第十五話「天国と地獄」
カオスな空間…。
そう、アリアが投げたものは翻訳機であった。
それがないとお互いに話が噛み合わない…が、アリアはだれも手が付けられないぐらいに酔っていた。
今までにないほどに。
それに気づいた店長が舞台の黒子のような足取りで店の奥からせかせかと出てきて翻訳機を拾い上げる。
昭田は思考は回っていなかったが、何故か、突然、昭田の中に恋心と言う名の芽が出た。
昭田は酔ったアリアに、酔った勢いで言われたアリアの告白に、心の中を渦巻いていた気持ちが背中を押されたかのように。
昭田はその場に立ち上がり真剣な顔を浮かべる。
アリアはその間もずっと訳の解らない言葉を発し続けていた。
「アリアさん!!お、俺…ッ!!」
と言いかけたところで店長はすべてを察して急いでアリアに翻訳機を着ける。
これぞ有能!!
「好きです!!お付き合いしてください!!」
店長が店の奥に逃げるように去っていくのと同時にアリアは「へ?」と状況を理解していない顔をしていた。
「しょ、正直始めてみたときから少し…気になってて…な、なんていうかその…」
勢いよく言ったものの昭田は告白なんて初めてだった、どう言えばいいなんてセオリーさえも知らない。
見ているこっちが情けない気持ちになる…。
昭田が言葉に詰まっているとアリアが口を開いた。
「ご、ごめんなさい!!!」
その瞬間、店長が店の窓から覗いていたナヤが、周りの客が…その場が…凍りつく。
勿論アリアは正常だ、正常過ぎるぐらいに、昭田からの告白に酔いは完全に覚めている、しかし、昭田に返ってきた言葉は、アリアが発した言葉は「ごめんなさい」だった。
これには昭田も流石に頭が真っ白になっていた。
が、アリアは周りの空気を察してそれを修正するように続けて口を開けた。
「え、あ、いや!ち、違うんですよ!?昭田さんが嫌いってわけじゃなくって!」
アリアの慌てる様子を見ていてもどかしくなったのか窓からナヤが口を挟む。
「じゃあ、どうして「ごめんなさい」なの??」
アリアは「ナヤさん!?」と帰ったと思っていた人物が窓から顔を覗かせているのを見て驚きの表情をとった。
その間も昭田は放心状態で心ここにあらずだった。
アリアはひとしきり驚いたあと、昭田の顔を申し訳なさそうに見てナヤの質問に答える。
「私、よく言われるんです…その…。重いって…。疲れてる人がいると肩をマッサージしたりしてあげて癒やされて欲しいし、好きな人にはずっと笑顔で居てほしいんです…。」
そう、マッサージは好きになったからやるのであって誰にでもやるわけではない、だが、アリアは少し人に惚れやすい体質なのだ。
「でも、頭に過ぎっちゃったんです…。本当に私で良いのかな、って。このまま付き合ったとして、昭田さんは幸せなのかなって、このまま関係のほうが良いのかなって。そう考えてたらごめんなさいって言っちゃってて…」
アリアは過去に幾度も愛が重いと言われ突き放されて来たのだ、それがトラウマになり好きになることに疑念を抱いていた。
が、
「そんなの…関係ないですよ…。」
ずっと放心状態だった昭田がやっと口を開く。
「俺…初めて心から好きって言える人に出逢えたんですよ。アリアさんの笑顔が、声が、顔が、何もかもが好きになっちゃったんです!!」
「で、でも……。私やっぱり重いし…種族も違います……。」
「だからッッ!!関係ないッ!!」
昭田は今までにない程の大声を出していた。
「好きって気持ちに種族とか、重いとか!理由が無いと駄目なんですか!?好きって気持ち!それだけで充分じゃあ無いんですか!?」
そして昭田は両手を大きく広げ胸を張ってこういった。
「俺なら受け止められます、いや、受け止めます!重くても、肌の色が違くても何が何でも!!だから!!俺を信じろッッ!!!」
アリアはここまで言ってくれる人は初めてだった、涙が止まらなかった、ついでにナヤも泣いていた。
するとアリアは泣きながら昭田の胸に飛び込んだ。
「ずるいです…昭田さん…。」
そしてその夜、宇宙の一角の一角にある少しこじんまりした酒場では店が赤字になるんじゃないかというぐらいの祝い酒が開けられたと言う……。
そして………。
