの書の真実は、グザックさんのような被害者を出さないために、隠すことに決めたわ。
恐らく、レフィーリアが「ハクシスの書を解読した。」とだけ伝えてエレーラ大陸へ旅立ったのは、当時のハクシスの人々のためだったのでしょうね。
最後に、久々に大森林のツリーハウスに戻った時、心底疲れ果てた顔のジークがいたわ。
今回の空間の歪みは相当な大きさだったらしく、私やマタローが大森林に迷い込んだ時とは比べものにならないほどの魔物が現れていたらしいの。
「もう、終わってくれ…。」と呟いてたわ。
そして、その空間の歪み。
私とマタローが大森林に迷い込んだ時は、私以外に人間が巻き込まれたという情報はなく、ジークフリード大森林にも学術国家ハクシスの領地内にも、魔物しか巻き込まれていなかったが、今回は違った。
魔物以外にも、大量の人間が巻き込まれていた。
そのことを知ったのは、ハクシスの書の真実が解明されてから1週間後のことだった。
私、トワレナ、マタローは警備兵に呼び出され、病院へと向かった。
そこには、私と同じ暗い髪色の人々が医師たちの治療を受けていた。
「こ、これは…。」
私が絶句していると、警備兵の一人が説明してくれた。
「ソフィアリス様のご希望通り、クリストファンペル様のご遺体をジークフリード大森林、そしてハクシスの領地内にて、5日間捜索を行ったのですが、その際に私たちとは明らかに人種の違う人々がそこら中で倒れておりまして…。」
「こ、こんなに…?」
「はい。
ですが、ジークフリード大森林の深部やハクシスの郊外の部分は捜索がまだ行き届いておりませんので、さらに増える見込みです。」
「そう….なんだ…。」
私は治療を受ける人々を見て、何も出来ない自分を悔やんだ。
もし魔法が使えたら、ジル兄のように、大道芸なんかで人々を笑顔にできたかもしれないのに、と。
私は一番聞きたかったことを訊いた。
「それで、お祖父様は見つかったの?」
私が訊くと警備兵は口を噤む。
「大丈夫だよ、私はどんなことも受け入れる。
その覚悟はして来たから。」
「分かりました。
ついて来てください。」
警備兵に案内された場所には布が掛けられた何かが無数にあった。
言うまでもないわよね。
遺体よ。
ジークが疲れるほどの魔物が現れたんだもの。
相当強い魔物も人々と共に転移したのは確か。
警備兵の遺体らしきものもあったことからも、それが伺える。
一般人は生き残れるだけでも、相当運が良くなきゃいけないはずよ。
「ここです。」
と、警備兵が言った場所には、お祖父様が冒険者として活動している時に身につけていた金色の糸で刺繍が施された紺色のマントがあった。
「すみません。
5日間では、これしか見つけることができず、その後も捜索を続けたのですが、これしか見つけられませんでした。
今も捜索は続けていますが、見つかる可能性は低く、恐らく、クリストファンペル様のご遺体は、魔物に食べられたもの思われます…。
申し訳ありません…。」
警備兵が悔しそうに、申し訳なさそうに、私に頭を下げた。
「あなたたちは悪くないよ。
そもそも、これは私の我儘でしかなかったんだから。
あなたたちはよく働いてくれた。
お祖父様のマントが戻って来ただけでも、私は嬉しいよ。」
私はマントを手に取った。
そして、マントを羽織った。
大きかった。重かった。
でも、お祖父様の存在感を強く感じた。
「私も人々のために行動するね。
お祖父様がそうしたように。」
私は涙を堪えて、警備兵に告げた。
「警備兵たちを集めて。
話したいことがある。」
「は、はい。」
私が言うと警備兵は走って行った。
そして、背後に立つトワレナに言った。
「トワレナ、シャベルを用意して。
大量に。」
「え?
ま、まさかお墓を作るつもりですか?」
「うん。」
「ま、待ってください!
何人分のお墓を作ることになるか、分かってますか?!」
「なら、放置するの?
