表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/127

68 Eランク冒険者活動 余談  


「この魔獣には、大した買取り価格を付けられませんでした」


 解体場へ魔獣を持っていったリシュヌさんが、早々(そうそう)に戻って来てそう言った。

 なんで?


「? 何かあったんですか、リシュヌさん」

「魔石がないんです」


 へ? 魔石がない!?


「それって、魔獣じゃなかったってことですか?」

「いえ、確かに魔獣のようです。ですが魔石が消えせているようなんですよ」


 どうゆうことでしょ?


 リシュヌさんが言うには、「開いても魔石はなかった。魔石は無いけれど魔石が収まる場所があるので魔獣なのは間違いない。でも魔石を取り出した痕跡こんせきはない。だから、わたし達二人が取り出したとは思ってはいない」のだそうだ。


「“イタチの魔獣”の落とす素材(ドロップアイテム)で“魔石”以外というと、あのにおいを出す臭腺しゅうせん錬金れんきん材料になりますし、毛皮にも値段が付きますけど、一番価値の高い“魔石”が無いとなると、商品価値は相当に下がってしまいますね」と言うことだった。


 あの魔獣は、“スカンク”でも“ポールキャット”でもなく“イタチ”の魔獣らしい。

 しかもなんと、魔獣のランクは「 C 」だそうだ。

 くさにおいは、“イタチの最後っ”と呼ばれるそうで(いかにも臭そう!)、その特殊攻撃がやっかいなうえ小柄なわりに獰猛どうもうなため、たまに遭遇した冒険者はよくあの魔獣にやられるらしい。

 とうぜん普段はグラニエ平原の低地にはいない。おもな生息地はもっと王城の敷地に近い、高い場所だとか。

 そして運良く生き残った冒険者が盛大に悪臭を振りまくために、ギルド事務所では嫌われ者になっている。

 リシュヌさんの盛大な後退あとづさりは、そういう理由わけらしい。


浄火じょうか】のほのおで悪臭は消えたのに、悪臭の元になる臭腺しゅうせんが無事だっていうのは、不思議というか不幸中の幸いかな?




 魔獣を倒したのは、わたしのスキルの派生技はせいわざだ。ということにした。

 多少誤魔化(ごまか)しているけど、嘘じゃない。

 ちょっと正体不明なところがあるだけよ。

 そしたらリシュヌさんから、「参考までにその派生技というのを見せてもらえないだろうか?」と、丁寧ていねいにお願いされた。

 魔石が消える技、しかも“イタチの魔獣”の特殊攻撃を無効化できる技が存在するなら、その確認だけでもしておきたいそうだ。


 何か大事おおごとになってきた気もするけど、わたしもどういう事か気になったので、その実験に付き合ってみることにした。

浄火じょうか】の出だしは、見た目が手のひらサイズの【火壁ファイアウォール】っぽいので、スキル“熱制御サーマルコントロール”の一環ということで通ると思うんだよね。


 することは簡単。横に間仕切り板があるカウンターへ移動してまわりの視線を切り、小さな魔石をてのひらに乗せ(ギルド持ちよ)て、【浄火じょうか】を最弱で発動してみる。

 すると魔石は、一瞬で消え失せた。


「魔石が……消えた………」


 そのままてのひら紙片かみきれを乗せると、紙片かみきれは燃える事なく残っていた。


「この紙が燃えないところが特徴なんですよ。じゃあこのまま火壁ファイアウォールへ替えますね」


 最弱の【浄火じょうか】から、最弱の【火壁ファイアウォール】へと切り替える。

 てのひらに乗っていた紙片かみきれは、一瞬で燃えつきた。

 そこへ魔石(小粒)を乗せると、……こんどは魔石の方が変化しない。


「……この【火壁ファイアウォール】の派生技に殺傷能力があるのではなく、派生技によって魔石が消滅したために、魔獣が死んだように見えますね」


 という結論になった。

 ざっくりとした実験だけで、こまかい検証まではしてないけどね。

 わたしもそこまで詳しくスキルをさらけ出すつもりはない。


 魔石を消滅させる事で魔獣を倒す。

 これが本当なら、どんな強力な魔獣に対しても、圧倒的に有利な立場を築けることになる。けど「魔石の買取り価格は、魔獣の強さや大きさによって幾何級数きかきゅうすう的に増えるので、強い魔獣、倒しにくい魔獣ほど、この方法で倒した場合の損失が大きくなるんですよ!」って言って、リシュヌさんが頭をかかえていた。

 チーン……。


 毛皮は売らずに加工してもらうことにした。

 冒険者ギルドでは、そういう冒険者からの依頼も仲介ちゅうかいしているそうだ。

 今回の場合は生産者ギルドへ依頼を出すらしい。

 ギルド同士での仕事のやり取りもやっているって事ね。



 実は収納ストレージを使って、魔獣の身体に傷を付けずに魔石だけ取り出すことはできるんじゃないかとうたぐっている。

 収納ストレージで血抜きをするのと同じ要領でできるんじゃないかな?

