68 Eランク冒険者活動 余談
「この魔獣には、大した買取り価格を付けられませんでした」
解体場へ魔獣を持っていったリシュヌさんが、早々に戻って来てそう言った。
なんで?
「? 何かあったんですか、リシュヌさん」
「魔石がないんです」
へ? 魔石がない!?
「それって、魔獣じゃなかったってことですか?」
「いえ、確かに魔獣のようです。ですが魔石が消え失せているようなんですよ」
どうゆうことでしょ?
リシュヌさんが言うには、「開いても魔石はなかった。魔石は無いけれど魔石が収まる場所があるので魔獣なのは間違いない。でも魔石を取り出した痕跡はない。だから、わたし達二人が取り出したとは思ってはいない」のだそうだ。
「“鼬の魔獣”の落とす素材で“魔石”以外というと、あの臭いを出す臭腺が錬金材料になりますし、毛皮にも値段が付きますけど、一番価値の高い“魔石”が無いとなると、商品価値は相当に下がってしまいますね」と言うことだった。
あの魔獣は、“スカンク”でも“ポールキャット”でもなく“イタチ”の魔獣らしい。
しかもなんと、魔獣のランクは「 C 」だそうだ。
臭い臭いは、“イタチの最後っ屁”と呼ばれるそうで(いかにも臭そう!)、その特殊攻撃がやっかいなうえ小柄なわりに獰猛なため、たまに遭遇した冒険者はよくあの魔獣にやられるらしい。
とうぜん普段はグラニエ平原の低地にはいない。おもな生息地はもっと王城の敷地に近い、高い場所だとか。
そして運良く生き残った冒険者が盛大に悪臭を振りまくために、ギルド事務所では嫌われ者になっている。
リシュヌさんの盛大な後退りは、そういう理由らしい。
【浄火】の炎で悪臭は消えたのに、悪臭の元になる臭腺が無事だっていうのは、不思議というか不幸中の幸いかな?
魔獣を倒したのは、わたしのスキルの派生技だ。ということにした。
多少誤魔化しているけど、嘘じゃない。
ちょっと正体不明なところがあるだけよ。
そしたらリシュヌさんから、「参考までにその派生技というのを見せてもらえないだろうか?」と、丁寧にお願いされた。
魔石が消える技、しかも“イタチの魔獣”の特殊攻撃を無効化できる技が存在するなら、その確認だけでもしておきたいそうだ。
何か大事になってきた気もするけど、わたしもどういう事か気になったので、その実験に付き合ってみることにした。
【浄火】の出だしは、見た目が手のひらサイズの【火壁】っぽいので、スキル“熱制御”の一環ということで通ると思うんだよね。
することは簡単。横に間仕切り板があるカウンターへ移動してまわりの視線を切り、小さな魔石を掌に乗せ(ギルド持ちよ)て、【浄火】を最弱で発動してみる。
すると魔石は、一瞬で消え失せた。
「魔石が……消えた………」
そのまま掌に紙片を乗せると、紙片は燃える事なく残っていた。
「この紙が燃えないところが特徴なんですよ。じゃあこのまま火壁へ替えますね」
最弱の【浄火】から、最弱の【火壁】へと切り替える。
掌に乗っていた紙片は、一瞬で燃えつきた。
そこへ魔石(小粒)を乗せると、……こんどは魔石の方が変化しない。
「……この【火壁】の派生技に殺傷能力があるのではなく、派生技によって魔石が消滅したために、魔獣が死んだように見えますね」
という結論になった。
ざっくりとした実験だけで、こまかい検証まではしてないけどね。
わたしもそこまで詳しくスキルをさらけ出すつもりはない。
魔石を消滅させる事で魔獣を倒す。
これが本当なら、どんな強力な魔獣に対しても、圧倒的に有利な立場を築けることになる。けど「魔石の買取り価格は、魔獣の強さや大きさによって幾何級数的に増えるので、強い魔獣、倒しにくい魔獣ほど、この方法で倒した場合の損失が大きくなるんですよ!」って言って、リシュヌさんが頭をかかえていた。
チーン……。
毛皮は売らずに加工してもらうことにした。
冒険者ギルドでは、そういう冒険者からの依頼も仲介しているそうだ。
今回の場合は生産者ギルドへ依頼を出すらしい。
ギルド同士での仕事のやり取りもやっているって事ね。
実は収納を使って、魔獣の身体に傷を付けずに魔石だけ取り出すことはできるんじゃないかと疑っている。
収納で血抜きをするのと同じ要領でできるんじゃないかな?
