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74 風の便り    後編    


「ミユキさん」

「はい」

「冒険者組合(ギルド)では、個別のパーティーや冒険者に関する情報提供は行なっておりません」


 えー。

 ああ、個人情報の保護かぁ。こっちにもあるんだ。


「ですがミユキさんの場合、お兄さんとお友達に合流するためクワン神国へ向かうという話は以前(うかが)っておりました。今も先に先方の名前を呼んでみえたので、これは特例ですが……」


 え、ひょっとして……。


「パーティー“またり”は存在しています。冒険者組合(ギルド)クワン神国タルサ支部に所属で、これは……一昨昨日さきおとといの登録ですね」


 冒険者ギルドクワン神国タルサ支部。

 月那るなと兄さんがSNF(ゲーム)でレベル上げに向かっていた、神国王都からさほど遠くないダンジョンの街だ。

 さすがに個人名までは教えてもらえないみたいだけど、間違いない!

 三日も前にDランクへ昇級してるのか、二人ともすごいな。

 わたしがあれだけ色んな人たちに協力してもらって、やっと今ここにいるっていうのに、兄さんと月那るなはさくっとDランクになったらしい。

 ウィアから「順調すぎるくらい順調だ」と聞いてたけど、これは本当に順調みたいだ。


「彼らに連絡って取れませんか?」


 三日前の登録が調べられるって事は、外国の身上鑑定器ステータスチェッカーとも繋がってるってことだよね。

 それなら。


「それですと国際組合(ギルド)便で、書状や小荷物を届ける形になりますね。ただし宛先が他国ですので、運送料はかなり高額になりますし、到着までの期間も相応にかかります」


 あうー、公共ネットワークでメールを送るような訳にはいかないのか。

 まあしようがないのかな、基本手運びの世界なんだろうし……。


「最小限の手紙を送るとして、届くまでの期間と料金はどれくらいでしょう」


 ともかく、わたしが今ここにいて無事な事と、もうすぐそちらへ向かうことだけは知らせておきたいもんね。


「一例ですが、これが一番小さな書状箱です。ここに入る大きさのものであれば、中身は何でも構いません。もちろん違法な品は不可です。これを“普通便”、つまり獣車を使った隊商の荷物として運んだ場合、クワン神国王都までで大銀貨二枚。輸送期間は最短で二ヶ月となります。これがいちばんお手頃(リーズナブル)な形式です。商業組合(ギルド)の定期隊商に、冒険者組合(ギルド)が護衛をになうという共同コラボ輸送で複数王都を結び、物流用途での使用はこの形式が一番輸送量が多くなります」


 すこし大きめで薄い筆箱ペンボックスのような書状箱を見せて、リシュヌさんがそう説明した。

 葉書ハガキみたいなお手軽な物はないらしい。

 それで二ヶ月(最短)かけて手紙を運んでもらって、四国よんごく横断してお菓子亭(やど)で五泊分の料金。

 わたし達は少しお安い部屋に入れてもらっているから、普通の二人部屋に換算すると三泊強。

 あれ? けっこう安い気がするね。

 距離を考えると、もっと取っても良さそうな気がするよ?

 何キロあるのか知らないけど、なんと言っても外国だし。

 でも。


「最短で二ヶ月ですか」


 つまり獣車で普通に移動すると、それくらいかかるって事か。


「そうです。この隊商は対象都市に対して週一便の出発頻度ですので、お預かりした荷物は出発まで数日待つのが普通です。また隊商キャラバンの規模が大きいため途中の障害、川の氾濫はんらん崖崩がけくずれ、魔獣の大量発生などで経路ルートの変更を余儀なくされれば、隊商規模の大きさから経路ルートの選択肢が限られるため、再度の開通まで足止めを受ける事もあって、到着までの期日は長くなりがちです。代わりにこの規模の隊商となりますと、盗賊や魔獣も小規模のものは襲ってきませんから、そちらの面では安全性が高くなります。つまり隊商の規模効果スケールメリットが特徴となる、もっとも安価リーズナブルな便となります」


 やっぱりかなりお安いみたいだ。

 規模が大きくて襲われにくく安全な代わりに、何事かあればそのたびに遅れが生じやすいと言うことか。

 ウィアの用意してくれる移動手段は、頑張って走れば十日でクワン神国へ着くと言っていた。つまり頑張らなくても一ヶ月あれば余裕で着きそうな感じなんだよね。

 途中観光しながらのんびり行く。という選択肢はとらないつもりなので、この便だとわたしが到着したあと手紙がやってくる可能性が、とっても高そうだ。


「一方で、冒険者組合(ギルド)が独自に行なっている高速輸送方式が“急行便”と“特別急行とっきゅう便”です」


 おお、名前が速そうだ。


「騎乗免許講習の説明をしてくれた時に、言っていたやつですか」

「そうです。“急行便”は週に三便出いますから、待ち時間は大幅に少なくなります。加えて収納ストレージ持ちの冒険者を中核としたパーティーが、それぞれ騎乗して移動します。高速で少人数ですから、街道や川の不具合で通行できないときでも、経路ルート変更や迂回うかいに自由が利くので、遅れはあまり出ません」

「そのぶん規模の小さな盗賊や魔獣には襲われると?」

「そうですね。その場合彼らは、なるべく闘わずに逃げます。必要とあれば前の街に戻ることを選択して、安全確保を優先させます」

「それだと遅れが出るのでは?」

「まずそんなことにはなりません」


 なんでだろう?


