84 減ってしまった冬の楽しみ
「はい、ありがとうございます。受け取る報酬の振り分け設定はされますか?」
「今回の分は折半して個人口座へお願いします。以降の分も、各人の報酬はそれぞれの個人口座へ全額入金するという事でお願いします」
あらかじめウラさんと決めておいた振り分け設定を伝える。
今度はウラさんも、追加で何か言うことはないみたいだ。
「わかりました。ミユキさんはここを発たれるという事ですから、ウラさんはこちらに残ってパーティー口座は送金用という事ですか。その使い方でも問題ありませんが、どの口座も最後の取引から一年を過ぎますと口座管理料が発生しまして、さらに一年ごとに管理手数料が増額されますから注意してくださいね」
問題ないらしい。
ウラさんの口座やパーティー口座に取引がないと、一年ごとに手数料が取られて、手数料は一年ごとに上がるみたいだけど、まあその辺は神殿がなんとでもするでしょう。
わたしの口座はウィアの依頼を済ませるまでの間、適当に冒険者の仕事をすれば問題ないんじゃないかな。
依頼が終わればこれを解約して…、美味しいものでも食べて使い切ろうかなっ!
「それではこれがパーティー口座と個人口座の本日の取引証明、それと口座の利用案内です。存分にご活用ください」
アンジェラさんからの報酬が二つに割られて、入金された個人口座の取引証明を二枚と口座を開設しただけで中身がゼロのパーティー口座の取引証明が一枚がもらえた。
取引証明はハガキくらいの大きさの紙に印刷されている。これを取っておけっていう事かな?
高校を卒業した時、「これからは自分で管理しなさい」って母さんからわたし名義の銀行通帳を渡されたけど、試しにキャッシュカードで一万円下ろして、すぐに一万円入金しただけで、実質中身に触っていない。
ギルド口座の取引証明は、このキャッシュカードでお金を下ろしたときに一緒に出てくる取引明細(って言ったかな?)と似た感じだ。
「預金通帳のようなものは無いんですね」
ちなみにお小遣いは、携帯端末のJPQRというコード決済でもらっていた。
それも必ず対面でだった。
対面でコード決済を使う意味はあるのかな。
収納にゲームのアイテムはあるのに携帯端末やお財布がなかったから、ウィアと話をしてなければここがゲームの中だと思っていたかもしれないね。
「預金通帳? ああ、ミユキさん流され人でしたものね。ミユキさんの故郷では預金口座を預金通帳というもので管理されていたのですか? どう言った物なんでしょう?」
あら? リシュヌさんの興味を引いちゃった?
「これくらいの」と言って、両手の親指と人差し指で大きさを示して、「二十ページくらいの帳面に、取引店と取引日と取引額、入金か出金かの別と、最終的な預金総額が、取引ごとに一列で記帳されていました。それが一ページに十行から十五行くらい並んでいたと思います」
細かくは覚えてないなぁ。
試しに出し入れした分しか使ってないからね。
「なるほど、項目を決めておいて一行一取引ですと、手書きですと十行が限界でしょうから二十頁として、一冊で二百件程の取引が記載出来るわけですね」
実際には記帳できないページもあったから二十ページはいかない筈だけど、細かい所はいいよね。
「興味深いお話をありがとうございました。あとは“騎乗資格証”の引渡しと……」
「あ、来てましたか。良かった」
きのう合格した二脚走竜の騎乗資格は、資格証の受け取りが講習を申し込んだギルド支部で一両日中に受け取り可能という事だった。
今日か明日中ということだ。
早めに受け取れて良かったよ。
明日受け取りということなら、出発時間か出発日を少し遅らせないといけない所だった。
さすがにこれは、受け取ってから出発したいもんね。
「どうぞ、騎乗組合の“二脚走竜”騎乗資格証です」
「わあ、ありがとうございます」「ありがとうございます」
“騎乗資格証”は“冒険者証”と似た金属プレートだ。
「聞きましたよミユキさん。講習会の実習では大活躍だったんですってね」
「うっ、誰から聞いたんですか……」
“大”は付かないんじゃないかなー…。
「昨日、講習の帰りにここへ寄られたマヤヤさんからお聞きしました。それにその騎乗資格証を持ってきた騎乗組合の方が、お礼を言って行かれましたから」
そう言えばマヤヤさん、帰りにここへ寄るって言ってたね。
「追われる馬の進路を変えて、追ってきた魔獣を二匹射殺したそうじゃないですか。大活躍ですよ」
も、盛られている……。
やったことは事実でも、“大”は付かないからね。
「馬は取りあえず声をかけたら、たまたま向きを変えてくれたんですよ。仕留めた魔獣は一匹です。もう一匹は手負いにしちゃって、乗ってた走竜のジョー君が踏み潰してくれました」
「そうなんですか。それでもお手柄ですよ。以前のキツネの魔獣を仕留めた際の手際も見事でしたし、けん……ケミーナさんも褒めてみえましたよ。あの方も弓がお得意ですから」
両手を合わせて満面の笑みでそう言うリシュヌさん。
よく覚えてるなあ、そんなこと。ホントにこの人何者なんだろう?
