58 Dランク昇級試験 ウラ2
Dランク昇級試験で、ウラさんの相手が大男から矮族さんに変わった。
ダスさんというのかな? 大男がそう呼んでいたし。
ダスさんの身長は、わたしの肩に届かないくらい。
素肌に防具を着けているので、発達した筋肉がよく分かる。
ただ矮族とは言っても、マンガやイラストで見るような樽形の体形はしていなかった。
手足は太くて五頭身くらいだけど、髭がなければかなり可愛らしく見えそうだ。
トランジスターマッチョといったところね。
ちいさい、かわいい、かっこいい。
自分の事を“ワシ”って呼んでるけど、それほど年齢が高いようには見えない。
武装は腰に吊るした小槌(の模擬槌)と、五角形をした野球のベースのような盾。
盾はそれほど大きくないけど、持ち主の身長が大男の鳩尾くらいなので、かがみ込めば全身が盾の陰に隠れそうだ。
「始め!」
マヌエラさんの合図早々、ウラさんが仕掛けた。
大男にしたのと同じに、長棍を大きく横薙ぎする。
ダスさんも盾を大きく横に払うように振る。
パンッ! と高い音をたて衝突した盾と棍は、先ほどと同じように棍がしなって、防御の内側へ入り込んだ。
するとダスさん、ウラさんの棍に合わせて盾を横向きに滑らせた。
棍の動きに合わせて盾が移動するので、しなったままの棍がダスさんの前を通過していく。
ウラさんの長棍をやり過ごしたダスさんが、攻撃に転じる。
小槌には手をかけないまま、盾を掲げて前へ出るダスさん。
以前リッケさんの部下の騎士さんが見せてくれたような、盾で殴るタイプの人かな?
棍を空振ったウラさんは、その勢いで半ば背をさらしている。
ああ、ダスさんがこのまま突進すれば、ウラさんは盾による打撃をもらう事になる。
これから棍を引き戻しても間に合わない。と思ったところで、ウラさんは棍を振った勢いを殺すことなく、地面を蹴ってさらに勢いづけた。
身体を斜めにしたまま軸足一本で立ち、独楽のように一回転する。
空振った棍をすごい勢いで身体ごと一周させて、ダスさんの真上から打ちかかる!
スピードを緩める動作がないので、回転も打ち込みも速い速い。
これにはダスさんも足を止め、前に掲げていた盾を頭上へかざして、上からの攻撃を受け止めた。
頭上の盾で止められた一撃が、しなってダスさんの背中を叩くかな? っと思ったのだけど、ダスさん衝突の瞬間には、最初の一撃と同様に盾を後ろへ滑らせて、棍のしなりをしっかり押さえ込んだ。
職人技だ。
頭上へかざした盾を後ろへ滑らせ、前が空いたダスさんにウラさんがたたみかける。
一歩前へ出たウラさんは棍の反対側、槍でいう石突きの部分を打ち上げた。
最初は柄の端近くを持っていたはずだけど、いまは先ほどまでより中央寄りを握っている。
前に出たときに、棍を持つ場所を変えたみたいだ。
左右左右左右……。
棍の両端を使って、連打するウラさん。
一方のダスさんも、右左右左右左……と盾を振って全部受けきっている。
凄いな。
ウラさんの連打は、打った先端を戻す動きがそのまま反対側の攻撃に繋がっているので、手数が多い。
先ほどの勢いをつけた一撃ほどの威力はないけど、打った棍を引き戻す動きがほぼないので、ともかく手数が多い。
一方のダスさんも、数多くの打撃を盾一枚ですべて受けきっている。
左右から打ち込まれていた打撃を、バンッ! と大きく弾いて、ダスさんがウラさんへ迫った。
ダスさんの、盾を使った打撃がウラさんを襲う。
ドンッ!───
衝突に負けたのか、ウラさんが大きく後方へ飛ばされる……。
と思ったら、ウラさんが少し開いた両手で棍を握った体勢のまま、きれいに止まった。
広く持った棍でダスさんの突進を受け、突進の勢いに逆らわずに後ろへ下がったみたいだ。
対戦が、振り出しに戻った。
†
向かい合ってにらみ合う二人。
今度はダスさんが出る。
ウラさんは、構えていた棍を脇の高さで水平に構えて、突いた。