 試したことがある訳じゃないし、傷を付けずに取り出せるかも分からないから、不確実な話だけどね。

 こんど魔獣を狩ったときにやってみよう。



    †



「あの二人、何しに来ていたんだい? 昇級審査の今日の分が終わって、だいぶ経っているだろう」

「あら、マヌエラ試験監殿。振るい落としは終わったの?」


 ふるいするジェスチャーをしながら訊く。


「よしてくれよ。Eランク魔獣を五十匹納品できた時点で最低限の力は示しているんだ。これでなお問題が出るなら、納品用の魔獣を不正に入手したときくらいだろう」

「まあそうなんだけどね。で、今回は不正入手をしていそうな受験者はいなかったの?」

「いたよ。ちょっと灰色グレーなのが」


 魔獣の不正入手。

 そんな事をして何になるのか? と思いがちだが、実は一定数いる。

 おもに貴族の次男坊三男坊や商家の跡取あととりなどが、手の者を使って狩った魔獣を自分の獲物と称して提出し、冒険者ランクを上げて箔付はくづけをしようとするのだ。

 マヌエラによると、灰色グレーゾーンの受験者は居たという。

 ランク不相応に立派な武具をまとう受験者たち。

 これで腕が悪ければ、ブラック認定して実力不足で不合格にする。

 だが今回の対象者は道場にでも通っているらしく、腕はそこそこ立ったそうだ。

 この場合は灰色グレーのままで通し、要監視対象者として登録される。

 Dランクならまだしもおかしな連中がCランク、まかり間違ってBランクにでもなった日には、護衛としての仕事も増えて影響が大きくなり過ぎるからだ。

 多少怪しくても、きちんと冒険者の職責を果たしてくれるならば良い。だけど下手をすると、冒険者組合(ギルド)の信用問題になりかねない。


 なにしろ“冒険者が受注した依頼は、他者に譲渡じょうとできない”のだ。


 防具が立派だという点では、ミユキ、ウラの二人組もその連中と変わりない。

 武器は大人しいものだったけど、ミユキさんは収納ストレージ持ちだ。大型の武器はそちらにおさめていても不思議じゃない。

 でもあの子たちは大丈夫だろう、とも考えている。

 何というか、腹に一物いちもつ持つには警戒感けいかいかんがなさ過ぎる。

 二人とも、善良で無邪気むじゃきなのだ。

 それすら芝居しばいうちという可能性はあるけれど、あの無警戒むけいかいっぷりまで芝居しばいと言うなら、それで稼ぐ事ができるレベルだ。

 冒険者よりも、詐欺さぎ師の方が向いているだろう。

 なにしろ人心掌握じんしんしょうあく不可欠ふかけつ職業ジョブだ。


 ──無理ね。


 大地母神ウィア神殿の秘蔵ひぞうっ子と言ったあたりが妥当だとうでしょう。

 さっきも無警戒に自分の技能スキル披露ひろうしていた。

 少しれた冒険者なら、自分の珍しい技能スキル他人ひとに見せたりしないから。

 少しは周りを疑う事を覚えましょう。

 お姉さん、心配になっちゃうから。


 そう、技能スキルの話だ。


「ねえ、マヌエラ。魔石を狙い撃ちにする技能スキルって知ってる?」

「何だいそれは。そんなものが存在するなら、魔獣に対する最強の切り札になるじゃないか」


 数百年の時を生きる森精族エルフのマヌエラにも、聞き覚えはないらしい。


「それが良い事ばかりじゃないのよ。その技能スキルを使うと、魔石が消失してしまうようで……」

「そ、それは何というか、もったいないね」

「そうなの。魔石を消して魔獣を倒す。魔獣の脅威に対抗する最強の切り札(カード)になり得るんだけど、経済面の利点メリットまで失われてしまうのが勿体もったいなくて……」

「で、それをあの二人が見せたのかい?」

「いえ、ミユキさんの方。一見すると極小の【火壁ファイアウォール】なんだけど、ふつうの炎と違って熱くないようで、紙が燃えることもなかったのよ」

「それは希少レア技能スキル? ひょっとすると唯一ユニーク技能スキルか?」

「かも知れないわね」


「あとウラさんの方も変なの」

「変って言うと?」

「レベルの上がり方が普通じゃないわ」

「というと?」

「ウラさんって、ミユキさんが連れてきたときレベル4だったのよ。それが今日身上鑑定器(ステータスチェッカー)を使った時にはレベル16になっていたのよ」

「四倍!? 二人が私のところへ資料を探しに来たのが三日前だよ。ちょっと早過ぎないか?」

「そうなのよ、でも初日のミユキさんもレベルがおかしかったのよね。冒険者登録をした時はレベル10だったんだけど、その日の朝に神殿で調べた時はレベル1だったそうなの。ダンジョンで狩ってきた魔獣の数は5レベル分くらいかしら」

「こちらは二倍か。レベルが急激に上がる例としては、厳しい修行を長く続けた後で実戦を経験すると、め込んだ経験がレベルに変わるという説があるけど、ちょっと眉唾まゆつばな話だし」

「神殿がなにか効果的なレベル上げの方法を見つけたなんてことは?」

「可能性はなくもないけど、それと決めつけられるほど確たる話でもないんじゃないかな……」


 答えは見えないか……。

 ミユキさんが旅立つまでに、まだ数日ある。

 その時までに、もう少し詳しい事が分かるといいわね。


 さて、お仕事おしごと。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