91 そもそもの話だけど……
『私の品性云々は置いておくとして……』
置いちゃうんだ……。
『こほん……、その体の件以外にも、何かあったりしませんか?』
あるよ。
魔獣って一体何なの?
前回聞きそびれたんだけど、基本元の世界と同じなのにやたらと大きく育っていたり凶暴だったり、たまにゲームやお話の中にしかいないような生き物が出てきてた。
SNFと繋がった世界だって言われればそれまでなんだろうけど、なにか理由があるのかなって思って。
『魔獣は、ダンジョンが産んだ拡張生物です』
ダンジョンが、産んだ?
産んだって、ダンジョン生きてるの? 生き物なの? でも種族が……アレ?
『生きていますよ。ミユキたちとは発生の系統も機構も異なりますから、炭素系生命一種類だけを認識しているあなた方の生物の定義には当てはまりませんが』
じゃあ、ダンジョンの魔獣が死ぬと消えちゃうのは?
前に会った日の昼間ダンジョンに潜ったんだけど、死んだ魔獣が消えちゃったのよね。SNFと同じに。
それで「ここはゲームとそっくりな現実なんだ」と思ったら、翌日、グラニエ平原で魔獣を狩ったときは死体が残ったんだよね。
周りの人は「そう言うものです」って言うし、理由はよく分かっていないようだし、魔獣を産んだのがダンジョンだとしても、この差っていったいどう言う事なんだろう?
『まずダンジョンですが、あれはこの惑星の生命ではありません。別の星系からやってきた鉱物系生命で、活動形態としては植物に近いものです。相当に古い種族ですね』
別の星系!?
それって、前に言ってた“外来のウィルス”って言うやつ?
『いえ。無関係ではありませんが、今回の依頼の目標ではありません』
そっか。
ごめん、話の腰を折っちゃって。
『いえ、問題ありません。それでダンジョンですが、星間空間を旅して惑星や小惑星に落着した後はその土地へ根付きます。花粉や胞子が飛ぶようなものですね。そしてその場で利用出来るものを使いながら、同種を増やすために活動しますが、この惑星においては地脈と水脈を利用して体を維持しています』
えーと、体の維持に地脈と水脈を使うって、ダンジョンのご飯が地脈と水脈ってことだよね。
じゃあダンジョンの人食いって何の為なの?
『無くても問題ありませんが、あればより効率的という事のようですね。気体も液体も存在しない岩塊に落着した場合は、もっと受動的な活動形態になります。それと捕食するのはヒトばかりでなく、他の動物や小動物なども等しく対象です』
そうか。
ツェルマートのスニヤドは街中で囲われているから人間しか入らないけど、ダンジョンが人里離れた場所にあれば、キツネやタヌキが出入りするわけか。
『そう言うことです。実際ゼーデスのダンジョン・スニヤドは、以前はヒトの居ない荒野にありました。そこで魔獣が増えているのだと判明したためにヒトが討伐に集まって来た経緯があります』
その頃に入った四つ脚の獣が魔獣になった。
そして人間がわざわざダンジョンへ集まって来て街ができ、国まで興ったっていうことか。
『そう言うことです。それでその時外で増えていた魔獣ですが』
そうだった。
『種を蒔いていましたね』
種蒔きぃ!?
あ、繁殖か。
『そうです。動物というのはその名前の通りよく動きますから、ダンジョンの種を運ぶのに適していたのですよ。魔獣はダンジョンから離れながら、元になった動物の生態に従って行動しますが、すべて肉食で、捕食対象は魔石を持たない動物全般です』
迷惑な話だなあ。
『そして死んだ魔獣の体からは魔石が落ち、それがダンジョンの種となるのです』
魔石って、ダンジョンの種だったの!?
『はい。発芽の確率はそれほど高くありませんが、それでも既にそれなりの広がりを見せています』
うーん、ほっといたら世界中ダンジョンだらけになっちゃいそうだね。
『実際にそうなった惑星もありますよ』
あるんだ、そんな世界が……。
『はい。少し興味深いのは、魔石で遺伝子を拡張・強化していることですね。しかも魔石によって簡単な意識操作をしていますから、“魔獣”という統一した種として本能じみた行動を取るわけです』
本能ってどんな?