私には、そんなことできない。
トワレナにしてみたら、ここで眠ってる人々は知らない人かもしれない。
でも、私にとっては守るべき民だから。
お祖父様だって、そう言うはずだから。」
私はトワレナに背を向けて歩き出す。
そして、言った。
「私はお祖父様の意志を継ぐことにした。
もう今までみたいな我儘な私じゃ居られない。
トワレナが手伝ってくれなくても、警備兵が手伝ってくれなくても、私一人だとしても、ここにいる民たちが安心して眠れる場所を私は作る。
お祖父様なら、きっとそうするから。」
トワレナは何も言わず、私に従った。
私は警備兵たちに、お墓作りの提案をした。
とある警備兵が遺体が腐り始める前に作った方がいいと提案したため、私たちはすぐさま作業に取り掛かかった。
遺体の数は計1200体にも上った。
家族らしき遺体もあったため、お墓は計1183個作ることとなった。
お墓は比較的に魔物の出没数が低かったハクシス領地内のとある平原に建てられることとなった。
私は体力的に日中しか参加出来なかったが、警備兵たちは日夜を問わず作業していた。
途中からはハクシスの国民や怪我が治ったヴィクトリア王国の国民も参加してくれた。
しかし、数が数であったため、全ての遺体を埋め終わる頃には1ヶ月が経ち、夏の暑さが本格的になり始めていた。
「やっと終わったね。」
「はい。
さらに暑くなる前に終わらせられて良かったですね。
お水です。」
「ありがと。」
トワレナから水を受け取り喉に流し込む。
凄く潤った。
私はマントを翻し、お墓作りに参加してくれた人々たちの方を見る。
私はあれから、マントをずっと羽織っており、いつの間にかトレードマークとして定着していた。
この頃には、マントをつけていないだけで、私と認識されないほどになっていた。
お祖父様が身に付けていただけあって、このマントは凄い存在感を放っていた。
私は、いつしかこのマントに負けない大物になると決めていた。
「皆さん、私に協力してくださりありがとうございました。
眠る場所を勝手に決めてしまったのは少し心が痛みますが、それでも無いよりはマシなはずですから、ここで眠る皆さんも喜んでいることでしょう。
疲労を回復させるため、今日はしっかり休みましょう。
私も休みます。
では、解散!!」
私が言うと、みんな散って行った。
墓場には私とトワレナとマタローが残された。
「やるべきことはやったよね…?」
「はい。
もう良いんじゃないですか…。」
トワレナがそう言った瞬間、涙が溢れてきた。
「うぐっ……。
お祖父様……。」
トワレナは堰を切ったように泣き出した私を優しく抱きしめ、頭を撫でながら言った。
「ソフィ様、よく頑張りましたね。
ソフィ様はもう立派な王族です。」
トワレナも泣いていた。
いつもはわんぱくなマタローも、この時ばかりは静かだった。
帰り道、私たちは声をかけられた。
「ソフィ様、少しお時間をいただけますか?」
リナさんだった。
「どうしたの?」
「ついて来てほしい場所があるんです。
でも、私はソフィ様と違って弱いから、きっと怖気付いてしまうから…。」
私はリナさんの言葉で、どこへ行くのか察した。
「どうして急に…?」
「急じゃないですよ。
気づいてなかったんですか?
私も参加してたんですよ、お墓作り。
自分もお祖父様を亡くして辛いはずなのに、ソフィ様は赤の他人のお墓を建てられた。
色んな人の死と向き合われた。
その姿が凛として見えて、とても強く見えました。
それに対して私はずっと逃げ続けてる。
大切な人…妹の死を受け入れられなくて、受け入れたくなくて、ずっと向き合わずにいる。
思っちゃったんです。
私は何やってるんだろうって。
だから、もう辞めたいんです。
逃げ続ける私を、死と向き合えない私を終わらせたいんです!」
私はリナさんの震える手を取って言った。
「分かった。」
「ありがとうございます…。」
「トワレナ。」
「わたくしはもう何も言いませんよ。
きっと邪魔になるでしょうから、わたくしはリナさんのご自宅でお待ちしておりますね。
さあ、マタロー、行きましょう。」
「キャンッ!」
トワレナとマタローは足早にその場を去った。
「場所はどこ?」
私が訊くと、リナさんは困った顔をして言った。
「ごめんなさい。
私も知らないんです。
ずっと逃げ続けてたから。
一度も妹のお墓参りに行ってないんです。」
「え?
じゃあ、どうやって…。」
私がそう言った瞬間、どこからともなく声が聞こえた。
「だから、俺が連れてくってわけだ。」
声のした方へ顔を向けると、そこにはやれやれといった顔をした人物が立っていた。
「リタ!
