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83 彼方への手紙        


「こんにちは、リシュヌさん」

「いらっしゃいませ、ようこそ冒険者組合(ギルド)へ」


 冒険者ギルドへ来るとリシュヌさんがいたので、その窓口へ向かう。

 この人いつもカウンターにいるけど、お休みは無いのかな?


「アンジェラさんからもらった依頼達成証明書です」

「拝見します。あら凄い、“A評定”じゃないですか」

「色々ありまして、そんな風になりました」


 パン焼き釜の火力の事で、あれこれしたのが評価されたらしい。


「それでは達成手続きと報酬をお支払いますね」

「お願いします」


 リシュヌさんが手続きにかかった。


「それでミユキさん」

「はい?」

「国際組合(ギルド)便の手紙は書けましたか?」

「あっ……」


 その瞬間、周囲の光景が止まった。

 まただ。

 なぜか最近、こういうことがある。

【加速思考】を使ったわけでもないのにその状態になったり、たまに少し先の光景が見えたりする。

 今夜ウィアと話をする時に、聞こうと思っていたことの一つだ。

 でも今は都合がいいので、このまま行こう。


 思考の速さは千倍行っていない。百倍強、だいたい二~三百倍といった所かな。

 このあたりは周りの人の動きで、なんとなく見当がつくようになった。

 十倍くらいだとスローモーションに見える。百倍だとコマ送りだ。千倍ともなると本当にピクリとも動かない。

 速ければ速いほど時間の余裕は増えるけど、四桁の加速はあとの反動が酷いのであまり使いたくないのよね。

 反動がなにかって? お腹がグゥ~よ!



 さて、手紙だ。

 パン焼き釜の即興演奏会ジャム・セッションにかまけて、すっかり忘れていたね……。

 どちらにしても大作を書くわけじゃない。

 シンプルに、分かりやすく。

 万一だれかに見られても「こいつ頭がどうかしてないか?」と思われないように、ウィアの事はボカシて。

 月那るなと兄さんに、「わたしがゼーデス(ここ)にいて、今からクワン神国(そちら)へ行く」という事が伝わればいい!


 そうか、日本語で書けば大抵の人には内容が分からないかな。

 あ、ウラさんは読めてたっけ。まあいいや、そこはあまり期待をせずに一応で。


 紙を一枚別枠へ移して、インクとペンの用意よし。

 この一枚に収まる文章を考える。

 ワープロみたいに文字を綴ろう。

 書体フォントは手書き風。というか、“わたしが書いた風”でいいよね。

 いけるかな?

 いける!

 よし、行こっか!!




┌───────────────────────────────────┐

│                                   │

│ 拝啓                                │

│                                   │

│ 月那、ついでに兄さん、元気にしてますか?              │

│                                   │

│ わたしはゼーデス王国の王都ツェルマートへ飛ばされ(流され?)て目を覚│

│ましました。                             │

│ 幸い目ざめたとき近くにいた方々が、ある程度こちらの事情を汲むことので│

│きる人たちだったので、いろいろ協力していただけた上、わたしたちをこちら│

│へ流した張本人(?)とも話ができました。               │

│ 張本人さんの目的は、三人揃ってから話すと言われています。      │

│                                   │

│ 明日、わたしはそちらへ向けて旅立ちます。              │

│ 移動手段は“張本人”さんが用意したので、(わたしも具体的にどんな移動 │

│手段なのか知りませんが、)そちらへ到着できないということはないと思いま│

│す。                                 │

│                                   │

│ 詳細は会ってからにするとして結論を言いますと、“張本人”さんが手段と │

│してわたし達を呼んだことは、受け入れても構わないと思っています。   │

│                                   │

│ ですから再会の日まで、二人ともお元気で。              │

│ 兄さん、首を洗って待っていてください。               │

│                                   │

│ 早々                                │

│ 四月八日                              │

│ 真幸                                │

│                                   │

└───────────────────────────────────┘




 できた!

 あとはこれを取り出して。あ、その前に【加速思考】を解除。


「……忘れる所でした。これですね」


 いま書いた手紙を、収納ストレージから取り出す。

 うん、ちゃんと書けてる書けてる。

 多才だねぇ、わたしの収納ストレージちゃん。


「忘れては嫌ですよ。これ組合(うち)にもいい稼ぎになるんですから」


 あはは、リシュヌさんが正直すぎる。


「そうだ、これ“急行便”でお願いしてましたけど、“特別急行とっきゅう便”に変更って可能でしょうか?」

「可能ですけど、いまからですと出発は“急行便”と変わりませんよ。“特別急行便”と言えども夜は走りませんから」

「それでも途中の走り方で到着は少し早くなるんですよね。無理でなければお願いしたいですが」


 女将アンジェラさんが魔獣魚四匹を割と高値で買ってくれたので、ふところに余裕ができたんだよね。

 もちろん魚四匹の売り上げは、ウラさんと折半せっぱんだ。

 その中のわたしの取り分から、お惣菜そうざいサンドの代金を払ってもまだ余裕があったのよ。

 それに指名依頼の収入もある。これも折半ね。

 おかげで道中贅沢できるわけじゃないけど、途中の宿代くらいは問題なく支払えそうだ。

 どちらも女将アンジェラさんのおかげだね。おがんじゃおうかな(なむなむ)。

 むふん。


 それに採取した薬草や魔石の買取は、どこの冒険者ギルドでもたいてい常時受け付けているそうだし、食べるものは収納ストレージにあれこれ入っている。

 これなら手紙を“特別急行とっきゅう便”で送っても、贅沢しなければ道中無理なく過ごすことができそうだ。


「分かりました。それでは金貨八枚を頂戴しまして……はい。冒険者(プレート)かざしていただき、はい。それではここに宛先を記入していただき、冒険者組合(ギルド) クワン神国 タルサ支部気付、パーティー“またり”の」


 ルナ・サハシ様、タツヤ・アツモリ様っと。

 ううう、さよなら金貨八枚(よよよ……)。


「はい結構です」


 冒険者(プレート)をかざしたら、差出人の氏名や扱い局が印刷された送り状が出来上がった。ひょっとして、差出人不明の手紙は出せないって事かな?

