67 Eランク冒険者活動 ○○○の恐怖 後編
わたしは“ポールキャット似の魔獣”が発する悪臭によって気絶し、ウラさんによると心肺停止になっていたみたいだ。
どれだけ臭かったのよ!
ウラさんがあの魔獣を倒した時にも臭気を放ったらしいので、あの魔獣って“スカンク”みたいなやつだったのかもね。
強烈な悪臭で心肺停止になるというのは、猫族としてはアリな事柄なのかしら?
ネコやイヌはヒトより数万倍鼻が利くというから、猫族“あるある”なのかもしれないけど、意外なところで弱点なんじゃない? これ。
明日機会があったら、ケミーナさんに聞いてみよう。
風上に移動しても悪臭が収まらないので、どうしたものかと考える。とは言っても悪臭でまともに頭が働かない。
自分が臭いの元の場合は、悪臭から逃げられないのだ。
目が覚めたときは、【浄火】の魔術が発動していたんだよね。
で、それ止めたら、臭いが襲いかかってきた。
ひょっとして【浄火】が悪臭を抑えていた?
【浄火】
掌に灯した熱くない炎を、腕へ、そして身体全体へと広げていく。
やがて首から下は、ぜんぶ【浄火】に覆われた。
朝と就寝前の日課にしてきた甲斐あって、ここまで広げられるようになったのよ。
「どうですか?」
ウラさんが尋ねてくる。
「臭いはマシになった気がするけど、なくなってはいないわね。やっぱり頭まできっちり炎に埋まらないと駄目かなあ」
「頑張りましょう」
「ううう……」
どうもこの炎を、首から上に広げるのに抵抗があるのよね。
【浄火】は薄く広がるので、メラメラとした炎が口や目を覆うわけじゃない。炎を吸い込んで肺を火傷するわけでもない……そのはずだ。それは分かってるんだけど、練習でそこまでする事はなかった。
ええいミユキ、お前は水の中で目が開けられない小学生か!
効果はありそうなんだから、さっさとやるわよ!!
わたしは目をつむり、口を引き結んで【浄火】で全身を覆った。
おっ……おおおっ。
呼吸が楽だよ~。
薄らと目を開けてみる。
視界は普通だ。
炎が視界を遮るようなことはない。
不思議ね……。
「ミユキさんの方から来る臭いが、なくなりました」
「ホント?」
あ、口を開けちゃった。
「はい。あの、問題はありませんか?」
自分が出す臭いがなくなったせいか、ウラさんの方から来る臭いが気になり始めた。
人って現金だね。
「問題ないわよ。自分の臭いがなくなったせいか、周りの臭いが気になってきたよ。ねえ、横で見ていてわたしって、どんな感じに見えてるのかな?」
「顔ですか? 輪郭は普通ですが、全体に明るい感じです。髪が、黒の地毛と炎の白が網目になってキレイです。目尻や鼻筋や口許からときどき炎が漏れ出ています」
炎が人型をとっているという風ではなくて、普段のわたしの内側から炎が漏れ出ている感じか。
「やっぱりこれは、人前では使わない方が良さそうね。解除するわ」
【浄火】を解除すると、周囲から一気に悪臭が襲いかかってきた!
ケミーナ籠手で、顔をぶん殴られたみたいだ!
しまったぁ!
自分の悪臭がなくなっても、周囲に悪臭を発するものがあれば臭いんだ!
自分が悪臭源じゃなくなっても!
慌てて再度【浄火】を再展開する。
「ごめん、ウラさん。こんなに凄い臭いの中でのんびり話をさせちゃって。浄火で臭いが取れるみたいだから、ウラさんにも掛けちゃうね。【浄火】」
見ればウラさん、目尻に涙を浮かべてるじゃないの!
失敗した!
ウラさんの返事を待たずに手を取り、【浄火】を広げる。
痛くないからね。
あわあわしているウラさんに【浄火】が広がっていく。
へぇ、こんな風に見えるんだ。
等身大の薪が、そのまま熾火になってるような見た目で、漏れ出す白い炎がとっても綺麗。
「けっこう格好良いかも……」
「はぁ、はぁ……。臭いが……消えました」
ウラさんの呼吸が落ち着いて、身体の強ばりが取れてきた。
もう大丈夫そうだ。
さて、晴れて二人とも臭いが取れたはずなので、もう一度浄火を解除してみる。
ガツンッ!
