76 騎乗免許講習会 前編
やって来ました東門。
騎乗免許講習会が行なわれる騎乗ギルドは、東外壁門を出た先にあるそうだ。
先?
なんで先? とは思わなかった。
だって南門を出た先にも、街が続いていたから。
案の定、東門を出た先にも街が続いていた。
ただしこちらは、規模が一段とおっきい!
大通り沿いと同じ規模の建物が延々続き、はるか向こうに二つ目の城壁が見えた。
こりゃ遠いわ! さすがゼーデス王国の首都だ。
王都ツェルマートっていうのは、東へ向かって広がった街だったんだね。
東外壁門の内側と外側で乗合獣車の料金を、別々に徴収してもいいんじゃないかと思うくらいの距離がある。
グラニエ平原が遠いよー。
今日は遅めの時間なので、獣車の屋上席は開いていない。
あそこからならもっと眺めが良かったろうにね。
ちょっぴり残念かも。
“第二東外壁門”という名前の終点駅で降り、城壁沿いに少し歩いた所に騎乗ギルドの建物はあった。
入口に立てられた看板に従って、裏手の建物へ回る。
「おはようございます。騎乗免許の講習に来ました」
「おはようございます。冒険者の方ですか? それでは冒険者証を、この箱にかざしてください…………冒険者組合王都支部所属、Dランク冒険者のミユキさんとウラさんですね」
「「はい」」
「空いている席で、掛けてお待ちください」
首にかけている冒険者証を見える場所へ出しておいたら、受付けの人にそう声を掛けられた。
むふっ、Dランクだよ。Dランク冒険者って呼ばれたよ。
昨日昇級したばっかりだけどね!
頑張ってお澄まししたまま席に着き、着席のあとでウラさんと二人して、キャッキャしてしまった。
それにしても冒険者ギルドでも思ったけど、何気に便利だよね。身上鑑定器って。
だんだんと人が増え、朝2鐘の音が聞こえたところで講習が始まった。
午前9時だ。
人の入りは五割強といったところになった。
あらかじめ机に置かれていた紙片を見ながら、説明が始まる。
この騎獣ギルドで扱っている騎獣の種類と特徴。
騎獣の基本操作。
街道や市街地での騎獣の扱い方。
騎獣の休ませ方、水のやり方。
この辺りでは見ないけど、他所では使っている所のある騎獣の例。などなどだ。
土地ごと気候ごとの違いによって、特化した騎獣や使えない騎獣があったりするらしい。
とくに休ませ方のあたりは、騎獣ギルドの施設説明を絡めてとっても詳細だった。経由地に着いた後の騎獣の世話を、ギルドに任せられるサービスなんかが盛大に謳われてたよ。
そういえばこの講習会。公のものじゃなくて騎獣ギルドによる会員登録みたいなものだったね。
まあいいんだけどさ。
「では座学はここまでとしまして、お待ちかねの適性検査へまいりましょう」
待ってましたとばかりにテキパキ動く、他の参加者たち。
「みんなずいぶん急ぐんだね」
「多分ですけど、以前にお目当ての騎獣に選ばれなかった方たちの再挑戦ではないでしょうか」
ああ、お目当ての騎獣に気に入られないと、その種類についてはやり直しになるんだっけ。
どの騎獣にも相手にされなかった、なんて可哀想な人も居そうだ。
どうかそんな事にはなりませんように。(お祈り)
ああでも祈った先がウィアだと、霊験あらたかとは行かないのかな?
ウィアさん。あなたの使徒が、試練の時ですよ。
†
「それではこの班では、“馬”との相性判定から始めます」
騎獣との相性判定は、少人数に分かれた班ごとで行なうらしい。
組分けはあらかじめ決まっていたらしく、呼ばれた係員さんのところへ行くと、わたし達の他に冒険者らしい男女二名と、冒険者じゃない人一名の五名で班ができた。
班ごとの人数はまちまちなので、どんな基準で班分けされているのかよく分からない。
その五名で“馬”が飼われている柵へ向かうと……。
十頭の馬が、雁首そろえて柵いっぱいの所まで来て、文字どおりに首を長く伸ばしながら、わたし達を待っていた。
なんだこれ?
