87 わたし、死んでいたらしいよ
『さて、一週間その体を使ってみて疑問や要望も出た事でしょうから、なにかあるようでしたら対応しますが』
あるある。
なんだコレはー! って言う事、あったね~。
「わたし一度死んでいたらしいんだけど」
大事な事なので、口に出して言ってみた。ついでにもう一回言っておこう。
「わたし、一度死んでいたらしいんだよ」
後からウラさんに聞かされたけど、自覚がないから実感なくてね……。
実際ちゃんと生きてるし、気絶くらいしたかもって感じだったんだけどな。
『【浄火】で生き返った件ですね』
「そうそう。って知ってるの!?」
『知っていますよ。生命反応はちゃんと観測しています。お兄さんたちの現況もお話しましたでしょう』
そうだった。
『おめでとうございます』
「死んでおめでとうを言われたのは初めてだ!?」
どういうこと?
『猫族に限らず猫や犬、狼などの系統は、嗅覚が猿の十万倍くらい鋭いので、猛烈な悪臭というのは明らかな弱点なんですよ。猫族は、鼬とは相性が悪いのです。今回の事はその特徴を利用して、特定の条件下で【浄火】の技能熟練度が一気に跳ね上がるよう仕込みが施してありました』
あれは仕込んでたのか……、他人の体に。ってウィアが作ったんだったね、この体。
それで、【浄火】っていう魔術は結局なんだったの? ウィアに「これは練習しておきなさい」って言われたからやっていたけど。
『よくぞ聞いていてくれました。【浄火】の効果は、「状態異常完全無効」ですよっ!』
………それって凄いの?
『あ、あれ? 状態異常の完全無効ですよ、凄くないですか?』
ごめん、SNFどころかゲームそのものが初心者なんで、専門用語はよく分からないや。
具体的には、どんな異常が無効になるのかな?
『具体的にですか? 大きなところで言うと「心停止」や「脳死」、「呼吸停止」とか「部位欠損」、あとは「衰弱」といったあたりでしょうか』
かわいらしく人差し指を頬に当てて、小首を傾げながら言うウィア。
あざとい。
ってちょっと待って! それって死んでるとか言わないかな!?
「正確には“死ぬ原因”ですね。部位欠損や衰弱は違いますけど、どちらも放置すれば死にますから、入れて問題ないでしょう」
なにを冷静に突っ込み入れてるんだろうね、この空間知性は。
それじゃ、まるで“治癒術”か“回復術”の同類じゃないの!
事実上“不死”って言えるんじゃない!?
『はい、もともとはフェニックスの所持技能ですから、そのあたりよりも上級ですね。第三の治癒、もしくは復活とも言えます』
フェニックス……………ヤシ科の植物で……。
『珍しいですね、ミユキがボケるなんて。ちなみに不死鳥のフェニックスですからね。技能熟練度が上がれば、ミユキも同じ事ができますよ』
蘇生を通り越して復活?!
死んだら炎が上がって、灰の中から生まれ変わるっての??
人間やめてるじゃん。
『不死鳥はもともと“神鳥”の範疇ですから、今と変わりませんよ』
はっ、そう言えば“神人”だったね、この体!
なら部位欠損で手足がなくなる程度なら、また生えてきてもおかしくないのか。な……?
『“再生”や“超回復”ですと本当にそんな感じになりますね。ニョキニョキっと生えてきますから、あの手の技能を持つ相手は殺しきるのが手間ですよね。首を落とした場合や縦に二つに裂いた場合、どちら側から再生するか見当が付きますか?』
あんまり自分事として考えたくないな、二つに別れた状況なんて。
意外と二人に増えたりして。
『残念、二人には増えません。媒体が付いている方だけ再生する。と言うのが正解でした』
媒体ねぇ。
前にも聞いた名前だけど、それって本当に“魂”とは別物なの?
『実は不明です』
不明なの!?
『はい、分かりません。それというのも、今に至るまで“魂”を実証できていないのですよ。我々としては“媒体”を発見し、こうして操作もできますが、“魂”の方はその実在を主張する方たちが、実証どころか「こういうものが“魂”だ」と指し示すことすら出来ていない有様でして、同定以前の話なんですよね』
そりゃ難易度高そうだわ、ふつうの人間には。
下手したら、宇宙旅行より難しいんじゃないの。
『まったくです。私たちとしては、どちらでも構わないのですけどね』
それで話を戻して、多少面倒でも“再生”や“超回復”のスキルを持っている相手を倒す方法だってあるんでしょ?
わたしが“状態異常完全無効”を持っていたとしても、その手を使われたらやっぱり死んじゃわない?
