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7/7

スイッチ入った!?

 肉を焼く時はまず常温に戻しておく必要がある。

 焼く十分前には冷蔵庫から取り出しておくと柔らかく仕上がるのだ。

 コーラに漬けておくことで柔らかさは更に増すし、肉の臭みも取る事が出来る。

 ここに薄く塩コショウをまぶしてやれば準備は完了。

 後はアツアツのフライパンに油を引いて、肉を置くだけだ。

 じゅわあぁぁ、と景気の良い音。

 脂が弾け飛び、食欲をそそる香りが広がっていく。

 手早く片面を焦げ茶色になるまで焼き上げると、サッとひっくり返して弱火に。

 焦らず落ち着いて火入れをすること。これが美味しく肉を焼く鉄則である。

 ジワジワと、しかし焼きすぎないようにタイミングを見計らう。

 非常に重要かつ繊細な作業、なんだけど。


 僕の頭の中はマシロさんの足とクロさんの胸の感触でいっぱいだった。


 だって、だって!

 あんなに白くてむちっとした柔らかそうな足を間近で見たことなんて無かったし!

 ふわふわもちっとした感触に顔を包まれたことなんて無かったんだもの!


 ……って、僕は誰に言い訳してるんだろう。


 とにかくアレは凄い体験だった。かつてないほどの衝撃だ。

 しかもクロさん曰く、この後にその……もっと凄いものを見せてくれるらしい。

 何を見せてくれるんだろう。順当に考えてスカートの中だろうか。それとももっと別の、もっともっと素晴らしい何か……


「うわっと、そろそろかな」


 危ない。妄想してたせいで危うく火を通しすぎるところだった。

 串を刺して火のとおり具合を確認。うん、ジャストな状態だ。

 これを一旦アルミホイルの上に出してくるんでおいで、肉をしっかり休ませる。

 こうする事であふれかけていた肉汁が中に戻っていくのだ。

 後は食べる直前に表面を温めてやれば出来上がり。

 ご飯も炊けてるし、そろそろリビングに持っていくとしよう。

 ……さっきヨダレを垂らしてた人もいるし、急ぐか。




 昼も中々凄かったけど、夕飯もかなり大変だった。

 クロさんもマシロさんも黙々と食べるタイプだけど、速度が尋常じゃない。

 僕が一口食べる間にステーキを食べ終えてるくらいの速さだ。

 たくさん焼いておいたから大丈夫とは思うものの、ちょっと在庫が心配になる。


 ステーキは大成功だった。

 フォークで突き刺すとほとんど抵抗なく沈んでいき、薄らと肉汁が染み出してくる。

 ナイフを当てると不思議なくらい簡単に切れていき、切断面からはこれでもかってくらいに肉汁が溢れ出てきた。

 口に運ぶ間にもぽたりと雫が零れ落ちるものだから、慌ててフォークを口に運ぶ。


 まず最初に襲ってきたのは焼いた肉の香ばしさと牛肉本来の旨みだった。

 噛むととても柔らかくて、舌で切れそうな程である。

 強い脂の甘みも酸味の強いソースやコショウで中和されていて良い感じだ。

 思わずそのまま飲んでしまいそうになるけど、肉が口の中にある内に炊きたての白米を放り込む。

 これがまた、絶妙に美味い。

 炊けたばかりの白米はほんのり甘くて、牛肉の脂をするりと押し流してくれる。

 肉と米。最高のパートナーだ。

 これに付け合せのフライドポテトとニンジンのグラッセがあれば無敵である。

 あるのだけど。


 まさかこの速度で無くなっていくとは思わなかったなあ。


「…………」

「…………」

「二人とも、よく食べるね」

「ミナトにしては上出来ね。おかわり」

「本当に美味しいです。おかわりをお願いします」


 もう七人前は食べてるんだけど。

 すげぇなおい。


「ミナトは料理の勉強をしていたのかしら? これならレストランでも働けるわね」

「ありがとうございます。小学生の頃に動画を見て練習したんです」

「小学生? 失礼ですが、ご両親はどうされたんですか?」

「借金のカタに僕を売り飛ばして夜逃げしました」


 カラーン、と食器の落ちる音。

 見ると、非常に冷めた目付きのマシロさんと、涙を堪えているクロさんにガン見されていた。


「ミナトの両親は自分の子どもを身代わりにしたと言うの?」

「そうなりますね。もっとも、僕が小学生になったばかり話なので思うところもないですけど」


 いやぁ、あの時は学校から帰ってきたら誰もいなくてびっくりしたなあ。

 すぐに怖いおじさん達が押しかけてきて更に驚いたけど。


「まぁ親にも事情があったんでしょうねぇ。今となってはどうでも良いですけど」


 そう、どうでも良いのだ。

 今更戻ってこられても迷惑なだけだし、特に思うところもない。

 それに、そのお陰で「あの人」と出会うことができたんだし。


「……ミナトさんは寂しい思いをしてきたんですね」

「いや、寂しくはなかったですよ。すぐに慣れましたし」


 これは事実だ。僕にとって親がいない生活の方が当たり前だったし、忙しくってそれどころじゃなかったもんなぁ。

 なんとかお金を稼がなくちゃならなかったし。


「いいえ、ミナトくんは寂しかったはずです。そんな過去があるのでしたら、今もきっと寂しさは消えていないはずです」

「え?」

「ですので今日からはクロが一緒に居てあげます」

「……は?」


 いきなり何を言って……あ、やば。

 クロさんの目からハイライトが完全に消えてる。闇落ちモードだわ。


「朝も昼も夜も起きて寝てまた起きるまでご飯の時もお風呂の時も家の中でもダンジョンでもずっとずっとずぅっと……クロが一緒に居てたくさんたくさん甘やかしてあげますからねぇぇ……♡」


 ひいぃぃぃ!?

 目の奥にどす黒いハートが見える!?

 顔を両手で包むのやめて! そのポーズ怖いから!


「うふ、うふふ……ずぅっと一緒ですよ、ミナトくぅん♡」


 ……これ、どうやって乗り切ったらいいんだろ。

 マシロさんに助けて貰えないかなあ。


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