第二話「面接と触手と社長と」
案内された通りの部屋に入り扉を閉めて一度思考を整理しようとしてみる。
「……。」
やはり少しいま見たものは幻なのかもと考え頭を冷やそうとこの部屋を一度見渡してみる。
真っ白な壁紙で少し狭い空間の真ん中に長机があり、スツールが2つ長机を挟む形で置かれている。
それもパイプ椅子や木の板の机ではなくて、少し高そうな真っ白な家具だった。
やはりここは変わっている…。昭田はそう確信した。
ずっと立っている訳にもいかないので昭田は座る。
が、突然ですがここでみんなにクイズです!
面接の時に先に入って待っていないといけない状況、ありますよね!それでは皆さん!座る位置はどこが良いでしょうか!!
まぁ、椅子や机の位置にもよりますが、基本はドアに一番近い場所、いわゆる下座に座るのが正解だと言われております※諸説あり
これで皆も面接バッチリだね!
ということで、昭田ももちろん、そんなことわか…ってはいなかった。
上座に堂々と座ったのだ…恐るべし37歳…。
そして、
コンコンコン
3回ノックが聞こえてきた、すると。
「失礼しま〜す!」と女の人の声が聞こえてきたのだ。
昭田は面接官だと思い、さっきまで曲がっていた腰を背筋をなぞられたかのように伸ばした。
ガチャ
扉が開く。
「あはは!そんなに固くならないで大丈夫ですよ!お茶をお持ちしました!」
よく見たらさっきの案內係の人…だ。少しホッとして肩の力を抜く。
「す、すみません、少し緊張しいで…あはは…」
と少し他愛無い会話を挟んだが、やはり見た目がすごい気掛かりだ。
「というか…昭田様……?席はこちらに座って貰っても大丈夫ですか…?そちらは上座で……。」
変な見た目の人(?)に指摘される日本人、なんか変な構図である。
「えっ!あ!はい!…すみません……。」
昭田はあまり理解せずに座り直した。「すみません…」は日本人、もとい社畜の癖みたいなもの、反射で出るのだ。
「やっぱりなんか少し緊張してますよね?私で良ければ少し肩でもほぐしましょうか??」
昭田はそう言われ頭の中でこう思った、「「肌の色は違うし触覚が生えてはいるが顔はなんか可愛いし、肩を揉んでくれるならなんか得した気分、」」だと。
「い、いいんですか?//なんか、気を遣わせてしまって……す、少し、ほんの少しでいいならも、揉んでもらえると助かります…、」
昭田も男だ、可愛い女の人(?)から肩を揉んで貰えるなんて願ったり叶ったりだ。
「わかりました!私、肩もみとかすごい得意なんです!昔おじいちゃんとかおばあちゃんにもやってて、今でも友達にやってほしい!って言われるぐらいなんですよ!!」
とドヤ顔で言いながら手を少し胸の前辺りでよく医療ドラマとかで見る医者が「メス」って言い出しそうなポーズを取ると…。
みるみるうちに指だったものが、手だったものが……タコの触手のような形に変わっていく…。
それはどんどんと伸びていき、目の前にある長机と比べても触手が少し長いかな…ぐらいのところまで来ると。
「では、始めますね!♡」
「いやいやいやいや!!!ちょ、ちょっとまって!!聞いてない!聞いてないよ!?手で少し揉んでくれるんじゃないの!?」
あまりにも不自然すぎる光景に昭田は反射的にツッコんでいた。
「手……ですけど…、。」
すると、コンコンコンとまたドアをノックする音がして…。
受付の彼女が「は〜いどうぞ〜」と軽い感じで言うと。
ガチャ、とドアが開き「失礼するでふ〜」と声がした。
声がした方に急いで目をやると……。
なんか、ちっちゃいずんぐりむっくりしたこれまた異星人のような生き物がそこにはいた。
この時点で昭田の思考はもう停止いていた。
「『アリア』君何してるんでふ??またお客さんの肩ほぐしという名目で食べようとしてたでふか?今回は大事な人間社員なんでふから尚更食べたらだめでふ!」
「は〜い……。『アル』さんに怒られちゃったのでここでおいたましますね〜、昭田さん!頑張ってくださいね!♡」
と言ってさっきまで出していた触手をしまい、そそくさと出ていってしまった…。
!???た、食べ!?
昭田は頭が爆発しそうだった。が、その流れのまま面接は進んでいく…。
「うちのアリア君が失敬をしたでふ…あやまるでふ…ごめんなさいでふ…。」
とずんぐりむっくりな謎の生物が頭を下げる。
「うぇ!?え?あ!はい、大丈夫ですよ!えぇっと……」
「自己紹介がおくれたでふ、面接官兼広報兼取締の『アル=ラル・アル』でふ。本日はよろしくでふ、」
「えっ!?あ!取締!?面接官!?」
そう、この変な生物こそがここの会社の社長なのだ。
昭田は面接官、取締役という言葉を聞いてすぐにモードを切り替えた、何という男だ……。
「も、申し訳ないです!自己紹介が遅れました!!昭田と申します!本日は面接のお時間を頂き誠にありがとうございます!本日はよろしくおねがいします!」
「そんなにかしこまらないでほしいでふ、少しお話する感じでやってほしいでふ。とりあえず、座ろうでふよ」
昭田はちまっこい変な喋り方をする生物、『アル』に諭されて流されるままに下座に座った。
そして面接が始まったのである。
「それじゃあ、改めて自己紹介からお願いするでふ。」
「え、あ!はい!改めまして、昭田と申します。好きな事はプログラムを書くことで、前職ではプログラマーの仕事を転々としていました。本日はよろしくお願いします。」
「ありがとうでふ。それじゃあ、質問するでふね、うちを受けようと思ったきっかけを教えてほしいでふ」
「はい、きっかけとしましては、前職がブラックだったという所です。前職はどこに行ってもブラックで、人として扱ってくれないというか…。そこで転職を決めて仕事探しの途中に御社を見つけました。御社の求人は何か他の求人とは異色と言うか、何か興味を惹かれる内容で一度面接を受けてこの会社で働いてみたいとまで感じました。それらがきっかけです。」
ちょ~っと待ったぁぁぁ!!
面接では基本転職しまくったということは自分から言わないほうが無難です!!そこを推してしまうと、あまり良いイメージが付かないから!やはり、会社の事を詳しく調べてどういうところが良いか、どういう所が自分だと活かせるのかそういうことを言うと就職への近道だぞ!!※作者は筆記で基本落ちてますが面接は褒められる事が多いので鼻を高くして言います、『あまり信用するな!』
ちまっこい生物、アルはそれを聞いたら黙ってしまった。
昭田は焦った。何かいけないことを言ったのかと、そう言えば「以上です」と言っていなかったと。
そして、昭田が「い」と発音しかけたところで。
「そ、それ本当でふか…??求人を見て来てくれたでふか??」
アルは目を輝かせていた。
「は、はい…。」
「採用でふ!あの求人頑張って作ったから嬉しいでふ!また明日からよろしくでふ!!帰りに案内のアリア君からパンフレットを貰うのを忘れずにでふ!それじゃ!お疲れ様でふ!!」
アルはそう言うとウキウキな様子で部屋を出ていってしまった。
昭田は何故か採用された。
正にカオス!!そして就職決定!!!