ダスさんが、盾で受ける。
ウラさんが“突き”を繰り返す。
“突き”の勢いでダスさんの前進は止まったけど、身体が盾の後ろにすっぽり隠れて、ダスさんの体への当たりはない。
ウラさんの方が動きが大きいので、スタミナが保たないんじゃないかと心配になる。
膠着したなかで、ダスさんがこれまで腰に吊るしたままだった小槌を手に取る。
そして突いてきた棍の先端を、上から打ち落とした。
地面に落ちた“棍”の先を踏んで、ダスさんが前に出ようとする。
するとウラさんが、棍の端をヒュンと上下に振った。
振られた棍は大きくしなり、しなった山がダスさんへ迫る。
うん、やっぱりしなるよね、あの棍。
棍を槍のようにまっすぐ突いている間、ぜんぜん曲がって見えなかったから、どうしちゃったのかと思ってたんだ。
しなった山を追うように、ウラさんが走る。
片手は棍の端を握り、もう片方の手はさらに外、石突き部分を包むようにしている。
しなりの山がダスさんにとどき、足下から押し上げるのに合わせて、ウラさんの突撃がダスさんを打つ。
長棍が大きくしなって、斜めになった Ω みたいになっている。
鞭かっ!
あんなにしなる木材があるんだね。
真っ直ぐになろうとする棍のしなりに、ウラさんの突撃が加わって、長棍の腹に押されたダスさんの体が浮く。
そしてウラさんより軽そうなダスさん(失礼)は、下から持ち上げられてふわっと後ろへ押しやられた。
宙を後ろへ下がるダスさんの足下に、しなりが戻った棍の先が差し込まれると、地面に刺さった棍先を支点に棒高跳びの要領で飛び上がるウラさん(こちらに棒高跳びはあるのかしら)。
その下で着地するダスさん。
ダスさんの目の前に、そそり立つ長棍が迫った。
ダスさんの上を跳んだウラさんは、棍を握ったままダスさんの後ろへ着地する。
すると長棍が、着地したばかりのダスさんを前から後ろへと押した。
着地後の不安定な体勢で押されたダスさんは、押されるままに後ろへと倒れ、背中を地面に……着けてないや。
そこにはレスリングのブリッジから頭と両手を外した姿勢で、身体を浮かせているダスさんがいた。
これってどうなってるの?
人ってこんな姿勢でいられるもの?!
どう見ても重心が足の裏から外れているよね!
ダスさんが楽な状態でないのは、足腰の筋肉がパンパンに張っているから分かる。
仰向けのお腹の上には構えたままの盾、その上をウラさんの長棍が押さえ、長棍の一端はダスさんの足下で地面に刺さっていて、もう一端はウラさんが膝高で下向きに押していた。
そこには、両足を地面にべったりとつけ、膝を深く曲げ、太ももから上を地面と水平に伸ばした状態で、中空で仰向けに静止しているダスさんがいた。
「むう」
一言呻いたダスさんが、小槌を握った手で体の上の長棍をつかみ、そこを支えに体をずらして長棍の下から体を抜き、背中もお尻も地面につける事なく起き上がってきた。
どんな筋力よ!
ダスさんが再び構える。
呆れ顔のウラさんも、長棍を振って地面から抜き取り構える。
「そこまで!」
戦闘続行? と思ったところを止めたのは、試験官? 進行役? のマヌエラさんだった。
「あー、面白くなってきたところなんだが……」
「時間切れです。適性を見るのにこれ以上時間が必要とは思えません」
「……だそうだ」
ダスさんがウラさんを見て、両掌を上に向け肩をすくめた。
神殿のインゲルスさんも同じ手振りをしてたけど、地球もこっちも人のすることは同じなのかしらね。
猫族のお姉さんはニヤニヤしている。
受験生と“竜の咆哮”の二人は、口を開けて固まっていた。
そして……
パチ…パチパチ……パチパチパチ………。
会場を囲っている塀の外から、拍手が聞こえてきた。
見ると、塀の隙間からかなりの数の人たちが覗いている。
訓練場を使いに来た冒険者たちかな?
観戦者が増えてたよ!