試したことがある訳じゃないし、傷を付けずに取り出せるかも分からないから、不確実な話だけどね。
こんど魔獣を狩ったときにやってみよう。
†
「あの二人、何しに来ていたんだい? 昇級審査の今日の分が終わって、だいぶ経っているだろう」
「あら、マヌエラ試験監殿。振るい落としは終わったの?」
篩を揺するジェスチャーをしながら訊く。
「よしてくれよ。Eランク魔獣を五十匹納品できた時点で最低限の力は示しているんだ。これでなお問題が出るなら、納品用の魔獣を不正に入手したときくらいだろう」
「まあそうなんだけどね。で、今回は不正入手をしていそうな受験者はいなかったの?」
「いたよ。ちょっと灰色なのが」
魔獣の不正入手。
そんな事をして何になるのか? と思いがちだが、実は一定数いる。
おもに貴族の次男坊三男坊や商家の跡取りなどが、手の者を使って狩った魔獣を自分の獲物と称して提出し、冒険者ランクを上げて箔付けをしようとするのだ。
マヌエラによると、灰色の受験者は居たという。
ランク不相応に立派な武具を纏う受験者たち。
これで腕が悪ければ、黒認定して実力不足で不合格にする。
だが今回の対象者は道場にでも通っているらしく、腕はそこそこ立ったそうだ。
この場合は灰色のままで通し、要監視対象者として登録される。
Dランクならまだしもおかしな連中がCランク、まかり間違ってBランクにでもなった日には、護衛としての仕事も増えて影響が大きくなり過ぎるからだ。
多少怪しくても、きちんと冒険者の職責を果たしてくれるならば良い。だけど下手をすると、冒険者組合の信用問題になりかねない。
なにしろ“冒険者が受注した依頼は、他者に譲渡できない”のだ。
防具が立派だという点では、ミユキ、ウラの二人組もその連中と変わりない。
武器は大人しいものだったけど、ミユキさんは収納持ちだ。大型の武器はそちらに収めていても不思議じゃない。
でもあの子たちは大丈夫だろう、とも考えている。
何というか、腹に一物持つには警戒感がなさ過ぎる。
二人とも、善良で無邪気なのだ。
それすら芝居の内という可能性はあるけれど、あの無警戒っぷりまで芝居と言うなら、それで稼ぐ事ができる域だ。
冒険者よりも、詐欺師の方が向いているだろう。
なにしろ人心掌握が不可欠な職業だ。
──無理ね。
大地母神神殿の秘蔵っ子と言ったあたりが妥当でしょう。
さっきも無警戒に自分の技能を披露していた。
少し擦れた冒険者なら、自分の珍しい技能を他人に見せたりしないから。
少しは周りを疑う事を覚えましょう。
お姉さん、心配になっちゃうから。
そう、技能の話だ。
「ねえ、マヌエラ。魔石を狙い撃ちにする技能って知ってる?」
「何だいそれは。そんなものが存在するなら、魔獣に対する最強の切り札になるじゃないか」
数百年の時を生きる森精族のマヌエラにも、聞き覚えはないらしい。
「それが良い事ばかりじゃないのよ。その技能を使うと、魔石が消失してしまうようで……」
「そ、それは何というか、もったいないね」
「そうなの。魔石を消して魔獣を倒す。魔獣の脅威に対抗する最強の切り札になり得るんだけど、経済面の利点まで失われてしまうのが勿体なくて……」
「で、それをあの二人が見せたのかい?」
「いえ、ミユキさんの方。一見すると極小の【火壁】なんだけど、ふつうの炎と違って熱くないようで、紙が燃えることもなかったのよ」
「それは希少技能? ひょっとすると唯一技能か?」
「かも知れないわね」
「あとウラさんの方も変なの」
「変って言うと?」
「レベルの上がり方が普通じゃないわ」
「というと?」
「ウラさんって、ミユキさんが連れてきたときレベル4だったのよ。それが今日身上鑑定器を使った時にはレベル16になっていたのよ」
「四倍!? 二人が私のところへ資料を探しに来たのが三日前だよ。ちょっと早過ぎないか?」
「そうなのよ、でも初日のミユキさんもレベルがおかしかったのよね。冒険者登録をした時はレベル10だったんだけど、その日の朝に神殿で調べた時はレベル1だったそうなの。ダンジョンで狩ってきた魔獣の数は5レベル分くらいかしら」
「こちらは二倍か。レベルが急激に上がる例としては、厳しい修行を長く続けた後で実戦を経験すると、貯め込んだ経験がレベルに変わるという説があるけど、ちょっと眉唾な話だし」
「神殿がなにか効果的なレベル上げの方法を見つけたなんてことは?」
「可能性はなくもないけど、それと決めつけられるほど確たる話でもないんじゃないかな……」
答えは見えないか……。
ミユキさんが旅立つまでに、まだ数日ある。
その時までに、もう少し詳しい事が分かるといいわね。
さて、お仕事おしごと。




