94 収納させてくださいな
ウィアと話した夜が明け、朝食の席にはいつもの四人が集まった。
まあそうなるよね。
文句があるわけじゃない。
わたしとウラさん、インゲルスさんと無口さんで朝食を摂りながら、昨夜の事を報告する。
話したのは主に、先日わたしが死んで生き返ったあたり。
あの時の【浄火】が、わたしに使える【蘇生】の魔術に相当してたこと。そして魔石を破壊して魔獣を倒したのが、同じ魔術の【状態異常解除】の効果だったと言う事。
そうすると、魔獣の魔石って魔獣にとっては異常な状態なのか……。
状態異常が解除されると、今度は生きるのに必要な部分が足らなくなって死んじゃうとか、悲しい生き物だね。
それと、わたしの【蘇生】魔術段階の【浄火】とは別に【蘇生】という魔術はあるそうなので、研究するならそちらを目指す方が難易度が低いだろうということなどだ。
遠回しなうえ、具体性が乏しいなぁ。
まさか【浄火】が【復活】の前段階とは言えないしなあ……。
あとはダンジョンと魔獣の正体。
ゼーデスではダンジョンが魔獣を産んでいるのは、周知の話だった。
この国を建国した勇者さんの事があるので、とてもよく知られているらしい。
ただダンジョンが宙から落ちてきた宇宙生物という話は初耳だったようで、惑星、恒星、衛星の関係なんかから説明する羽目になった。
天動説と地動説があるのは元の世界と変わらないけど、地動説は実証されていないらしい。
大地母神自身が「地動説の世界」だって言ってるんだから、まあ間違いないでしょう。
インゲルスさんが「螺旋の連なりですか……」とか呟いていたけど、わたしへの質問じゃなかったので触れずにおいた。
螺旋? 星の軌道って、円とか楕円だったよね……。
最後に治癒関連。
水中で呼吸するために風属性で肺に空気を生み出すつもりがあるなら、今のような威力重視の育成方法を、魔力の精密制御重視に変えること。
破裂した肺を治癒するなら、肺の構造と役割を理解してから、それが元の状態を取り戻すように想像しながら治癒魔術を使うこと。
他の臓器や骨や脳と神経、血管も同じで。
つまり人体解剖の知識を増やして図や模型に記し、効果的に治癒して行こうという事ね。
皮膚や筋肉だけ治しても、根本的解決にならないもんね。
それでも治しちゃう魔術士さんはいるそうなので、治癒魔術の進歩というのも凄いんだけど。
おまけで血液型についても教えておいた。
性格判断じゃないよ。AとかBとかOとか+-とかのアレだ。
もちろんウィアの世界の人にどんな血液型があるのか知らないし、種族間の違いについても分からない。
あくまでわたしの元の世界で、猿を基に進化した人類だけが暮らしている世界の例としてね。
保健体育のレベルだけど、知らないよりも知ってた方が良いよね……。
ウィアが人形ヲタな事とか、四億年以上前からこの星にいるとか、ウィアが森精族の親玉だなんていう話は黙っておいた。
ウィアは気にしないみたいだけど、インゲルスさん達にはショックが大きそうな気がする。
偶像の私生活なんて、知らない方が幸せだよね。
気づかい気づかい。
それでも知りたいと言うコアなファンは……割と沢山いそうだし目の前にも一人いるけど、この場合はウィアの側の幸せのために知らせずにおく。
ウィアは気にしないとしても、マヌエラさんたち森精族の方々に迷惑かかりそうな気がするから。
わたしの事についても、新たに分かった部分については黙っておく。
わたしの適合属性が“光”と“闇”属性だとか、この体の具体的な性能なんてところだね。
そしてようやく今日の予定のお話しをして。
「本日10刻に北東外壁門の外ですか。やはりと言いますか、予定通りとは言え、なかなか慌ただしい御出立でございますな。もう少しゆっくりして頂きたいところでございますが、大地母神様のお達しとあればお引き留めも叶いませんか」
よし、計画通り。
わたし的にこの街は、周りの様子が分かるようになった辺りから、けっこう居心地が良くなっていた。
神殿の皆さんや宿の女将さん、冒険者ギルドの職員さんたちのお陰だね。
だからこそ、早目に旅立たないと。
長くいると引き止め力が強くなって、足から根っ子が生えちゃいそうだ。
あれ? これ引力じゃん。
「ありがとうございます。それで旅立ちに当たってウィアから『通過国の地図や地勢について書かれた書物を見せてもらっておきなさい』と言われたので、お勧めのものがあれば何冊か見せていただけないでしょうか」
「お見せするのは構いませんが、出立までの短い時間で何冊も読むのは大変でしょう。よろしければお持ち頂いて構いませんよ。収納であれば嵩張ることも有りますまい」
おおぅっ、わたしがウィアの使徒だからっていう事なんだろうけど、太っ腹だねインゲルスさん。
お腹はぜんぜん出てないけどね。
とは言えきっと貴重だろう本をもらっていくのは、大変心苦しい。
返せる当てなんて、全っ然ないんだから。
仕方がない、収納と地図作成スキルの事は話そうか。
「いただいてしまう必要はないようです。わたしの収納と地図作成スキルは、どちらもウィアからの贈り物だそうで、収納した物が本のような情報を記した媒体な場合、一度収納すれば取り出し後も情報が見られるそうなんです。今回見せてもらおうという話には、それを確かめることも含まれているんですよ」
「なるほど左様ですか。さすが大地母神様、大した性能でございますな。承知いたしました、では少々お待ち下さい……」
そう言った総祭司長さん、その場でサラサラとメモ書きを始めた。
ええっ、そんなことを言われて、この場で宙で表題が書けるの!?