小さな町の角にある少しボロいアパートの203号室のチャイムが鳴る。
ピンポーン
その部屋の住人は昭田。
昭田は昨日お酒の飲み過ぎで二日酔い状態だったが、フラフラと立ち上がり扉をおもむろに開ける。
すると、目の前に立っていたのは知らない女性…。
いや、一度見たことがある、あの時エレベーターで出会った女性…。
「も、もしかして…アリア…さん??」
そう言うと顔の部分だけグニャグニャと変形していく。
「こっちの顔も覚えて下さっていたんですね!!そうです!貴方のフィアンセのアリアですよ!!」
アリアはにこやかな顔で自己紹介をした。
昭田はいつもの如く頭が追いついていなかったが、脊髄反射で質問をする。
「ど、どうしてここに??」
「うんと、ですね。折角なので…一緒に出勤しようかなって…来ちゃいました!テヘヘ…」
昭田は更に本件を明確にするべく質問を続けていく、この時点で二日酔いは驚きで吹き飛んでいた。
「で、でも、アリアさんって会社の近くに家があるんじゃ?」
「そうそう!そのことなんですけど、やっぱり一緒にいたいので隣の家に引っ越してきちゃいました!テヘヘへ…」
アリアが重いと言われる所以がわかっただろう…そう、行動力おばけなのだ。
「そうだ!昭田さんに二日酔いに聞く朝食作ったんですよ!私の部屋で一緒に食べましょうよ!」
その間、昭田はnowLoading中だった。
「昭田…さん…??やっぱり重かったですか…ね、…。」
常人ならここで引いてしまうだろう、付き合った次の日に一日経たずして隣に引っ越して来るのだ。
だが、昭田は母や祖母以外の異性に、家族以外に愛されたことが無かったのだ。
だから!これは必然!昭田は愛される喜びを噛み締めていたのだ!重いなど微塵たりとも思っていないのだ!!
「重いなんて思って無いですよ、なんていうか凄く嬉しいです…!愛されるってこういう感じなんですね…」
まぁ、一般的には違うが愛というのはいろんな形がある。否定はしないぞ、昭田よ。おめでとう。
こうして、昭田とアリアのホワイト企業での社内恋愛物語が始まるのであった——————。
一方アルラルでは…。
カフとペルンが鉢合わせていた。
「やぁ!ペルンくん最近よく見かけるね!」
カフからペルンに声を掛ける。
「いやぁ、最近【配信部】と【VirtualGame部】での合同企画があってね、それで。」
【VirtualGame部】とはその名の通り、アルラル内部にあるVRを基盤としてゲーム開発を進める部署のことである。
「所でなんですけど、アリアさんはどこに…?」
ペルンは少し心配した顔でカフに聞く。
「あぁ、昭田くんのところに寄ってから来るとかなんとかって聞いてるけど、聞くところによると付き合い始めたとかなんとかって」
それを聞いてペルンの顔が青ざめていく。
「え…、?付き合…??え?」
ペルンはずっとアリアのことが好きだったのだそんな反応になるのは当たり前だ。
「そそ、アリアちゃんと昭田くんが付き合ったとかって!いやぁ〜昭田くんもやるねぇ〜!」
その間ペルンはフリーズして動かなくなっていた、周りの音が遠くなるような感覚に襲われて絶望の縁に立たされていた。
「あ、ごめん!ここで悠々としてる時間無かったんだった!!アルさんに呼び出されちゃってさ!んじゃ!またね!!」
と言ってカフはペルンの前から去っていく。
ペルンはカフが去った少しあと、我に戻り辺りを見渡す。
カフが居ないことを確認すると大声で叫び始めた。
「クソぉぉおぉぉぉおお!!!なんでぇぇぇえぇぇえ!!!俺じゃあないんだァァあぁあ!名前ぇ……覚えたからなァァァ!!昭田ァァァァ!!!」
それは通りがかった事務の人曰く「うるさかった」と……。
第一部完。
どうも魔物。です!!
遂に【第一部】が終わってしましました...。
長かったような短かったような...。
昭田とアリアは無事に結ばれましたね、勢いだけの小説でしたが皆様いかがでしょうか。
案外皆様読んでいただいていて誠に感謝しかありません..。
ホントにホントにありがとうございます!!
【第二部】についてはゆっくり書いていくので少しの間お待ち下さい!!
それではまた何処かでお会いいたしましょう!!




