75 パーティーの行方
「「ごちそうさまでした」」
「はい、おめでとうね」
Dランクへの昇格手続きをしていたら帰り時間がそこそこ遅くなったので、夕食は宿でいただいた。
アンジェラさんに昇級を伝えると、お祝いにとデザートが付いて夕食が豪華になったよ。やったね!
お礼を言って部屋に戻ろうとしたら、ちょっとおかしな事が目に付いた。
「ヨアンナちゃん、今日は販売用のパンが少なくない?」
この宿は女性向けの宿屋であると共に、美味しいパン屋さんでもある。
だから普段なら、食堂だけでなくパンの販売コーナーにもいろいろなパンが並んでいるのだけど、今日は販売用のパンがずいぶん少ないみたいだ。
だから、そこにいた宿の娘のヨアンナちゃんに聞いてみた。
「そうなんですよ。パン焼き釜が一台調子が悪くなって。でも明日業者さんが見に来てくれるそうなので、大丈夫ですよ。どっちみち夜は、それほど数が出ませんからね」
「そうなんだ。はやく直るといいね」
そう言って二人、部屋へ戻ったのでした。
†
えへへ~、Dランクの冒険者証だよ~。
新しくなった青銅製っぽい冒険者証なんだよ~。
赤いプレートも可愛かったけど、白いプレートは凜々しいね~。
部屋へ戻るとわたしは、ランクアップした冒険者証を眺めてにやにやしていた。
心配事が一つ片付いて、思いの外嬉しかったみたいだ。
Eランク冒険者だと近場のEランク魔獣を狩るか、採取をするか、都の中での雑多な仕事を受けるしか選択肢がない。けれどDランクなら、大手を振って遠くへ行く依頼が受けられる。
もちろん依頼を受けるにしても、Dランクに向けのものは近距離の護衛か、せいぜいCランク冒険者のお手伝いだとリシュヌさんが言っていた。
それはいい。
それはいいんだ。
わたしは冒険者としてランクを上げたいわけじゃないんだから。
冒険者としてのランクが上がるのは嬉しい。
だけどそれは、冒険者として上へ行くのが目的だからじゃない。
わたしは三日後、クワン神国へ旅立つ。
ウィアからの依頼の最初の段階として、わたしと同じくウィアの世界へ呼ばれた、佐橋月那(友人)と敦守達弥(兄)に合流するためだ。
ウィアの依頼内容は詳しく聞いてないけど、放っておけばこの惑星が砕けるらしい。
まだ千年以上も先の話らしいけど……。
そうなれば当然、この惑星に暮らす生き物はすべて滅びる。
その原因をウィア自身の手(手ってあるのかしらね?)で取り除いた場合、惑星は助かっても地上の生物は、天変地異でやっぱり滅びるらしい。
ウィアとしてはそれでもいいらしいのだけど、たまたま(?)見つけた、この災厄を穏便に収められる人物が、わたしたち三人なのだそうだ。
ほんとうかな?
ウィアによると、わたしたち三人が一ヶ月~三ヶ月、一人でやる場合でも一年~三年くらいレベル上げをすれば、目標を達成できる程度に育つという話なんだけど、やっぱり必要なんだね、レベル上げ。
そりゃそうか。
具体的に何をするのか知らないけど、前から特別な能力者というわけじゃない。
三人揃ってただの人だ(きっぱり)。
クラブ活動の弓でさえ、最初は矢を的へ届かせる事に時間を使った。それから的に当たるよう練習し、得点を競えるようになったのはその後だ。
ウィアの依頼は特定のスキルを延ばせば一人ででも出来るみたいだけど、兄さん達のスキルって何なのかな?
仮にわたしが戦車や戦闘機をもらっても、なんの役にも立たないと思うんだ。
それどころか、惑星の崩壊を防ぐなんて話なので、空母や戦艦をもらってすら何も出来ない気がする。
下手に触って、事故を起こすのが関の山だ。
いやー、事故すら起こせない気がしてきたよ。
それらを越えるようなスキルって、どんなのだろうね。
ちょっと不安だな。
ともかく、国を跨いで移動してもあれこれ言われない立場は手に入れた。
明日は、この世界での移動スキル(物理)を手に入れるため、騎乗ギルドで騎乗免許の講習だ。
転ばぬ先の杖ってヤツよ。
じゃあ明日に備えておやすみ~……って言うわけにはいかないか。
パーティーを組んでほしいって言う、ウラさんのお願いの説明を聞かないといけない。
SNFの地図の通りなら、わたしは何千キロもの旅をするはずなんだけど、大地母神の巫女さんであるウラさんは、“復活の間”から離れるわけにはいかないはずだ。
ここゼーデス王国でパーティーを組んでおくメリットが、あるのかしらね?
「それでウラさん。昼間言っていた、パーティーを組んでほしいっていう話の説明は、お願いできるかな?」
「はい。こちら、つまり大地母神神殿の利点ですが、パーティーを組んでいれば、ミユキさんになにかあった時に私たち、いえ私にそれが知らされます」
依頼の成否や、その以前にクワン神国へ到着できずにリタイアしてしまえば、それが分かるのか。
あれ? いや、待って。
月那と兄さんに連絡を取ろうとしただけで、何週間もかかるんだよ? この世界に公共ネットワークや電子メールなんてものは無い……はずだよね。
それとも、身上鑑定器網みたいなものがあって、メールのやり取りみたいなことができたりするのかな?
