64 Eランク冒険者活動 薬草採取
「いっぱいあるね」
「この中から、必要なものだけ探し出すんですけどね」
「それはなかなか大変そうだね……」
街道から外れ、血抜きの木を通り過ぎて、王城へ向かって登り坂になる場所に近付くにつれ、灌木の周囲に緑の葉を付けた下草が沢山生えてきた。
「ミユキさん、先ずはこの薮から探しましょうか」
「分かったよ、ウラさん」
「ああ、ありますね。これが“ヨモギソウ”です。そのまま揉んで貼っても“血止め”の効果があり、乾燥させれば“胃腸薬”になり、精油は“婦人病”に効いて、何より“傷魔術薬”の材料になる、薬草採取の代表格です」
「ヨモギなの!?」
「どうかしましたか?」
「いえこの草、故郷にもあったから。ちょっとビックリした」
「そうですか、奇遇ですね」
ウラさんがニコニコしながら言う。
多分そのまま“ヨモギ”という訳じゃないだろう。
ウィアの言う、この世界に張り巡らされた“翻訳魔術(闇属性だ!)”によって、わたしにとって“ヨモギ”に相当する植物へ翻訳されているって事は分かるんだけど、まさか小説によく出てくる“ポーション”の材料が“ヨモギ”だったなんて、ちょっとビックリだった。
「この葉を茎から採取ナイフで切り取り、十葉一束にまとめて納品します」
「ほうほう」
十葉一絡げにするのね。(ちょっと違う)
ウラさんがやって見せてくれるのを真似て、わたしも葉を切り採り、長目に切った葉の軸で縛った束を収納する。
そこで“収納物詳細情報”を見てみると。
【ヨモギソウ】の葉 10葉1束
地下茎を伸ばして繁殖する多年草。
生の葉に“止血”効果があり、乾燥した葉や茎には“止血”“沈痛”“健胃”“下痢止め”“貧血予防”効果があり、精油に“血行促進”“発汗”“解熱”の効果がある。
“傷魔術薬”の代表的な原材料。
と出た。
本当にヨモギっぽい。
と言ってもわたしにとって、“ヨモギ”と言えば“ヨモギ餅”だ。
というか、ヨモギ関連で製品として知っているのは“ヨモギ餅”だけだ。
そう思った途端、収納の“収納物詳細情報”の表示が増えた!
【ヨモギソウ】の葉 10葉1束
地下茎を伸ばして繁殖する多年草。
生の葉に“止血”効果があり、乾燥した葉や茎には“止血”“沈痛”“健胃”“下痢止め”“貧血予防”効果があり、精油に“血行促進”“発汗”“解熱”の効果があって、★“浴用剤”としても使用できる。
“傷魔術薬”の代表的な原材料。
★若芽は“お浸し”“和え物”“スープの具”“ヨモギ餅”など、食材として使える。
★葉の産毛を乾燥・精製した“艾”を、選択した皮膚上で燃やす、“灸”“灸”療法の原料となる。
「あ………」
なんか増えた。
「どうかしましたか?」
「んー、ちょっと待ってね」
口で説明するには少々文字数が多くって、どう説明しようかと考えた。
するとギルドの資料室で、地図を複写してもらった時の光景が浮かんだ。
わたしの収納って、中で氷を作ったり血抜きが出来たりしたのだ。それでひょっとしたら、あんな感じで“収納物詳細情報”の内容を、紙に写したりできないか? って思いついたんだ。
旅立ちに備えて、紙やインクは買って収納に入れてある。
うまく転写できなくても、これで書き写せばいいよね。
いくよ。
【転写】
うん、できた。
いい子だね収納。うまく転写できたよ。
「収納で“収納物の情報”を取ってみたら、こんなのが出てきたのよ」
そう言って情報を転写した紙を、収納から取り出して、ウラさんへ渡した。
「ヨモギソウの情報ですか。内容が細かいですね。茎も使えるのですか。この★印はなんでしょう?」
「故郷のヨモギを思い出してたら、追加されたの。それで思わず声が出たのよ」
「なるほど、この文字がミユキさんの原語で、ヨモギソウはあちらでこんなに多種の用途に使われていると言うことですね」
原語?
あ、そうか。わたしの収納の表示は日本語で出ているから、それを転写したものは日本語で書かれているのか。
それをウラさんが、翻訳魔術のせいで意味の分かる外国語として捉えている。ということかな?
わたしが手で書けばゼーデス王国の文字が出てくるのに、この“翻訳魔術”っていうのは本当に不思議だ。
一体どうなっているんだろう?
「こっちで“ヨモギ”は食用には使われないの? と言ってもわたしも実際に食べたことがあるのは“ヨモギ餅”だけなんだけど」
「モチ…と言うのは何でしょうか?」
うわ、もち米……ってウィアにあるのかな?
「もち米……お米っていう穀物はある?」
イネか。
「いいえ、聞いたことがありません。穀物と言うことは、種を食べる作物なんですよね?」
マジか。
ウィアにはお米が無いかも知れないという、衝撃の事実!
