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79 騎乗免許講習会 余談    


「大丈夫ですか、ミユキさん」


 ミシルさんが聞いてきた。


「大丈夫ですよ、わたしは怪我もしていません。追われていた馬はどうなりました?」

「助手と馬グループの担当が追っています。第二外壁方向へ向きを変えたことで、じきに追いつくでしょう。よくやってくれました」

「半分この子のお手柄ですよ」

「そうですね。そこで自分の乗る走竜が魔獣を倒した時、してやると走竜との親睦が深まる行動があるのですが、試してみますか?」


 なんだろ? めてやるのかな?

 この子は良くやってくれたから、いっぱいめてあげるよ。


「やります。ぜひ教えてください」

「そうですか。それではこの走竜──ジョーと言いますが──この子に、この子が倒した魔獣を、褒美ほうびとして与えてやってください」


 へ?


「魔獣を……食べるんですね…」


 そう言えばマヤヤさんが言ってたね。肉食の走竜は、魔獣を狩って与えれば餌として通用するって。

 このタイミングであげるんだ。


「そうです。魔獣の腹を軽く裂いてこの子の足元に置き、『よくやったね』とねぎらいの言葉をかけてやれば結構です。血が苦手なら無理はしなくて良いですよ。必須という訳ではありませんから」

「あ、いえ。平気ですから、やります」


 血は平気。

 きのう、魔獣の解体講習をやったばかりだし。

 頑張がんばったジョー君が(男の子だったんだね。ジョー9○とか言ったりして──)喜ぶって言うなら、やろうじゃないの。


 繰具から降り、足乗せ(ステップ)下にある把手とってからげてあった細綱ロープを外して、自分の腰に軽く結ぶ。

 最初に騎獣場でクルクル回った時、中央の十字架ポールに走竜を結んだロープだ。

 柵のような横木や樹木があればそこに結ぶんだけど、平原のまん中では結びようがない。よそ見をしている間に騎獣がどこかへ行ってしまうのを防ぐための物だそうだけど、なにかの原因で騎獣が暴れ出したりすると、引き摺られて危ない場合もあるらしい。一方で細綱ロープを引いて騎獣に追いつき再騎乗できたりもするので、細綱ロープを自分に結ぶ功罪は半ば。どう使うかは乗り手(ライダー)の判断次第なんだと、座学で言っていた。

 なのでわたしは、繋ぐ事にする。


 走竜(ジョーくん)の首をポンポンとたたいてから、彼の足元にある魔獣へと向かう。

 キツネの魔獣(その二)は首の下を背中側から踏まれて、うつ伏せで地面にめり込んでいた。

 肩に刺さった矢を回収してひっくり返してから、短剣ダガーでお腹を軽く裂いて、ジョー君に話しかける。


「よくやったね、ジョー。ご褒美だよ、お食べ」

「ミャー」


 待つようにしつけられていたんだろう。食べて良いよと言われたジョー君は、喜んで死んだ魔獣のお腹に顔を突っ込んだ。

 内臓はらわたを食べているんだ。

 走竜ってやっぱり肉食なんだね。


 それにしても、モツ好きなのか。

 とっても美味しそうに食べている。一心不乱だよ。

 魔獣のモツって美味しいのかな。

 お肉は美味しかったから、モツも期待できそうな気がする。

 美味しく食べられるなら、わたしもモツが食べたいぞ。

 生はイヤだけどね。


 モツ。臓物ぞうもつのモツだ。

 地域によってはホルモンとも言う。

 牛や豚を解体して肉を取った残りの、捨てる部分。ほうる物、放る(ホル)モンね。

 昔は捨てていたらしいのよ。臓物もつ

 勿体なかったね。

 フォアグラなんてガチョウのモツだけど、高級食材だよね。


 塩焼き、タレ焼き、もつ鍋。

 わたしが特に好きなのがもつ鍋だ、それも味噌みそ味がナンバーワン!

