77 騎乗免許講習会 中編
案の定、他の騎獣の所でも同じになった(泣)。
とは言え、こちらも少しは頭を使う。
最初の馬のときみたいに、並んでいる馬たちを一往復なでて回るなんて事にならないよう、次の子からは端からなでるようにしたのよ。
全員をなでないといけない事には代わりないけど、最初と較べたらかかる時間は半分になったもんね。
よし、ガンガン行こう。
†
「いやー、助かったわ。まさかの全種制覇。ありがとうねミユキさん、ウラさん。それであなた達は、どの騎獣を選ぶの?」
言ってきたのは、女冒険者のマヤヤさん。
Cランクだそうだ。
わたしたちがDランクだと名乗ったら、びっくりしていた。
しかもなり立てなんだよ(内緒だけど)。
わたしのレベルが14だと言ったら、ちょっぴり呆れられた。
レベルが全然足りてないからね~。
ちなみにウラさんはレベル18。こちらも微妙にレベル20に足りていない。
というか、いつの間にかレベルが抜かれていた。なんで?
わたしとウラさんとマヤヤさんの三人は、騎獣全種を制覇した。
男冒険者のトリニダードさんは二脚の騎獣でつまずいたけど、他はクリア。
冒険者じゃないロドニーさんは、まさかの全敗だった。
いたよ、どの騎獣にも相手にされなかった人が。
チーン。
騎獣に受け入れてもらえない人って、本当にいるんだね。
そうして今は、最初の建物でお昼ご飯の最中だ。
わたしとウラさんのお弁当はもちろん、お宿の素敵なお惣菜サンドだよ。
「決めてないんですよ。ちょっと時間に制約があってダメ元で受験したもんで、通った騎獣に乗れればいいやって位に思ってたんですけど……」
「まさかの全種制覇だもんね」
「マヤヤさん、なにかいい情報って持っていませんか?」
ウラさんが逆に聞き返す。
あー、ください。情報!
「情報って言ってもね。大まかなところは講習で説明されてたでしょう。あと情報というと、餌かな?」
「エサですか?」
「そう、餌。乗る騎獣が決まってから詳しく教えられるんだと思うけど、四脚竜と馬と走鳥は草食で、蜥蜴と二脚走竜は肉食よね。もちろん何処の騎獣組合へ行っても騎獣の餌は手に入るよ。だけど野営のあるときや街道から外れた場所へ行くときには、餌を持っていくか、現地で調達する必要が出てくるわよ。とうぜん水もだけど」
エサかあ。
そんな所は、まるで考えてなかったなあ。
水は魔術で出せるから問題ないし、エサも収納に入れられるから、問題ないといえばないんだけど……。
「草食の騎獣は、その騎獣が食べる草が生えているところなら、現地調達が出来るわね。肉食騎獣の場合は、そこいらにいる弱目の魔獣を倒して、その肉を与えれば事足りるわ。だから戦闘力に自信があるなら、肉食騎獣の餌は心配しなくて済むわけなんだけど」
「それなら二脚走竜がいいですね。脚も速いみたいだし」
「おっ、戦闘力に自信があるんだ。すごいなー」
別にそう凄くもないんじゃないかな? 戦闘力。
たったの“5”っていう事はないと思うけど。
「あとはまあ、草食の騎獣は、糞の臭いが抑えめなのがいいかな。でも食べたものを反芻すると、息が臭いからねー。肉食騎獣の糞は、とっても臭いわよ」
うっ。糞が臭いんだ……。
食事時に、話題を間違えた。
しょうがないか、今が旬の話題だから。(涙)
「あとは、蜥蜴は餌を丸呑みするけど、二脚走竜は餌を噛み砕くから、血飛沫になるので、気をしっかり持ってね」
「後から言わないでくださいよ、マヤヤさん」
「あははー、でも言わないで後から恨まれてもねえ」
まあ餌をやる時には、軽く血抜きをしておけばいいか。
†
結局わたしは二脚走竜を選んだ。
ウラさんも一緒だ。(当然か…)
マヤヤさんは「二脚走竜の速さは魅力なんだけど、荷車を引かせたいからあたしは“馬”にするよ」って言って、お別れしてしまった。
“二脚走竜”で荷車を引く事もできるけど、引ける荷物の量は“馬”の方が多いのだそうだ。
代わりに騎乗した時の耐久力は“二脚走竜”が上、速さは同程度らしい。
何でもかんでもうまく行く、なんていう事はないんだね。
柵で囲われた馬場……ではなくて騎獣場で、まずは一人ずつ“繰具”の着脱を練習する。
ほとんどがベルトだけで出来た、軽いものだ。
騎乗ギルド教導員の“ミシル”さんが実際にやって見せてくれ、次に受講者が一人ずつやっていく。
そして繰具にまたがり、騎獣に乗ったときの感覚を体験する。
視線が高い!
