弟への説教
親の前にとりあえず姉さんに怒られるアーロンです。
「ソフィア様、アーロン様がおいでです」
使用人がドアを開ける。
開いたドアから血の気のない顔をしたアーロンが入ってきた。
察しのいい使用人たちはお辞儀をしてすっと部屋を出る。
静かになった部屋でしばらくの沈黙が続いた後、弟が口を開いた。
「姉さん、こんなことになって何と言ったらいいか。
ご迷惑をおかけしたこと、謝ります。」
弱々しく俯き加減で謝る弟を一瞥して、私も口を開く。
「今更そんな覇気のない声で謝られても遅いのよ。
あの女には気をつけろ。せめて遊びで終わらせろ。と周りからあれだけ言われたというのに。」
「はい、姉さんの言う通りです。
でも、本当にどうしてあんなことになったのか全然わからなくて‥。
信じてください。誓って僕は浮気などしていません。」
「ええ、信じているわ。」
私の言葉を聞いて、初めてアーロンの顔が明るくなる。
「あれだけアリシアにご執心だったものね。
何でしたっけ?『姉さんと違って彼女は天使のように優しく、可憐で聡明』でしたっけ?
それが国を挙げての盛大なパーティーで、堂々と恥をかかされるなんて。
聞いて呆れるわね」
明るくなったアーロンの顔がみるみる元に戻っていく。
「姉さんのお怒りはごもっともです。
ですが、あの時の私の愚かな言動はどうか水に流してください。
そしてどうか事態の収集に力を貸していただけませんでしょうか‥」
「まあ、いいでしょう。
これ以上あなたを責めても何も変わらないし、このまま放置するわけにもいかないわ。
以前、言ったこと覚えていて?彼女にあなたの配下をつけておけって。
その配下の者に最近の彼女の言動を報告させなさいな。」
「ああ‥‥。実はその件なのですが、その者が騒動の後から姿が見えないのです‥。」
それを聞いて、思わずため息がでた。
「自分の手のものにも逃げられたということ?
私たちは自分のそばに置く者を自分で決める自由を与えられている。
将来国を背負う人間として、人を見る目を養い、適正に応じた場所に配置し、育成する技量をつけるために。
けれど、あなた本当に見る目がないのね!
そんなことなら王家直属の人間をつけるべきだったわ。」
「いえ、カラムは‥。僕が彼女につけた者は、裏切るような奴ではありません。
今姿が見えないのも、何かしらの事情があるものと。
ただいま全力で探しております故、見つかり次第、ご連絡いたします。」
姿をくらました家来をいまだに信じているなんて、呆れた奴だと思いながら、アーロンが来るまで見ていた彼女の経歴書を渡す。
「あなたがパーティーでの話を実際していたところで、あなたにメリットは何もないでしょう?
だから、彼女の自作自演でしょうけど、彼女の目的が見えないのよ。
何もしなければ、あなたの妻となって王妃となることは概ね決まっていたというのに。
嬉々として出てきた叔父様と何か関係があると思っているんだけど。」
「男爵の家は、叔父様の水路事業に一枚噛んでいますからね」
アーロンが書類をめくりながら苦々しげに言う。
「実は母様からも呼ばれていまして。姉さんと一緒に来る様にと。
どうか一緒に来ていただけませんか。」
面倒なことこの上ないが、母の言うことは絶対だ。行くしかない。
「致し方ないわね。行きましょう。あの女のせいで散々だわ。」
申し訳なさで萎縮している弟を連れて私は部屋を出た。
次は、親に怒られます。