 土手煮どてにとも言う。

 臓物もつの土手煮には、豆味噌(みそ)必須マストだ。

 米味噌や麦味噌で煮込むと、お味噌みその香りが飛んでしまうのよ。

 その点豆味噌は、煮込むほどに旨味うまみが増す。

 だけどこの国には、そもそも味噌がない!

 ついでにお米も無いらしい。(しくしく)

 早くウィアの依頼リクエストを終わらせて、向こうへ帰って食べたいな。

 このさい季節感なんて無視(スルー)だ。


 ジョー君があまりに美味しそうに食べるから、思い出しちゃったよ。

 戻りたい理由が増えちゃった。

 知識チートでお味噌を普及させる?

 麹菌こうじきんとかどうすんのよ。

 だいたいそんなの、いつまでかかるか分かんないじゃない。

 やっぱり早く故郷むこうに戻って、みんなでモツ鍋パーティーだよ。


 でも豆味噌があれば、魔獣のモツで土手煮……やってみたいかも───。




 魔獣の脅威が去って一安心。

 わたしが倒したもう一匹の魔獣も誰かが持ってきてくれたので、矢と魔石だけ抜いて、残りは走竜たちのおやつに進呈した。

 そうしたらミシルさんがその代わりにって、ジョー君が倒した魔獣の魔石を譲ってくれた。

 ありがと、ミシルさん。いい人だね。


 おい~、ジョー君。

 懐いてくれたのはいいけど、臓物モツ(生)を食べた口でわたしを舐めないでおくれ。

 せめて歯を磨こうよ。

 ね。


 厩舎きゅうしゃへ戻って走竜たちの水やりとブラシ掛けを済ませたあと、【水壁ウォーターウォール】(小)を出して、そこに頭を突っ込んで洗いました。

 生臭かった………。



    †



「ミユキちゃん大活躍だったってね。見たかったよ」


 帰りの獣車の中、お話しているのはマヤヤさんだ。

 わたしがDランクでレベル14だと話したら、呼び方が「ちゃん」になったぞ。

 ウラさんには相変わらず「ウラさん」呼びなのに。

 レベル18は“さん”なのか? それとも年が一つ上のせい?

 マヤヤさんとは合格者を集めた部屋で再会して、帰る方向が同じなのでご一緒しているのだ。

 そう、わたしもウラさんもマヤヤさんも、三人揃ってめでたく騎獣免許を取得したんだよ!

 で話題は当然、馬グループを襲ったキツネの魔獣の話になったわけだ。


「半分は乗っていた騎獣のおかげですよ。凄かったですよ。一撃。いえ、ひと踏みでしたもんね」


 と、返すわたし。


「ミユキさんだって、一匹一矢だったじゃないですか」

「一匹手負いにしちゃったからね。ちょっと反省」


 ウラさんがフォローを入れてくれるけど、少し甘目なのはいつも通りだ。


「ミユキちゃんってさ、その弓ずっと持ってたっけ?」

「持ってましたよ。小ぶりなので、あまり目立ちませんけど」


 いつもの癖で、魔獣の迎撃を弓で行なってから「しまった」と思った。

 衆人環視しゅうじんかんしの中で、収納ストレージから弓矢を“装備”してしまった。

氷の矢(アイスアロー)】あたりを使って、水と闇属性の魔術士と思われた方が良かったな。

炎の矢(ファイアアロー)】は草の多いところでは不味いし、と躊躇ちゅうちょしたのがあだになった。

 とは言えやってしまったものは仕方がない。


 弓を使ったのは大勢に見られているし、矢も回収している。ここで弓を収納ストレージすれば、自分が収納ストレージ持ちだと喧伝けんでんすることになる。

 冒険者ギルドで職員さん相手になら構わないけど、あまりその他の一般人には知られない方がいい。

 だから真幸わたしは考えた。

 これは隠さずに、「最初から弓を装備していましたよ」と言っておいた方がいいだろうと。

 少なくとも「弓なんて知りません」と言い張るよりも、よほど現実的だ。

 だから魔獣の迎撃中に弓を背中へ戻したとき、実際に使ったレベル11装備の弓よりも、少し小ぶりで目立ちにくいレベル1装備の弓へと装備換えした。

 そんな理由わけで、今日は宿ヘクセンハウスに戻るまでずっとこのままなのだ。


「そっか」

「馬グループの方はどうだったんですか?」


 と、すかさず話題を返す。


「大変だったよ。私も『魔獣追いかけなきゃ!』って思ったんだけど、馴れない馬の上で身動きがままならない上に、馬がおびえちゃって結局追いかけられなかったのよ。乗れるのと扱えるのって、別物みたいだね」