「貴方たちにはこれからこの馬たちに触ってもらいます。両手で手拍子三つ分さわっていられれば合格です。柵の中へ入っても構わない……のですが、これは……いつも通りではないね。ちょっと貴方たち、一人ずつ私の方まで来てもらえますか。最初はロドニーさんから」
冒険者じゃない風の人が、少し離れたところへ移動した係の人の所へ歩いて行く。
馬たちの様子は変わりない。
何だか嫌な予感がしてきた。
「マヤヤさん……」「次、トリニダードさん……」
変化なし。
本格的に、嫌な予感がしてきたよ……。
「ミユキさん」
呼ばれたので、そちらへ歩いて行く。
馬たちの首は……じーっとこちらを見つめたまま、そろって首を巡らせてきた。
焦れているように、少し足踏みをする子もいる。
やっぱりかー。
「君だね、原因は」
係の人がそう言う。
はい、どうやらそうらしいです。
係の人は「ふむ」と少し考え込んでから言った。
「まあ問題はないか」
問題ないのか! 良かった~。
「それでは改めまして。貴方たちにはこれからこの馬たちに触ってもらいます。両手で触れ、拍子三つ分さわっていられたら合格です。柵の中へ入ってもらって構いませんが、後ろから近付くのは禁止します。動物に後ろから近付くと警戒されるし、たいていは蹴られるか噛まれるかしますからね。これは他の騎獣でも同じなので、肝に銘じていただきたい。通常であればこの試験は一人ずつ申告してから行ないますが、現状は見ての通りすべての馬が一箇所に並んでこちらを向いていますから、柵のこちら側から近付くか柵の向こうで横から近付くかの二択になります。見えない場所はありませんから自由に初めてもらって構いません。それでは始めましょう」
ポンっと係の人が手を叩くと、それを合図に“騎獣との相性診断”が始まった。
わたしの場合そっと近寄る意味がないので、まっすぐ真ん中の馬へ近づく。
必死に首を伸ばしてくる馬さんの頭を撫でると、嬉しそうに鼻面をこすりつけてくる。馬の顔の長い所って何て言うんだっけ?
うん、でも馬かわいいな。とっても大っきいけど。
わたしの左側にはウラさんが、右側にはマヤヤさんという女性の冒険者が並び、わたしに向かって首を伸ばしてくる馬の頭をなでなでしている。
うまくやっているね。
ロドニーさんという冒険者じゃない人と、トリニダードさんという冒険者は、柵の内側で横から攻めるみたいだ。
あ、ロドニーさんが伸ばした手を噛まれた。
係の人が助けに入る。
トリニダードさんは、無事になでる事ができた。
問題なのはその後の、わたしだった。
なでる事は無事にできたので、そのまま後ろへ離れようとしたところ、なでられていない他の馬たちが反乱を起こしたのだ。
反乱だよ?
横一列に並んだままこちらへ向かって押し合いへし合いになり、木の柵がみしみしいい始めたんだよ。
「ミユキさん!」
係員さんに声をかけられた。
「はい!」
「手間だろうが、全部の馬を撫でてやってもらえるかな」
「…わかりました」
係員さんの要請に従い、下がっていた所から一歩踏み出して、ふたたび馬さんをなでられる場所に立つ。
馬たちがまた長い顔ををこすりつけてきた。
さっきなでた子の隣から、順に顔をなでていく。
端っこまで行ったのでまた中央へ戻ろうとしたところ、戻り道で素通りされそうになった馬さんが、また「なでてくれ」アピールをしてきた。
素通りは許さん! って?
勘弁してー。
結局端から端までなでて回って、もう一度真ん中まで戻って終わりになったよ。
まずは馬さんクリア。
でもこれ、他の騎獣でも似たようなことになるんじゃないよね?
よね?