駄目でした。
三度目の悪臭パンチをくらってしまった。
臭いの大元である、スカンク(?)の魔獣が残っていた。
ええい、【浄火】!! 全開!!!
あ、あれ? わたしを中心に浄火の炎が地面を走ると、あちらこちらで魔獣の悲鳴が上がった。
けっこう沢山いたって事かな、スカンク(?)の魔獣……。
というか、【浄火】って殺傷能力があるんだろうか?
ちょっぴり心配ね。
「なんかいっぱい倒しちゃったみたいだから、それだけ拾って帰ろうか」
「はい……」
悪臭の大元であるスカンク(?)の魔獣を見ると、臭いはしなくなっていた。
わたしたちの鼻が莫迦になったわけじゃない。ちゃんと草花の匂いは感じられている。
悪臭だけ除去したの?
浄火って、防臭効果の魔術?(スキル?)なのかしら??
ともかく考えるのは後に回して、ウラさんに中心に置き、悲鳴の上がった場所を巡って、魔獣の屍骸を回収した。
結構広い範囲に散らばっていた……(泣)。
†
「こんにちは~」
王都へ戻って、いつもの冒険者ギルト王都支部。
突発事態で早めに引き上げたため、おやつ時のいまは玄関広間に人の出入りは少ない。
リシュヌさんがいたので目礼して、前に教えられた奥の解体場へ行こうとしたら、名指しで引き留められた。
「ミユキさん、ウラさん、今日はどうしました?」
「薬草を採取したので、買取り場へ行こうかと……」
「分かりました、拝見しますね」
「えーと、買取り場……」
「大丈夫ですよ、拝見しますね」
なんか強引だ。暇なのかな?
まあカウンターで良いなら、わたし達はそれでも一向に構わないのだけど。
採取した薬草を、収納から出して平皿へ並べていく。一つ一つはそれほど沢山採ったわけじゃないけど、種類が多いので全体の量はそこそこ多くなった。
「種類が多いのはさすがですね。数よし、状態よし、すべて常設依頼の出ている薬草ですから、全部引き取らせていただきますね」
おお、さすがウラさんの選り抜きだ。ぜんぶ通ったよ。
「ありがとうございます」
「今日は魔獣は狩らなかったんですか?」
「あー、予想外で遭遇した魔獣が少しだけありますが……」
「拝見させていただけますか?」
これは何の処理もしてなくて解体だって必要だ。だから奥へ行こうと思ってたんだけど、まあいいか。臭くはなくなっているし。
そう思って八匹まとめて取り出したら……。
ズザザザザザッ。っと音を立てて、リシュヌさんが壁まで後退った。
何事!?
「イタ…、イタ…」
どこか痛いのかな?
するとリシュヌさん、周りの臭いを嗅ぎ始めて。不思議そうな顔をしながらこっちへ戻ってきた。
「何か匂いますか?」
「この魔獣、もの凄く臭くありませんでしたか?」
「臭かったです!」「酷い目にあいました!」
「酷い目にあった割には、お二人から臭い臭いがしませんね。この臭いは普通、洗っても数日残るんですよ」
そんなに強烈なのか!
確かに強烈な臭いだったよっ!!
危うく宿に帰れないところだったね。
「わたしのスキルの派生技で消臭できたので、助かりました。頭が潰れたの以外は、倒したのもその技です」
最初の一匹は、ウラさんが踏み潰したそうだ。
お手数をおかけしました。
「それは凄い。ちなみにその技、他の人でも使えそうですか?」
「どうでしょう、よく分かりませんけど難しいんじゃないかと思います」
ウィアがわざわざ“わたし向き”と言ってたからね、熱制御スキルなしでは難しいんじゃないかな……。
「残念です。ともかくこれは、解体に回してきますね」と言って、リシュヌさんは魔獣八匹を解体場へ持っていった。




