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90 アレとコレ         


 先が見えすぎるって言うのも考えものなんだね。

 ウィア(あなた)の未来記憶七日分……って、あれ?


『どうしました?』


 目の前のあなたはウィアなんだよね?


『そうですよ。見た目は映像ですけど』


 それで姿を見せていない本体がいると……。


『そうですね。姿は同じく映像ですけど』


 前に神殿へ託宣たくせん降ろしたのってウィアなの? それとも本体??


『私ですよ。本体に認証された行程ロードマップに沿って、私が実施しました』


 そうなんだ。

 で、その姿を見せていない方もウィアじゃないかな? ってつい気になったもんだから……。


『あー、そうですね。私は代行処理エージェントタスクで構成された対人接続部ヒューマンインターフェースですから、普段は自律活動をして一定期間ごとに本体と情報をやり取りしています。従って通常は本体が直接私を操作することはありませんが、それが出来ないわけではありません。ミユキが気になるようでしたら、直接操作を要請リクエストしましょうか?』


 えっ?

 う──ん……。

(ウィアの本体か。この気さくでオタクなウィアはフレンドリーだから普通に人と話している感じだけど、中身ってどんな性格なんだろ……)


『悩み事ですか? 対人接続部(わたし)が話すにせよ、本体が直接操作するにせよ、対人接続部(わたし)を通さなければミユキとの意思疎通(コミュニケーション)は計れないのですから、現状と何ら変わるところはありませんよ』


 う───ん……。

(なんだろう。素直に信じると、どつぼにハマりそうな予感がするんだけどな……)


『大丈夫ですか? そんなにうなって』


 う─────ん……。

(あっ、順番が逆なのか。本体が人形ドールオタだから、このウィアがこうなったって事かな。それなら…)


『そんなにうんうんうなっていると、起きたら寝小○ならぬ寝大○しちゃってます…』


 ちょっと、ウィア下品!


『そうですね。少し見ない間に、ちょっぴり下品になってしまったようですね』


 えっ?

 あーっと…ウィア?


『はい、私がウィアと呼ばれている者です』


 ふわっ、本体の登場だ……。


『はい、ご挨拶が遅れましたが、私が本体です。私の対人接続部ウィア粗相そそうをしたようで申し訳ありません』


 そそうだなんて、とんでもない!

 彼女前に地上へ降りていたんですってね。人と話しているのと全然違いがなくってびっくりしました。

(ぜんぜん威圧的じゃないのに圧迫感すごい。なにが「現状と何も変わるところはありませんよ」よ、天と地じゃないの)

 さすが空間()知性()の本体。


『この対人接続部ヒューマンインターフェースは過去の類似資料(データ)から生成した一般手順ルーチンではなく、最終的に地上へ降ろして仕上げを(フィニッシュアップ)した分身アバターなので、お気に入りなのですよ』


(やっぱり! “子を見れば親が分かる”だった!)

 “思い入れ”があるんですね。

 わたし、あれくらい砕けた態度の方が(肩が凝らなくて)好きなんで、全っ然問題ありません。


『そう言っていただけると助かります。不快なようでしたら修正を入れようかと考えていましたが、よろしいのですか?』


 ぜひとも今のままでお願いします。


『分かりました、改めてミユキさんのご協力に感謝します。それでは話の流れについては問題ないようですので、私は失礼して後は対人接続部ウィアに任せることに致しますね』


 ふわっと圧迫感が消えた。

 ふう、アレとコレが同じってことはないでしょう……まったく。


『アレとコレ?』


 あ、コレが戻って来た。


『私? で、どうでした? 少々いきなりでしたけど、違いなんて無かったでしょう?』


 いやいや大分違ってたよ。

 いやでもウィアの人形ドールオタクな部分が本体由来なのが分かったから、ある意味同じだったのかな……。


『良く分かりませんね。一度ミユキの深層意識と直結コネクトしてみましょうか』


 こらこらこら、他人ひとの深層意識を気軽に覗くんじゃない。


直結ダイレクトコネクトした方が、情報データの落ちも無くて話が早いんですけどね』


 本体の人形愛はウィア(あなた)と同じだったけど、存在感は段違いに大きかったってことよ。


『存在感って、そんなに違いましたか?』


 ぜんぜん違ってた。

 丁寧に接してもらっているのが分かるのに、それでも感じる圧力がハンパじゃ無かったもん。

 蕩々(とうとう)と流れる、大河の底に立ってるみたいだったよ。

 神殿に託宣を降ろしたのはウィアだったって言うけど、実は本体が操縦してたんじゃないの?