『親ダンジョンからなるべく遠くへ離れる。それと魔石を持たない動物を感知して、“餌だ”と認識させること事です』
うわー、いやらしいな。
『効果的ではありますね。しかも魔獣は同種の魔獣と交配して子孫を設けますが、その場合は子にも魔石が引き継がれます』
魔獣の子は魔獣なんだ。
『はい。遺伝子部分は元のものをそのまま使い、拡張部分を魔石が持つ情報が担う交雑種になっています』
これは駆除が難しそうだ。
あれ? でも“魔石”って属性化して色んな用途で使っているって、冒険者ギルドで言ってたよ。
ダンジョン内で残った魔石も、外のものと同じに売れるみたいだし。
『ええ、魔石は魔力が結晶化したものを素材としています。言ってみればエネルギーの塊ですからね、現状は石炭や石油の使い方を見つけた場合と似ているでしょう。それで子に引き継がれた魔石は元になったダンジョンの特徴を持ち、肉体と共に成長します。つまり魔獣は、魔石によって親ダンジョンの特徴を引き継ぎ、周囲の魔力を体内で結晶化する能力を持っているという事です』
そのまんま遺伝子じゃん。
『役割としてはそうですね。ですから魔獣は誕生の時点で潜在的に魔力を扱う能力を有し、個体によっては魔術まで使うようになります』
魔術を使うの?
『ええ。多くは身体強化の域に留まりますが、元になった動物の技能を拡張して、独自種と言える所まで変化した、魔術すら使う種類も居ますよ』
例えばどんなのがいるんだろう?
『多いのは“地属性”を使う魔獣ですね。体表を硬化させたり、【粘土弾】や【石弾】【岩弾】を撃ってきたり、踏み切りを強化して自分が高速で跳んでみたり、高い天井から石筍を投下してきたりもします。あとは地上型の魔獣なのに“水属性”魔術で水中に潜んだり、水面を走ってきたりもします』
水面を走れるのはちょっといいね。
『そうですか? 意外です』
池や川があっても濡れずに進めるじゃない。
『ああ、猫ですものね』
あれ?
†
『それで、死ぬと消えてしまう魔獣ですが』
そうそう、それ。
『ダンジョンが回収しています』
は? 回収??
『そうです。ダンジョン内で倒された魔獣は直ちに魔力へと分解され、次の魔獣を産む資源としてダンジョンに回収されます』
はー。死ぬと消えるのは、魔獣のリサイクルなんだ。
『そうですね。先ほど肺に直接空気を産む話をしましたが、その時何もない所から物質を産むことは可能でも、薄く散らばっていてもそのものが集められるならその方が効率が良いと話しました』
そうか、ダンジョンが魔獣を生成する逆、還元をやってるのか。
『その通りですが、さすがに独立した生命体を作るとなると、近い素材を変成するだけでは上手く行かなかったようです。それに回収速度を重視している様子で、最終的には魔力にまで分解するようになりました。その為の仕掛けを組み込んだ上で。むざむざ散逸させるのが勿体ないのでしょうね』
わーい、もったいない同盟だ。
って言うか、見てきたように言うね。
『見てきましたよ。あのダンジョンがこの惑星へ落着したのは約四千年前。私がこの惑星で樹祖の一族と契約したのは、その十万倍ほど前の話ですから』
“じゅその一族”?
はっ?!
えーと……、四…億年…前!?
『樹祖の一族と言うのは、私と契約した植物系種族が今はそう呼ばれているのです。四億年前というのは、その交渉のために私(対人接続部)が分離生成された時期ですから、本体の着任はさらに少し前になりますね』
遠い!
遠すぎる昔話だ!!
まだ人間、生まれてないんじゃ無いの?!
『それほど昔ではありませんよ。この惑星の年齢からすれば、直近の十パーセントに過ぎません。ヒトが発生する前ではありますが』
うわー駄目だ、頭がクラクラしてきた……。