『“再生”の場合は“毒”がお手軽ですね。内部から攻撃されると“再生”では対処しきれず、“毒”と“再生”能力との鬩ぎ合いになります。毒を無効化しない限り能力は低下したままですから。外から攻撃するなら、ミンチにするのがお勧めです。叩きでは不足なので、必ず挽肉に、最低でも全身を薄切りにする必要があります』
つまり毒がお手軽かあ。
手に入れるのが大変そうだけど、一番手間がかからなさそうかな。
『簡単そうに見えますが、相手が“超回復”ですと解毒能力も高いので、毒が有効でないことがあります。すると挽肉の出番になります。あとは封印が有効ですかね』
うーん、できれば血しぶきは遠慮したいかな。
見るのは平気だと思うけど、血で汚れるのは困りものだから。
街中ならともかく、そこらで気軽にお風呂ってわけに行かないだろうし。
あ、街中で血まみれだと捕まるか……。
『そんなミユキに朗報です』
なにかな?
『【浄火】の炎は体内体外を問わず、全ての“汚染”を浄化します!』
何ですって───。
それってもしかして、全身浄火の後はお風呂上がりのように……。
『はい。汚れも穢れも綺麗さっぱり落とします。おまけに毒やその他の異常も無効にしてくれる!』
毒がオマケかい!
でもとっても素晴らしい!!
よくぞ【浄火】を仕込んでくれました。
よっ、大統領。
『うふふ、必ず気に入って貰えると考えていました。【浄火】は良き旅の共ですよ』
気に入りましたとも。
やあやあ、神様、仏様、空間知性様!
『神仏と並べるのはやめてくださいね。あと大統領ではなく大棟梁です』
ギャ───ッ。傍点付きの漢字が飛んで来た───!
棟梁か───!!
『夢の中ですからね。睡眠学習法です(こほん)』
すごく胡散臭い。
けどむしろ、自分のところの古典建築が穴だったのが悔しい。
やっぱり用事は早く終わらせて、さっさと大学に行こう!
『えええっ、そんなに急がなくても。ゆっくりしていってくださいよ。ねえ』
†
『そんな訳で、【浄火】でしたら毒にも挽肉にも対応できますし、物理的な封印にも対応可能なので、長旅や探索においてもかなり快適な状況になったと考えます』
わたしとしては、毒もミンチもゴメンだけどね。
でも、とぉーっても有りがたいわ。この魔術。
封印への対応は、物理限定なんだね。
どれ位の封印までなら手に負えるんだろう?
『地下一万メートルに埋められるとか、一万メートルの深海へ沈められるとかなら対応可能で、問題ありません』
一万メートル!
エベレスト山が上に乗っても大丈夫なの!?
『はい。高圧も高温と同様で、技能による補助を使えば問題なく生存可能です。孫悟空は五行山を乗せられて封印されましたけど、ミユキなら【浄火】の火力を上げて周囲を溶かし、浮力で易々と外へ出られるでしょう』
西遊記か、ウィアって本当に変な事を知ってるよね。
って言うか、【浄火】の炎って熱くないんじゃないの!?
『元々不死鳥が復活する際に、自らの体を焼く技能ですから熱いですよ。ミユキの場合、熱操作技能で火を使っても熱量だけ抑えたり、温度が上がっても体を保護出来たりと、“浄化”と“再生”の能力を有効に引き出せて、とても相性が良かったのですよ』
そういう事か……。
『ミユキが気を付けないといけないのは、“浄火”でも“火術”でもですが、高温を生み出した状態のまま、うっかりそれを開放してしまわないようにという所ですね』
???……と言うと?
『火術剣を創った時の考え方は、あれで正解です。ただし十万度という温度は、開放すれば一瞬で周辺を蒸発させます。ビルも城も溶けて崩れ、ミユキの周囲はすべて灰塵に帰します。ですから最初からそのつもりでなければ、熱を封じている
【断熱】を、不用意に開放しないよう注意してください』
うわぁ、なんか原爆の爆心地でひとりだけ生き残ってる感じだ。
『似たようなものですね。十万度という温度は、分裂反応弾の爆心温度と同じです。変な放射線が残らない分こちらの方が後が綺麗ですが、いずれにしても惑星上で自然に発生する温度ではありません。ですから熱輻射とそれに伴う爆風は、分裂弾や融合弾の爆発と同様の結果をもたらしますから注意が必要です』
ひぃ~。
『まあ私としては、地殻を剥ぎマントルを大きく抉るような事態でなければ、気にしませんが』
そこは気にしようよ。
『私は気にしませんが、顔見知りが大勢亡くなってはミユキの夢見が悪いでしょう? ですから心添えをしているのです』
ううぅ、ご配慮痛み入ります。
誤字報告ありがとうございました。