『そんなことはありませんよ。あれは私がやりました』


 じゃあ何であの圧力が感じられなかったんだろう?

 いまの本体降臨の間、ウィアはどう感じてたの?


『意識は連続していますが、映像からだの制御が効かなくなり、一歩引いた場所からミユキとの意思疎通コミュニケーションを眺めている感じでした。前に行なった時と変わりませんでしたよ』


 一歩引いた感じねぇ。

 それって苦しいとか、違和感とかはないの?


『ありません。だいたい普段私が自立活動しているとは言え、根は同じ存在なんですから。ミユキが感じた圧力を私が感じなかったというのも、それが原因かも知れませんね』


 と言うと?


『最初からそう言う仕組みになっている、かも知れないという事です』


 最初からその状況で、感覚が遮断されているって事?


『抑制でしょうね。生物の神経は体の隅々まで満遍なく行き渡っているわけじゃありません。爪も髪も表皮にも感覚神経はありませんし、内臓の多くは求心性自律神経があっても遠心性運動神経はありません。有名なところですと、心臓の鼓動は自分で止められないとか、自分の匂いは自分で分からないというものです。その体もミユキの本体もそうですが、至近しきんにある自分の匂いが他と同じに感知できると、それに覆い隠(マスキング)されて他所よそにある危険を嗅ぎ分けられなかったりするためそうなっています。心臓の鼓動が止められるのは、考えるまでもなく困ってしまいますから、それと同じじゃないですかね』


 私の本体……。

 つまり、人が自分の匂いをよく分からないのと同じで、ウィアは本体の存在感に鈍感になっているということか。


『たとえばの話ですけどね』


 いえ、なにも無いならいいのよ。

 本体さんがウィアの下品な部分を修正しようかって言い始めたから、ちょっとビックリしちゃっただけだから。


『あ、ツンデレさんだ』


 ツンデレちゃうわ!

 ウィアがちょっと下品で修正する必要は感じたとしても、それはウィアの個性なんだから尊重しないとって思っただけだから。


『ありがとうございます。ですがヒトだって生まれてから死ぬまでずっと同じでいる訳ではないでしょう? ミユキも今のミユキと十年前のミユキは同じではないですよ』


 それは、そうだけど。


『知識を増やし、感性を磨き、経験を積んで自分を拡張していく。そうして更新(アップデート)を繰り替えしていく事が、成長するという事です』


 そうだね。


『子供のままで変わらない、変われないというのは発達障害の症状と言えます』


 そうかもね。

 でも、子供の心を忘れないのは大切だなんてことも言うね。


『物心ついてからのことをすべて覚えていることは出来ません。脳の処理能力を超えています。ですから大抵の人は、古くて優先度の低いものから順に忘れていくのです』


 悲しい話だ。


『限られた思考資源(リソース)を有効に活用するための仕組みですから、大切な機能とも言えます。問題になるのは、大抵のヒトが経験を具体的なまま記憶したいと考えている所なんですよ』


 どういう事?


『古いものまで暗記するように総て記憶しようとすれば、溢れ出(オーバーフロー)してしまいます。あふれた結果、過去は忘却の彼方へと流れ去り何も残りません。ですからこの場合は、一手間かけて圧縮するのが肝要かんようなんです』


 圧縮?


抽象化ちゅうしょうかとも言います。抽象化により圧縮した印象(アイコン)から、連想パスを通じて長期記憶の内容に接続アクセスできるよう整えておきます』


 そうすると、昔のことも忘れずにいられるの?


『忘れますが、切っ掛けひとつで思い出すことが出来るのですよ』


 ほー……。


『その結果、年齢を重ねただけの子供にしかならない所を、幅や厚みを増した大人になれるという理由わけです』


 へー、凄いねウィア。

 人生相談ができるじゃない。


『うふふ、もっと褒めてくれていいんですよ。ある時期以降の惑星ほし丸ごと分の情報データがありますし、さらに多くの記録レコード接続アクセスすることも出来ますから、これくらいは朝飯前です』


 でも問題ないのなら、もう少し品性ひんせいを養った方が好みかな。


『はうぅ、……善処します』




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