 いえ、出しませんけどね。

 そして一番小さな書状箱レターケースに手紙を収めて蓋を閉めたら、送り状で封をした。

 ああ、なるほどね。こうやって使うんだ。


「それでは、書状は確かにお預かりしました」

「よろしくお願いします」

「はい、お任せください。それではアンジェラさんの指名依頼の報酬ですが、現金で受け取られますか? それとも、これは必須ではありませんが、口座を作ってそちらへ入金されますか?」


 あれ、口座の話が向こうから来たよ。

 お約束なのかな?


「口座って預金口座ですよね。どうしてそういう話が出て来たんでしょう?」

「口座の開設は、三つの条件のうち二つ以上を満たしている方に対し組合ギルドからおすすめさせて頂いています。一つはDランク以上に昇級している事。これはEランク以下ですと大抵は稼いだ分を生活費に使って終わるからですね」


 やっぱりそうか。

 女将アンジェラさんが驚いていたから、そうじゃないかとは思ってたけど、Eランク冒険者ってそうは稼がないものなんだ。


「Dランク以上となりますと収入も増え、大金を持ち歩く大変さが増してきますので、それを安全に保管し何処どこ組合ギルド支部でも日に一定額まで引き出せる利点メリットが大きくなります。またEランク冒険者にはほとんどどなたでもなれますが、Dランクへの昇級ランクアップはそれなりの条件ハードルがあります。つまり昇級ランクアップは、冒険者活動に対する適性と積極性を評価する事でもあります」


 なるほど。タンス貯金なんて危なくてやってられないし、大量の現金を持ち歩くのは重いし危ないし、それだけで大変って言うことか。

 わたしは収納ストレージがあるからそれでも問題ないけど、普通は危なっかしくて仕方がないよね。

 それに冒険者活動に対する適性と積極性か。


「二つ目は一度の取り引きで金貨を取り扱った実績がある事。一つ目と関連しますが、これも実際に冒険者活動を実施する当人の能力を計る目安としています。Dランクでも稼ぎの少ない方はみえますし、Eランクのうちから多く稼ぐ方もみえますからね」


 当人の活動能力についての実績ね。


「三つ目はある程度の信頼と実績を得ている事です。例えば情報提供などの実績があるとか、すでに実績ある方からの評価が高いとかですね。移動経路(ルート)上の冒険者組合(ギルド)へ立ち寄り、情報交換をするなどもこれに当たります。冒険者組合(ギルド)に対する“功績”という評価基準になりますね」


 え、功績? わたしまだ王都からよそへ行ったことがないし、よく分からないな。

 ずいぶんフワッとした評価に思えるんだけど……。


「“またり”さんの場合、一つ目は先日昇級(ランクアップ)しましたし、二つ目はDランク昇格審査の参加条(エントリー )件を満たす際に同時に満たしました。今回の“国際組合(ギルド)便”のご利用でも条件を満たしてますね」


 あー、冒険者としての稼ぎだけじゃなく、冒険者ギルドの依頼者として金貨一枚を“支払う”でもいいのか。


「三つ目は本日の指名依頼で“A評定”を頂いたことですね」


 へー、女将(アンジェラ)さんの依頼達成“A評定”が決め手になるの?


「アンジェラさんって、そんなに“信頼と実績のある方”なんですか?」

「あらご存じありませんでしたか。あの方は今でこそ現役を退しりぞいてみえますけど、元Aランク冒険者で凄腕の錬金術師アルケミストだったのですよ。その方からの指名依頼で“A評定”の依頼達成証明をもらってくるなら、口座の開設に必要な信用くらいは軽いものです」


 Aランク冒険者!

 凄腕の錬金術師アルケミスト!!


「知ってた?」

「いいえまったく……」


 ウラさんも知らなかったらしい。驚きで顔が固まっているよ。


「という事で、“またり”さんは条件を三つ共満たしておりますのでご提案いたしました。それでどうしましょうか、口座の開設は」

「あ、開設をお願いします」

「個人口座をそれぞれに、パーティー口座は主格マスター登録をミユキさんでお願いします」


 ウラさんが被せるようにして、細かい条件を言ってきた。

 口座の主格マスター登録と言うのが、パーティー口座を自由に扱える責任者という事なんだろう。


「パーティー口座の主格マスター登録は一名だけなんでしょうか?」


 すかさずわたしも、リシュヌさんへ質問する。


主格マスター登録は一名だけですが、ほぼ同格の副格サブマスター登録は可能ですよ」

「では副格サブマスター登録をウラさんでお願いします」


 ふっふっふっ、大きな荷物は二人で分けて背負おうね。ウラさん。

 ちょっと不本意といった顔のウラさんが、ふっと息を吐くと……。


「分かりました。それでお願いします」

「承知しました。それではお二人の冒険者(プレート)かざしていただけますか」





本年もよろしくお願いします。




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