居たんだ。」
「リナが手伝ってるなら、俺だって手伝ってるに決まってんだろ。」
「そうだよね。」
「ほら、行くぞ。
ついて来い。」
私たちはリタを先頭にリサさんのお墓へと向かった。
私はずっとリナさんの震える手を握り続けた。
リサさんのお墓はジークフリード大森林の近くの見晴らしの良い丘の上にあった。
遠くには小さく遺跡の入り口っぽいものが見える。
「ここだ。」
リタが言うと、リナさんがゆっくりとお墓に近づいた。
そして、墓石を優しく撫でながら言った。
「ごめんね、遅くなって。
寂しかったわよね。
でも…、もう大丈夫よ…。
これからは…お姉ちゃん…ちゃんとここに来るから…。」
リナさんは墓石の前で手を組み、祈りを捧げた。
私とリタも同じように祈りを捧げた。
「なあ、リナ。
あの日、何があったんだ?」
「そっか、話したことなかったわね。
あの子の死について、私以外誰も知らないのよね。
いいわよ、話すわ。」
リナは話し始めた。
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私はリサに頼まれて、発見されたばかりの遺跡の前にいた。
「リサ、これ大丈夫なのよね?
魔物出て来たりしない?」
「遺跡だから出ると思うよ。
相当デカいのが。」
「うっ……。
帰っていい?」
「何?
怖気付いてるの?
お姉ちゃん、全ての四属性魔法が使えるのに怖がりさんだなぁ。」
「リサも分かってるでしょう?
全ての四属性魔法が使えることと強さは比例しないのよ。」
「さあね。
私は四属性魔法、一個も使えないから分からな〜い。
ほら、行くよ。
知識の宝物庫へ。」
「何でそんなに肝が据わってるのよ。」
るんるんとスキップしながら先を行くリサとは対照的に、私はビクビクしながら遺跡の中へ入って行った。
遺跡の中は灯りが無ければ前が見えないほど暗かった。
私は火属性魔法を使い、周囲を照らした。
「灯り点けてもだいぶ暗いね。
魔物出て来たらよろしくね、お姉ちゃん。」
「え?!
他人まかせ?」
「だって私、魔法使えないし。
お姉ちゃんを連れて来たのは私の代わりに魔物を倒してもらうためだからね。
頑張ってもらわなくちゃ。」
「姉使いの荒い妹ね。」
私たちは暗い道をゆっくりと進んだ。
初回ということで、今回の遺跡探索では、あまり深いところまで行かないことにした。
リサは最深部まで潜る気でいたらしいが、全力で止めた。
「浅いところじゃ成果でなさそう。」などと言って、ややゴネたが、命の方が大事だと言って、何とか言いくるめた。
遺跡の壁には、十数メートルおきに絵にも文字にも見える変なものが、石で削ったような感じで描かれていた。
リサはその全てをノートに書き写していた。
20分ほど歩いたところで、リサが「つ、疲れた…。休もう…。」と根を上げた。
「まだ20分よ。
体力無さすぎないかしら。
少しは運動した方が良いわよ。」
「うぐっ。
反論できない…。」
リサ自身、自分の運動不足は理解しているようだった。
私たちは魔物に見つからないように、岩の陰に隠れて休憩することにした。
ちょうどいい感じの大きい岩を見つけると、その後ろに座った。
リサは持って来た水筒を開けて、中の水をグビグビ飲んだ。
「水ってこんなに美味しかったんだね。」
リサは水筒は水筒を振り、中の水の音を聞きながら言った。
リサは運動をほとんどしない。
基本的に家やグザックさんの研究室に引きこもって、ずっと何かを研究している。
それなのに今回は何を思ったか、こんな大変な思いをしてまで研究のために遺跡を探索している。
私はそれが不思議でならなかった。
「ねぇ、リサにとって研究って何なの?
そんなに面白いものなの?」
「面白いよ、研究は。
知らないものや知らないことを知る喜びに勝るものを私は知らないから。
何てったって、私は魔法を使えないからね。」
「リサ…。」
リサは悲しそうな顔で続けて言う。
「魔法は魔法の女神から与えられた贈り物。
魔法が使えないということは、魔法の女神から見放された忌み子ということ。
それが世界の共通認識。
ハクシスは学者の国だから魔法に関する差別はあまりないけど、それでも変な目で見られることは多い。
でも、グザックさんは違った。
私を私として見てくれた。
私に役割を与えてくれた。
それが嬉しかった。」
リサは顔を上げ、私の目を見た。
「お姉ちゃん、私にとって研究は何なのかって訊いたよね?