いや、受付嬢なのは知ってるんだけどね。
話題を変えよう!
「その魔獣二匹の魔石も引き取ってもらえますか?」
「あら、勿論ですとも。魔石の買い取りは、冒険者組合の主要事業ですから」
「それではコレをお願いします。分ける方で」
と言って、昨日のキツネの魔獣二匹分の魔石を取り出した。
「それは私は手を出していませんから……」
「パーティーで活動中の収入だから“折半”でね」
「はーぃ」
そうだ、アレがあったじゃないの。
「ついでにコレも売ってしまいます。こちらは全て、わたしの口座にお願いします」
コレはウィアの世界へ来る前に、SNFで狩った魔獣の魔石だからね。
「あら、六十四個のEランク魔石。冒険者登録をしたときのものですね。封印は解除ですか?」
ホントによく覚えてるなぁ。
これ封印のつもりでいたから、魔石を取り出すこともなく素材(骸)ごと収納してたんだよね。
そのまま忘れていたとも言うけど……。
「首尾よくDランクになれましたし、道中のお財布の足しになればと思って封印は解除しました」
「そうですか。それでしたら素材(骸)の方も買い取りましょうか?」
「あれは非常食です(えへん)」
「成る程。食材にするなら、少々焦げていても問題ありませんものね」
がーん、言われたよ(涙)。
ちょっぴり恥ずかしい。
さっさと食べ切ろう!
「あとは加工を頼まれていました“鼬の魔獣”の襟巻きですが、さすがにこの期間では加工が間に合わず、お渡しは適いませんでした」
あらー、襟巻きはダメだったか。
まあ仕方がないね。
というか四日で毛皮の加工は、最初から無理だよね。
うん知ってた。
「分かりました、大丈夫です。これから暖かくなる季節ですし、それが日数的に無理なのは初めから分かっていたことですから問題ありません」
「ご期待に添えず、申し訳ありません」
「いえいえ、全然だいじょうぶですよ。ウラさん」
「はい」
「そう言うことなので受け取りと、お届けもよろしくお願いね」
「はい、分かりました」
わたしが謎なスキルで倒した魔獣で作った襟巻きだし、ウラさんを始めとしたお世話になった人たちにお礼も兼ねて贈ろうと思ったけど、手渡しは叶いませんでした。
もちろん自分の分も一本確保してたんだけど、冬の楽しみが減っちゃったね。
頑張って三人で三ヶ月くらいで仕事を終わらせて、冬が来る前に故郷へ帰ろう。
うん、そうしよう。
「それではそろそろ引き上げます。リシュヌさん、今まで色々とありがとうございました」
「お世話になりました」
「はい、お二人ともお元気で。とくにミユキさんは長旅になりますから、お体を大切になさってください。ウラさんはまだ襟巻きを取りにみえるでしょうから、そのときにまた」
「はい、気をつけます」「はい」
魔石を売った取引証明をもらって、それじゃあ。と、手を振って冒険者ギルドを出る。
そして向かうのは、大地母神神殿総本山。
今夜はそのウィアとふたたびご対面だ。
その前に、インゲルスさんたちと夕食ね(ぐぅ)。