ちなみに踏み台つきでした。
着けて、乗って、降りて、外す。
着けて、乗って、降りて、外す。
一頭で順番にやってるんだけど、騎獣がぜんぜん嫌がらない。
大人しい子……なのかな。
次に厩舎へ入って、実地講習で乗る騎獣とご対面する。
ミシルさんの助手さんが、一人ずつ手綱を渡してくれるので、それを受け取って全員が手綱を持つまで待つ。
繰具は全部、あらかじめ付いていた。
全員が手綱を持ったところで厩舎から騎獣場へ出ようとしたけど、ここでまたつっかえた。
わたしより出口に寄りにいる騎獣たちが、動きたがらないのだ。
「ミユキさん、君が先頭で来てくれ。その向こうに居る人たちも、一列で付いて行ってください」
と、ミシルさんが指示を出す。
対応が素速いな。ひょっとしてこういうのに馴れてるのかな?
わたしがミシルさんの方へ動くと、わたしの騎獣が付いてきた。そしてウラさんたち、わたしより奥に居た人たちも、騎獣とのペアごとに数珠つなぎで付いてくる。
最初にこっちを見て動かなかった入口寄りの騎獣たちが、焦った様子でキョロキョロし始めた。
あれ? 「置いてかれる?!」と思ってキョドってるかな?
尻尾感覚に、そう言った走竜の感情が伝わってくる。というか、尻尾感覚ってそういう感情も感じ取れるのか。
尻尾感覚は魔獣相手にしか使ってなかったから、気付かなかったな。
「君は、最後尾に付いて外へ出てね」
助手の人が後ろで一番出入り口寄りにいた受講者と、そんな話をしている。
なるほど、行動が良くないと得られる物が減るっていう、騎獣の躾けの一環か。
騎乗ギルドの飼育員さん(?)、動じていない。
熟練の手際だ。
騎獣場へ出ると、地面に十字架が立ててあった。
人数分、七本だ。
わたしたち埋められちゃうの!? なんてことは勿論なく、騎獣をここに綱で結びつけ、周囲をクルクル回れるように工夫した、中心の棒だった。
十字架の横木を使って、綱で騎獣を結ぶ練習をする。
手綱だと思っていた綱は引き歩き用で、片側を外して伸ばして十字架に結んでいた。
ほー。
それはいいんだけど、わたしが一人中心で、他の六人が周囲に居るってどういう事?
まあ分からなくはないけど、分かりたくないなあ。
次に綱の結び目をゆるくして、心棒の周りを回れるようにする。
「それではいよいよ騎乗してもらいます。自信のある者は、乗ってもらって構いませんよ」
ミシルさんにそう言われたので、まずはやってみる。
出来そうな気がしたのよ。
足乗せが地面から一メートル以上の高さにあるので、足を足乗せに掛けて、そのままよじ登る。というわけにはいかない。
だけど、ウィアの世界には身体強化があるのだ。
ウラさんと跳び上がった海岸段丘は、これよりずっと高かった。
でも思いっきり飛び上がって背中にドスンと着地しては、騎獣さんに迷惑だろう。
だから体を騎獣にぴったりと寄せて「乗せてもらうね」と、まずは声をかけた。
──フシュー と、歯の隙間から空気の漏れる音がする。
返事をしてくれたみたいだ。
走竜って、案外人の言葉を理解できている?
それはともかく、座席の端と腹帯の足乗せをつかみながら軸足で地面を蹴り、反対の足を跳ね上げて跳び上がる。
跳ね上げた足を騎獣の体に沿わせて先行させる。
わたしのお腹も騎獣の体に触れるか触れないかの距離で、横向きになって腰から上がっていく。
走竜の羽毛が乱れないよう、羽毛をそっと撫でるように上がっていく。
走竜って翼はないから、羽毛って言わないのかな? 前肢だもんね。
短い前肢だけど、物がつかめそうな指もちゃんとある。
跳ね上げた足が座席を越えて、反対側へ降り始める。
高飛びのベリーロールみたいだ。
この高さは、リッケさんの肩ぐらいかな?
内腿を軽く触れさせて距離を計りながら体を回し、先行する足が足乗せを踏んだところで、そこを支点に反対の足も足乗せに乗せる。
両足で足乗せに立ち、気持ち腰を浮かせた状態で、無事に騎獣の上に収まった。
ふう。
乗車、良しだ。(車か?)