「うーん、パンがあるから麦はあるんだよね。お菓子亭のパンはジャガイモ製だけど……。こっちにリゾットはある?」
「リゾットはありますよ」
あるのか、リゾットは。
「こっちのリゾットは食べたことがないんだけど、故郷でリゾットは“お米”が主材に使われていたのね。で、“米”の中でも一番粘り気の強い品種を、蒸したあと臼と杵で舂いて、スライムみたいになったものを“餅”って言うのよ」
「泥みたいですか?」
あれ? 泥? スライム??
そう言えばスライムって見てないけど……。
「ひょっとして、魔獣の中にスライムというのは居ないのかな?」
「はい、聞いたことがありません」
ウィアにスライムはいないのか。
そういやSNFでも見てないね。
兄さんみたいに、世界の隅から隅まで行ったことがあるってわけじゃなくて、むしろ街の近郊しか知らないけど。
いや、別に会いたい訳じゃないよ。
いえ……ちょっとだけ会いたいかも知れない……。
「えーと、泥が食べ物じゃないのは横に置いて、泥団子は通じる?」
「土に水を加えて作った泥を、こねて丸くまとめたものですね」
「そう、それに近い!」
お団子は通じた!
「土じゃなくて“もち米”を使い、水を加える代わりに“蒸し”て、臼と杵で“こね”た食べ物が、“餅”よ!」
聞くからに美味しくなさそうだよ(涙)
「その“餅”に色と味と香りをつけるために、“ヨモギ”の新芽を蒸して刻んで混ぜたのが“ヨモギ餅”。その“ヨモギ餅”の中に甘い餡を入れた“草餅”は、とってもおいしいお菓子なのよ」
ウィアの言葉をウィアの物や行動と結びつける事は割と普通にできていたけど、故郷のモノを言葉で説明しようとすると、現物は見せられないわ、相手が知らない言葉は意味が通じないわ、いきなり難易度が上がったわね(ハアハア)。
「今ひとつよく分かりませんが、とりあえず今日の夕食は“雑炊”と“団子”にしてみましょうか」
そんな雑談をはさみながら、手は次々と薬草採取を続けていったのでした。
†
家の庭いじりなんてほとんどしてこなかったけど、意外と落ち着くのを新鮮に感じながら作業していると。
「一休みしましょうか」
「はーい」
そこそこの数と種類を採取したところで、ウラさんが休憩を提案した。
「ねえウラさん、普通のEランク冒険者って一日でどれくらいの種類と数を採取するの?」
白湯を飲んで一休みしつつ、そんな話を振ってみた。
「たいていは一~二種類ですね。混ざると面倒です。買取り価格は持っている袋や篭の数次第ですし、採取数もその篭の大きさによります。ただ欲張ってたくさん持つと、魔獣が出たとき逃げられませんから、そう多くは集められないのが普通です。今日はミユキさんの収納がありますので、数はともかく種類は多く採取していますよ」
ああ、Eランクの子供たちだけだと、角ウサギが出ただけで詰んじゃうのか。
身一つで逃げても追いつかれるから、荷物が大きければ、それだけでアウトだよね。
自分達がまだEランクだってことは、忘れてないよ。
「なるほど。薬草が魔術薬の原料になるって話だけど、回復術士とはどう棲み分けでいるのかしら」
「まず当然ながら、単独の冒険者や回復術士のいない小集団では、好むと好まざるとに係わらず魔術薬を使用します。回復術士のいる小集団では、切迫さ次第になりますね」
「切迫さ?」
「はい。代表的な“傷魔術薬”は魔術の“治癒”とほぼ同じ効果ですから、薬を使う時間の余裕があって症状が軽ければ魔術薬を使うことが多いです。怪我はさっさと治し、体力の回復は後回にし、魔力は温存する場合ですね。逆に“治癒”に使用した魔力も時間が経てば回復しますからと、懐具合が寂しい集団では軽い“治癒”を重ねる所もありますが」
ああ、それはちょっぴり世知辛い。
「そして戦闘中などで事態が切迫していれば、好むと好まざるとに係わらず“回復”魔術を使うことになるわけです」
後で“揺り戻し”が来るのを覚悟して……か。
意外と出番が少なくない? 治癒。
「ただ、“回復”は“治癒”より習得難度が高いですから、“回復”が使えないと言う回復術士は、少なからずいます」
出番あった!
初心者の味方、“治癒”!
「体力を削らずに“治癒”する方法は……ないのか…」
そんな都合のいい話があれば、みんなそれを使っているよね。
「いえ、“継続回復”を使えば、“治癒”と“体力回復”を同時にかけた効果があります」
「それは使われないの?」
「どちらの効果もとてもゆっくりですから、急ぎの時に不向きで……。詠唱も長くて継続回復一回の詠唱で、“軽い治癒”が二回使えますし、習得難度も高いのです」
「やっぱりそう上手くはいかないか」
「要は使い処ですね。戦闘後の回復や長距離の移動に使えば、これほど役に立つ術はありませんよ」
なるほど、使い処なのね。
お茶請けにヨモギ柏餅
うまうま