答えは簡単だよ。
『恩返し』だよ。」
その目は迷いのない澄んだ目だった。
その目はハクシスでよく見かける、研究に人生を捧げると誓った学者の目だった。
「よかったね。
自分の居場所が見つかって。」
片や魔法の天才と謳われた姉、片や魔法を使えぬ妹。
私が光なら、リサは影。
いつも私の陰に隠れて生きて来た。
そんなリサに居場所ができた。
私は思った。
リサの居場所は無くさないようにしなくちゃ、と。
遺跡探索は順調に進み、だいぶ深くまで来てしまった。
「リ、リサ。
そろそろ帰らない?
だいぶ深くまで来てるわよ。」
「あと少し、あと少しだけ。
きっと見つけられるから。
目的の紋様を。」
さっきからこう言って聞かない。
やれやれと思っていると、突然、本能が言った。
これ以上は危険だと。
私は叫んだ。
「リサ、これ以上は駄目!
帰るよ!」
私はリサの首根っこを掴んで引っ張った。
「お、お姉ちゃん?!
どうしたの、急に?!」
「これ以上進むのは駄目。
私の直感がそう言ってるわ。」
「何それ、考え過ぎじゃない?」
私たちは早歩きで来た道を引き返した。
しかし、もう手遅れだった。
戻り始めてから、数分後、十字路に辿り着いた。
目の前には血の海が広がっていた。
「お姉ちゃん、これ…。」
「リサが進もうとした道の先、何かが居るような気がしたの。
だから、気づかれる前に引き返そうとした。
でも、遅かった。
気づかれてた。」
私は周囲の音に耳を傾ける。
姿はまだ見えないが、無数の何かの足音が近づいてくるのが分かった。
「もう囲まれてるわ。」
「お姉ちゃん、どうするの?!」
「取り敢えずは戦ってみるけど、この数相手じゃたぶん無理。
だから、リサ。
隙を見て逃げて。」
「え?」
「2人で逃げるのは無理でも、リサを逃がすくらいの余裕なら作れるはずだから。」
「そ、そんな…。」
リサは悲しそうな顔をする。
「なんでそんな顔するのよ。
リサが私を連れて来たのはこのためでしょう?
まったくもう、遺跡に入る前と立場が逆転しちゃったじゃない。
あんたは妹らしく、助けられてればいいのよ!」
私は正面、背後、右側、左側の全ての通路に火球を打ち込んだ。
ボンッという鈍い音と共に火が消えた。
手応えがない。
私は最悪の結論に至った。
「魔法を無効化する魔法…?」
剣も弓もない。
攻撃手段が魔法のみの状況で魔法を無効化する魔法持ちの魔物と遭遇した。
勝ち目は….、ない…。
「リサ!
私から離れないで!」
「お姉ちゃん?!」
私はリサを強く抱きしめた。
「大丈夫、大丈夫だから!」
「お姉ちゃん、苦しい。」
私はパニックに陥っていた。
だから、相手の攻撃に気づかなかった。
腕の中で抱きしめていたリサがビクッと動いた。
驚いて顔を上げると、リサの背中から、まるで噴水のように血飛沫が上がっていた。
切り傷だった。
でも、何に切られたのか分からない。
敵が暗闇に隠れて見えない。
「あ……、ああ……。」
守れなかった。
リサの居場所を無くさないようにすると決めたのに、あっさりと居場所を奪わせてしまった。
私は役割を果たせなかった。
「あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ーーーーー!!!!!」
私は自暴自棄になって駆け出した。
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「それから数日間の記憶はないの。
お父さんが言うには、遺跡の前で「ごめんなさい…。ごめんなさい…。」とぶつぶつ呟きながら、血塗れのあの子を背負った私を遺跡探索にやって来た冒険者が保護してくれたらしいわ。
それから私は、魔法を使ったり、あの子の名前を見たり聞いたり言ったりすると、あの子の背中から血飛沫が上がるあの光景がフラッシュバックするようになった。
だから私は、自分自身を守るために、あの子の死から逃げた。
考えることも、思い出すこともやめた。」
リナさんは立ち上がると歩き出した。
「でも、このままじゃいられない。
あの子だって、私がこうなることを望んで遺跡に連れて行ったわけじゃない。
だからーー」
リナさんは両腕を上へ高く掲げた。
「弱い私と決別しなきゃいけない!
