表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/127

70 Dランク講習会 中編    


「これで午前の講習を終了する。この後は昨日試験をした訓練場へ移動して、向こうで待機しているCランクパーティー“竜の咆哮(ドラゴンズロア)”の指示に従うように。昼休憩の指示もそこでもらえる。では移動を開始だ」


 あれ? お昼ご飯……。

 と思ったけど、ケミーナさん達から指示があるらしい。

 変なの。

 まあいいや。


「行こっか、ウラさん」

「はい」




「よぅしDランク昇級講習参加者は、全員こちらへ集まれ」


 屋外訓練場の天井と囲いのついたエリアへ行くと、竜の咆哮(ドラゴンズロア)の四人が待っていた。


「腹の減った者もいると思うが、もう少し話を聞いてもうひと頑張りすれば、美味い昼飯にありつけるからな。傾聴けいちょう!」


 えー、お昼ご飯おあずけ?

 もうひと頑張りって、何をするのかな!?


「これから行なうのは、野外調理の実習だ。材料はお前たちの同輩どうはい組合ギルドに収めた素材をそのまま使う。つまり魔獣だ。それと、採取で手に入る食用の野草だな。この一連の作業を覚えておき、あとは水だけ確保できれば、食糧を現地調達して野営しながら徒歩で他国へ行くことだって出来るぞ」


 野営しながら食糧を現地調達して、徒歩で他国へ行くことが出来る?

 何という事でしょう。キャンプご飯の実習だ!

 これを覚えておけば、たとえ案内人さんとはぐれても最悪徒歩(とほ)でクワン神国まで行ける! ……かも知れない……。

 あ……。


「ウラさん」

「はい」

「今更な気もするけど、神殿の巫女みこさんが殺生せっしょうとかして大丈夫なの?」


 血のけがれが不浄だからって、それを嫌う宗教もあるからね。

 女の人の月のモノまで“不浄”とか言って、一つの建物に集めていた例まである。

 “あんたたちは一生子供を持つなよ”と言いたくなる話だけど、それは今はいい。

 でもウラさんのところの神殿で、そのあたりがどうなのかって言う事を確認したことがなかったね。


殺戮さつりくなど、殺生せっしょういんすることはいましめられています。ですがかてを得るための殺生は、命の循環じゅんかんに含まれるとして許されていますよ」


 命の循環じゅんかんか。一応OKってことかな?

 神殿騎士団や僧兵なんていう戦闘集団を抱えている所だから、全然ダメということは無いと思ったけど、ウラさんは大地母神ウィアに仕える巫女さんだから、別枠でダメかも知れないから……。


「ただ魔獣については別枠べつわく扱いで、あれは命の循環じゅんかんから外れたものとされていますから、よけいに問題ありません」

「あれ別枠なんだ」


 ウラさんじゃなくて、魔獣の方が別枠らしい。


「はい。あまり一般的な考え方ではないのですが、魔獣というのは普通の獣が狂化きょうかしたものと考えられています」

凶化きょうか?」

「そうです。魔獣って、本来草食のウサギ山羊ヤギウシでさえ、他の生き物を襲って食べますからね」

ウサギって角ウサギ(ホーンラビット)の事だよね。確かに草食のはずのウサギつのきばやして襲ってくるね。山羊ヤギウシの魔獣は見たことがないけど、やっぱり襲ってくるんだろうな……」

「そうです。人里から離れた森や山へ行くとそういうものが居ますし、角ウサギ(ホーンラビット)でもこのあたりのものより三~四倍大きいそうです。もはや重さが人と大差ありませんから、まともにぶつかればこちらが跳ね飛ばされるという話です」

「三~四倍!?」


 下手へたをすると中型犬くらいある角ウサギ(ホーンラビット)が、さらに三~四倍?

 人間に近い体重があのスピードで突っ込んできたら、運動エネルギーは今の数倍になりそうだ。

 力任ちからまかせの押し合いが通じるのは、街の周辺だけなのかもね。


「あと昨日のイタチの魔獣の特殊攻撃を含みますが、毒攻撃をして来る相手も増えます。麻痺まひ毒とか」


 ああ、ウラさんも麻痺解除デパラライズ魔術薬ポーションを常備しているそうだし、このあたりの魔獣は可愛い方だったんだね……。

 これはちょっと、気を引き締めないといけないかな。


「おい、そこの二人、ミユキとウラ。しゃべってないでこっちへ来い」


 あちゃあ、教官役のロアに目を付けられちゃったよ。

 ちょっと話しをするタイミングを見誤みあやまったか。

 ケミーナさんはニヤニヤしてるし、お昼抜き! とか言われないよね!?


