89 明日が(ってわけじゃないけど少し先が)見える!?
いやあったわ。
要り用なモノじゃないけど、良く分からない振る舞いが!
『おや、何でした?』
この頃、たまに【加速思考】が勝手に動き始めるんだよ。
わたし何にもしてないのにね。
『それはおめでとうございます』
またおめでとうと言われた!
そうすると、悪いことじゃないのかな。
あれ何だったの?
『それは加速思考の熟練度が上がり、制限機構が一部解除された印しです』
リミッター?
いったい何を制限してたの?
『加速のし過ぎや逆加速、それにこれが一番重要ですが、標準速度を見失わないようにすることですね』
おお、あれ安全装置だったんだ。
『はい。通常は同じような素材で構成され、似たような時の中で群れていますから問題になりません。ですが本来時間というものは、個人によって異なる流れ方をするものなのですよ』
そうなの!?
『ええ。種族や年齢によって異なりますし、個人ごとにも違いがあります』
子供と大人とお年寄りとで、時間の流れが違うっていう話は聞いたことがある。
見ていてもそんな感じはしたよ。
でも、説明されても全然理解できなかった。
『同一個体でさえ状況により変化しますからね、客観的な理解はなかなか難しいでしょう。たとえば身体運動や研究を高度に行なう者が意識を集中した際など、意識だけが加速することがあります。要はミユキの【加速思考】と同様の状態ですが、これまでミユキはそういった経験をしたことはありませんか?』
加速は経験したことないよ。
ちょっと変わった経験っていうと弓を引く時、的がフッと近く感じられることがあるくらいかな。
『それも加速です』
そうなの?!
『速度×時間=距離。速度と時間を乗すると距離が求められるわけですから、思考が加速して速度が上昇するさい距離が一定の場合は外界時間が短く変化します。ところが速度の変化も時間の変化にも弾性があるため、行き過ぎを引き起こします。その行き過ぎから定常状態へ戻るタイミングが速度と時間の両方でズレるため、本来動かないと考えられている距離に一瞬変化が現れるのですよ。過渡応答という現象です』
う────ん、分かんない。
距離が変化するってどうなのよ。
時間に弾む性質があるってどうゆうこと?
『刹那の世界ではそう言うことも起こるのです。この話はこれ位にしておきましょう。もともと“時間”の話はよく理解できないと言っていましたものね。ただミユキの世界の物理法則というものは、実際の現象をうまく説明できる法則を見出してはいますが、“何故そう言うことが起こるのか”とか、“系の外で起こること”についてはまだ殆ど何も説明出来ていないと言うことは覚えておいてください』
ざっくり噛み砕いて言うとどうなるのかな?
『ミユキの世界の物理も、まだまだ道半ばだという事です』
なるほど、分かった。
ねえ……。
『なんでしょう?』
ウィアが前に言ってた、涅槃に至ろうみたいな事をすれば分かるようになるのかな?
『それが物理を学ぶよりも楽な道かと言えば、そうとは限りません。ですが数値でなく、感覚で実感出来るようにはなるでしょう。この世界はミユキの世界よりも物への働きかけが波からの方面へ寄った世界ですから、そこを意識して過ごすだけでもミユキの糧になると考えられます』
波に寄っている?
『そう、それが魔力であり、意思を持つ魔力、“精霊”なのです』
ああ、魔術やスキルがあるもんね、この世界。
『そうですね。ここの住人は、何故こんな事が出来るのか分からないまま魔術を使っていますが、これも技能の一形態ですからね。ですからこれも大工仕事が出来るのと同様、どちらも技能なのですよ』
さすがにそれを同じスキルっていうのは、無理がなくない?
『同じですよ。各自が経験をし、修練を積み、取捨選択を重ねたもの。それを技巧と言い、それを成す能力を技能と呼び、その体系が技術と言われるのです。建築という技術と魔術という技術。どちらもヒトによる技能によって成り立っていることに変わりはありません』
そっか、同じ人の技なんだね。
『ヒトに限った話じゃありませんけどね。獣とか虫とか魚とかも……』
せっかくいい話をしてくれてると思ったのに……。
『ちなみに“放射能”というのは、各種“放射線”を出す“能力”や“性質”を指しています』
もはや人ですらない!
『いずれにしても最先端の技術というものが、個体の技能に大きく依存するのは間違いありません。ミユキが【加速思考】するときには相対的に外の時間が遅くなるわけですが、時間の代わりに距離の方を縮めるなんてヒトも実在しますからね』
へー、別な形の【加速思考】かあ。
どんな人なんだろう。
『ああ、そのヒトは【加速思考】を行っている訳ではありません。空間を貫通圧縮して、通路を形成しています』
へー、“空”属性とかいうやつ?
凄いね。
『たぶんクワン神国で会えますよ。お兄さん達の近くにいますから』
近くに……。
なんかヤバげな予感がするんだけど。
『危険はありません。どちらかと言えば友好的です』
男の人? それとも女性??
『性別は把握していません。そういった些末事まで気にしていませんので』
細かいかな?
結構基本的な情報だと思うけど。
『生物的性差というのは割と緩々なので、ふだん雄だけで必要に応じて雌に転換する個体が出てくる生物や、その逆も居ます。生まれる時の気温で雌雄が決まる生物とか、手近に一方の性しか居ない場合にだけ、対の性に変化する生物も居るんですよ』
ゆるゆるだった。
でも人間の生物的な性別が変わったって話は、ニュースで見たことがないんだけど。
『ヒトの場合は複雑化が進んでいますから、たかだか十数万年ではそこまで変化しないでしょう。性差というのは遺伝子の入替混合に都合がいいため残ってきた仕組みなので、いずれはそう言った個体も出てくることになります。雌雄とも同じ部品を使っていますから、もともと互換性は確保されているのですよ』
マジか!
わたし普通に男の人と結婚して、普通に子供を持ちたいんだけどな。
『ならミユキは女性型で決まりですね。ちなみにその体で子供を作ることもできますよ』
はぁ? なんですって!?
『その体は機械制御体などではなく、言ってみれば森精族の新版ですので、番を選んで繁殖が可能なのですよ』
げげっ、それはちょっとどうなんだろう……。
『別に繁殖を勧めている訳ではありません。その気ならそれが可能な体ですと説明しているだけです』
ホッ……。
『第一、その体を使っていれば、不埒者など近寄る余地が有りませんでしょう』
アー、ソレハタシカニタスカリマシタ。
†
あと一つ。
『なんでしょう?』
勝手に加速した時、一瞬先の光景が見えた!
わたしって予知能力があったのかな?!
『未来視能力ではありません。先程説明した過渡応答で、距離でなく自分の時間が変化した場合の効果です』
なんだ、あれも“加速”なのか。
『欲しかったですか? 未来視』
そうじゃないけど有名な能力だし、ちょっとは興味あるじゃない?
先のことが分かれば、いろいろ便利そうだよね。
『それほど珍しい技能ではありませんし、制限も大きいですよ。未来視が欲しいのでしたら、私の本体と連結すれば人類滅亡の瞬間まで見通せますが』
怖いわっ!
ウィアの本体ってそんな先まで見えるの!?
『いえ、もっとずっと複雑です。説明するのがちょっぴり面倒になるくらいに』
そんなにかー。
未来視ケッコウです……。




