もうやめてください
ダンジョンのモンスターには知能がある。
階層が深くなっていくほど知能は高くなっていき、中層と呼ばれる十階層以降のモンスターは自力で魔法が使える程だ。
人間でも特別な訓練を積んでいないと魔法は使えないのに偉いもんだと思う。
そしてモンスターにも感情がある。
特に低階層のモンスターは人間に対して友好的であり、低レベルの冒険者に戦い方を教えてくれる奴もいるくらいだ。
ダンジョン内で死んだモンスターは生き返るという事も関係しているのかもしれない。
人間だってダンジョン内で死んだら入り口に戻されるだけだし、ダンジョンって本当によく分からないな。
でも、いくら生き返ると言ってもこれはやり過ぎだと思う。
「ギャアアアア!」
「アニジャアア!!」
「ヤメテクレ! タスケ、ギャアアア!」
「うわぁ」
目の前で繰り広げられる光景は惨劇と言って良いものだった。
真剣な顔で剣を構えて僕を守ってくれているザクロさん。
逃げ惑うゴブリンたち。
血塗れの剣を持って嬉々として追いまわずマシロさん。
そしてドン引きしている僕。
「さぁシロの可憐さを称えなさい。跪いて命乞いなさい」
「シロ様、今日も大変お美しく……」
「遅いわ」
ザシュ!
「ギャアアアア!」
「オトジャアア!!」
膝を着いてマシロさんを褒めたゴブリンが無慈悲に切り捨てられる。
ひでぇ。こいつ、悪魔だ。
「シロ、その辺りで良いでしょう。既に目標数に達しています」
「そうね、そろそろ終わらせようかしら」
ザクロさんの言葉にマシロさんが満足げに頷く。
良かった。これでもう罪のないゴブリンたちが犠牲になる事も無い。
そう思ったのに。
「でも一人だけ残されたら可哀そうだし、こいつも家族の下に送ってやらないと」
ザシュ!
「ギャアアアア!」
ああっ! 最後のゴブリンがやられた!
こいつ、発想がサイコパスで怖いんだけど!
あと血を滴らせながら寄ってくるな!
「全く、準備運動にもならなかったわね。ところでミナト、私に何かいう事はないのかしら?」
「え、うん……ありがとう。助かったよ」
やり過ぎだと思うけど。
でも僕一人じゃゴブリンを倒せなかったのは事実だし、俺はちゃんと伝えるべきだろう。
「……意外ね。非難の言葉を投げられるかと思ったわ」
「確かにやり過ぎだとは思うけど、でも僕の為なんでしょ?」
持ってきていたタオルで顔の返り血を拭ってあげる。
すると、ぷいっと横を向かれてしまった。
「勘違いしないで。助けてくれたお礼と今日の宿代変わりよ」
「え、泊ってくの?」
「しばらく世話になるわ。シロたちには帰る家がないのだから」
「それは構わないけど……」
「こんな美少女と同じ屋根の下で眠れる幸せを噛みしめなさい」
自分で言っちゃうんだ。確かに二人とも美少女ではあるけどさ。
「ザクロさんもそれで良いの?」
「ご迷惑でなければお願いします。こうやって武器を貸して頂ければダンジョンでお金を稼げますし、宿代はお支払いしますので
「そっか。それなら僕は別に構わないよ」
正直なところ、助かる話ではあるし。
三人でダンジョンに潜ってお金を稼げれば良い武器や魔道具を買えるかもしれない。
それに二人とも可愛いし。片方の中身はともかくとして。
あ、ていうか、そっか。
「ライセンスが貰えるって事はダンジョン配信の手続きもしなきゃならないのか」
「そうですね。一度ダンジョンを出て冒険者ギルドの方に行きましょう」
「分かりました!」
ダンジョン配信を始めるには冒険者ギルドと言う組合から配信機材を借りる必要がある。
映像や音を外部の受信機に送るための小さな機械で、これを通して配信を行う形になるのだ。
そして配信を見たリスナーが多ければ多い程、冒険者ギルドから配当が貰える仕組みである。
それとは別に投げ銭と呼ばれるものもあるらしいけど、上位配信者でもなければ投げ銭されることはまず無いらしい。
とにかく、ダンジョン配信さえ始めてしまえば日々の食事代くらいは稼げるだろう。
そうと決まればさっさと冒険者ギルドに向かうとしよう。
「……クロ。ミナトって馬鹿なの? 世間知らずなの?」
「……おそらくは人を疑うことの無い善人なのではないかと」
「……シロたち、自分で言うのもなんだけど、かなり怪しいわよね?」
「……お人柄なのでしょう。クロとシロにとっては有難い話です。都合が良すぎる気もしますが」
うん? 二人でなんか話してるけど……まぁ女の子同士の話を盗み聞ぎなんてよくないよな。
それよりダンジョン配信について二人は詳しいんだろうか。
手続きが終わったら色々と聞いてみたいな。
あ、それより先に買い物に行かないとダメか。
食材がもう何も無いし、しばらくうちに居るなら生活に必要な雑貨品とかもあるだろう。
ゴブリンたちの討伐報酬も出るだろうし、お金は多分大丈夫なはずだ。
「そうと決まればさっさと行きましょう。買いたい物もあるし」
「あ、そうだよね。雑貨品とか買わないと」
「それも必要だけれど、そうじゃないわ」
マシロさんは両手を胸に当てて、にっこりと優しく微笑んだ。
うわぁ可愛い。中身はともかく見た目は本当に美少女だな。
「三日間お風呂に入ってないからお風呂に入りたいわ。あと下着も必要ね」
「下着……そ、そうか」
何だかいけない妄想をしてしまいそうで、思わず目を逸らしてしまった。
いやまぁ大事な事だけど……とにかく手続きしてから街に出るとしよう。