本性を現した!
冒険者ギルドはダンジョンの入口の隣に建てられたビル内にある。
一階に受付があって、上階には冒険者に向けたいろいろなお店が設けられている。
受付のあるホールの見た目は役場みたいになっていて、初めて来た人でも分かりやすい造りになっている。
数日ぶりのギルドだ。
とりあえず受付に向かうと、そこでは見慣れた女の子が笑顔で仕事をしていた。
「ハルカちゃん、ちょっと良いかな?」
「はーい! ……あれ、ミナトさん? どうしたんですか?」
声を掛けると不思議そうな顔をされた。さっき会ったばかりだから仕方ないと思うけど。
いつでもニコニコ笑顔で胸が大きいのが特徴のハルカちゃんだけど、僕が近付くにつれどんどん顔が険しくなっていく。
え、なに? 何か怒らせるようなことしたっけ?
「ハルカちゃん、実は――」
「ミナトさん。後ろの女の子たちは誰ですか?」
「え? あぁ、なんて言うか……仲間だよ」
「へぇ。いつの間にこんなかわいい子たちとパーティを組んだんですか?」
……怖い。いつも可愛らしい笑顔のハルカちゃんが、何かめっちゃ怖い。
「ついさっき。臨時で手助けしてもらったんだ」
「ふぅーん。そうですかー……って、もしかして」
「そうだよ! ついにゴブリン討伐が終わったんだ!」
「ええ!? 銃も持ってないのにモンスターを倒しちゃったんですか!?」
ハルカちゃんの叫び声に合わせてギルド内にざわめきが走る。
うん。まぁ僕の弱さは誰もが知ってることだしなぁ。
ていうか実際僕は戦って無いし。
「おいおいおい。万年見習いのミナト君がモンスターを倒したってぇ?」
騒ぎに紛れるように現れたのは嫌味っぽい顔をしたイツキさん。
このダンジョンで一番人気のある配信者で、いつも絡んでくる人だ。
高慢でいつも自信満々だけど、実は面倒見がよくて若手に好かれている。
……んだけど、何故か僕には態度がキツイというか。
「イツキさん。倒したのは僕じゃないです。彼女たちとパーティを組んで……」
「はぁ? 女の子に『おもり』してもらったってぇ?」
「そうです! 彼女たちとっても強いんですよ!」
「……そういう話じゃねぇだろ。嬉しそうにしちゃってまぁ」
何故か苦虫をかみつぶしたような顔をされた。
質問に答えただけなんだけどなぁ。
「ていうかお前、まだ冒険者になるの諦めてなかったのかよ。うちのパーティに入りたいって言って来た時にもちゃんと伝えたよなぁ?」
「諦めるように言われましたけど……でも僕は、諦めません!」
「そんなに死に様を晒したいのかねぇ、この馬鹿は」
ヘラヘラ笑いながら肩に手を置いてくる。
次の瞬間、腹に凄い衝撃が埋め込まれた。
殴られた、と理解した瞬間。
「ミナトさん!」
「さすがに見逃せないわ、三下」
ザクロさんとマシロさんが僕を引きはがしてイツキさんとの間に立っていた。
「ちょっとちょっと! ギルド内での揉め事は禁止ですよ!」
お互いに睨みあう中、ハルカちゃんが待ったをかける。
イツキさんはハルカちゃんを見て、一度舌打ちすると僕に顔を近づけてきた。
「ミナト、お前に冒険者は無理だ。ダンジョン内であったら容赦しねぇからな」
ズカズカと歩き去って行くイツキさんに何か言葉を返そうと思ったけど、その前にザクロさんに抱きしめられてしまった。
温かくて良い匂いに包まれてどんどん冷静になっていくのが分かる。
……て、ええぇ!? 何で僕、抱きしめられてんの!?
「ミナトさん、お怪我はないですか?」
「無いです! 大丈夫だから離れてくれませんか!?」
「いいえ、クロは決めました。ミナトさんは一人にするとすぐに怪我をしてしまいます。これはクロが守ってあげなくてはなりません」
「……は?」
「大丈夫ですよ。二十四時間いつでもどこでもクロが守ってあげますからね。可愛い可愛いミナトさん……うふふふふふふふ」
怖ぁぁぁぁ!? なんか目から光が消えてるんだけど!
「あぁ、いずれこうなるかと思ってはいたけど……思いのほか早かったわね」
「マシロさん! これ、なんなんですか!?」
「ミナト、聞きなさい。クロは――」
一瞬間を開け、マシロさんが真剣な顔で言う。
「――生粋のダメ男製造機なの」
何言ってんだこの人。
「ダメな男を見ると世話をしたくて仕方ない。そうやって甘やかして男をダメにするの」
「えええぇぇ!?」
という事は僕、ダメ人間認定されたって事!?
「まぁ諦める事ね。ミナトが死ぬまでクロは離してくれないわよ」
そんな! ザクロさんはマシロさんと違って普通の人だと思ってたのに!
「ミナトさん、早くお家に帰りましょう。たぁくさん、甘やかしてあげますからね」
うわ、柔らかいし温かい! 胸が! 吐息が! あああぁぁ!
人目とか気にしなくても良いかなって思い出してる自分が怖い!
確かにこれはダメになる!
「ザクロさん、とりあえず離れてください! まだ用事も終わってませんから!」
「どうかクロと読んでください。お姉ちゃんでも良いですよ?」
「クロさん! 離れて!」
どうにかクロさんを押しやると、自然と目が合う。
……何か目の奥にどす黒いハートが見えた気がするけど、気のせいだと思っておこう。
「ハルカちゃん! とにかく冒険者ライセンスの手続きをお願い!」
「あっ、はい! えぇと……それでは奥の待合室で待っててください」
若干引いているハルカちゃんは、それだけ言うと受付の奥へと姿を消していった。
手続きの際には測定用の魔道具が使用されるし、それを取りに行ったのだろう。
とにかく僕も行かなければと待合室の方に歩き出そうとした時。
ぐにゃっと、腕が何かに包まれた。
何かというか、多分、クロさんの胸に。
「ク、クロさん!?」
「このくらいくっついてないと心配ですから。さぁ行きましょうか」
「ミナト、言い争っても時間の無駄よ。早く行きなさい」
「そんな……わ、わかり、ました」
美少女であるクロさんの胸に腕を挟まれたまま、茹だった頭で何とか目的地を目指す。
たった数十メートルの距離が果てしなく感じた。
やば、鼻血とかでてないよね?