9 鑑定
確かに隣の部屋でした。
でも教室三つ分くらい廊下を歩いて、突き当たりのT字路を右に折れるまで扉が一つもないとは思わなかったな。
ここってそんなに広いの?
天井にある溝から光が落ちてくる、窓もないのに意外と明るい廊下を右に折れた先は広く、すぐに両開きの大きな扉の脇にたどり着いた。
先ほどまでいた部屋は、この扉の反対側にあるわけね。
インゲンさんが懐から鍵を取り出して扉を開け、人が通れるほどの隙間を保持してくれる。
中に入ると、中央の天井から光が降り注いでいるため、中の様子はよく見えた。
この上は屋上なのか。
正面に祭壇がある広間になっている部屋には、神殿という言葉で連想されそうな神の像は見当たらない。
ウィア様の姿が見られるかもと密かに楽しみにしていたので、ちょっぴり残念かな。
最後にウラさんが中に入ると、壁などに付いている照明器具を灯して回り、左手にある扉の向こうへ行ってしまった。
へえ、ロウソクやランプじゃないのね。ゲームで魔石灯って言っていたやつかしら。わたしも点けてみたいな。
「ここが復活の間でございます。
昨夜、あの祭壇の前で気を失っていらっしゃるミユキ様を、ウラが就寝前の見回りで見つけました」
げっ。わたしここで寝てたのか。
石の床で寝てたら風邪を引きそうね。
だいぶ長い距離を運んでもらったみたいだし、ウラさんありがとう。
「鑑定器はこちらでございます」
とインゲンさんは、ウラさんが入っていった扉へ向かった。
部屋の中にはグランドピアノくらいある大きさの物が置かれていた。
これが身上鑑定器? ずいぶん大きなものなのね。
確かにこれは動かせそうにないわ。
「これが当神殿の身上鑑定器でございます。
なにぶん古いものなので少々大仰ではありますが、能力については折り紙付きでございますのでご安心ください」
そう言ったインゲンさんは、鑑定器の脇へ寄って操作を始めた。
「準備が整いました。では……」
「インゲルス様。先に私が」
あら珍しい。ウラさんが口を挟んできた。あとインゲンさんじゃなかったのね。てへっ。
インゲ…ルスさんは少し訝しそうな顔をしながら、
「そうですね。まずはこちらが一度使ってみた方が、ミユキ様も安心して使えることでしょう。ウラ。それではあなたが使ってみてください」
と言って、ウラさんを促した。
ウラさんが頷き身上鑑定器の上で透明になっているパネルに手をかざすと、パネルが一瞬ふわりと光った。そして横に付いているパネルに文字が浮かび上がる。
【名前】 ウラ
【年齢】 19
【性別】 女
【種族】 人 族
【階梯】 4
【技能】 巫女
【状態】 憑依 依代 Eランク冒険者
ウラさん冒険者なんだ。
でもなんていうか、突っ込み所がたくさんある鑑定結果ね。
巫女? 憑依? 依代?
「こういった感じです。よろしければ、ミユキ様もどうぞ」
ウラさんがにっこり笑いながらそう言ってきた。
まあいいわ。ようはステータス画面の親戚よね。
それじゃわたしも。それ。
【名前】 ミユキ(ミーユン)アツモリ
【年齢】 18
【性別】 女
【種族】 猫 族 (神人)
【階梯】 1
【技能】 収納
地図作成
熱 制 御
魅惑の尻尾
(加速思考)
(生命力 )
【状態】 (一心同体) 流され人 ルナの友 タツヤの妹
ねこ、ねこぞくかー。うん、知ってた。
やっぱりミーユンの体なんだね。ミドルネーム付いてるよ。一心同体よ!
ミドルネームもそうだけど、カッコの付いているのは何かしらね?
それに神人って?
スキル多いのかしら? ウラさんは一つだったけど。
シッポについては……何も言うまい………。
「素晴らしいスキルの数々ですな」
インゲルスさんがそう言ってきた。
「そうなんですか? なんだかスキルと状態の項目が多いかなとは思ったんですが、よく意味が分からないのもあるので。
収納は別の空間に物をしまえる能力ですよね。地図は地図でしょうし。あとは、なんでしょう?」
「まず熱制御ですが、わたしはこれまでこの表示を見た事も聞いた事もありません。ですが、想像できるところはあります。
魔術でよく使われる地・水・風・火の四属性。これはそれぞれ固体・液体・気体・燃焼体の四相を表しているとされておりますが、これらの相が温度によって移り変わるということもまた良く知られております。
水は液体ですが、冷えれば氷という固体になり、熱せば水蒸気という気体に変わるのが代表的ですな。
ふつうは火を用いて温め熱し、熱をまわりの空気や水に逃がす事で冷やすわけですが、ミユキ様の熱制御スキルは、その熱の出入りを直接制御できるのではないでしょうか。
これまで、なぜか火の魔術らしきものが使えてしまったというような事がありませんでしたかな」
「……あります」
炎の矢とか炎の矢とか炎の矢とか。
あれかぁ。
撃ちまくってたな、これ…。
「そうですか。それではその辺りは後ほど外で確認してみましょうか」
うっ……かりここでやって何か燃やしちゃったら洒落にならないわね。
危ない危ない。
「魅惑の尻尾は、猫族個有の希少技能でございます。
注目を集める効果があり、周囲の視線を釘付けにできます」
これ囮スキルなのっ!? 面倒ごとが団体でやってくる未来が見えるよっ。ぐすん。
「加速思考は、考える速度が速くなる技能です。短い時間で多くの事が考えられます。
生命力は、文字通り健康で生命力に満ち溢れた体という意味です。
括弧付きの項目は、隠蔽が施されているということですな」
「隠蔽? 隠蔽されているのに、なんで今は見えてるんでしょう?」
「それはこの鑑定器が古い物で、世代をだいぶ遡っているせいでしょう。第三世代以降のものでは隠蔽を看破できません」
「…ぐ、…具体的に、コレが何世代目のものなのかお尋ねしても?」
ちょっとイヤな予感がして、目の前の鑑定器を指さしながらそう尋ねると。
「ええ構いませんよ。第二世代です」
ほっ。良かった、これが“オリジナル”の神器とか言われなくて。
ちょっとドキドキしちゃったよ。
「第一世代が失われて久しく、第二世代もこれを含めて世界に三器しかしか残っておりませんから。いずれは身上鑑定器を使った身分確認などもできなくなるのでしょうな。まだ何世代も先の話ではありましょうが。
おっと、いけませんな。どうにも年寄りの話は愚痴が多くなってしまい申し訳ございません」
「実質世界最高ランクじゃないですか!
なんでそんな貴重なものがここにあるんですか!」
「それはここが過去に大地母神様が降臨なされた場所だからです。その降臨の場所に神殿を築いたわけでございますよ」
「聖地じゃないですか!」
「そのとおりです。
それで神人ですが」
話が流された!
「大地母神様に限った話ではないのですが、神が自らお創りになられた人のことを神人と呼びます。
鑑定器で言うところの第一世代でございますな。
ミユキ様の場合は、大地母神様の神殿に現れたことですし、十中八九大地母神様が為された御業にございましょう」
流れてなかった。
むしろ深みに嵌まってた!
やだもう、なんでこうなるの。