「逃げた輸送冒険者は、近隣の街や村へ盗賊や魔獣の出現報告をします。次に行政から討伐依頼を出してもらい、現地の冒険者組合(ギルド)が討伐を実施します。この一連の流れを高い頻度ひんどで実施して成果を出すことで、街道の主要経路(ルート)の安全を確保している訳です」


 な、なるほど。

 見つけ次第、んでしまえよ、盗賊団。って事か。


「それでも道を戻った事による遅れは発生するんですよね」

「その輸送冒険者が担当する分だけを見ればそうですが、この方法メソッドらない場合の損失増大を考えると、全体としては比較にならない大きな利点メリットがあります。それに報告に戻った輸送冒険者には、安全な迂回路うかいろの情報や、一時的な増強戦力が与えられる場合もありますから、これは必要経費と考えられています。大きく遅れても数日ほどですからね」


 そうか、輸送そのものに危険がある世界だから、全体の危険を減らした方が得るものが大きいのか。

 そうして考えると、元の世界で使われてたぎりぎり(ジャストタイム)方式なんて、輸送を妨げるリスクが目に入らないほど小さくないと通用しなさそうだね。


「必要な経費コストですか。そう言われればそうですね」

「先ほどの講習でも話していたと思いますが、『依頼・私用にかかわらず、移動中の冒険者は近隣の冒険者組合(ギルド)へ立ち寄り、小まめに情報交換をする事を強く(●●)推奨すいしょうする』と言う話は、まさにこの事を言っているわけですよ」


 どこかの誰かがもたらした情報が自分の役に立ち、自分がもたらした情報が誰か他の冒険者の役に立つ。っていう事らしい。


相互扶助そうごふじょと言うことですか」

「その通りです。広域同業者組合(ギルド)の存在意義ですね。

 それで“急行便”の料金は金貨四枚、輸送期間は最短で三週間になり、通信用途での利用はこの形式が一番が多くなります」


 輸送期間が、半分を切った!

 そして料金がいきなり二十倍に跳ね上がった!!

 でも数か月じゃなくて、数週間で届くのは魅力だな。

 だって早く知らせたいじゃないの。

 スピードって価値なんだね。

 というか、いま“通信”って訳されなかった?

 人がその意思を特定の誰かに通じさせること、確かにこれは“通信”か……。


「最後に“特別急行とっきゅう便”ですが」


 さあ、最速の“ギルド便”は、どんなのかな?


「料金は金貨八枚、輸送期間は最短二週間です」


 おおお、輸送日数がさらに六割に短縮されて、料金は二倍だ!


「これは“急行便”の出発日が決まっているのに対して、依頼があればその都度翌朝一番で出発する随時便ずいじびんであること。“急行便”が各国の王都を結ぶ中継点として各地の冒険者組合(ギルド)を使うのに対して、“特急便”では各地の騎乗組合(ギルド)支部を利用することで、可能な限り毎回騎獣を替え、その分速度が上げられるようになる。という仕組みを取ることで実現しています」


 二週間。つまり十四日。

 ウィアの用意する移動手段が、急ぎに急げば十日でクワン神国へ着くという話だったから、それに一番近いのか。

 うーん、冒険者ギルドがウィアに迫っているのが凄いのか、そこまで頑張っている冒険者ギルドに対しても、まだ優位を保っているウィアの移動手段が凄いのか?

 うん、ウィアがどんな移動手段を用意してくれるのか分からないから、判断が付かないや。

 それでもって輸送料がバカ高かった。


 “急行便”なら料金が支払える。

 SNF(ゲーム)を始めたとき兄さんから、支度金したくきんと言われてもらった金貨五枚はそのまま残っている。だから“急行便”なら料金が支払えるのだ。

 もらったときは、ゲームの金貨五枚ってどれくらいの価値なのかピンと来なかったけど、現実になった金貨五枚って結構高価よね。

 言い方を変えれば、小判が五枚。

 殺し屋さんが雇えちゃったりする金額だよ。

 必殺! なんちゃって。


 冗談はともかく、パーティーの収入として収納ストレージで預かっているお金を精算して折半すれば、“特別急行便”の料金も払えないことはないんだけど、途中の余裕がなくなっちゃうんだよね。

 ここは“急行便”か。

 でもなあ、“急行便”だと少し余裕を見ながら移動しても、こちらが先にクワン神国へ着いちゃいそうな気もするんだよね。


「あのう、ミユキさん。もし良ろしければ……」

「あーうん、その話も今夜しようか」

「……はい」


 ウラさんのことだから、きっと「パーティー資金は全部わたしに」って言うことだと思うんだけど、それはちょっと違う気がするのよね。

 どのみちパーティーの件も聞かないといけないから、今晩まとめてゆっくり話をしよう。


「リシュヌさん」

「なんでしょう」

「次の“急行便”の出発はいつでしょう」

「クワン神国行きの便は今朝出ていますから、次の便は三日後の四月九日早朝ですね」


 三日後? そうか、週三便だと間が一日の便が二つと、間が二日空く便が一つになるのか。


「じゃあ、その四月九日発の便で手紙を一通送りたいです」


 わたしの出発と同じ日か。

 さて、どっちが先に着くのかな?




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