「ひょっとして、なにか一瞬で遠くに連絡できる手段とかがあるの?」
「いえ、そういったものは有りません」
違うのか~。
まあ無いよね。
わたしが“ウィアの使徒”だって言うなら、月那や兄さんだってそうなんだ。二人の事は話してあるし、そんな便利な手があれば試してないはずがないよね。
「仮にの話ですが、ミユキさんが何処かの冒険者依頼に失敗して、亡くなってしまったとします」
え~、わたしいきなり出落ち?
「それが確定であれば、届けられた冒険者証は死亡扱いとなり、結果が家族へ知らされます。昼間話していた国際組合便にはそういった報せも含まれています」
ああ、亡くなった場合のお知らせは、家族に知らされるのね。
ちゃんと人道に配慮してるんだ。
「で、遠方にいるパーティーメンバーにもそれが知らされると?」
「はい。それでこの先の話は秘密ですので、“復活の間”へ出入りする者以外とは話さないで頂きたいのですが」
ふむふむ、つまり総祭司長のインゲルスさん、無口さん、そして巫女のウラさんが ○ っていう事ね。
「大地母神神殿は、死亡による冒険者登録の抹消を、第二世代身上鑑定器を使って、直接見る事ができます。身上鑑定器の内容変更は他の場所にも反映されますが、それは地方レベルでも数が多くて、国ごとに変更情報をまとめて書面で他国へ周知し、身上鑑定器で確認を取るという手順で行なっている訳です。ですが神殿の場合、所属と名前のわかっている特定の登録者、この場合ならみゆきさんの変更情報は、何であれ神殿から直接見る事が出来るのです」
「‥‥‥‥‥えー──────!」
それって、冒険者ギルドの内部情報が筒抜けちゃってるって事?!
え?! いや、そんな重大な情報を、部外者のわたしに話されても困るんだけど……。
「それって、外へ漏れたらとっても困る情報なんじゃない?」
「はい。たいへん困った事になります」
「なんで部外者のわたしにそんな事を話すかな……?」
「まさしくミユキさんについての事柄ですから伝えました。ミユキさんに納得してもらえる説明のために必要な情報ですし、大地母神様の使徒様へ隠し立てすることはありません」
「いや、もう少し隠そうよ」
「それに隠したところで、ミユキさんが大地母神様へ尋ねられれば、真実は知れる事です」
あーそうか。確かにウィアに聞けば分かりそうだね。
もっとも向こうは「知りませんよ。そんな事はいちいち気にしていませんし」とか言いそうだけど。
でもって、せっかくだからって調べてくれてね。けっこう気のいい空間知性だから。
それにしても、関係者が少ないねえ。
ひとたび何事かあれば、知識ごと失われてしまいそうな少なさだよ。
「でもそれなら、わざわざパーティーを組まなくても、わたしの冒険者登録を監視すれば済むことじゃないの?」
「いえ、ちゃんとパーティーを維持する意味はあります。一つは、負った危険が正規の道筋でやって来る情報によって、時間差で消える事です」
あー、正式なルートで死亡通知が来れば、その後は神殿がそれを知っていてもおかしくないってことか。
「もう一つはミユキさんの側の利点……となればいいのですが、パーティー口座を使用して、ミユキさんを支援できることです」
支援なんてことが出来るんだ。
預金口座を使うということは、資金支援かな?
でもなー、ウィアからもらった猫族神人の体と、兄さんからもらった装備や資金だけでも、普通の冒険者とは較べものにならないくらい有利なスタートなんだよね。
神殿からは戦い方や魔術の手引きをしてもらっていて、それだけで感謝してるのに、この上資金援助まで受けるのは、何というか金満が過ぎて興ざめしそうで……いやいやいや。
「ミユキさんが冒険者として効率良く稼ぐさまは、この目で見せていただきました。お金の使い方に一家言あるのも知っています。ですからミユキさんに資金を持って行って頂こうとは願いません。ですがこの世の中、お金があれば解決できることが多いのは確かです。そんな時のためにパーティー口座へ神殿の資金を備蓄しておき、いざお金で解決ができる場面であれば、躊躇わずにそれを使って頂きたいのです」
あーウラさんや、わたしは倹約と高効率が趣味なだけで、お金を使うのがきらいというわけではありませんよ。
使う時には使っちゃうよ。
「大地母神様の使徒様が動こうという時に、神殿がそれを知っていながらお金の事で躓いたなどというのでは、私たちは千年後の子孫に顔向けができません。ですから、何卒この提案を容れて頂けますよう、お願い致します」
ああ、……そうか。
わたしはゲーム繋がりでこっちへ来たし、ウィアは気にもしてなかったからピンと来なかったけど、わたし達が失敗したら、惑星大地は残っても人類は絶滅するんだ。
そりゃあ、やれる事はしておきたいよね。
神殿の人たちにはとってもお世話になったからそれくらいは受け入れて、少しだけど安心してもらっ方がいいのかな……。
「分かったよウラさん。じゃあ条件は、出発前日の夕方冒険者ギルドへ行き、その時“パーティー口座”に残っていた額を折半して、それぞれの個人口座へ移す。空になった“パーティー口座”をわたしが活動資金用として使えるように設定する。あとこれはわたしの希望なんだけど、活動資金を“パーティー口座”へ入れるのは、わたしがツェルマートを発ってからにしてもらえるかな」
「構いませんが、理由を伺ってもよろしいでしょうか?」
「わたしは故郷に帰ればただの学生なのよ。大金にビビって、旅立てなくなったら困るじゃない」
「はい。分かりました!」
こうしてゼーデス王国王都支部所属の、Dランク冒険者パーティー“またり”は存続する事になった。
さあ、明日は騎乗免許の講習だ。
早く寝よう、ね。