そうでしょ、『リサ』!!」
リナさんは両腕を地面へと下ろした。
その瞬間、水と土が巻きつき、そして強い風も放つ巨大な火柱が上がった。
物凄い熱風が辺りに生える草を揺らす。
「上級混合魔法 全属性炎柱!」
リナさんは叫んだ。
その瞬間、リナさんは盛大に吐いた。
恐らく、リサさんの死の瞬間がフラッシュバックしたのでしょうね。
「お、おい、リナ!
無理すんな!」
「いつか乗り越えなきゃいけない壁だった。
その乗り越える日が今日だった。
なら、少しくらい無理したって私は構わない!」
リナさんが凄い気迫のある声で言う。
その刹那、リナさんの髪が熱風による熱さで燃え始めた。
私は伝えようとしたけれど、口を開けた瞬間、喉が焼けるような熱さに襲われ、声を出せなかった。
リタも同じ状況だった。
リナさんの髪はどんどん燃え、どんどん短くなっていく。
そして、肩の辺りまで燃えたところで、上空から水の塊を落とし、火を消した。
火属性魔法と風魔法を混合して、熱風を作り出し、水に濡れた体を乾かした。
「さよなら、リサ。
私、強くなるわね。」
円形に焼け焦げた草の前で、涙を流しながらそう言うリナさんの髪は、ロングヘアからボブヘアに変わっていた。
決意の現れだった。
数分後、目を晴らしたリナさんが近くに戻って来て言った。
「さて、帰りましょうか。」
「リナ。
良かったのか、髪。」
「後悔してないって言ったら嘘になるわね。
でも、私はリサの分まで生きなきゃいけないから。
強くならなきゃいけないから。
その覚悟はできたわ。
だから、良いのよ。」
「そうか。」
リタはリナさんの髪を見て言った。
「まあ、悪くねぇんじゃねーの?」
「ちょっと、似合ってるって素直に言えないわけ?」
「はあ?
うっせぇな。
褒めてやったんだから、それで良いだろ。」
「あー、ダメダメ。
全然ダメ。
女心全然分かってない。
って、どこ行くのよ!」
「帰るんだろ?」
「もう!
ソフィ様も帰りましょう!」
「うん。」
私は振り返って、リサさんのお墓を見る。
私は思った。
自分はヴィクトリア王国でどうなっているのだろうか。
死亡扱いされて、このようにお墓を建てられているのだろうか。帰らなきゃ、と。
私はその思いを強く抱いて、リタたちの背を追った。
ーーーーーーーーーー
ーーーーー
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ーー
ー
リナさんのこの感動物語も、私のこの時の感情も全て『彼女』という存在が求める結末へと辿り着くための布石に過ぎなかった。
全て『彼女』の思惑通りなのかもしれなかった。
なら、その思惑の中で、お祖父様のように人々を幸福にしよう、笑顔にしよう、そう思った。
私はこの日から、王族という立場を意識するようになった。
『教えて!レミアちゃ〜ん!!』
はいは〜い!
どうも皆さ〜ん、お疲れさま〜!
レミアで〜す!
第10回目の今回は、遺跡について解説しま〜す!
遺跡とは古代の人々が住居として使用していた建物が廃墟と化し、危険な生物が棲みつくようになった場所のことです。
あまりにも危険なため、遺跡の探索は主に冒険者という特殊な訓練を受けた人々が行います。
一般人でも遺跡に入ることはできますが、下手に入ると作中のリナさんやリサさん、グザックさんとその仲間たちのような悲惨な目に遭うことになります。
遺跡の中には、3000年前や2000年前から存在するものもあるため、時々、歴史的価値の高い遺物が発見されることがあるそうです。
俗に言うダンジョンみたいなものだと思っておいてください。
え〜、次回は「姉妹を契る耳飾り」だそうで〜す。
ソフィちゃんが祝われるみたいですよ〜!
お楽しみに〜。
・・・それにしても、遺跡の中でリナさんたちを襲った魔物は、一体何だったんだろうな〜。




