桜舞い散るあの日。私はもう会えない未来の娘と出会った
推理コメディなので、肩の力を抜いてリラックスしてお読みください。
私はトモミ。推理大好き19歳。今日は私が桜舞い散る中で、未来に会うであろう我が娘と出会ったお話をするわ。
◇
その日私は、目下遠距離恋愛真っ最中のタケシの部屋に新幹線で向かっていた。
東北のその地は、この時期でもまだ桜が咲き誇り、花吹雪がおこっていたのだった。
突然の来訪にタケシは驚くだろうとほくそ笑む。手には『ビックリ大成功』のプラカードを持って彼のアパートへと急いだ。
会えなくなって二ヶ月。最近では連絡も少なくなって寂しい毎日。まあ便りがないのは元気な証拠ってね。
え? 浮気? まさかぁタケシに限って。心で繋がっている私たちには有り得ないことよ。
彼のアパートの部屋の前に立ち、呼び鈴を押す。しばらくすると、ドアの向こうから彼の声。
「だれー? 国営放送なら見てないよ、ウチは」
「タケシー! ウチだよ。トモミー!」
「と、トモミ!? ちょっと待ってろ!」
ドタバタと部屋の中で音がする。
はぁ? これって、ひょっとして……。
部屋が汚いのね。なにも、別にいいのに。男の子なんてそんなもんでしょ?
ふふ。安心してよ。そういうのも片付けるのが彼女の仕事ってもんよね。
私は特殊なガムで彼の部屋の鍵を型取りして作っていた合鍵を使ってドアを開ける。
「じゃじゃーん! ビックリ大成功!」
といいながら、プラカードを上げて部屋の中に入り込むと彼は驚いた顔をして玄関まで迎えに来てくれた。
「な! なんでお前、部屋の鍵を?」
「ふふ。気にしない、気にしな──」
え? なにか変。タケシの部屋ってこんな感じだったっけ?
私はふと視線を玄関の靴に落とす。
え!? ウソ! タケシの靴の他にもう一足、春物の女性用ブーツが!
「タケシ……。この靴……」
「や、やべぇ」
まさか! ウソでしょ?
「誕生日プレゼント!? やだぁ! 私が靴欲しがってたの覚えてたのー?」
「──うん。実はそうなんだ」
「へー、やだぁ。あ、でもサイズがちょっと小さいかも。でも嬉しい!」
「あー、サイズ違ってた? じゃ店に持っていって変えてもらわないと」
「やったぁ! 誕生日七月だけど。ありがたく頂戴します」
「そ、それより急にどうした?」
「うふ。彼女が会いに来たのよー。嬉しいでしょ?」
「嬉しいです」
私は前に立つタケシを押し退けて部屋の中に。
「うっ!」
なにかがおかしい。なにかが──。
この匂いは……?
「アロマオイルね」
「そうだよ。こ、香水なんかじゃないぞ」
やっぱり。こうリラックス効果のある香りだものね。休日には身体や精神の疲れをとるべきよ。さすがタケシ。ちゃんとしてるわね。
東北はまだ寒いのであろう、こたつがある。私はそこに入ってタケシとおしゃべりしようと思ったが、あるものを見つけてつまみ上げた。
「なにこの長い髪の毛。私のじゃないわよね?」
「うっ。そ、それは──」
他の人間は騙せても、このトモミの目はごまかせないわよ。
私は目を光らせてゆっくりとタケシのほうに顔を向けた。
「たまに首とか肩にはえる長いやつね」
「そう! それ」
やっぱり。またもや大正解。いわゆるタケシのアホ毛ね。他に考えられないわよね。
私はあまりの自分の推理力の正解率に笑い、その勢いのままで後ろに倒れこんだ。
それはホンの偶然だったのかもしれない。この一間の部屋にはベッドも置いてある。そのベッドの下の隙間にきらめく片方のイヤリングを見つけた。
私はそれに手を伸ばす。大きい輪のイヤリング。明らかに女物である。
「タケシ、これって……」
「あ、アイツ──!」
「男の子だから片方にピアスつける人みたことあるけど、これは女物のイヤリングよ。恥ずかしいから隠してたのね」
「全くその通りです」
やっぱり。勢いで買っちゃったけど、全然違う代物ってことよくあるじゃん?
ドジだなぁタケシわぁ。
私たち二人は一緒に笑った。恋人同士ってこういうことじゃん?
「あ、トイレ借ーりよっと」
「あ、どうぞどうぞごゆっくり」
私は廊下のほうにあるトイレに向かった。ユニットバスでお風呂とトイレが同じ部屋のやつだ。そこで私はあるものを見つけ、それをふん捕まえてタケシのもとに。
「タケシィ! この二本の歯ブラシ!」
「ううっ! 見つかった!」
「あなた、双獅子歯ブラシ二刀流の使い手ね!?」
「紛れもなくその通り。まさか見破られるとわぁ~」
ふっ。他の連中の目はごまかせても私の目はごまかせない。まぁその二刀流がどういう効果をもたらすのかは知らないけどね。
ゴトリ。それは突然だった。私たちの和気あいあいの雰囲気を破った音に私は気づいたのだ。
クローゼットの中から。
ちょっと待って。考えてみればおかしいわ。誕生日でもない日に誕生日プレゼント。部屋に充満する香り。艶のあるアホ毛。女物のイヤリング。二つ並んだ歯ブラシ。そしてクローゼットの音。
「謎は……解けた」
「こ、こいつはまずい……ッ!」
「猫ね? ペット禁止の部屋で猫の飼育は見られたらまずいから、クローゼットの中で飼っているのね!」
「イグザクトリー」
なんかいろいろ頭によぎったけど、結果は猫だったわ。うん。それしかない。
だがしかし、こんどはそのクローゼットから、バランスを崩したように女の人が転げながら出てきた。
え──ッ!
なんかいろいろいってたけど、結局、やっぱり、真実一つ、パイオツ二つ。そういうことなのね!!?
「タケシ。この女……!」
「うわぁ、これはさすがに──」
「未来から来た、私とタケシの娘のエリカに違いないわ!」
「Oh! ワタシはナンシーといいマス。ナンシー・ブラックメン」
「エーーーリカだ。間違いない! そーか、そーか、未来から来たのか~。はっはっはっは」
やっぱり。遠い未来から私たちに会いに来たんだわ。こんなに金髪の青い目になっちゃって。グレたのね。タケシのせいだわきっと。だって私、いいお母さんになるはずだもの。
「ささ。ナン……エリカ。もう未来に戻る時間だろ。帰りなさい」
「タケシ、これはドーいうことですか?」
エリカはタケシに促されて、部屋から出ていった。もらった私のブーツを履いて。ま、いいか。娘にあげたと思えば。
タケシはエリカを送り出すと、大きく息を吐いて、額の汗を拭いながらこちらにやって来た。
「いやー、すごい。トモミの推理は全問正解だな。天才だ。探偵になったほうがいいよ」
「うふふ。まーねー」
「こんな頭のいい彼女をもってオレは幸せだよ」
「ふふ。こんなのも知ってるのよ。1192年、家康の乱」
「……マジかよ。すげぇ!」
ふっ。どうやら完全に私の頭のよさに感動したみたいね。将来は大統領間違いなしだわ。
◇
しかし、その後私たちはエリカと会うことができなかった。なぜなら、三ヶ月後にタケシと別れたからだ。
五ヶ月前のコンパでいい感じになった人と付き合うことにしたからだ。
ごめんね、エリカ!
こんなママを許してね!