86 神器 リンクフィラー
「えっとね、ここは“考え”るだけでウィアに話が通じる場所だから、慣れるとけっこう便利なんだけど、向こうへ着いたら兄さんたちもこの会話に参加するわけでしょう? そしたら誰が“考え”ているのか分からなくなりそうだなって気がしてきたのね。だから口が動くのに合わせて声(考え?)が伝わるなら、一人一人の区別が付きやすくなるかなって思ったのよ」
『なるほど、考えましたね。でも、心配はご無用です。まずここはミユキの夢の中なので、ここへ直接ほかの人を呼ぶのは、自我境界が揺らぐ危険があるため、行なわない予定です』
あれ、ひょっとして危なかった?
『そもそも精神潜行は、訓練を受けたヒトが専用の変換装置を用いないと出来ません。変換装置役は私が担えまして、それで直結接続したのが前回の状態です』
おー、さすが進化した人工知能だね。
『うふ。もっと褒めてくれて良いんですよ』
やっぱりお調子者だった。
「あふう。そ、それで今回は拡張工事をして、この居間を用意したわけですよ」
この部屋?
ただの人形の家じゃなくて、何か他にも意味があったってこと?
『はい、今はミユキの夢と直接繋がっていますが、その接続深度を寝室内に限定し、居間へは表層意識だけを通すようにします。それによってミユキの深層意識は保護され、他の方々にも同じ濾波層を挟むことで安全に意思疎通が可能になります』
あー、つまりこの部屋がグループ雑談室になるってことかな。
『そうです。ミユキの時代ではまだ実現されませんが、文字印字や音声ではなく、完全没入の仮想現実雑談はこのような感じになります』
なるほど。わたし、時代を先取りしちゃうわけだ。
『そう言うことです。五感のすべてを仮想世界へ持ってくるには、まだまだいくつもの難関がありますから、向こうではかなり先の話になります。という事で、この部屋でのミユキの意識レベルの濾波を浅く設定すれば、音声で会話するのと同程度に思考した言葉だけが通じるようになりますが、良ければ予行演習のつもりでやってみますか?』
うーん、いいや。
それって普通に部屋で集まって話をするのと変わらなくなるってことだよね? それならわざわざ試してみるまでもないかな。
『分かりました。それではリンクフィラーを預かりますね』
「分かった。ってあれ? 夢の中でどうやって渡せばいいんだろ?」
『大丈夫ですよ。ほら』
そう言って手を振ると、ウィアの手の中からリンクフィラーが現れた。
あらま、いつの間に……?
『前に収納と地図作成は、私からの贈り物ですと伝えましたでしょう』
うん、言ってたね。
『ミユキたち三名の収納は、私自身の収納空間の一部を使って実装しています。つまり、ミユキたちの収納と私の収納空間とは地続きなんですよ』
へえ、そうだったんだ。
あれ? そうすると、地図作成スキルの方もウィアと繋がってるという事?
『私がかと言えば私が提供していますが、“地図作成スキル”は各人がそれぞれの感覚から取り込んだデータが基になっています。私が提供したのは、各人が無意識レベルで認容した外界情報を、画像化して記録・参照できる仕組みですね』
はー。そうするとわたしは、自分で感じ取ったその場所を見てたのか。
『地図作成を開いて見る、詳細情報についてならそうです。他にも紙の地図を見ればその情報が反映されたはずですが、このあたりは全員に共通の附与技能ですよ』
あったあった。
収納しただけの地図が“地図作成”スキルに反映されたから、最初はビックリしたよ。
ずいぶん色んな能力を付けてくれたんだね。助かったよ。
とくに収納。
『役に立ったのでしたら幸いです』
収納がなければ、まだEランク冒険者のままだったよね。
あれ? それなら、今リンクフィラーをわたしの収納から出したように、兄さんたちの収納に使えるリンクフィラーを忍び込ませる事もできるんじゃない?
『可能ですよ。身上鑑定器第二世代の近くに居てもらえば』
あー、そこがネックなのか。
『そうです。地上での私の活動を身上鑑定器周辺に限定することで、私が利用可能な資源の消費を最小に抑えています。そのため私との交信には、身上鑑定器第二世代以上の近傍まで来てもらう必要が出て来るのですよ』
つまり第一世代は失われたって話だから、第二世代の近くまで行かないといけないってことね!?
大地母神の神殿なら、インゲルスさんに指示書みたいな物を用意してもらえば何とかなるかもだけど、クワン神国の第二世代器ってクワン神殿にあるんでしょう?
近寄れるのかな? そんな大切な物の近くへ。
『大丈夫です。そのためのリンクフィラーでもあります』
ええっ、ここでリンクフィラーが出てくるの?
『はい。リンクフィラー同士の接続機能を拡張して、身上鑑定器の近くにいれば、そちらの接続網へ介入出来るようにします』
介っ……。なんだかヤバ気な気配がする……。
『そんなことはありませんよ。もともとこちらで連絡機能を持たせるために、身上鑑定器接続網を利用するつもりでした。そのついでに第二世代身上鑑定器へのアクセス権を持たせてやれっていうだけですから!』
ほらまたウィアったら、他所様のものを好き勝手にいじって……、って身上鑑定器ってウィアのものだったか。
『鑑定器のこちら側に居るのは私ですが、地上側を所有・管理しているのは各神殿ですよ。あれは私のものではありません』
あれれ? そうなんだ。
ウィアがあれを創ったって聞いてたから、てっきりウィアの所有物だとばかり思ってたよ。
『鑑定器が生まれる時、私はその場にいましたし誕生に手も貸しました。ですがアレを創ったのはゼーデス、ミユキがいま滞在している国の創始者なんですよ』
ええっ! そうだったの!?
勇者の王様の話って本当だったんだ。
こんなトンデモナイものを創ったのって、絶対ウィアだと思ってた!
『失礼ですね。あの時は世界の歪みが集約されて混沌が生まれようとしていたので、方向性を持たせて“願望器”へと変換したんです。その“願望器”に願い、形を与えたのがゼーデスなんですよ』
ほらやっぱり関わってた。
『その場にいたし、手を貸したと言いました。でも鑑定器を創ったのはゼーデスなんです』
そうだったね。
『それに私はそのとき、空間知性としての記憶は持っていなかったのですから、ノーカウントですよ』
そうなんだ。
記憶がなかったって、大変だったんじゃない?
『自分が何者なのか分からないというのは、地に足が着いていないというか足元が不確かと言うか、寄る辺のなさがありましたね。ですけど知識は色々とありましたから、生きるのに困ることはありませんでした』
ふーん、そういうものなんだ。
『そんなわけで、第二世代鑑定器を依代とすることで私と交信できますし、リンクフィラーを装備することで第二世代鑑定器に遠隔接続できますから、鑑定器の傍らにいなくとも、クワン神殿の敷地内に居れば接続が確立できますからね』
敷地内でいいのね。
オッケー。
『念のため体を安定させられるよう、座るか横になれるとより安心でしょう』
分かったよ。