何と言うか、やっぱりこの人凄いなぁ。
そしてわたしに渡されたメモには七つの書名が書かれていた。
そして一番下の一行だけが、別扱いのように離されている
「上の六冊は、この神殿の書庫にて閲覧可能です。書庫の司書にそれをお見せください。最後の一冊ですが、以前は収蔵されておりましたが現在は読む事が適わない書物です。ですがゼーデス王国とクワン神国の間にあるその区域について記された書物は、私の知る限りその一冊のみですので、名前だけでもと載せました。もしどこかでその名を聞く事がありましたら、一読されることをお勧めいたします。可能でしたら、その所在をお知らせ願えますか。冒険者パーティー“またり”の資金には、その本が二冊購入できる程度の金額を蓄えておきますので、もしその時ミユキ様がお手透きのようでしたら購入しておいていただけますと大変助かります」
稀本の類なのかな。
“またり”の資金って、冒険者ギルドのパーティー口座の話だよね。
古い本や珍しい本って時々とんでもない値段になるって月那が言ってたけど、それの二冊分と言う額が多いのやら少ないのやら、ぜんぜん見当がつかないや。
まあいいか。
買えないようなら手付けだけでも良いし、最悪所在を知らせるだけでも良いみたいだから。
大体そんな稀少な本に巡り会うなんてことは、ないよ。
うん。
受け取ったメモの最後には、『森精族の里 探訪記』と記されていた。
†
朝食とお話が終われば、すぐに書庫へと向かう。
案内してくれるのは、もちろんウラさんだ。
書庫に入ると、うわっ、本だらけ!
当たり前なんだけどねー、おっきーねー。
「こちらのミユキ様に、この本を収納させて差し上げるよう、総祭司長様から下知を賜わりました。最後の一冊がここに無い事は伺っております」
と言って、インゲルスさんのメモを司書の人へ渡すウラさん。
わぁ、なんだか改めて言葉にすると、とっても奇妙なことをしようとしている気がしてきた。
「巫女様。収納させて差し上げるのですか? 一体どのような……」
疑問ですよね。良ーく分かります。
どうしようかな……。
というか、ウラさんって神殿内では『巫女様』って呼ばれてるんだ。
「試し、とだけお知らせしておきます。詳細が必要でしたら総祭司長様に確認を取って頂いて構いませんが、時間はありません。直ちに走って下さい。それと、収納計数器は装着いたします。もちろん持ち出しは致しません」
ああ、冒険者ギルドでも使った収納計数器があるんだ。そりゃ大事な本を持って行かれたら堪んないよね。
だから着けるのはまったく問題なし。
「計数器を着けていただけるのでしたら構いません。それではこちらをお願いします」
お、良いみたい。
腕飾りのデザインが、ギルドの物より少し細身で華奢な感じだ。
それを装着し終えたら、近くの閲覧机で待つと、じきに本がやってきた。
それを一冊ずつ収納、そして取り出す。
あっという間に六冊を収納し終わって、作業終了。
「どうですか?」
「うん、バッチリだよ」
なんの問題もなく収納できた。
内容の閲覧もできる。
さすが大地母神様からの贈り物だね。
性能に瑕疵なしよ。
最後まで狐につままれたような顔をしていた司書さんに、ちょっと申し訳なかったな。
よし、次は冒険者ギルドだ。




