62 昼下がりのしっぽ
「は~、体を動かしたあとのご飯はおいしいねぇ」
「まったくですね」
Dランク昇級試験は午前中で終わった。
わたしとウラさんの後、矮族のダスさんと猫族のケミーナさんが出て来ることはなく、試験は竜の咆哮の大男と三下の二人がこなして、平穏(?)のうちに終了した。
最後にマヌエラさんが、「今日の出来が悪かったといって、明日の講習会を欠席しないように。もともと勝てる相手ではありません。明日の講習を欠席すれば確実に不合格になりますし、本日欠席した人も不合格確定です。が、あなた方の合否は現時点でなにも決まっていないと言うことを心に留めておくように」と締め括り、本日の予定を終了した。
そして今いるここは、冒険者ギルドの建物に併設された、食事処兼打ち合わせスペースだ。
夜になると酒場に変身するという噂だけど、今はちょうどお昼時。こんな真っ昼間からお酒を飲む人は………いなくはないけど、一日の中で一番少なくなるらしい……。
今日の用事は済んだし、二人でお昼ご飯を食べながら午後の予定を話し合おうとここへやって来たのよ。
ほら、打ち合せね。
これまで冒険者ギルドへ来る時って、いろいろ忙しないことが多くて、ここでゆっくりご飯を食べることってなかったんだよね。
大地母神中央神殿は隣なので、あちらへ行ってもご飯は食べられるんだけど、ウラさんはともかくわたしはあそこの人とは言い難いし、多分ご飯を食べに行くところでもないからね。
そんな理由で冒険者ギルドでお昼をいただいていると、声をかけられた。
「よう、昼メシか?」
見ると、先ほどのDランク昇級試験でわたしを担当してくれた、ケミーナさんがいた。
ダスさんも一緒だ。
「はい。ケミーナさん達もですか?」
「そうだ。ああ、“さん”は要らないぞ。知ってのとおり猫族は実力至上主義だ。オレと互角にどつき合ったお前……ミユキだったな。お前はオレと対等に話す資格がある」
ええ~、そんな脳筋種族なの!? 猫族って。
ケミーナさん、こんなにキレイでカッコイイのに脳筋だなんて(泣)。
「年長者には“さん”くらい付けないと。それにわたし、自分以外の猫族って見るのが初めてですから、そういう常識は知りません」
中身人族だしね。
それとも猿族??
「なんだと!? 年寄り扱いするなよ、澄まし顔の“森精族”じゃあるまいし。というか、ミユキは施設育ちかなにかだったのか?」
そう言ったケミーナさんは、自分の食事を買ってきて、わたしの隣に腰掛けた。
あれえ?
†
「しかし、そう言うことなら納得だな」
「何がですか?」
「その“しっぽ”だよ」
「はい?」
“しっぽ”?
スキル“魅惑のしっぽ《グラマーテイル》”が付いているわたしの尻尾。
同族だと外から見て分かるの!? この地雷スキル。
「周囲の視線を集めるとかいう、あれですか?」
視線誘導の効果があるって、インゲルスさんが言ってたものね。
揉め事必至の種族固有レアスキルだよ(しくしく)
「驚いたな。知っていてやっていたのか。まあ、分かっているなら問題はないさ」
「気になる言い方ですよそれ。よければ解説してもらえませんか? わたしに説明してくれた方たちは、誰も猫族ではなかったので」
正確には、説明しようとしてくれた。だけどね。
最初にインゲルスさんから話を聞いて以来、その地雷っぷりに耳を塞いできた。
それに約一名は、人ですらないし……。
でも説明してくれるのが同じ猫族なら、かっちり地に足が着いた解説が聞けそうな気がする。
「そうか。説明するとな、もともとアレは集団の中でのし上がろうとする奴が使っていた“旗”なんだ」
「のし上がる? 旗?」
「そうだ。他種族から見ると単なる目立ちたがりなんだが、アレは同族の同性に対して『誰の挑戦でも受ける!』。異性に対しては『私(または俺)を捕まえてみせろ!』っていう挑戦状になっている」
ナニソレコワイ!
周囲へ無差別に喧嘩を売ってるんじゃない!
「オレがミユキの試験のとき担当したのも名乗ったのも、その事があったからだ」
「ああ、あの時『なんでわざわざ名乗るんだろう』って思いま……思ったけど……」
「まあ強くなりたいなら、アレは効果的だ。相手の方から寄ってくるので、それを目的にやる奴は……たまに居る。ミユキの嗜好は意外だったが、人は好き好きだからな」
誰も好んでません!
「注意しないといけないのは異性相手のときだ。負けたら即結婚だからな。悪けりゃ妾だ」
思ってたより酷い地雷だった!!