 馬って草食動物だから、魔獣に襲われたら逃げるより他ない。

 天敵を追わせるというのは、馴れた馬と騎手でないと出来ないってミシルさんが言っていた。

 だけど走竜にとって弱めの魔獣はご馳走で、体も馬並みで大きい。

 その気になれば、自力で魔獣を撃退できるってことだね。


「それに較べてミユキちゃんは凄いね」

「え? 急にどうしたんです?」

「だって初めて走竜に乗ったのに、ちゃんと弓で魔獣を仕留めたじゃない」

「あれは走竜が止まっていたからですよ。走っていたら、ああは当たりません」

「そーお? ま、そっか」


 マヤヤさんも納得してくれたみたいだ。



    †



 第一城壁東門を過ぎて少しして、わたしとウラさんは獣車を降りた。

 これまで“東外壁門”と思っていた場所は、実は“第一城壁東門”と言うらしかった。

 第二城壁ができてから、ここは名前を変えたそうだ。

 南門も第二城壁が完成すれば名前が変わるんだろう。

 乗合獣車東西線では、このあたりがお菓子亭(ヘクセンハウス)から最寄りになる。

 マヤヤさんはこのまま冒険者ギルドへ行くというので、今日はここでお別れだ。

 また会う機会がありますように。


 それにしても今日は、課題がいろいろ見えた。

 これまではウラさんを始めとする神殿関係の人たちか、冒険者ギルドの人と居る場面が多かったので、収納ストレージや魔術やらを使うのに躊躇ためらいがなかったけど、まったく関係のない人たちが近くにいる場合を考えると、装備の選択チョイスはもう少し考えた方が良さそうだわ。

 弓術よりも魔術の方が不自然さがなかった事もそうだけど、市外つまり壁の外へ出ると腰の短剣ダガー二本では、さすがに少々心もとないらしいのが分かった。

 他の人から見ての話ね。


 わたしの場合、剣身の長さや威力はスキル熱制御サーマルコントロールで変えられる。とは言えそれはあまり大っぴらにしたくない。となれば、周囲の目がある時に今のような軽い装備だと、装備についてあれこれ言われそうな雰囲気なのだ。

 心配される方向でね。

 それに今日のように魔獣の腹を裂いたり、先日のように植物採取をする場合には、背側に刃のない小刀ナイフの方が使いやすい。

 両刃の短剣ダガーでは、刃のない側に手を添えると言うわけにはいかないのよね。


 人目さえなければ、収納ストレージから必要な道具を取り出せば良いのだけど。それ以前に人目がなければ、血抜きや矢を回収したみたいに、収納ストレージで魔獣を解体してしまえば……って、それも試してみないといけないんだった!

 課題山積だ(泣)。


 今夜はお菓子亭(ヘクセンハウス)で最後の夜だし、明日の夜は神殿でウィアとのお話が待っている。

 明日の夜までゆっくりして、少し考えをまとめようかな。

 月那るなと兄さん宛の手紙も書かないといけない。

 なんてことを考えていたら、お菓子亭(ヘクセンハウス)へ到着した。

 今日は早めに夕食を食べて、後はゆっくりしよう。



「ただいまー」「ただいま戻りました」

「お帰り。大変なんだよ、パン焼き釜が壊れちゃってさ」

「え? ええ─────!」


 最後の夜に、お菓子亭(ヘクセンハウス)のパンが食べられないの?!





騎獣の名前を、「○○9」「ジョー○○」「ジョー・○○デン」と、どれにしようか迷いました。


土手煮、土手鍋、土手焼。

土手焼なんて、煮込み料理の名前じゃない。




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