「はい」

「お前たちには皆の前で、獲物の解体をしてもらおう。心配するな、手順はちゃんと説明してやる」


 む、ありがちな教育的指導か。

 まあ話しを聞いてなかったのはこちら(わたし)の落ち度だし、やらされる内容はこちらとしても望むところなんだ。ここはひとつ前向きにいどんでみよう。


「(小声)魔獣の解体は私ができますから、不明なことがあれば真似をしてください」

「(小声)了解。ごめんね巻き込んじゃって」

「(小声)いえ、問題ありません」


 僧兵モンクの訓練って、血抜きだけじゃなくて解体まで教えてもらえるのか。

 実用的というか実践じっせん的というか、戦闘能力だけじゃなくて生き残り(サバイバル)能力にも重きを置いている感じだよね。


「ここにある材料や資材を好きに使っていい。材料を選んで解体の準備を始めろ」

「質問!」

「なんだ」

「この石は何に使うんでしょう?」


 食材(小ぶりな魔獣の屍骸しがいや野草)が放り込まれた箱の横に、ゴロゴロしたのや平らな石、木の枝。調理器具として用意されたのだろう深鍋ソースパン平鍋フライパンが突っ込まれた箱などが、地面にじか置きされている。

 まあ野営を想定しているなら、このくらいが平常運転なのか。

 ……不衛生じゃん。


かまどの材料だ。実際の野営なら、その場で適当なもの調達することになる」


 かまどかあ。

 そりゃカセットコンロやバーベキューコンロがある訳ないよね。


「ウラさんが解体の練習をしたのって、地面の上?」

「いえ、屋内で調理台を使いました」


 だよね~。地面にベッタリ(じべた)っていうのは、ないよね~。

 それじゃあ、まずは調理台を作ろうか。



    †



「ウラさん、そっちを抑えてて」

「はい、分かりました」


 石をどんどん積んでいく。

 身体強化が大活躍だ。

 高さがひざ上になったくらいで、ウラさんに尋ねる。


「調理台の高さはこんなもので良い? ウラさん」

「はい、大丈夫です」


 ちなみに解体するのは角うさぎ(ホーンラビット)だ。だから大した大きさは必要ないはずだ。


「おい、さっきから一体何を作っている」

「何って、調理台ですよ」

「そんなことは地面に敷物でも敷いてやれ」

「駄目でしょう、そんな不衛生なことをしちゃ」

「フエイセイって何だ!?」


 あれ? 不衛生って通じない?


「ウラさん、バイ菌って意味が通じる?」

「バイキンですか?」


 あ、通じてないや。


「細菌は?」

「サイキン?」


 これも駄目だ。

 マジか。

 翻訳ほんやく魔術も、こちらでまったく知られていない事は訳しようがないらしい。

 菌がいないって事はないだろうから、ウィア(ここ)は箘がまだ発見されていない世界なんだろう。


きんというのは、目に見えないほど小さな生き物よ。微生物びせいぶつね。キノコはあるでしょ?」


 ウラさんに尋ねる。

 キノコはあるはずだ。

 市場に置いてあるのを見たので、無いという事はないと思う。


キノコはあります」


 よし、あった。


キノコも菌よ。あれが目に見えるようになる前の状態」


 本当は小さいのは胞子ほうしだし、大きくなっても菌はキンだけどね。

 今は分かりやすさ重視で。


キノコみたいに目に見えるくらい大きくなって、美味しく食べられるものもあるんだけど、ほとんどは目に見えない大きさのままなの。細菌さいきんと言うわ。その中で体に有害なものを黴菌ばいきんと言って、たいていは光と空気と乾燥を嫌うから、それを避けて土の中にたくさん隠れているのよ。だから地面の上で解体なんて言うのは、もってのほかね。少なくとも地面から離さなきゃ」


 嫌うのは空気じゃなくて、ホントは酸素だけどね。

 だけどこの様子じゃまだ分子なんて考え方はないだろうし、分かりやすさ優先、分かりやすさを優先!


「いい加減なことを「待てよ」」


 ロアがわたしの話を否定しようとして、ケミーナさんがそれをさえぎった。


「地面に落ちたものをひろって、土をはらってったら、はらこわしたっていうのは良くある話だよな」

「そうだが……」

くさったものを食べても、おなかこわすでしょ? あれもきん仕業しわざよ。いいこともするわ。果汁かじゅう穀物こくもつが、あなたの好きなお酒になるのも菌の仕事」


 味噌みそ醤油しょうゆ味醂みりんはないかもね。いねは知られていないようだし、麹菌こうじきんなんてもっと無さそうだけど、お酒はあるしもあるようだから、きんがいないっていう訳じゃないでしょう。


 ああ、いけない!

 このロアと最初に会った時は、酔っ払ったこの男(こいつ)がわたしのお尻を触りに来たのを撃退したんだった。

 つとめて考えないようにしてたのに、しっかり思い出しちゃったじゃないの!


「わたしの故郷では人の役に立つ菌の働きを“発酵はっこう”、人の害になる働きを“腐敗ふはい”と呼び分けていたわ」


 しっかり頭に刻みなさい。

 このくされ○○○!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