「異性相手には手加減しないようにします!」
「殺さないように注意しろよ。殺せば普通に殺人だからな」
面倒な!!
まあそれは仕方がないか……。
「胴体を輪切りにしたりしないよう、鋭意努力します」
「やるの前提なんだな。そう言えば模擬棍を鉄芯ごとぶった切ってたな。輪切りも出来るわけか。まあ頑張れや」
激励されてしまった。
「お二人も、今日はもう終わりなのでしょうか」
向かいの席で聞いていた、ウラさんが尋ねた。
「いや昼休みが終われば、上でさっきの試験を採点する」
「試験官と受験者が、こんな所で話していて大丈夫ですか?」
「問題ない、基本通過させる。よほど危うい者だけ落とす」
答えてくれたのはダスさんだった。
尋ねたのがウラさんだったから?
話のとおりなら、わたしたちは二人とも無事通過? かな?
まさかここで訊くわけにはいかないけどね。
「あの二人は別行動なんですか? お昼は」
「あいつらは上の部屋で弁当食ってるよ。下へ降りると、ほれ……」
と視線をやったのは、昼間からお酒を飲んでいる一団だった。
「ああ、お酒の誘惑を避けているんですか。意外と慎重ですね」
「なんだ、ロアかモレスに興味があるのか?」
はい、要らない情報“その二”をいただきました。
三下の名前はモレスだそうです。
「冗談じゃありません! 前に食堂で飲んでいるロアさんに、お尻を触られそうになったのでなるべく顔を見たくないんです!」
「ハハハ。それでどうした?」
「防ぎました。で、伸しました」
「ハッハッハッハッハッ! そりゃあいい!」
面白かったらしく、ケミーナさんに大受けしてしまった。
「聞いて驚け、あいつらあれでかなりモテるんだぞ」
「嘘です!」
そんなに見る目がないのか! 周りの女性陣!!
「本当だ。あれで酒さえ飲まなけりゃなかなか気の付く連中だしな、熟練のCランク冒険者ともなれば並の男よりはるかに稼ぐ。甲斐性があって腕が立つとなれば、少々酒癖が悪いくらい受け入れる女は多いぞ」
そんなっ!
「信じられない」
「もちろん他にも理由がある。街の外が危険だからだ」
「魔獣……ですか?」
「そうだ。冒険者の男女比は三対一くらいなんだが、なぜだか分かるか」
男の人は筋力に恵まれやすく、女の人は魔力に恵まれやすくて、男女間の戦闘力に差はないと言ってたわよね。
戦闘力じゃない、とすると……。
「女の人の方が、わざわざ危ない街の外へ出たがらない?」
「それもある。それに子供が欲しくなれば仕事を辞める事が多い。さすがに大きなお腹で戦闘する奴はいないからな。子供を作ったら続けて二~三人作ることが多いから、子供が手を離れても仕事に戻らない女冒険者は多い。とくに前衛職はそうだ」
「それは分かります」
体を動かす人に何年も空白期間があったら、体の切れや感覚を取り戻すのに、どれだけ苦労させられるか容易に想像できる。
それに子供は産んで終わりじゃない。
代わりに面倒を見てくれる人の当てがなければ、ここでは十五歳で成人だから、都合二十年近く子供に手を取られる。
「この男女比で一定割合の人が死ねわけだが、そうすると……」
「死者の男女比も三対一で、男の人の方が沢山死ぬ?」
「そう、つまり慢性的に男が不足するってことだ。おまけに我が猫族は、種族的に男が少ないので、その傾向がさらに進む。」
えー!
って、わたしは元の世界に帰るからいいけど、こっちの人たちはそうは行かないじゃない。
「つまり男の人の希少性が高くて、モテやすいと」
「そう言うことだ。だからあまり高望みをしていると、お相手が見つけられないことになりかねない」
「大きなお世話です」
「そうだな。それに中級以上の冒険者は女でもよく稼ぐ。子供が欲しくなったら種だけもらって引退して、さっさと子育てに専念する女も多いから、心配するな」
それはそれで世知辛い。
「ケミーナよ、若い娘にあまり夢のない話をするでない」
「そうは言うがな、ダス。この娘、世間知らずが激しそうだぞ。話していてだんだん心配になってきた」
うっ。こっちの世界に疎い自覚はあります。
「年をとった証拠だな。あとそういう話は男のおらん所でしてくれ」
「それはそうか。話は変わるが、あの“トンファー”という武器な………」
あからさまに話を変えたケミーナさんに逆らうことなく、その後は武器や戦闘法の話をして、その後別れた。
ケミーナさん、気にしてくれてありがとう。
ダスさんもね。




