93 旅立ちの朝
『私たちも空間知性に進化してから発見したのですが、世界は媒体に満ちています。そして私たちにも媒体は付いていますし、生物に付いていない媒体はさらに多く存在しているのですよ』
へー、そうなのか。
ウィアたちにも付いているんだ、その媒体っていうの。
『はい。不思議なのは生きている者にはすべて媒体が付いていますが、脳と媒体との接続が断たれたからと言って、その個体に異常が出たりしない事ですね。私たちでしたら演算領域ですが』
媒体が外れても、死んだり寝たきりになることもないの?
魂なら抜けた後の体は動かなくなりそうに思えるけど、媒体って体との繋がりが切れても、体は死なないのか。
「そうなんですよ。死亡後に媒体は体から離れますが、生きた体から媒体を外しても体に変化は生じないのです」
ちょっと、生きた体から媒体を引っぺがしたの!?
なんだかめちゃめちゃ危ないことしてない?
「我々が空間知性へ進化した際、最初に認識したのが自分たちに付いている媒体でした。ですので寄って集って調べたのですよ、「これは何だ!?」と。勝手が分からなかったこともあり、それまで認識していなかった自らの媒体の分離を試みる先達もいまして……」
やっぱりウィアの同胞だね。
なんか納得いったわ。
「何か納得いきませんが……、そんな理由で我々と媒体の付き合いは長く、取り扱いの要諦もたっぷり蓄積されているのですよ」
なるほどね。
それでわたし達の体はウィアが用意して、記憶と人格を元の世界から持ってきたってことか。
『そう言うことですね』
記憶と人格って、何をどういじって持ってきたの?
『記憶と自己意識ですね。記憶の方は中枢神経系全体の内部情報を、こちらで作成した脳へ丸ごと複写しました。自己意識は記憶と媒体の相互作用により発生していますので、ミユキ自身の媒体をそのまま使っています』
わたしの媒体持って来ちゃったの!?
元の体は……媒体無くても……無事なのか。
『そうです。媒体が無くても死んだりしません。そもそも向こうへ戻る際には、媒体を外した次の瞬間へ戻ります。ですから媒体が無い時間そのものが、存在しません』
うわー。安心したような、ややこし繋がりになってるような。どう受け取ったらいいんだろう???
『少々混乱させてしまったようですね。話の続きはミユキが二人と合流した後にしましょうか』
うん……、そうして。
†
『それでは目を覚ます前に、一つ助言をしておきます』
なんだろう?
『先ほども話したように、地図のような記録された情報は、見るだけで情報が収集できますが、一度収納する事でまとめて情報収集することが可能です。目覚めたあと時間に余裕があるなら、図書館のような場所で必要な本を収納しては戻し、使えそうな情報を集めておくと安心でしょう』
収納しては出す……。傍目にすごく変な事をしている人に見えそうだ。
『そうかも知れませんね。ですけど神殿でしたらその心配は要らないのではないですか』
そうかそうだね、神殿なら「ウィアにそう言われた」で済みそうだね。
冒険者ギルドの資料室だとそうは行かないだろうから、あっちなら速読っぽくめくらないとだけど、やれそうかな。
ドロスさんはそう言う情報は持ってないの?
『ドロスはドロスで情報を持っていますが、記録でなく記憶ですので共有は少々難しいかと思われます』
なるほど、ドロスさんとはぐれた時を考えて騎乗免許を取ったんだから、情報もしっかり自分で確保しておかないとね。
ありがと、ウィア。
『どういたしまして。それではドロスとの待ち合わせは、何時、何処でにしましょうか』
あー、神殿から外まで近い門っていうと、“北東外壁門”か。
時間は……、ドロスさんって時計は持ってるの? 地図作成スキルに付いてるような時計。
『持っていますよ。使っていないそうですが、今回は使ってもらいます。それと“時計”は“時計”だけ呼び出してやれば、地図とは別に単独で表示出来るようになります』
ホント? それは助かるなあ。
いい情報をありがとう。
『どういたしまして』
じゃあ時間は……、10時で。
『分かりました。ゼーデス王国“北東外壁門”外で“10:00”に待ち合わせですね』
そうだね。
『では今日のところはこれ位にして、次はクワン神国で会いましょう』
了解。
じゃ、クワン神国のクワン神殿で───。
†
目が覚めた。
地図の時計を……じゃなくて、“時計”を表示。
朝の5時を過ぎたところか……。
朝一番で魔獣を狩りに行く時よりもゆっくりした朝だ。パンを焼くのと較べたら、比較にならないくらい遅い。
わたしったら、ウィアの世界へ来てからも早起きだね。
さてと、隣のウラさんは……、居るじゃん。
「お目覚めですか、ミユキさん」
「ウラさん、おはよう。今日は行に行かなかったの?」
「おはようございます。『本日は行をお休みして、ミユキ様のお目覚めを待つように』言われました」
む……。
「“さま”に戻ってる」
「いえ、それで総祭司長様の仰った台詞の通りなんですよ」
ウラさんの方を見ると、ちょっと悪戯っぽく笑った顔がこちらを見ていた。
ふふふっ。
「ウィアとの話は無事に終わったよ。発つ前にいくつかする事が出来たんで、早めの朝ご飯をお願いできるかしら」
「分かりました。直ぐに用意いたしますね」
言うが早いか、ウラさんは寝間着に羽織を羽織って部屋を出て行った。
わたしも起きて、身支度だ。
あぁ、朝一番でご飯を催促しちゃったよ。
なんだか“腹ぺこキャラ”が板に付いてきてないか? わたし(がくっ)。




